白井晃芸術監督が熱い思いを込め、KAATの2018年度ラインナップ発表

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本日2月7日にKAAT 神奈川芸術劇場 2018年度ラインナップ発表会が行われ、同劇場芸術監督の白井晃のほか、木ノ下裕一杉原邦生長塚圭史松井周松原俊太郎森山開次が登壇した。

KAAT 神奈川芸術劇場 2018年度ラインナップ発表会より。左から白井晃、松井周、松原俊太郎、森山開次、長塚圭史、杉原邦生、木ノ下裕一。

KAAT 神奈川芸術劇場 2018年度ラインナップ発表会より。左から白井晃、松井周、松原俊太郎、森山開次、長塚圭史、杉原邦生、木ノ下裕一。

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白井晃

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発表会ではまず白井が挨拶。白井は「昨年のラインナップ発表会でも申し上げましたが、2018年度もラインナップのテーマはありません。私がぜひこの劇場でやってもらいたいと思うアーティストと個別に話し合いながら、彼らが社会を見て何を感じ、何を考えているかを聞き、どういう作品をやっていこうか、一緒に考えています」と説明。続けて白井が司会を担当し、各作品の演出家や作家が、作品に対する思いや現在の構想を語った。

松井周

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松井は「グッド・デス・バイブレーション考」の作・演出を担当。作品について松井は「『楢山節考』が好きで、物を考えるときのベースに常にある作品です。『グッド・デス・バイブレーション考』は近未来の話ですが、近未来で姥捨山と言えば、“グッド・デス”、安楽死の話かなと。そういう感覚で、安楽死に直面する貧困家庭の問題を描こうと思います」と思いを述べる。また自身が主宰するサンプルについて「昨年、KAATで行った公演を最後に劇団としては解散しましたが、この作品が新生サンプルとしての第1弾の作品になります」と述べ、「せっかくだから新しい出会いと言うか、変化をと思い、戸川純さんをキャスティングさせていただきました。今回は歌、僕の感覚では琵琶法師の語りが歌になっているようなイメージなのですが、そういったことを取り入れた作品にできたら」と構想を語った。

松原俊太郎

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また、昨年2017年にKAATで上演された「忘れる日本人」に続き、地点に新作を書き下ろすのは松原俊太郎。「『忘れる~』は海の話だったので、今度は山と言われたのですが(笑)、僕はそんなに山を愛してないので……」と松原は苦笑し、「でもその中で、『山山』というタイトルから、『~したいのは山々ですが』って言い方とか、ハーマン・メルヴィルの『バートルビー』に出てくる受動的な主人公とか、いろいろなモチーフが集まってきて、それらを集めたら面白いものができるのではないかと思い、今戯曲を書いているところです」と続けた。さらに「あらすじとしては、2つの山間あり、その間の谷に暮らす家族がいて、という牧歌的なイメージですが僕の文体は決して牧歌的ではないので、難解なセリフが入ってくることになるかと。最終的には2つの山がモニュメントとして提示できれば面白くなるのでは」と語った。なお地点は「山山」の上演に続けて、提携公演として「忘れる日本人」を上演する。

森山開次

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森山は、昨年初演されたKAATキッズ・プログラム「不思議の国のアリス」の演出・振付を担当。18年度は、KAATのほか全国17劇場をツアーする。「キッズ・プログラムという位置付けではありますが、それぞれに個性あふれる強者ばかりで、クリエーションしながら僕でも抑えることができないほどのメンバーでした(笑)」と森山は昨年を振り返り、「子供たちに合わせて作ったというより、最高のパフォーマンスを思いっきり真剣勝負でやっている僕らを、子供たちが見入ってくれた。今年もさらに子供たちの想像力を超える作品を作って、全国の子供達と闘い、共有してきたいと思います」と力強く意気込みを語った。

長塚圭史

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白井が演出する「華氏451度」の上演台本を手がけ、自身はホールで「セールスマンの死」の演出をするのは長塚。長塚が「このラインナップの中で『セールスマンの死』をやっちゃって、本当にいんですかね?(笑)」と白井に冗談ぽく目線を送ると、白井は笑いながら大きく頷いた。「これほど優れた戯曲にはなかなか出会えることはない。なので面白い演出をしてやろうとかっていうこととは違う、この戯曲がこの時代にどう響くかを考え『しっかり』やろうと思っています。先ほど松井さんが安楽死についてお話されていましたが、この作品もある意味、老いと夢の話。お客さんにはすごい戯曲があるんだと目撃してもらえると思いますし、僕が信頼している俳優さんが主演してくれますので、すごい俳優がいるのだと思ってもらえるのでは」と自信をのぞかせた。

また「華氏451度」については「実は別の打ち合わせをしていたら白井さんがこの戯曲をやると小耳に挟んで、『冗談じゃない、僕がやりたかったのに! 台本は書かせてくれ』と白井さんに話したんです(笑)」と作品への思い入れを語り、会見場を笑いで包んだ。

杉原邦生

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杉原はギリシャ悲劇に初挑戦する。「一度はやってみたかったギリシャ悲劇。今回は若いオイディプス王にしたいと思っていて、若い王が堕ちていくさまを描きたいと思っています」と杉原は作品の具体的な構想を述べた。さらに「最近、小劇場ではなかなかお客さんが入らなくなってきました。今回、KAATで『ルーツ』に続きまたやらせていただけることになり、アーティストはただ創作に専念するだけで、集客は劇場の方ががんばる、というように分業ではなく、劇場と一緒に作品作りができたら」と思いを述べ、白井は「心強い発言です」と笑顔で頭を下げた。

会見には出席できなかったが、急遽メッセージを寄せたのは、19年1月から2月にかけて新作を予定している串田和美。配布された資料では上演作品未定となっていたが、串田はメッセージの中で「ワイルダーの『危機一髪』にします!」と演目を発表。白井が記者に「手書きで書き込んでください(笑)」と促した。

木ノ下裕一

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最後に、KAATとロームシアター京都、そして穂の国とよはし芸術劇場の3館共同製作として新作「糸井版 摂州合邦辻」上演に挑む、木ノ下歌舞伎の木ノ下が挨拶した。上演台本・演出・音楽を手がけるFUKAIPRODUCE羽衣の糸井幸之介とは、「心中天網島」に続き2度目のタッグ。木ノ下は糸井のクリエーションに寄せる信頼を語ったあと、「現代の感覚からすると非常にぶっ飛んでいる本ですが(笑)、だからこそセリフとさまざまなものを駆使しながらそれぞれのドラマをいろんな方法でつないでいく必要があると思っています」と構想を述べた。さらに「この作品は説経節が元で、歌によって日本の民族が長いこと語り継いできた物語。そこに現代の糸井さんの音曲の視点、劇作の視点を駆使して、現代に接続し直してみようというのが『糸井版 摂州合邦辻』です」と作品に込める思いを語った。

また提携公演の1つには、長塚が主宰する阿佐ヶ谷スパイダースの新作も。長塚は「中村まことが主演で、医療事故で奥さんを亡くしたあるマンガ家の話になります。奥さんの思い出を捨てると力が湧く、という男の話で、新しい若いメンバーと一緒に面白いものにしたいと思います」と意気込みを述べた。

主催ラインナップにはこのほか、キャサリン・ウィールズ劇団「ホワイト WHITE」、ウースター・グループ「タウンホール事件」、北村明子演出・構成・振付・出演「Cross Transit 2(仮)」、伊藤郁女と森山未來が三島由紀夫の「美しい星」をモチーフに手がける新作、三宅純のコンサート、首藤康之中村恩恵らが出演し白井が演出を手がける「出口なし」などがラインナップされている。

※初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

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2018年度(2018年4月~2019年3月)主催公演、主なラインナップ

KAAT×世田谷パブリックシアター「バリーターク」

2018年4月14日(土)~5月6日(日)
大スタジオ
演出:白井晃

KAAT×サンプル「グッド・デス・バイブレーション考」

2018年5月中旬
中スタジオ
作・演出:松井周

KAAT×地点「山山」

2018年6月6日(水)~16日(土)
中スタジオ
作:松原俊太郎
演出:三浦基

KAATキッズ・プログラム2018「不思議の国のアリス」

2018年7月中旬
中スタジオ
演出・振付:森山開次

KAATキッズ・プログラム2018「グレーテルとヘンゼル」

2018年8月
大スタジオ
演出:ジェルヴェ・ゴドロ

KAATキッズ・プログラム2018「ホワイト WHITE」(スコットランド)

2018年8月
大スタジオ

KAATキッズ・プログラム2018「ニュー オーナー NEW OWNER」(オーストラリア)

2018年8月
大スタジオ

「華氏451度」

2018年9~10月
ホール
上演台本:長塚圭史
演出:白井晃

KAAT DANCE SERIES 2018×Dance Dance Dance @YOKOHAMA 2018 バレエ・ロレーヌ公演(フランス)

2018年9月16日(日)・17日(月・祝)
ホール

KAAT DANCE SERIES 2018×Dance Dance Dance @YOKOHAMA 2018 マチュラン・ボルズ公演(フランス)

2018年9月22日(土)~24日(月・振休)
大スタジオ

KAAT DANCE SERIES 2018「いきのね」

2019年2月
ホール
出演:Co.山田うん

ウースター・グループ(USA)「タウンホール事件」

2018年9月下旬
大スタジオ

KAAT DANCE SERIES 2018「A O SHOW(アー・オー・ショー)」(ベトナム)

2018年10月
ホール

KAAT DANCE SERIES 2018「Cross Transit 2(仮)」

2018年10月
大スタジオ
演出:北村明子

「セールスマンの死」

2018年11月
ホール
演出:長塚圭史

KAAT DANCE SERIES 2018 伊藤郁女×森山未來「新作」

2018年11月1日(木)~4日(日)
大スタジオ

KAAT EXHIBISON2018「潜像」

さらひらき展「潜像の語り手」
2018年11月11日(日)~12月9日(日)
中スタジオ

島地保武「新作」パフォーマンス
2018年11月中旬~下旬
大スタジオ

三宅純コンサート「The here and after」

2018年11月23日(金・祝)
ホール

「オイディプス王」

2018年12月
大スタジオ
演出:杉原邦生

「出口なし」

2019年1月
中スタジオ(予定)
演出:白井晃

KAAT×まつもと市民芸術館「新作」

2019年1~2月
大スタジオ(予定)
演出:串田和美

TPAM 国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2019

2019年2月
全館

KAAT×ロームシアター京都×穂の国とよはし芸術劇場 木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」(仮)

2019年3月
大スタジオ
補綴・監修:木ノ下裕一
上演台本・演出・音楽:糸井幸之介

芸術監督トーク「SHIRAI’s CAFE」

不定期、年3回(予定)

ほか

2018年度 提携公演ラインナップ

ワタナベエンターテイメント×シーエイティプロデュース×ぴあ Rock Musical「5DAYS 辺境のロミオとジュリエット」

2018年4月3日(火)~23日(月)
中スタジオ
脚本・作詞・演出:石丸さち子

横浜ボートシアター「さらばアメリカ!」

2018年5月25日(金)~6月3日(日)
大スタジオ
脚本・演出:遠藤啄郎

地点「忘れる日本人」

2018年6月21日(木)~24日(日)
中スタジオ
作:松原俊太郎
演出:三浦基

東京デスロック+第12原語演劇スタジオ「カルメギ」

2018年7月上旬
大スタジオ
原作:アントン・チェーホフ
脚本・演出協力:ソン・ギウン
演出:多田淳之介

阿佐ヶ谷スパイダース「MAKOTO」

2018年9月7日(金)~9日(日)
大スタジオ
作・演出:長塚圭史

時々自動「コンサート・リハーサル」

2019年2月
大スタジオ
脚本・演出・音楽:朝比奈尚行

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chie sumiyoshi @bTRAUMARIS

森山開次「子供たちに合わせて作ったというより、最高のパフォーマンスを思いっきり真剣勝負でやっている僕らを、子供たちが見入ってくれた。今年もさらに子供たちの想像力を超える作品を」→KAATの2018年度ラインナップ ステージナタリー https://t.co/mbFlTvGVWg

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