城山羊の会・山内ケンジ×松本まりかが小空間演劇の魅力を語る、WOWOWで劇作家特集

これまで、多種多様な舞台作品を放送・配信してきたWOWOWで、“今みてほしい”注目の劇作家たちに焦点を当てた番組がスタートする。「演劇に出会う!いまを創る4人の劇作家」をタイトルに冠した特集では、3月7・8日に贅沢貧乏、劇団アンパサンド、玉田企画、城山羊の会の4劇団の過去作品がそれぞれ2作ずつオンエアされ、小空間でこそ輝く演劇の魅力に迫る。

ステージナタリーでは、誰もが胸の内に秘めているさまざまな欲望や醜悪さを、クスッとした笑いを織り交ぜて描き出す城山羊の会・山内ケンジと、昨年、KAAT×城山羊の会「勝手に唾が出てくる甘さ」に出演した松本まりかの対談を実施。10年ぶりの城山羊の会で松本が実感した、山内作品の“面白さ”とは? 番組の放送に向けて、2人が“小空間演劇”の魅力を語った。

取材・文 / 熊井玲撮影 / Junko Yokoyama(Lorimer)[松本まりか]スタイリスト / 藤浪千穂衣裳協力 / イヤカフ(TUWAKRIM / 805showroom)、ピアス(aura / 805showroom)、リング(h.. / 805showroom)

私の原点は城山羊の会にある

──「勝手に唾が出てくる甘さ」は生歌・生演奏があり、いつもの城山羊の会とは少し雰囲気が違う作品でした。ラグジュアリーな空気が醸し出されつつ、登場人物たちのやり取りは“けっこう下世話”(笑)、そのギャップに笑ってしまったのですが、シャンソン教室が舞台というのは、どういったアイデアだったのでしょうか?

山内ケンジ ミュージカルっぽい作品を城山羊の会はめったにやってはいないのですが、10年前くらいに1回やったことがあり(2012年に上演された「スキラギノエリの小さな事件」)、それは今回よりも曲数が多く、もっとミュージカルっぽかったんですね。楽園という小さな劇場で、宮崎吐夢さんたちが出演してくれたのですが、その公演を松本まりかさんが観ています。

また数年前、妹の山内雅子プロデュースで、「巴里の4月」という、シャンソン歌手と俳優が出演し、僕とふじきみつ彦氏が作・演出した舞台をやりました。……というように、音楽がある芝居をやりたいという思いはずっとあったのですが、なかなかチャンスがなくて。またミュージカルっぽい作品をやるにはピアニストが重要ですが、今回は、ピアノも弾ける女優の三木万侑加さんが出演するし、会場のKAAT神奈川芸術劇場(以下KAAT)にはピアノもあるし、ということでいろいろとカードがそろってきて、「だったらまず歌から考え始めようかな」と思ったんです。

山内ケンジ

山内ケンジ

──松本さんは、2015年の「水仙の花 narcissus」以来、約10年ぶりの城山羊の会出演でした。城山羊の会や山内作品にはどんな印象をお持ちですか?

松本まりか 27歳の頃だったか、周りから「城山羊の会面白いよ、まりかちゃんに合うと思う。観ておいたほうがいいよ」と言われて、先ほどお話に挙がった公演を観に楽園に行きました。千秋楽間近だったので当日券で滑り込んだんですけど、初めて観た城山羊の会は目からうろこというか。まだそんなに仕事がなかった時代で、「この人たちとお芝居ができるくらいになれば私はまだ女優を続けていけるかもしれない」と思ったんです。あんなにワクワクした瞬間、煌めいた瞬間は、人生の中でも本当に何回かしかないと思うような体験でした。それで「ここに出たい!」と思ったんですけど、運命的だったのは、劇場で「城山羊の会が初めてオーディションします」というチラシを見かけたこと。それまで私はオーディションを受けたことがなかったんですが「これは受けなければいけない」と思って、城山羊の会によく出演している石橋けいちゃんに「私、このオーディションを受けてみたいんですけど」と言ったところ山内さんを紹介してくれました。ただ当時、私は舞台に出演中で、オーディションの日はマチネとソワレがある日。間の1時間くらい抜け出せばオーディションを受けられる、という状況で、「そういうことって可能でしょうか」と山内さんに伺ったらご快諾くださり、そのオーディションに受かって、今の私があります。

というのも、私が映像に出るきっかけは、山内さんが「効率の優先」(2013年)と「水仙の花」で私に書いてくださった役を観たプロデューサーや監督が、声をかけてくださるようになったからなんです。それがなかったら私はCMやテレビドラマに出るきっかけもありませんでしたし、私が映像にたくさん出させていただく契機になったテレビドラマ「ホリデイラブ」もなかったのではないかと思います。

今は不倫の役とか、狂気の人をやることが多いんですけど(笑)、それを最初に私に当て書いてくださったのが山内さん。「効率の優先」では、普通のOLなんだけれどもどこかが壊れていて、最後はちょっと狂気的になっていく役を演じたのですが、私のイメージの中からそういうところを最初に見抜いて面白がってくださったのが山内さんなので、私の原点は城山羊の会にあると言っても過言ではありません。

松本まりか

松本まりか

ヨーロッパへの憧れを醸し出す女・ミツコ

──「勝手に唾が出てくる甘さ」で、松本さんは若い詩人を翻弄するミステリアスな女・ミツコを演じられました。ミツコという役に対し、松本さんはどんな印象をお持ちですか?

松本 最高に面白かった(笑)。先ほどお話しした通り、山内さんが最初に私に書いてくださったようなイメージの役が今、増えているのですが、山内さんは今回、「もうそういうのじゃなくて新しいもの、誰もやったことがない松本まりかを書いてみたい」とおっしゃってくださって。普段は自分の実年齢より若い役をやることが多いのですが、今回は実年齢よりちょっと高い設定で、「本当にこういう人いるのかな? 多分いるんだろうな」と思わせるギリギリのラインが面白い役だと思います。山内さんが書かれたセリフを言っているだけでも本当に幸せなのですが、あまり思考を深めなくても、掛け合いややり取りに身体が反応するというか、特別何かやらなくても面白くなっていくのがすごくお芝居の原点だなという感じがしました。そんな作品にはなかなか巡り会えませんが、「こういう作品はご褒美作品」と思いながら演じた役でした。

──山内作品は、芯となる女性の俳優さんによって印象が変わるように感じます。山内さんが松本さんに感じる魅力は?

山内 松本さんの魅力はよくわからないんですけど。

松本 あははは!

左から山内ケンジ、松本まりか。

左から山内ケンジ、松本まりか。

山内 というか、誰に対してもわからないんですけど、今回KAATで上演するにあたって芸術監督の長塚圭史さんと企画についてお話ししたときに、中平康(編集注:「月曜日のユカ」「闇の中の魑魅魍魎」「狂った果実」などを手がけた映画監督。増村保造、岡本喜八たちと共にモダン派として知られる)の話になって。昔の日活には、日本人ばかり出てくるんだけど日本じゃない、ヨーロッパをものすごく意識した映画があったんですね。かつての日本にはそういったヨーロッパへの憧れみたいなものがすごくあって。今は、欧米に対して憧れどころか絶望や怒りを感じているわけですが、だから、なおさら、かつてのあの憧れってなんだったんだろうな、っていう。ま、いいや。とにかく、そういう人たちがシャンソンを歌ったりしていた。松本まりかさんは、その世界観が似合う人だ、と思ったんです。設定は日本で、みんな日本人の設定で、特に翻訳劇をやっているわけでもないんだけれど、ちょっと翻訳劇みたいに見えてくるようなもの、そういったものを目指したくて、松本まりかさんの衣裳はイプセンとかストリンドベリの舞台を意識したものにしましたし、“そういう佇まい”というのかな。有閑マダムのようなものが見たい、と思って作品が進んでいきました。

──確かに松本さん演じるミツコは、絵画や映画から抜け出てきたような非現実感があり、話し方や動作のテンポもゆったりとしていて、周囲の人たちとの佇まいの違いを感じました。

松本 「水仙の花」のときは山内さんが「バルテュスみたいな感じ」とおっしゃって、バルテュスの絵画に関する本を買ってイメージを膨らませながら演じました。山内さんは私のときは西洋美術に想起された作品、役だったりするので、私もそういうイメージをまとってセリフを発します。今回は上流階級の貴族のようなフィルターがかかった世界観ですごく日常の会話をするという、異質な空間でリアリティのある芝居をするのがすごく楽しかったです。