EPADは舞台映像、戯曲、美術、その他資料のデジタルアーカイブ化や利活用を進めると共に、その収録、保存、配信、上映、教育利用などの標準化と、利用を可能にするための権利処理のサポートを行なっている。そのEPADが推進する「舞台映像上映 Reライブシアター」は、舞台公演映像と劇場空間を掛け合わせた、新たな舞台芸術の鑑賞スタイル。2025年度は一般観客向けの上映会が、全国10の公立文化施設で実施された。
ステージナタリーでは9館の事業担当者にインタビュー。「舞台映像上映 Reライブシアター」実施前後の思いの変化、今後への期待などについて聞いた。
取材・文 / 熊井玲
EPADとは?
一般社団法人EPADが文化庁や舞台芸術界と連携して進める、舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(Eternal Performing Arts Archives and Digital Theatre)の略称。EPADは、2025年3月時点で舞台芸術映像3861作品(権利処理サポート含む)、戯曲1032作品、写真やデザイン画など舞台美術資料26359点を取り扱っている。
手探りでの準備、観客の評判は上々
──2025年度のEPADは、8月から12月にかけて全国10会場で、一般観客向け上映会「舞台映像上映 Reライブシアター」(以下「Reライブシアター」)を開催しました。今日はそのうち9会場の事業担当者に集まっていただき、「Reライブシアター」を振り返ります。まずは皆さん、実施前に感じていたこと、実施後に感じたことを、担当者目線で教えてください。上映会実施順で9月14日に上映会を実施された徳島県立二十一世紀館からお願いします。
徳島県立二十一世紀館・吉本かをる 私はそもそもあまり舞台を観たことがなく、映画みたいな感じかなと思っていたのですが、前日の試写でけっこう俯瞰して観られることがわかって、「舞台ってこんな感じなんだ! 楽しいな」と思いました。実際、お客さんからもそのような感想が多かったです。
──福岡県のサザンクス筑後では、9月21日に上映会が実施されました。
サザンクス筑後・久保田力 私はEPADと以前からつながりがあり、試演会にも参加していたので、実施前から「これは絶対いいものになる」と確信を持って息巻いておりました。結果として、とてもいい上映会になったと思います。サザンクス筑後は「気づかいルーシー」とこまつ座「母と暮せば」の2本立てを上映したのですが、120名ほどずつ来場者がありました。実施してみて「なるほど」と思ったのは、県内では北九州芸術劇場さんがいろいろな演劇を盛んにやっている。でも筑後市は福岡県の比較的南のほう、熊本に近い場所なので、北九州や東京には観に行けなかった人が今回の上映会にいらっしゃって、「筑後でやってもらえて良かったです」と言ってくださったんですね。いわゆる演劇ファンが筑後にもいて、その方たちが集まってくださったんだなと感じました。また3歳の女の子のお母さんが、お子さんが「最後まで演者が目の前にいると思って見ていた」と感想をくださって。映像のクオリティが高く、中身も良かったので、それぐらい響くものがあったのだろうと思いました。
──10月25日には宮崎の都城市総合文化ホールで行われました。
都城市総合文化ホール・千代森亜弥 私たちは事前にサザンクス筑後さんで行われた試写に参加してからの実施で、担当者としてはある程度の雰囲気はつかみ、「定点映像はこう、多点カメラの場合はこう」とイメージはできていたのですが、それをほかの職員やお客様にどう伝えればいいかが難しく、その点は課題だったかなと思います。ただ実際に上映してみて、音響とホールの相性に課題は残ったものの、映像に関してはお客様からも高い評価をいただきました。都城もなかなか生の舞台を上演する機会がないので、そういう点でのお客様の評判は非常に高く、今後もぜひ継続していきたいなと思っています。
──11月1日は新来島高知重工ホール(前:高知県立県民文化ホール)で上映会が行われました。
新来島高知重工ホール・濵口友章 私も自分たちのホールで実施する前に2回ほど、EPADの上映会を観たことがありまして、個人的に本当に素晴らしい舞台映像の上映会だということは理解していました。しかし実施前に、お客さんにその魅力を伝えることに苦労し、結局伝わり切らないまま本番を迎えてしまったのではないか、というところは反省点です。映画上映会は主催事業として頻繁に実施しており、今回はその延長線上として「Reライブシアター」を行ったのですが、アンケートの結果を見ると本趣旨の肯定的な意見が多かったので、今後も継続していきたいです。また高知も演劇公演は都会に比べれば多くはない地域なので、「Reライブシアター」はすごく貴重な事業になったかなと思います。
──同じく11月1日に上映会が行われた三重県文化会館は、EPADの理事でもある松浦さんが副館長ということもあり、以前から舞台映像上映を積極的に取り入れてきました。
三重県文化会館・松浦茂之 もちろん私は「Reライブシアター」については十分承知していますし、集客も期待していた通りの300人くらいありました。また三重でも、最後まで生の舞台だったと思っていた八十代のお客さんもいらっしゃって、そのぐらい映像に関しては非常に満足いただけたと思います。ただ音響に関しては、座る客席によってちゃんと聴こえる席と、反響して聴こえづらい席がある、という声がありましたね。三重ではPARCO PRODUCE2024「リア王」とヨーロッパ企画「来てけつかるべき新世界」を上映しましたが、特に「リア王」はなかなか三重でやってもらえないような豪華キャストの芝居でしたので、三重の演劇ファンからは非常に高い評価をいただきました。今後も「Reライブシアター」を継続していきたいなと思っています。
──兵庫県の福崎町エルデホールでは11月16日に実施されました。
福崎町エルデホール・雲丹亀悠平 今回の参加会館の中で、うちはホールのキャパシティが一番小さいと思うのですが、楽屋が少なかったり、舞台の構造が適していなかったりして、なかなか演劇の上演ができません。なので、公文協(全国公立文化施設協会)の岡山大会でEPADの「Reライブシアター」を知って(編集注:2024年に岡山・岡山創造芸術劇場 ハレノワで、公文協の総会・研究大会が行われEPADの説明と試写が行われた)、「まさにうちのようなホールのためにあるプロジェクトだな!」と思い参加させていただきました。ただお客さんの中には「実際に出演者は来ないの? じゃあいいや」という人もいて、そこは難しいなと思ったのと、いろいろ調整をしたもののうちでは等身大で上映することが難しくて、そこには心残りがありました(編集注:等身大の上映には、収録した劇場の間口と上映する劇場の間口サイズが近しい必要があるため)。今後、願わくば参加会館が増えていき、2.5次元作品なども含め取扱作品も増えていき、上映会の規模が大きくなっていってほしいですし、うちのホールもまた参加させていただきたいと思っています。
──兵庫はもう1館、神戸文化ホールでも11月29日に上映会が行われました。
神戸文化ホール・松井陽子 2024年はパイロット事業として神戸文化ホールで上映会を実施させてもらいました。そのときは当ホールの職員や兵庫県内のホールスタッフが主な観客で、上映に関してはまだ発展途上と言いますか、気になる点もあったものの、音響や映像については素晴らしいなと感じました。2025年度は、上映前にチラシを作ったり、ホームページに情報掲載したり、SNSで発信したり、自治体発行の広報誌に掲載したりという広報を行い、1カ月半ぐらいまでには定員数を超えて、演劇に対しアンテナを張っている市民の方たちが神戸にいるんだ、とわかったのは大きな収穫になりました。ただ応募はしてくれたんですけれども、実際に足を運んでくださったお客さんは半分くらいで、それはまた課題ではあります。また、等身大というところになるとどうしても収録されたホールの画角と、それを上映するホールの間口に差があると厳しいところがあるなと感じました。音響については以前に比べるとかなり改良を重ねられたことはわかったのですが、「ムサシ」のように人数が多く、早い掛け合いの作品だと聴き取りづらい部分もありました。ですが、今回「ムサシ」は字幕付き上映で、聴覚障害の方向けの字幕だったのが結果的に耳に不自由を感じていない方にとっても助けになっていましたね。
──福岡のSAWARAPIA福岡県立ももち文化センターでは11月29日に上映会が実施されました。
福岡県立ももち文化センター・龍口桂 今年度、ももちは5月に検証会を行い、11月に本番に臨みました。検証会の時点である程度、等身大の定点映像上映がどんなものか感触としてわかっていましたが、ももちでは普段から演劇鑑賞組織が公演をやっていますし、熱心な演劇ファンは北九州芸術劇場に観に行ってしまうという地域性があり、実際にどういう方が観に来てくれるんだろうと、ターゲットが最後まで絞れないまま、11月の上映会を迎えました。
作品としては、午前中に「気づかいルーシー」を無料で、午後は椿組2024年夏・花園神社野外劇「『かなかぬち』~ちちのみの父はいまさず~」を500円の有料で上映しました。「気づかいルーシー」のお客さんは、初めてホールに来た方、普段は全然演劇を観ない方、舞台芸術に触れることが全然ない方が半数以上で、親子連れの方などがお出かけ先の一つとしていらっしゃったのかなと思います。椿組のほうは、実は集客にすごく苦労しました。有料公演にしたこともあるかもしれませんし、椿組の公演という情報がリーチできなかったのかもしれませんし……いずれにしても広報面での見直しは必要かなと思います。
映像や音響については、やっぱりものすごい臨場感があるということをお客さんにも言っていただきましたが、椿組の野外公演の音は、そもそも新宿の花園神社で観ていても聴こえにくいので、野外劇での音声収録には課題を感じました。ただ、先ほどもお話がありましたが、聴覚障害の方のための字幕が助けになった部分もあり、さらに「字幕が気にならない位置で良かった」というフィードバックが得られたのは収穫かなと思います。
──上映会ツアー最終地となった、鳥取県境港市民交流センター みなとテラスでは年末の12月20日に実施されました。
みなとテラス・石田陽奈子 私も2年前の公文協岡山大会でNODA・MAP「兎、波を走る」の上映会を観たのですが、松たか子さんが涙を流すシーンがしっかり見えたのがすごいなと思って、それをきっかけに「みなとテラスでもぜひ上映会をやろう!」ということになりました。
境港市は3万人しか人が住んでいなくて、ホールも2つしかなく、その1つは音楽堂です。みなとテラスは開館して4年目になりますが演劇活用がほとんどなく、演劇を観る機会もなければやる人も少ないというのが現状です。また演劇に興味を持った人がいたとしても、プロの演劇を観るために、チケット代の3倍ぐらいの交通費をかけて都市まで行かなくてはならない。その点で、「Reライブシアター」は演劇を届けるきっかけとしてぴったりだなと思っています。ただSNSや自治体広報誌で告知したり、演劇や映画などの会場でチラシ折込をしたもののほとんど反応がなく、鳥取ではそもそも文化施設や演劇がお客さんの目に入らないのかなと思いました。なので正直、前日の仕込みまではどう受け入れてもらえるかわからず不安なままでした。
最終的には83名観にきてくださって、二十・三十代には「映像がすごかった」「内容が面白かった」とウケが良く、演劇が好きな方、演劇をやってる方には、「Reライブシアター」の存在をまずは知ってもらえた感触です。逆に演劇を知らずにフラッと観にきた方、特に年配の方にはウケが良くなかったのですが、それはなぜかと考えると、演劇の見方がわからないということがあったんじゃないかなと。1人が複数の役を演じ分けることは、演劇を観ている人にはよくわかるルールですが、演劇慣れしていない人にはどの役がしゃべっているのかがわからないようで、なのでうちでは等身大の定点映像よりも、カット割りされた収録映像のほうが見やすかったのかもしれないなという意見がありました。ただ鑑賞者を育てていく、増やしていく意味で、継続してやっていくべきじゃないかなと思います。全体的には前向きに良かったかなと思っています!
「Reライブシアター」は“観劇のきっかけ”になる
──今の皆さんのお話を伺って、普段から演劇公演が行われているホールと、そうでないホールでは「Reライブシアター」に感じる思いが違うのかなと思いました。普段、あまり演劇上演がないホールの方が思う「Reライブシアター」のメリットはどんなところでしょうか。
雲丹亀 先ほど申し上げた通り、うちのホールは構造的な問題もあってなかなか演劇ができず、また近年の緊縮財政の中ではプロモーターが持ってくる公演を買取で行うのは難しいため、結果的に演劇というコンテンツ自体を届けることができなくなっています。その点、EPADのように“生の演劇に近いもの”が、演劇を上演するより低予算で行えるのは、我々のような田舎の小さなホールにとってはメリットです。
石田 私も低予算は魅力だと思いますし、演劇を知らない土地で演劇を知ってもらうことが「Reライブシアター」のメリットだなと今回感じました。なので、そのメリットを生かして継続していくことが大事かなと思いました。
千代森 上映会のような場を設けることで、生の舞台を観ていただくきっかけができるのではないかと思いますし、実際にアンケートの中で「音声がよく聞き取れず、正直内容はよくわからなかったけれども、舞台の力強さを感じて、生の舞台を観てみたいと思った」という意見があって、「まさにそういう意見を求めていた!」と思いました(笑)。また生の舞台をやる場合、仕込みをやってリハーサルやって本番と、どうしても2・3日劇場を押さえることになり、がんばって1日2回公演できたらいいなという感じですが、「Reライブシアター」の場合は、1日で別の2作品を上映できるんですよね。生の舞台に近い、毛色の違う作品を1日で2作品届けられるのはメリットだなと思いました。
吉本 今回はEPADがセレクトしたラインナップ8作品の中から作品を選ぶという形で、うちのホールでは「やるからには人に来てほしい」と思って、みんなが知っていそうなキャストが出演している「ムサシ」と「気づかいルーシー」を選びました。徳島にはなかなかそんな人たちが来て演劇をやってくれないので、その点はお客さんに喜んでもらえたなと思いますし、「『Reライブシアター』を観て演劇に興味を持った」というアンケートも複数あったので、観劇のきっかけを皆さんに提供することができたのかなとは思います。
濵口 高知も徳島と同じく四国ですが、高知のほうが都心部からは遠いんですよね。なので、実演舞台を実施する場合、移動手段の多くは飛行機になってしまい、交通費が高くなってしまいます。そう考えると、映像とはいえ「Reライブシアター」で質の高い舞台作品を観られるのは本当に貴重な機会だなと思います。ただ、やはりリアルな演劇の置き換えにはならないと思うので、あくまで“新しい鑑賞スタイルの舞台芸術”という風に捉えていますし、舞台映像が広まることで逆にリアルな舞台が希少価値を生んだり、エモさを生むんじゃないかとも思うので、その点で明るい未来を感じてはいます。
龍口 福岡には普段から実演を観る演劇ファンはいますし、「実演芸術に勝るものはない」という考えの方々もいて、そういった方たちをキャッチするのは、正直難しいなと思っています。ただ、これまであまり舞台に触れていない人、これから舞台を観てみたいと思っている人にはすごく響く可能性があるし、皆さんおっしゃるように、継続してやっていくことで、もっとポイントがクリアになってくるかなとは思います。またホールとして4Kプロジェクターを購入したので、福岡県の中でそのプロジェクターをいかに活用していくか。実演の機会に恵まれない地域や会館にどんなことができるのかを考えていく必要があると思っています。
──三重県文化会館とサザンクス筑後は、普段から舞台公演がよく行われています。演劇公演との棲み分けや「Reライブシアター」の位置付けについてどんなふうにお考えですか?
松浦 演劇公演をやってはいますが、三重もPARCO PRODUCE並みのステージは5年に1回やれるかどうかなので、うちの小劇場演劇ファンのお客さんも、そういった作品をいつもの劇場で観られることを喜んでくださっているなと思いました。またうちも、ももち文化センターさんに遅れること1年、4Kプロジェクターを買う予定で(笑)、三重県の演劇が届いていない場所に、アウトリーチ事業として上映会をしていくことをミッションとして計画しています。
久保田 サザンクス筑後では30年来、子供や市民の方が創作した作品を、多い時で年間5回公演してきました。でもどうしてもお客さんは出演者の知り合いだったり友達が多いので、私はそれをもっとたくさんの方々に観ていただいて、演劇の入り口にしていきたいと思っています。その中で今回「Reライブシアター」を実施して、演劇の素晴らしさを伝えるだけでなく、演劇を観る人口を増やしたい、地元でがんばっている人たちにも注目してもらいたいと思っていて。なので実は今、「Reライブシアター」の実施も含めて、毎月最低1回は「アーカイブシアター」や「実演演劇の上演」の機会をつくり「サザンクス筑後に行けば演劇に出会える」という流れができたらいいな、そういう施設になれたらいいなと思ってます。
それぞれが思う「Reライブシアター」の可能性
──ここからはそれぞれ個別の質問をさせていただきます。実演家でもある久保田さんは2024年のシンポジウム(参照:「EPAD 2024年度事業報告シンポジウム」② 各地の公立文化施設担当者が語る、舞台映像上映会・鑑賞ブースの課題と可能性)で、「実は舞台の上映に対して複雑な思いがある」とお話しされていました。昨年、今年と上映会をしたことでその思いに変化はありましたか?
久保田 うちのスタッフも最初は「やっぱり実演じゃないとダメやろ」と言っていたのですが、音響や映像のクオリティの高さに興味を持ったスタッフもいて、うちの館は関心が高まっているかなと思います。またEPADのスタッフさんと交流を重ねていく中で、たとえば予告編映像を作ったりする際に「こういうふうにするといいよ」とアドバイスをもらえたりという関係ができたのは良かったなと思いますし、「Reライブシアター」を通して、自らサザンクス筑後制作の演劇創作に参加して舞台に立っている子供や市民の方たちには「やっぱりプロってすごいな」と感じていただけたのではないかと思います。
また先ほどお話に挙がりましたが、福岡県内とはいえ北九州芸術劇場や博多座に行くには子供でも往復3000・4000円かかったりするので、舞台映像であっても子供たちにはぜひさまざまな舞台に触れてもらい、未来を担う舞台の作り手になってほしいなと思います。
──吉本さんは普段、映画上映の担当をされているそうですが、上映会と「Reライブシアター」の違いをどう感じていますか?
吉本 まずスクリーンの準備に違いがありますね。当館にもスクリーンはありますが、もっと大きなスクリーンじゃないと舞台映像の良さを伝えきれないということで、EPADのスクリーンをお借りしました。ただ、没入感を出すにはスクリーンのシワをなくす必要があるんですけれども、上映の3日前ぐらいから吊り下げていたものの、なかなかシワが取れなくて……事前準備にかかる時間は、映画の上映会とはかなり違いました。でも事前に準備した甲斐あって、「気づかいルーシー」ではたくさんの方が「本当に舞台を観ているみたいだった」「演劇は観たことがなかったけれど、ものすごく楽しかった」という感想を書いてくださり、非常にうれしかったです。ちなみにお客さんは、映画上映会と「Reライブシアター」で重複があるんじゃないかと思っていましたが、実際はあまりなかったです。
──都城は劇場備品のスクリーンを使って上映されたそうですね。
千代森 備え付けのビニホリを、舞台前バトンに付け替えて使用しました。色味が薄クリーム系なのですが、事前検証時に映像と相性が良いということがわかり、上映会への期待値が上がりました。また、スクリーンのシワについてお話がありましたが、当館でも、シワをなくすために舞台スタッフとさまざまな方法を探り、おかげで自分たちのホールのことを改めて知ることができましたし、舞台スタッフと一緒に取り組むのは楽しい時間ではありました。そのほか、現段階では先ほどお話ししたような物理的な限界や難しさもありますが、実際に舞台を観る機会が少ない都城のような地域においては、「Reライブシアター」には光のような魅力を感じていますし、今後もできる限り継続して、映像ではあっても舞台を知っていただく機会を作っていきたいなと思います。
──高知はあまり演劇と親しみがないというお話しでしたが、公演のツアー先としてはよく名前が挙がる劇場ではないかと。潜在的に演劇ファンがいる場所でもあるとは思いますが、今回の上映を経て、高知のお客さんが求めている作品の傾向など、何か感じた部分はありますか?
濵口 演劇ファンは都会に比べれば多くはないけれども、四国の中ではそれなりにいるほうかもしれません。ただ、今回上映した作品は、高知の演劇ファンにはあまり響かなかったのかなという印象もあり、作品の選定はすごく大事だなと思いました。
当館でも映画上映会はよく実施しているのですがそれとは違う客層で、中高年の女性を中心に、普段あまり見かけたことがないお客さんが来ていて、新たなお客さんを開拓できたという実感はあります。「Reライブシアター」は2026年度も実施申し込みをしています。実は、2026年度に実演演劇として実施を検討していた劇団の公演があったのですが、諸般の事情で断念せざるを得ない状況になりました。そんな中、偶然ですが、その劇団公演の過去作品が2026年度の上映可能ラインアップに入っていることを知って、迷わずそれを希望しました。
結果的に今回は“実演の代わり”という形にはなりましたが、今後も、もし実演が実現できない場合には「Reライブシアター」として上映する、でも今後は、そういった方向性でも上映会が出来たらいいなと思っていますし、それによって劇団とのつながりができる可能性があり、関連企画なども考えることができるんじゃないかと。
──エルデホールは普段はコンサートなどが多いホールかと思いますが、今回はどのようなお客さんが来られたのでしょうか?
雲丹亀 そうですね、やはり“歌もの”が人気のエリアではあり、有名人が見られる、楽しみが想像しやすいものを享受したいと思われている方が多いので、我々としてもそういったところに予算を割きたいと考えて、これまでどうしても演劇は選びにくくなっておりました。今回は、友の会会員向けインフォメールと、大衆向けに新聞へのチラシ折り込みで情報提供を行いましたが、実際に来てくださったお客さんは結果としては新規開拓というより、普段から頻繁に足を運んでくださる友の会会員さんが多かったかなと思います。
今回うちでは昼夜同じ作品を上映しましたが、先ほど挙がっていた「実演演劇では出来ない、1日で2種類の公演ができる」メリットを最大限生かして、今度は昼夜違う公演をやってみるのもありかもしれないと思い、そこは大いに検討の余地があるかなと。また兵庫県はホールの数が多く、それぞれにいろいろな公演をされているのですが、その中でうちは独自色としてクールジャパンを打ち出していこうと考えており、その一環として以前、声優朗読劇などもやったことがあります。なので、将来的には2.5次元作品のような、都会に行かないと観られない、地方巡業もあまりない、若年層の方にもリーチできるような公演も上映できたらなと思っています。
──神戸文化ホールは、上映だけでなく、昨年は舞台公演の8K定点映像の収録も経験されました。
松井 はい。当初収録の予定はなく、チケット発売開始後に、収録をすることが決まりました。初めての収録体験だったこともあり、技術提供のEPADのお話を聞きながら、私としては何をどうしたらいいかわからないまま、準備を進めていった感じです。今回の作品は、客席にも映像さんのブースを作る必要があったんですけれども、そこにさらにEPADの映像収録のためのビデオやカメラが入ったので調整が大変でした。
今後、アーカイブとしてこの映像が全国のホールさんに渡されていくんだと思うと、上演館としてうれしい気持ちがありつつ、「だからこそよりリアリティのあるものを録っていただきたい」という思いも湧いて、それには事前準備がかなり必要だったなというのが私の実感です。
──先ほどのお話しにもありましたが、ももち文化ホールはプロジェクターを購入されたということで、今後どのような活用を考えていらっしゃるかを伺いたいです。また、福岡は演劇人もいっぱい輩出している都市で、学生演劇も積極的な印象がありますが、演劇を継続させていくためにお考えのことがあれば教えてください。
龍口 ももち文化センターでは学生演劇祭をやっていたり、演劇やダンスのワークショップ、アウトリーチを自主事業としてやったりと育成には力を入れてはいます。が、基本的には貸し館でホールのスケジュールが埋まっており、その中で福岡の舞台芸術をどう盛り上げていくかは試行錯誤しているところではあります。「Reライブシアター」に関しては、演劇を始め舞台芸術に触れる入り口としてものすごい良い事業だと思うので、うちがプロジェクターを持っていることで、今後、福岡県の各地にそれを持ち出していけるよう、進めていければと思っています。その一方で、実演舞台を観に北九州まで行く人や市民劇場に足を運ぶ人たちも周辺にいる中で、「Reライブシアター」で無料で舞台映像を観られることにお客さんが慣れてしまうのは怖いなと思っていて。「実演舞台を観るには本当はこれくらいお金がかかるものなんだ。それを今、無料で観られている」という特別さを、これから演劇を観る人にはわかってほしいなと思っています。本当の意味で舞台芸術を盛り上げていくには、長い目で見ていろいろと考えていくべきことがあるなと思っています。
──みなとテラスさんは集客に苦労したというお話がありました。お客さんの反応から、今度はこんな作品を上演してみたいとか、今後にどうつなげていきたいかというアイデアは湧いてきていますか?
石田 今回感じたのは、演劇が流行っていないこの地域でも、「Reライブシアター」の情報を手に入れて予約してうちの劇場に来てくださるようなコアな方がいて、そういった方たちにはちゃんと情報が届いたんだということ。実際、イキウメさんが好きだという方、観たいと思っていただけれど観られなかった方、演劇関係の雑誌で戯曲だけ読んでいたけれど舞台は観られなかった方などが観に来てくださいました。ただ、大衆ウケする作品や有名人が出ている作品はそれだけ情報をキャッチされる方も多く、演劇を観るきっかけが増えるとは思うので、実は2026年度、みなとテラスでは「Reライブシアター」と「舞台映像 アーカイブシアター」(編集注:「Reライブシアターと対となり、編集された映像を使用した上映会)を1回ずつ申請していて。「Reライブシアター」のほうは演劇コア層の方が好きそうなもの、「アーカイブシアター」のほうは有名人が出ていて子供から大人まで観られるような作品を選ぼうと、職員同士では話をしています。そうやって、方向性の違う演劇で興味の入り口を作りつつ、さらに地元でがんばって演劇をやっている若い方、地道にやっておられる老舗の団体さんが生で舞台をやれる環境を作っていきたい……と、ちょっと長い計画にはなりそうですが(笑)、映像で観てもらったところから生の演劇につなげていく道筋を計画していかないといけないと思っております。
また先ほどももちさんが大学演劇のお話をされていましたが、私たちの地域では高校演劇は盛んなんだけれども、高校演劇でストップしてしまうという課題があって。きっとそこから先のロールモデルがないので、地元で演劇をするとか演劇を観るということが考えにくく、東京などへ行ってしまって結果的にこの地域では演劇が流行らない、ということがあると思います。なので、「Reライブシアター」をはじめ、演劇に関するイベントを公共施設が継続的にやっていることは大事だと思うし、そのことが中・高生のときに演劇をやっていたような二十代、三十代の方にももっと届いたらいいなと思っています。
──松浦さんには、他8館の方がおっしゃったことを踏まえて、EPAD理事としてお感じになったことを伺いたいです。
松浦 この「Reライブシアター」は始まったばかりで、現時点では課題だらけです。そもそも“舞台を収録してアーカイブを残す”という意識が、実演芸術団体の間でもまだ確立されていませんし、映像面は相当改善されてきたものの音響面ではホールによって聴こえ方が違ったり、業界全体として権利処理の認識が進んでいなかったりと、取り組むべき課題はいくつもあります。でもその辺りが今後変わってきて、8Kでいい画角、高いクオリティで舞台が収録されていくようになれば、収録作品はどんどん増えていくし、状況は変わっていくと思うんですよね。
私はよく、何か新しいことをやるときに携帯電話を例に出すのですが、携帯電話って最初は自動車電話から始まって、それを車外に持ち出して話すには、というところから試行錯誤が始まったんですよね。最初は「こんなマーケットは発展しないよ」と言っている人もいっぱいいたと思いますが、中には「これによって劇的にライフスタイルが変わる!」と思った人もいて、そのような人たちが今の携帯電話のマーケットを作っていったわけです。
たとえば10年後、まず各県の公立文化施設が4Kプロジェクターとスクリーンを持つようになり、今はEPADから派遣している映像技師が各県にいる状況になれば、作品の8K収録や上映が自然になり、作り手もアーカイブで二次収入を得ていくことが当たり前になる可能性もあるなと。その一方で、私はこの「Reライブシアター」が、大都市圏で必要かどうかはわからないなと思っていて。大都市圏では実演舞台がやれるわけだから、であれば「オンライブシアター」という形で、東京でやっている生の舞台をほかの地域でもオンタイムで観られるようになったらいいんじゃないかなと。逆に実演舞台があまりできない地域では、この「Reライブシアター」をうまく使いながら、何年かに1回は実際に生の舞台をやる、というような形が描けたらいいのではないかと思うんです。
目の前の小さな課題を見ていると見えてこないマーケットではありますが、「Reライブシアター」はそのような可能性を秘めていると思っています。



