山梨県北杜市八ヶ岳南麓に工場を構える香水工房・金熊香水が、香水好きの表現者たちとタッグを組み、コラボ香水を販売する。このたびステージナタリーでは、2.5次元舞台を中心に活動する大崎捺希に、金熊香水高円寺ラボショップでオリジナル香水を製作してもらった。自然豊かな熊本県で育った大崎が製作したのは、自身の地元をイメージするような落ち着いた香りの香水。これまで、中性的な役柄やキュートなキャラクターを多く演じてきた大崎は、地元を愛し、家族を愛し、ファンを愛す、胸に熱い思いを抱えた30歳の実直な青年だ。そんな大崎が、オリジナル香水を通して伝えたいものとは? 本特集では調香の様子をレポートするほか、大崎に自身と“香り”にまつわるエピソードを聞いた。
取材・文 / 興野汐里撮影 / 藤田亜弓
金熊香水は、山梨県北杜市八ヶ岳南麓の美しい自然に囲まれたエリアに工場を構える香水工房。日本の気候や風土に合わせた、優しく、柔らかい、日々の生活と調和する香水作りを行っている。金熊香水では自社商品、他社ブランドの製品、合わせて年間300種類以上の香りを開発し、八ヶ岳で製造している。金熊香水リゾナーレ八ヶ岳本店、金熊香水高円寺ラボショップではスタッフによるサポートのもと、自分だけの香りを気軽に調香することができる。また、オンラインの金熊香水カスタムラボでは、AI調香師・八峰コロンとの会話を通じてイメージにピッタリな香りを導き出し、オーダーメイドで注文することも。迷った方はまずはこちらで試してみよう。
公式サイトでは1本からオンラインで注文ができるほか、オリジナルグッズにも最適な10個からの小ロット製作販売も行っている。さらに、プロがサポートする香りの開発によって、完全オリジナル仕様の香水を作ることができる。
ナチュラルモダンな空間で、オンリーワンの香水を作ろう
立春を過ぎてもなお寒さが残る2月中旬、東京都杉並区高円寺にある金熊香水のラボショップで、大崎捺希によるコラボ香水製作が行われた。JR高円寺駅から徒歩約3分の場所に、都会の“隠れ家”をコンセプトにしたラボショップはある。ビルの3階へと上がり、真っ白な扉を開けると、モノトーンを基調とした空間が広がり、店内にはアンティーク調のテーブルとイス、棚には調香用の香料や製品がズラリと並んでいる。
大崎は、ナチュラルモダンなラボショップの空間にぴったりな、スモーキーブルーのセットアップに白いシャツを合わせたスタイルで登場。まず、18種類のベース香料、44種類のトッピング香料が入った滴下用スポイト付きのボトルと、ろうとが置かれた棚の前に立ち、オリジナル香水のもとになる香料を選ぶ作業を始めた。
香水にはノートと呼ばれる分類があり、トップノートはつけてから5分から10分程度の香り、主にフローラル系で構成されたミドルノートは30分後から1時間後程度の香り、主にムスク・ウッディ系で構成されたラストノートは最後に感じる香りを指す。金熊香水に用意されているベース香料は、「アクア」「フルーティ」「シトラス」「リーフィシトラス」「レモン」「オレンジグリーン」がトップノート、「ホワイトフローラル」「グラスグリーン」「アロマティックラベンダー」「フローラルブーケ」「エレガントフローラル」「ローズクラシック」がミドルノート、「スウィートムスク」「ドライウッディ」「スウィートウッディ」「ホワイトムスク」「ナチュラルウッディ」「バルサム」がラストノートに振り分けられている。
大崎が選んだ理想の香りは…
今回の調香体験では、ベース香料から最大3種類と、ニュアンスを加えるトッピング香料1種類を選び、オンリーワンのオリジナル香水を製作する。「落ち着いた優しい香りが好き」と言う大崎は、スタッフから勧められたモスク系、ウッディ系の香りからテイスティングを開始した。「ホワイトムスク」の香りが染み込んだろうとに鼻を近づけた大崎は「わあー、良い香り! これをつけたら、モテモテになれそうですね」とちゃめっ気たっぷりに感想を述べる。続いて、金熊香水の中で人気があるというフローラル系の香りや、爽やかなでジューシーな柑橘系の香りを堪能した。ベース香料のテイスティングを一通り終えた大崎は、スタッフに「女性にはどんな香りが人気で、男性にはどんな香りが人気なんですか?」と質問。スタッフが、女性はシックなムスク系やウッディ系の香り、男性はフローラル系の甘い香りを好むと伝えると、大崎は「そうなんですね! 意外でした。多様性の時代だ……令和を感じます」と目を丸くした。
ベース香料の中でも大崎が特に気に入った香りは、ムスキーアンバーフローラルブーケ系の香り「バルサム」、アンバームスクを主調にした「スウィートムスク」、ウッディとアンバーをメインにした「ドライウッディ」の3種類。まずは「スウィートムスク」を軸に、全体のバランスを見て、スイートで爽やかな「レモン」、アンバームスキーウッディ系の香り「ホワイトムスク」を足した液体をムエット(試香紙)につける。大崎はふむふむとうなずき、「バルサム」をメインにした香りと、「ドライウッディ」を軸にした香りもテイスティングする。大崎は「ドライウッディ」を気に入っていたが、「もしかすると、少し主調が強いかもしれないな」とウッディ系の香りを削り、ムスク系の香りに変更してみることに。すると大崎は「おっ! 理想の香りに近づいてきている気がします!」とうれしそうな表情を見せた。
開始から30分ほどが経った頃、香料の扱いに慣れてきた大崎は、ムエットをパタパタさせて香料に含まれるアルコールを飛ばしてから香りを嗅いだり、コーヒー豆の香りを嗅いで匂いをリセットしてから香料選びに戻ったりと、手際の良さを見せる。最終的に5本のムエットが机の上に並び、その中から「レモン」「スウィートムスク」「ホワイトムスク」を足した香りを選び取った。
集中!いよいよラストスパート
ベース香料が決まったら、次はトッピング香料の選定作業に移る。大崎が好むムスク系のベース香料に合う、「ヒノキ」「コリアンダー」「ユズ」「シトラス」などのトッピング香料が候補に挙がった。大崎は、ベース香料をつけた太めのムエットに、トッピング香料をつけた細めのムエットを重ねて鼻の近くで軽くあおぐ。大崎は「どのトッピング香料も捨てがたいなあ……」と眉間にしわを寄せて悩んでいたが、パッと明るい表情になり、「温泉やサウナに入るのが好きなので、やっぱり『ヒノキ』の香りが一番落ち着きますね。よし! 『ヒノキ』にします!」と答えを導き出した。
使用するベース香料、トッピング香料が決定し、いよいよ調香体験へ。ベース香料とトッピング香料が入ったボトル、計り、ビーカー、スポイト、マドラーが用意されたテーブルの前に、大崎は少し緊張した面持ちで静かに腰を下ろした。ベース香料は15ml(13g)以内で配合することになっており、トッピング香料は種類によって配合上限のパーセンテージが決まっている。
まずはお試しで、ベース香料の「レモン」「スウィートムスク」「ホワイトムスク」を同じ比率の配合で作るところからスタート。大崎は「ふう」と深呼吸してからスポイトを手に取り、計りに乗ったビーカーに、ポトリポトリと1滴ずつ慎重に香料を垂らす。そして、傍らに置かれたブレンドメモにそれぞれの香料のグラム数を書き込み、配合の変遷を記録。これらの作業を何度かくり返し、納得のいく配合を探る。真剣な表情で、ビーカーに入った液体をゆっくりとマドラーでかき混ぜていた大崎はハッと顔を上げ、「集中しすぎて、ついついしゃべるのを忘れていました(笑)」とニコリ。周囲を気遣う大崎の優しさに、店舗スタッフ・取材スタッフ一同から笑顔がこぼれる。香り選びから約1時間後、大崎のこだわりが詰まったオリジナル香水が完成すると、優しい香りと温かい空気がラボショップに広がった。
ひと足先に、香りをお試し
金熊香水の高円寺ラボショップと山梨リゾナーレ八ヶ岳本店では、受注期間中、大崎のオリジナル香水「TANZEN」と、残念ながら商品化されなかった別候補の香りのサンプルを用意している。実際に店舗を訪れて、大崎が調合した香りをしてみては。
ギリギリのところを攻めて作った、自然な香り
──今回の調香体験では、ベース香料「レモン」「スウィートムスク」「ホワイトムスク」に、トッピング香料「ヒノキ」を加えたオリジナル香水を製作していただきました。特に「ヒノキ」の分量には0.1gレベルでこだわっていましたね。
「これ以上合うものはない!」と思い直し、ファーストインプレッションで選んだ3種類のベース香料に決めました。そこに、「ヒノキ」がバッチリハマりましたね。山と川に囲まれた熊本で育ったからか、自然が大好きで、自然の中にいるような落ち着いた香りをイメージして作りました。
──調香体験に臨む前、「自分のことをいつでも思い出してもらえるような、どこでもつけられるような優しい香り。自分が控えめな性格であることを踏まえて、強すぎず、どこで使ってもなじむような香り」を香水作りのテーマに挙げていました。できあがった香水にキャッチコピーをつけるとしたら、どのようなワードを選びますか?
まず思い浮かんだのは「田舎のじいちゃん」(笑)。重たすぎず、軽やかな感じもあって、「ヒノキ」が持つ和のテイストも入っているから、「包み込む」「羽衣」のようなキーワードも思い浮かびました。あとは、田舎のじいちゃんやばあちゃんが冬場に着ている、青や赤の和服「丹前」のイメージもあります。関西だと「丹前」で、関東だと「どてら」というのかな? ローマ字にして「TANZEN」というキャッチコピーをつけたら、ちょっとオシャレじゃないですか?(笑)
──「TANZEN」、温故知新なイメージがあり、素敵なキャッチコピーだと思います。今回、初めて調香体験をしてみていかがでしたか?
中学生ぶりぐらいにスポイトを触って緊張しました(笑)。最初は「ちゃんとできるかな?」「いろいろな香料があるけど、1つひとつの違いをしっかり把握したうえで作ることができるかな?」と不安だったんですが、「微量な差でこんなにも匂いが変わるんだ! 香水って奥深い世界だな」と驚きました。たとえばベース香料で言うと、単体では「バルサム」が一番好きな香りなんですが、ほかの香料と掛け合わせる場合はムスク系の香りのほうが良い。お気に入りだったトッピング香料「ヒノキ」も入れすぎると主張が強くなってしまう。その発見を生かして、ギリギリのところを攻められたんじゃないかなと思います。
そもそも、自分だけのオリジナル香水を作る経験なんてなかなかできないことですし、周りの方から「その香水、良い香りだね。どこで買ったの?」と聞かれたときに、「これ、自分で作ったんだ」と答えられるの、めちゃめちゃカッコよくないですか!? 「おもしれー男」を体現できる気がします(笑)。
──自分好みの香りを調香することはもちろん、“推し活”的な目線で、相手をイメージしながら香水を作ってみるのも楽しそうですね。
「この人を表す香りはどんな香りだろう?」と想像を巡らせながら、時間をかけて香水を作るの、ものすごく愛がある作業で素敵だなと思います。「この香り、君をイメージして作ったんだけど、どうかな?」と言って渡された香水がドンピシャで良い香りだったら、恋に落ちてしまいますよ! しかも、香りって思い出と紐づいている場合があるじゃないですか。「今はもう隣にはいないけど、そういえば、あの人はあんな香りをまとっていたな」というふうに、懐かしくて切ない気持ちになったりして……。ダメだ、妄想が止まらない!(笑) とにかく、高円寺のラボショップはとてもオシャレな店舗なので、カップルの方はデートで来ても楽しめるんじゃないかなと思います。
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匂いまでキャラクターになりきる


