本作は、小学校の教室を舞台にしたワンシチュエーションミステリー、
幕が上がると、そこには日が落ちて真っ暗な窓の外とは対照的に、蛍光灯に煌々と照らされた放課後の教室があった。若手教師(小栗)と定年間近の教頭(相島)は、これから来校する“モンスターペアレント”との面談に向けて居残り準備をしている。30年前この学校で師弟だった2人の教師は、思い出話をしながら、厄介な面談を早く終わらせたいと本音を漏らす。やがて母親(菊地)が到着し、緊張感漂う面談が始まった。彼女の要求は「息子のクラスの担任を変えてください。担任が特定の生徒をエコ贔屓している」というもの。しかし、当の担任教師は校内でも誠実な仕事ぶりで知られており、母親の主張とはあまりにかけ離れた人物像だった。2人はあの手この手で彼女の説得を試みるが、議論は紛糾。後半に差し掛かった頃、母親が交代を訴えていた張本人である担任教師(平岩)が姿を見せたことで、事態はさらなる展開を見せ……。
モンスターペアレントの来襲という、ありふれた現代劇として幕を開ける本作。当初は“不当な要求を突きつける者”と“それに困惑する者”に見えていた構図が、対話を通じてその輪郭を揺らがせていく。三谷は稽古前、本作を「笑いを封印した社会派」とキャストに語っていたという。しかし蓋を開けてみれば、随所に人間味あふれる滑稽さがにじみ出る。完璧な善人も悪人も登場せず、誰もが長所と短所を併せ持つ本作において、4人の俳優陣は、各キャラクターの背景や振る舞いが交錯して生まれるやり取りの妙を巧みに描き出していく。
小栗は、冷静でスマートな教師像がよく似合っていた。要領良く立ち回る“今どき”の軽やかさをナチュラルに漂わせ、一見すると面倒ごとを避ける傍観者のようだが、物語が核心に迫るにつれ、内に秘めた鋭い観察眼と正義感をじわりと露わにしていく。“学校ならでは”の事象から真相を拾い上げる探偵的な立ち振る舞いで、物語をスリリングな心理戦へと昇華させた。
菊地が演じる母親は、息子の不遇を思うあまり感情が先走り、教師たちからモンスターペアレントとして扱われている人物。教師たちとのまったくもってかみ合わないやり取りや、突拍子もない行動で教師たちの笑いを誘うが、母親本人は至って真剣だ。菊地は、本作が初舞台でありながら、エネルギッシュな演技で強い存在感を発揮。序盤の彼女の“厄介な保護者“という印象を、次第に“全力すぎて愛おしい女性“へと塗り替えていく、チャーミングな演技で観客を魅了した。
平岩は、“生徒から愛される先生”という表向きの顔の奥に、得体の知れない空気感を漂わせる。彼女が演じる教師は、激昂する相手に対しても、慎ましやかで丁寧な対応を貫く。時折見せる動揺や、涙を浮かべて窮状を訴える姿ですらも、どこか計算されているのではないかと疑わせるほど。どこかおかしみを感じさせる菊地の熱演に対し、平岩の揺らぎのない芝居は、静かな圧迫感を生み出し、鮮やかなコントラストをなしていた。
そして三谷作品の常連である相島は、かつての熱血漢が事なかれ主義へと転じた大人を、リアリティたっぷりに演じている。組織の論理を盾に「穏やかに過ごさせてくれ」と保身に走る教頭の姿には、キャリアを経た者ならではの悲哀がにじむ。相島はおかしみのある間合いを保ちつつも、舞台に切実な空気感を添え、物語の奥行きを支えていた。
一見、平行線をたどる話し合い。しかし、教室という空間に仕掛けられた小さな違和感が、パズルのピースがはまるように結びついていくにつれ、物語は予想だにしない方向へと転がり始める。教室という懐かしい景色の中、大人たちがどのような結末を迎えるのか、ぜひ劇場で確かめてほしい。
開幕に際し、キャストと三谷のコメントが到着した。小栗は「いよいよ開幕、観に来てくださったお客様がどういう反応をしてくれるのかが非常に楽しみです。脚本を書かれている三谷さんの演出を受けながら日々作っていくのはとても面白い体験でした。お稽古場で、三谷さんから次々とアイデアが出てきて、それによってそれぞれの役が、さらに面白くなったと思います。そんな稽古場の雰囲気は本当に最高でした。みんなで和気藹々と楽しく作っていました。実際劇場で観ていただけたら、いろんな驚きがあると思うので、それを楽しんでもらえたら嬉しいです」と期待を込める。
菊地は「もう小屋(劇場)入りです。ゲネプロって言葉も覚えました(笑)。色々な事が初めてのことばかりで、知らない事を知り、学び、そして理解する。本当に毎日がいっぱいいっぱいの日々でした。ここからは観客の方々との日々です。相島さんから、次はお客様が色んなこと教えてくれるんだよと聞いて、緊張もして、そしてワクワクもしています。お稽古をする日々の中で色んな事を信じられるようになりました。頑張ります。皆さんに楽しんで貰えますように、精一杯最後まで乗り切りたいと思います」と意気込む。
平岩は「3年半ぶりの舞台。稽古では発見と実りがあり毎回山登りをしているかのようで、充実ってこれかも、、と、じんわり帰路につく日々です。初日を迎えるにあたり一番楽しみなことは、初舞台となる凛子ちゃんがどんな景色を見るのだろう♪ということ。きっと嬉しい日になると思っています。私は隣でガチガチかもしれませんが、信頼しかないチームで笑いながらも真剣につくられた舞台を見守っていただけたら幸いです」と語った。
相島は「ようやく初日を迎えます。去年の12月の半ばから始まったお稽古。お正月をまたぎましたがじっくりと作品に取り組むことができました。出演者4人のノンストップ・セリフ劇。楽しい稽古場でした。最高のメンバー! 稽古の最初の頃は頭がバーストするぐらいヘトヘトになりましたがみんなで乗り越えました。それがお客様に観てもらえるところまで来た! 正直ドキドキしています。みなさんに喜んでもらいたい。劇場でお待ちしております」と呼びかける。
三谷は「小栗旬さんの繊細かつダイナミックな演技。相島一之の情熱的かつ哀愁に満ちた存在感。平岩紙さんの知的だがその向こうに垣間見える怪しさ。そして初舞台とは思えないほどに大胆でエネルギッシュな菊地凛子さん。これは役者を観るお芝居です。上手い役者が揃えばこんなにも面白い作品になるのです。もちろんストーリーもお勧めです。コメディではないけど笑いはあるし、ミステリーではないけど謎はある。息をするのも忘れるような、体感15分の1時間45分をお約束します」と自信をのぞかせた。
上演時間は約1時間45分。公演は2月23日までIMM THEATERまで行われたあと、3月6日から8日まで新潟・りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場、12日から15日まで兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール、20日から22日まで愛知・穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール、27日から29日まで大阪・SkyシアターMBSで上演される。
いのこりぐみ
開催日程・会場
2026年1月30日(金)~2月23日(月・祝)
東京都 IMM THEATER
2026年3月6日(金)〜8日(日)
新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場
2026年3月12日(木)〜15日(日)
兵庫県 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
2026年3月20日(金)〜22日(日)
愛知県 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
2026年3月27日(金)〜29日(日)
大阪府 SkyシアターMBS
スタッフ
作・演出:
出演
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26年1月30日(金)~2月23日(月・祝)
東京都 IMM THEATERほか
【公演レポート】小栗旬・菊地凛子らが“厄介な放課後”に迷い込む…三谷幸喜の新作ミステリー「いのこりぐみ」開幕(舞台写真 / コメントあり) https://t.co/tLHsdEidke