
猫と音楽家の二重唱 第5回 [バックナンバー]
歌い手界のトップランナーあらきが溺愛する相棒ラフテー、もずく、ポチギ、ジゲン
「創作する人は孤独を愛せたほうがいい。でも自分の場合は人間以外の生き物が絶対必要」
2025年6月24日 17:30 8
あらきの“猫曲”と言えば
ここで「歌い手は猫好きが多いんですよ」という冒頭の発言に戻ってみよう。
「歌い手仲間でも、猫を飼っている人は本当に多くて。有名なところだと、まふまふさん、天月-あまつき-さん、Geroさん、めいちゃんなどなど。まふまふさんと天月-あまつき-さんもラガマフィンを飼ってたはずですよ。しかも天月-あまつき-さんもたしか4匹か5匹の猫と暮らしてるはずです。ラガマフィンを流行らせたのは自分なのでは?……と思ったり(違う)」
その理由を尋ねると「みんな猫が好きということは前提であると思いますけど」と前置きをしたうえで、
「なんでこんなに猫を飼ってる人が多いのかって、改めて考えてみたんですけど……単純に“かわいい”ってだけじゃなくて、猫の存在感ってグッズや世界観づくりにも生かしやすい気がするんですよね。もちろん、僕自身もそういう流れの中にいるとは思います。猫に限らず、ペットを飼ってる歌い手は多いですし、ハムスターや爬虫類を飼ってる人もいる。でも理由を一言で説明するのは難しいかもしれないですね。たぶんこの連載を続けていったら、何かわかってくるんじゃないでしょうか(笑)」
猫にまみれた暮らしを送るあらきだが、「猫たちの存在が創作活動や音楽活動に与える影響はある?」という問いに対しては、「そんなにないかな」とひと言。
「界隈の人たちの中には猫をテーマにした曲を作る人もいるので、そういう人たちは猫の存在が影響していると思いますけど、僕の曲にはさほどないと思います」
そう話すあらきの楽曲にも、明確に猫をテーマにした楽曲がある。それがアルバム「IDEA」(2022年)に収録された「Secret Girl」だ。
「この曲はもずくちゃんをテーマに書きました。もずくは部屋の隅から出てきてくれないことがあって、本当に『秘密の女の子』なんですよ。この曲では抽象的なワードばかりを並べて、なんのことを歌っているのかわからないように書いたんですけど、裏テーマとしては猫のことを歌っているんです」
あらき「Secret Girl」
創作者の孤独と猫
実はあらきの暮らしにはもう1つ、静かに癒しを与える存在がいる。それが30匹の熱帯魚たちだ。つまり、家主であるあらきは完全なるマイノリティである。「ぎくっ(笑)。確かにそうですね。気付きたくないことに気付いてしまいました」と笑うあらきは、シリアスな表情でこう語り始めた。
「最近思うんですけど、創作する人って孤独を愛せたほうがいいと思うんですよ。メンタルが落ち込んでいるときのほうが創作に向かいやすいという話を聞いたことがありますけど、それも結局孤独を愛せるかどうかという話だと思うんですね。でも、俺の場合は身の回りに自分以外の生き物がいたほうが絶対いい。そういう環境に身を置きつつ、ふと『自分は孤独やなあ』と思う。そういう矛盾のある状態が自分は心地いいんです」
個人的にこの感覚はとてもよくわかる。わずらわしい人間関係に振り回されていると、執筆に集中することはなかなか難しい。ふとした瞬間に邪念が入り、イライラが込み上げてきてしまうからだ。そんなとき、僕はSNSやメールなどの通信手段をすべてシャットダウンし、猫と自分しかいない世界に閉じこもる。猫はごはんやトイレの掃除を催促することはあっても、ほどよい距離感で僕に接してくれる。確かな猫の存在を感じつつ、「自分は孤独やなあ」とひとりごちるのである。あらきはこう話す。
「僕は基本的にあまり怒ることがないんですけど、猫をなでているうちに、嫌なことも忘れているかもしれない。猫にはそういう効能があると思います」
インタビューがひと通り終わり、猫に関する他愛もない雑談をしていると、あらきの指に四文字の漢字のタトゥーが入っていることに気付いた。あらきは「これ、この間入れたんですよ。猫の名前になってるんです」と話し、1文字ずつ説明してくれた。
猫たちの名前を刻んだあらきの手
「それぞれの名前を漢字にしたらどうなるのかな?って調べてみたんです。ラフテーは“火”、もずくは“水”、ポチギは“牙”。ジゲンは……ちょっと強引ですけど“示”にしました。意味というより、みんなのことを忘れないようにって気持ちのほうが強いかもしれないです。ラガマフィンは寿命が短めなので、今が元気なうちに残しておきたかった。いずれ、ラフテーの似顔絵のタトゥーも入れたいと思っています」
あらきが猫と聴きたい13曲
01. 猫になりたい / スピッツ
02. Teeth / 5 Seconds of Summer
03. New Song / Måneskin
04. Guardian Angel / Lil Eddie
05. If We Ever Meet Again / TIMBALAND
06. ポラリスの涙 / 音速ライン
07. Flora / Baiser
08. Nothing lasts forever / Girl's Day
09. きみのキレイに気づいておくれ / サンボマスター
10. Do You Want To / Franz Ferdinand
11. It Girl / Jason Derulo
12. JUVES / Diggy-MO'
13. VOODOO KINGDOM / SOUL'd OUT
あらきが猫と聴きたい曲
選曲コメント
このプレイリスト聴きながら猫カフェとか行ってみてください。
たぶんめっちゃ猫に好かれます。オススメです。
プロフィール
2013年よりネット上で活動を開始。圧倒的な表現力とライブパフォーマンスで注目を浴び、国内外の音楽イベントにも多数出演。ロック、エレクトロ、バラードまで幅広いジャンルを歌いこなし、YouTube総再生数は3億回を超える。2019年にはバンドプロジェクトAXIZとしてアルバム「DRAMA & TRAUMA」を発表。2021年には「UNKNOWN PARADOX」、2022年には「IDEA」などソロアルバムを精力的にリリース。2025年3月に初のエッセイ本「赤誠」を刊行。6月より全国ツアー「LIVE ARK CLASSICS」を開催予定。ソロとしての活動にとどまらず、多彩なコラボレーションでも高い評価を得ている。
- 大石始
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地域と風土と音楽をテーマとする文筆家。主な著書・編著書に「異界にふれる」「南洋のソングライン」「盆踊りの戦後史」「奥東京人に会いに行く」「ニッポンのマツリズム」「大韓ロック探訪記」「GLOCAL BEATS」など。NHK-FM「エイジアン・ミュージック・ニュー・ヴァイブズ」出演中。2匹の保護猫と東京都下で生活中。
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あらき @axiz_and_nico
猫と共に生きる者として、
猫の話ばかりする取材を受けたところ、
猫まみれの記事が出来ました(ΦωΦ)
猫好きは必見です😸🪸
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