KREVAのオーケストラライブ「billboard classics『KREVA Premium Orchestra Concert』~produced by 武部聡志」のアンコール公演が、5月22日に東京・すみだトリフォニーホール 大ホールで開催される。
「KREVA Premium Orchestra Concert」は、昨年12月18日に兵庫・兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール、24日に東京・東京文化会館 大ホールで開催されたオーケストラライブ(参照:KREVAインタビュー|ラップ×フルオーケストラの新境地、プロデューサー武部聡志とともに挑む未知の音楽体験)。武部聡志プロデュースのオーケストラコンサートシリーズの第3弾で、当日は最新アルバム「Project K」の収録曲や、「音色」「イッサイガッサイ」「国民的行事」などの代表曲がフルオーケストラアレンジで披露された。
アンコール公演の開催を記念して、音楽ナタリーでは昨年の東京公演を観覧した音楽ライターの田中久勝による解説とともに、本公演をプロデュースした武部のコメントを掲載する。
文 / 田中久勝撮影 / 石阪大輔
公演情報
billboard classics「KREVA Premium Orchestra Concert -ENCORE-」~produced by 武部聡志
2026年5月22日(金)東京都 すみだトリフォニーホール 大ホール
ジャンルの壁を飛び越えた「奇跡」の再演
それは、音楽の神様が仕組んだ、あまりにも美しく、そして必然的な邂逅だったのかもしれない。日本の音楽シーンを長年牽引し続け、数多くのアーティストのプロデュースを手がけ、金字塔的な作品を作り上げてきた音楽プロデューサー・武部聡志。彼が手がける珠玉のオーケストラシリーズ第3弾として指名されたのは、日本のヒップホップを常にアップデートし、その可能性を拡張し続けてきたアーティスト・KREVAだった。それが昨年12月、兵庫と東京で産声を上げた「billboard classics『KREVA Premium Orchestra Concert』~produced by 武部聡志」だ。
ジャンルの壁を鮮やかに、そして力強く飛び越えたあの夜の熱狂が、早くも「billboard classics『KREVA Premium Orchestra Concert -ENCORE-』~produced by 武部聡志」として帰ってくる。再演を希望する声が多く寄せられ、それに応えての「-ENCORE-」だ。昨年のステージで目撃した「奇跡」のような瞬間と、KREVA自身が語った言葉の端々に宿る「確信」を紐解きながら、来るべき再演への期待を込めて、この唯一無二のプロジェクトの本質に迫ってみたい。
KREVAと武部聡志の出会い、そこに加わった岩城直也
KREVAという表現者の核にあるのは、いつだって「言葉」だ。彼はインタビューの中で、ヒップホップという音楽をこう定義している。「ヒップホップは“吸収する音楽”。ロックでもポップスでも、環境音でも、何でも素材にできる懐の深さがある」[1]と。その貪欲なまでの吸収力と、オーケストラの伝統的な響きが交差したとき、どんな化学反応が起きるのか。その答えは、武部聡志との出会いの中にすでに用意されていた。
2人の絆を象徴する、忘れられない言葉がある。初めて本格的に言葉を交わした際、武部がKREVAに放った「君の曲にはJ-POPの血が流れてる」というひと言だ。KREVA自身、ヒップホップに軸足を置きながらも、日本のポップスが持つ切なさやロマンティシズムをどう自らのビートに落とし込むかを長年のテーマとして追求してきた。自身の音楽的なルーツと矜持を、武部は瞬時に見抜いたのだ。その深い洞察に基づいた信頼関係があったからこそ、KREVAは武部からこのライブへの出演を打診された際、「めちゃくちゃ楽しみです」と迷いなくこの挑戦に応じることができたのである。
そして、この壮大な音楽の航海に、若き航海士として加わったのがマエストロ・岩城直也だ。岩城が率いるNaoya Iwaki Pops Orchestra(NIPO)は、KREVAの楽曲を精緻に分析し、そのエッセンスを最大限に引き出す重厚かつみずみずしいアレンジを施した。KREVAは、岩城から届いた「成功」のデモ音源を聴いた際、打ち込みの段階ですでに「予想を超える感動モノ」で、思わず感極まったと明かしている。世代もジャンルも異なる才能が、1つの音像を目指して溶け合う準備は、開演前から完璧に整っていたのだ。岩城はインタビューでKREVAというアーティストについて「言葉の1つひとつにリズムと情熱が宿っていて、その音作りが非常に緻密。日本の音楽シーンに新しい扉を開き続けた〈言葉で世界を動かすパイオニア〉である」と絶賛[2]。才能と才能が交差して生まれるクリエイティブは強い光となって、そこにいるすべての人々の心に降り注いだ。
楽曲のダイナミズムを増幅させるオーケストラという巨大な装置
あの熱狂の一夜を少し振り返ってみたい。2025年12月24日。クリスマスイブという特別な夜、東京文化会館。クラシック音楽の殿堂として知られるその由緒あるホールは、開演前、独特の緊張感に包まれていた。燕尾服姿のKREVAが登場すると、会場の空気は一瞬で熱を帯びる。幕開けは「Forever Student」だ。ラップとオーケストラが激しく、そして美しく火花を散らす。「ジャンルの数だけチャンスあるだけ」という歌詞の通り、そこにあるのは対立ではなく、高次元の融合だった。KREVAはMCで「今日はいつもの自分流ではなく、フルオーケストラのマナーに則ってやりたい。でも、あるのはルールではなくマナー」と語った。
その言葉を体現するように、「基準」や「No Limit」といった強固なビートを持つ楽曲が、オーケストラという巨大な装置を得て、さらに鋭く、さらに壮大に響き渡る。「C'mon, Let's go」で見せた、一瞬の静寂と見得。まさに静と動のメリハリが、楽曲の持つダイナミズムを何倍にも増幅させていた。中盤の「居場所」では、武部のピアノが刻む叙情的なリズムに乗せ、「クリスマス・イヴ ここが俺らの居場所」と歌い上げ、観客を熱狂させた。また、サンプリング音源を完全に生楽器に置き換えた「アグレッシ部」の凛とした響きや、「瞬間speechless」で見せたウィスパーボイスと繊細な弦楽器の絡み合い、楽曲が本来持っていた美しさが、岩城の手によって上品な余韻を伴って引き出されていくさまは、まさに音楽の魔法を見ているようだった。
第2部は、さらなる深化を見せた。武部のピアノ、白根佳尚のドラム、そして打ち込みのビートが融合した「EGAO」から始まり、続く「成功」では、かつてない劇的なアレンジが施された。曲中に日本の伝統的な「さくらさくら」のメロディを忍ばせるなど、岩城の遊び心とKREVAのドラマチックな歌唱が合わさり、まるでオペラのひと幕のような高揚感を生み出していた。ハイライトの1つは、武部が「自分のプロデュースした曲が生まれ変わったよう」と感激した「もらい泣き×Link」のマッシュアップだろう。フルオーケストラという翼を得て、過去から現在、そして未来へとつながる祈りのような歌へと昇華された。「見極める基準は自分の羅針盤」というKREVAの言葉は、時代を切り拓く者の覚悟として、聴く者の胸に深く突き刺さった。本編を締めくくった「音色」のどこまでも澄み渡る響き。そしてアンコールで披露された、KICK THE CAN CREWの名曲「クリスマス・イヴRap」。武部が熱望したというこの選曲は、ドリーミーなアレンジに彩られ、一夜限りの奇跡を決定付けた。ラストの「Na Na Na」では、観客全員が「声」という楽器を使い、大合唱で大団円。降り注ぐ拍手の中、KREVAが見せた「最高だ」という表情こそが、このコンサートの成功を何よりも物語っていた──。
ソロデビュー20周年を経て、なお成長し続けるKREVA
2024年にソロデビュー20周年を迎えたKREVA。独立して自らの会社を立ち上げ、マネジメントも含めてすべてを自身でコントロールする新たなフェーズへと踏み出した彼は、より自由に、より貪欲に音楽と向き合っている。興味深いのは、初の原書展示販売会「ラッパーと紙とペン」(参照:KREVA展示イベント「ラッパーと紙とペン」特集)のために制作したビートレスのアンビエント曲を集めたアルバム「R. P. P. B. G. M.」(2025年)をリリースするなど、ビートやラップといった既存の枠組みから解き放たれた表現にも着手していることだ。久石譲の初期のミニマリズム作品に影響を受けたと語るその姿勢は、今回のオーケストラとの共演とも地続きにあると言える。「ビートがあるとかないとかも関係なくて。俺がこんなもの作れるのだっていう驚きが自分の中にあって、それが形になるというのは本当に楽しい」と語る彼の瞳は、少年のように輝いていた。
また、近年はAIを「道具」として取り入れるなど、常に最先端の技術にも柔軟な姿勢を見せる。しかし、その一方で彼が最も大切にしているのは「アティテュード」だ。「自由にやりながら、自分で責任を取る。その精神がある限り、どんな音楽とも混ざり合える」。この確固たる自分軸があるからこそ、60人を超えるオーケストラの感情を背負いながらも、彼はステージの真ん中で「KREVA」として毅然と立ち続けることができたのだ。
「再現できない一夜」の再演、さらなる高みへ
今回の再演は、単なるリピート公演ではない。昨年の2公演を経て、KREVA、武部、岩城、そしてオーケストラの間に生まれた強固な信頼関係と、一度完成させたからこそ生まれる「さらなる余白」への挑戦である。KREVAは語っていた。オーケストラとの共演は「新しい一歩になるはず」だと。その一歩は、昨年、確かに踏み出された。そして今、その足跡はより深く、より確かなものになろうとしている。ヒップホップが本来持っていた、境界を壊し、すべてを内包するパワー。オーケストラが持つ、時間を越えて人々の魂を震わせる響き。武部聡志という巨匠が描く、美しきJ-POPの地平。これらが再び交差する瞬間、私たちは何を目撃するのか。「ラップってここまでできるんだ」──彼が次世代に見せようとしているその景色は、きっと昨年の感動を軽々と上書きしていくはずだ。
KREVAは昨年の公演前「再現できない一夜にしたい」と語っていた。しかし再演を望む声が鳴り止まなかったのは、あの夜が「一夜限りの奇跡」ではなく、さらに高みへ昇っていける可能性を全員が感じ取ったからではないだろうか。「再現できない一夜」を再び私たちは心待ちにしている。
出典
[1]KREVAが武部聡志プロデュースによるオーケストラコンサートに登場 HIP HOPと50人を超えるフルオーケストラがジャンルを越えて響き合う【オフィシャルインタビュー】
[2]「今のKREVAを全部出します」 ヒップホップとオーケストラがセッションする〈billboard classics〉に向けKREVAと指揮・岩城直也が語る
武部聡志コメント
KREVAの楽曲やパフォーマンスについて
パフォーマンスについて、ラップも歌唱も抜群のリズム感とほかの演奏者を引っ張る力が秀でていると思いました。
彼の楽曲はフルオーケストラにアレンジを施しても彼独自の世界観が強く現れていると思いました。
岩城直也のアレンジとNIPOの演奏について
これまでの僕のシリーズ全てで岩城直也に指揮とアレンジをお願いしていますが、アーティストや楽曲の背景にまで気を配って丁寧なアレンジを施してくれていつも感謝しています。
NIPOの演奏について、各演奏者がエネルギッシュで躍動感溢れる演奏をいつもしてくれます。
僕やアーティストの背中を押すような演奏にいつも感動させられます。
前回の公演について
音楽のジャンルによってマナーの違いはあれど、それぞれがリスペクトを持って交わることによって新たな音楽の世界が生まれたのではないかと思います。
お客様にもそれが伝わったようで皆様に喜んで頂けたのがとてもうれしかったです。
アンコール公演について
昨年よりも更に熱いステージをお届けできるよう皆で準備しています。
単なる再演と違い、より刺激的なパフォーマンスを目指しています。
プロフィール
武部聡志(タケベサトシ)
作編曲家、音楽プロデューサー。国立音楽大学在学時より、アレンジャーとして数多くのアーティストを手がけるほか、キーボーディストとしてさまざまな楽曲に参加する1983年より松任谷由実コンサートツアーの音楽監督を担当。一青窈、今井美樹、ゆず、平井堅、JUJUらのプロデュースも手がけ、最近では、映画「THE FIRST SLAM DUNK」の音楽担当、「Yuzuru Hanyu ICE STORY 2023 “GIFT”」の音楽監督など、多岐にわたり活躍している。
公演情報
billboard classics「KREVA Premium Orchestra Concert -ENCORE-」~produced by 武部聡志
2026年5月22日(金)東京都 すみだトリフォニーホール 大ホール
プロフィール
KREVA(クレバ)
1976年生まれ、東京都江戸川区育ち。BY PHAR THE DOPEST、KICK THE CAN CREWでの活動を経て2004年にシングル「音色」でソロデビューを果たす。2006年2月リリースの2ndアルバム「愛・自分博」はヒップホップソロアーティストとしては初のオリコンアルバム週間ランキング初登場1位を記録し、2008年にはアジア人のヒップホップアーティストとして初めて「MTV Unplugged」に出演した。2012年9月08日に主催フェス「908 FESTIVAL」を初開催。“9月08日”は“クレバの日”と日本記念日協会に正式認定されている。ソロデビュー20周年を迎えた2024年に事務所を独立。さまざまなアーティストへの楽曲提供やプロデュース、映画出演など幅広い分野で活躍している。
KREVA_Dr.K_dj908 (@KREVA_DrK_dj908) | X


