神はサイコロを振らないの3rdフルアルバム「EINSTEIN = ROSEN BRIDGE」(アインシュタイン ローゼンブリッジ)がリリースされた。
昨年、結成10周年とデビュー5周年を迎えた神はサイコロを振らない、通称神サイ。ダブルアニバーサリーの締めくくりとして発表された「EINSTEIN = ROSEN BRIDGE」は、バンドの葛藤がにじんだ前作「心海」から一転、音楽を鳴らす喜びとこだわりに満ちた1枚に仕上がっている。
「EINSTEIN = ROSEN BRIDGE」のリリースを記念して、音楽ナタリーではメンバー4人にインタビュー。昨年行われた初の東京・日本武道館公演を振り返ってもらいつつ、今作の手応えやバンドの未来について話を聞いた。
取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / 山崎玲士
初の武道館ワンマン、その感触は
──神はサイコロを振らないは結成10周年とデビュー5周年のダブルアニバーサリーを迎え、2025年から「10の叶えたいこと」を掲げて活動中ですよね。そのうちの1つが、昨年2月に開催した初の日本武道館公演「神倭凡庸命 -カムヤマトボンヨウノミコト-」。皆さんにとって大きな経験だったのではないかと思います。
柳田周作(Vo) 武道館が決まってから、「今の神サイが武道館の客席を埋めるにはどうしたらいいんだ?」という1年がかりのプロジェクトが始まって。バラエティ番組の制作会社と一緒に、無人島でアナコンダを捕まえる動画を撮ったりして……武道館公演に向かって盛り上げていこうと、音楽以外のことも懸命にやってきました。チームとして試行錯誤を重ねて迎えた武道館は大成功でしたね。僕はこれまでいろいろなライブを武道館で観てきたけど、僕らのライブが断トツでよかったと思います。当日は本当にお祭りみたいでした。
桐木岳貢(B) めっちゃ楽しかったです。ライブ中は夢の中にいるみたいで実感が薄かったけど、翌日にみんなで撮った写真を見て「ああ、本当に武道館に立ったんだな」と。後日、ライブ映像をみんなで観たときは「めっちゃカッコいいな」と思いました。なんでそうなったのかはわからないけど、“まとまり感”がいつもと違いました。
柳田 感覚的な話になっちゃうけど、あれは“気”の問題だったと思う。あの日の4人は、10年間で一番ひりついていたと思うんですよ。
桐木 ああ、そうだね。
柳田 ステージに立つ前は、これまで感じたことのないような……緊張感ともまた違う、独特の空気が流れていて。オープニングSEが鳴っている間、ステージ裏で自然と、メンバー同士で抱き合ったんですよ。そんなこと10年で一度もなかったのに。「今までありがとう」「武道館までとりあえずおつかれ」「かますぞ!」と声をかけ合って。そんな独特の空気が生まれたのは、ライブスタッフ、マネジメント、レーベル……神サイのためにとんでもない気合いを抱えた人が、同じ場所に集まっていたからだと思う。お世話になった全国のイベンターさんも来てくれたけど、まるで四天王みたいでマジで風格がすごかったです。
吉田喜一(G) あれは本当にすごかった。今振り返ってもやっぱりいい日だったなと思いますね。
柳田 初めて4人だけでライブ演出をプロデュースした点も含めて、初武道館であそこまでやり切れたのはひとつの自信になりました。
──黒川さんは、いかがですか?
黒川亮介(Dr) 武道館を観に来てくれた人はみんな「すごくよかったよ」と言ってくれたけど、自分としては納得いってない部分も多くて。終わったあとは、ずっと泣いてましたね。メンバーは感極まって泣いてると思っていたみたいですけど、完全に悔し泣きでした。
柳田 武道館からの帰りの車の中でも2人で話したけど、こんなに悔しがってるのは珍しいなと思った。
黒川 柳田からは「俺はそんな気にならなかったけどね。亮介の中でのハードルが上がってるんじゃない?」と言われて、僕も「ああ、そうか」と。武道館の前に、メンバー4人で滝行に行ったんですよ。つららができるほど寒い日で、お坊さんが念仏を唱え終わるまで滝に打たれていなきゃいけない。岳貢と柳田は耐え切ったけど、俺はしんどすぎて、途中であきらめちゃったんです。そういうところがライブにも出たのかもなって。「いったれ!」みたいな思いきりを出しきれなかった部分が、今回の武道館でも自分の中で悔しさとして残って。
桐木 考えすぎなんじゃない?
吉田 しかも俺も滝行をあきらめた側なんだけど、巻き込まないでくれる?(笑) まあ、いい日もよくない日もあるのがライブだよね。でも全部が糧になるのがバンドのよさだし、4人でやってるんだからさ。
黒川 そうだね。武道館は、僕にとってはふんどしを締め直すきっかけになった日でした。
柳田 「ここから本気でがんばらないといけないんだろうな」という意識は、メンバー全員が持っていて。バンドのファンの中には、武道館に立つまでは応援して、そのあとは燃え尽き症候群になって離れちゃう……みたいな方もけっこういるじゃないですか。そういう“武道館ジンクス”に対する怖さとか、熱を維持することの難しさは今まさに感じているところです。
吉田 試行錯誤の日々は続いているなと。だけど「10の叶えたいこと」も含め、やりたいことはたくさんあるからポジティブな感じで。武道館が終わってから1年くらい経ちますけど、「次は何をしようか?」「また楽しいことやりたいよね」と前向きな会話をしながら、ここまで活動してきた感覚があります。
柳田 武道館のあとは、めっちゃラブリーなホールツアーを回りました。ステージにめっちゃデカいハートのネオンサインを置いて、80年代のアメリカの雰囲気を出して。
──昨年6月から9月にかけて開催された「Hall Tour 2025 "Lovey Dovey City"」ですね。
柳田 武道館で「カッケー神サイ」を見せ切ったからこそ、ここからどんな遊びを加えても大丈夫だという自信しかないというか。だから、やれることの天井がなくなってきているし、今の僕らが目指しているのは、カッコよく見せることだけじゃなく、人を楽しませたり、共鳴させたりすることで。今「COVER LIVE TOUR 2026 "ROOTS"」というカバー曲中心のライブツアーを回っているのですが(※取材は3月中旬に実施)、お客さんの雰囲気が温かくていい感じです。みんなの頭の上にハートが浮かんでいるイメージ。
3rdフルアルバムは秘密基地で作り込んだ実験的な1枚に
──武道館を経ていろいろなことができるフェーズに入ったという話でしたが、そのテンションが今回のアルバム「EINSTEIN = ROSEN BRIDGE」にも反映されているように感じました。
柳田 そうですね。武道館以降の神サイは人を楽しませるにはどうしたらいいかという視点で試行錯誤を繰り返しているけど、それは曲作りにおいても一緒で。別にロックバンドだからと言って、「黒川はドラマーだから絶対にドラムを叩かないといけない」「桐木は絶対にベースで、吉田は絶対にギター」という制約はない。思考を柔らかくしたら、やりたいことがたくさん出てきたんですよね。
吉田 そういえば年末はずっと鍵盤を触ってました。
柳田 だってこの男、初めてのグロッケンで僕を号泣させたんですよ? グロッケンを叩くために生まれてきたんじゃないかと思ったくらい。
吉田 じゃあ今後はグロッケンプレイヤーとして……っていうのは冗談ですけど(笑)、俺はもともと「一生ギターを弾いていたい」という気持ちでバンドを始めたんですよ。だけど今回の制作をきっかけに「音楽がしたい」に変わりましたね。
──柳田さんが写ったジャケット写真もインパクト抜群です。台所用品をメガネや帽子に見立てていますが、こちらはどういったコンセプトですか?
柳田 これは、僕の中に明確なイメージがあって。ジャケットに写る彼は、野心あふれる少年4人組のリーダー。上品な家庭に生まれたから、きちんとした恰好をしてるんです。普段は「お母さん今日も勉強がんばったよ! 理科98点だった!」みたいな優等生。だけど親の目を盗んで、実は動画投稿サイトにヤバい曲を投稿していて。彼の部屋のベッドをバッとどけたら、そこには秘密基地が広がっているんです。何か悪だくみを思いついたら、仲間たちと秘密基地に集まってそれを共有している。自分たちが作ったもので世界を変えてやろうと、いつも企んでいる……というイメージですね。
──実際にそのように制作したアルバムだったんでしょうか?
柳田 まさにそんな感じでした。今、防音室を借りているんですけど、とにかく音作りを追求できる、最高のシステムを構築しまして。そこを秘密基地にして4人で集まって音を出したり、音色をいじったり……すごく楽しく、実験的に制作を進めました。プレイ自体はそれぞれ家で「これだ」というテイクを録って持ち寄ったけど、そのテイクをレコーディングスタジオでリアンプすれば、最高のフレーズのまま、スタジオで音作りだけを徹底的に追求できる。いろいろな機材を試したり、マイキングを試行錯誤したりしました。例えば「白昼夢」では、ベースにめちゃくちゃサイドチェインをかけて。
──あの独特なうねりは、そうやって作っていたんですね。
柳田 あと「Balloon of Shooting Star」ではカンタリールを使いました。
──イントロなどで鳴っている民族楽器のような音でしょうか? なんの楽器だろうと思っていました。
柳田 そう、その音です。カンタリールは楽器じゃなくて、アコースティックギターの弦に取りつけて使う歯車型のアタッチメントで。これを使うと、バグパイプみたいな音が出るんです。日本の職人が個人で作っている製品なんですけど、海外のアーティストが使い始めたことで話題になりつつあって。僕の大好きなアーティストも使っていて、それをきっかけに知りました。音を聴いた瞬間、「これで曲を作りたいな」と思ってその場でポチって。家に届いて曲作りで使い始めたその日が、たまたま僕の誕生日だったことも含めて思い出深いです。
桐木 「Balloon of Shooting Star」では初めてフレットレスベースを使いました。最初はエレキで録っていたけど、フレットレスで弾いてみたら「めっちゃいいやん」って。
柳田 木の温もりが感じられてすごくいいよね。この曲は大きな音量で聴いたらけっこう泣けちゃいます。1番が終わったあとに、ブワーッと音が広がるんですよ。気球が飛んでいくみたいで。
──楽しみながら制作されたんだなと、お話から伝わってきます。柳田さんのInstagramでの投稿から生まれた楽曲「ちょっとだけかゆい」が収録されているのも、実験的精神や遊び心の表れかと。あまりにユニークな曲なので、ライブで披露されたときも驚きましたが、まさか正式にリリースされるとは思いませんでした。
柳田 ファンの方々がライブの帰り道で「今日やってたあの曲を聴きたいな」と思っても、「この曲はリリースされてないんだ。じゃあ聴けないな……」となったら悲しいから、ちゃんと音源化したいなと。そういえばこの曲の歌を録っているときに、おならが出ちゃったんですよ。その音がきれいに録れていたので、実はスネアが鳴るたびに僕の屁の音も一緒に鳴るように仕込みました。
黒川 そうなんだ(笑)。
柳田 最後の最後に僕の屁だけがちょっとはみ出て聞こえるから、耳を澄ましてほしい。
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今ならすべての音符がそこにある理由を説明できる



