原田美桜(猫戦)と愛猫のCちゃん。

猫と音楽家の二重唱 第6回 [バックナンバー]

猫戦・原田美桜の日々と音楽を支える愛猫

「かわいいだけじゃない、慈愛みたいな感覚がある」

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猫を自身の名前に冠したアーティストは世界中に存在する。70年代にはその名も「猫」というフォークグループがいたし(2000年代に再結成)、大阪にはneco眠る、オランダには猫シCorp.、京都には猫は液体、東京にはcat meowsがいる。アメリカにはドージャ・キャット、キャット・パワー、サンダーキャット、キャット・スティーヴンス……キリがないのでこのあたりしておくが、とにかく猫の名を借りたアーティストは無限に存在するのだ。

創作活動のパートナーとしての猫の存在に迫る本連載、今回はそうした「猫系バンド」でボーカルを取る人物にご登場いただいた。シティポップの雰囲気を漂わせるサウンドで注目を浴びているバンド、猫戦でボーカルおよびソングライターを務める原田美桜である。最新シングルは今年2月リリースの「CAT IS LOVE」。猫の日にあたる2月22日にイベント「Cats & Mellow」を主催するなど、その音楽のみならず、猫まみれな活動でも注目されている。

原田はまた、保護猫活動を支援するためのグッズを販売するなど、猫の「いのち」に対しても真摯な眼差しを向けてきた。近年は猫好きとしても知られるMegu(Negicco)の最新シングル「sheep..sleep…」の楽曲制作およびプロデュースを手がけるなど、ソングライターとしても活動範囲を広げている。そんな彼女の愛情あふれる猫トークをお届けしよう。

取材・/ 大石始

我が道をいく、注意散漫な原田美桜の愛猫

「こんにちは、よろしくお願いします!」

インタビューの場にやってきた原田は、そう言って頭を少し下げた。Tシャツのフロントにはかわいらしい猫の写真がレイアウトされている。聞くと、今春から飼い始めた愛猫の写真だという。

原田美桜(猫戦)の愛猫。

原田美桜(猫戦)の愛猫。 [拡大]

「名前は◯◯◯というんですけど、今は直接お会いした人にだけ教えるという遊びをちょっと間楽しんでいます。今、SNSを通してどんなことでもすぐわかるじゃないですか。でも、私がホンマに感動したことはSNSでは表現できないし、大切にしていることも表現できないのに、何かアクセスした気になるんですよね。自分が一番大事な猫の名前はネットに載せないでおいたら、この世界を飄々と生きられるかなと思って」

爪研ぎベッドの上でまったり。

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というわけで、ここからは原田家の猫ちゃんのことを「Cちゃん」と呼ぶことにする。Cちゃんはオス。1歳になる、まさに遊び盛りの男の子だ。もともとは野良猫だったが、とある保護主経由で原田の家にやってきた。

「昨日まで3日間連続で客人が来てたんですけど、物怖じしないんですよ。抱っこされたりなでられたりしても平気です。あと、めっちゃしゃべりますね。私自身がけっこうわがままなんですけど、そんな私よりもさらにわがままです。こうしたんねん!って思ったことを考えるまでもなくやる。我が道を行く感じです。注意散漫なところも私と似ているかもしれない」

原田美桜(猫戦)と愛猫のCちゃん。

原田美桜(猫戦)と愛猫のCちゃん。 [拡大]

自身のバンドに「猫」というワードを付けるほどに猫愛あふれる原田は、幼少時代のことをこう振り返る。

「子供の頃から猫が大好きだったんですけど、当時自宅では猫を飼っていなかったんですよ。それで小中学校のころは通学カバンに猫缶を入れて、野良猫にあげてましたね。猫戦が最初に出した『鶴』(2020年4月)という曲には『匙投げてわがまま猫』という歌詞があるんですけど、『わがまま猫』はカバンに入れてた缶詰の商品名なんです」

猫戦のジャケットはたびたび猫が飾っている。2023年発表のシングル「3月号」の白猫は原田がボランティア先の保護猫会で出会った猫。2022年リリースのアルバム「蜜・月・紀・行」は貫禄あるグレーの猫ちゃんがジャケットを飾っているが、これは原田の実家の猫だという。

猫戦の1stアルバム「蜜・月・紀・行」ジャケット。

猫戦の1stアルバム「蜜・月・紀・行」ジャケット。 [拡大]

「母は一時期韓国に住んでたんですけど、ソウルで出会って日本に連れて帰ってきたんです。名前はミヨク。韓国語でワカメという意味です。実家にはポーというシマシマの猫もいます」

原田のインスタグラムにはCちゃんやミヨクのほかにも、さまざまな猫たちが登場する。猫好きにはフォローをお勧めしたい。

粗相も愛らしい歌に

ジャケットに大きく登場するぐらいなので、猫戦の楽曲においても猫はたびたびモチーフとなっている。テレビアニメ「いきものさん」の主題歌として作られた「もちもち」はその1つだ。歌詞にこそ「猫」という直接的なワードは出てこないものの、猫に対する思いをつづったものであることは容易に想像することができるだろう。注目は冒頭のこちらのフレーズ。

まろやかに滴る その雫、拾い集めてく
ご機嫌なモードならそんなことでも至福

この一節はどのような意味なのだろうか?

「実家のポーちゃんが粗相をして、茶色のアレをつけたままウロウロしていたことがあって。大晦日だったんですけど、それを拭い取っていたら年を越してたんですよ(笑)。この歌詞ではそのときのことを書きました」

バスケットに入ってどこに行くの?

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フルートや音楽機材と一緒に。

フルートや音楽機材と一緒に。 [拡大]

そんな猫戦にとって最新の猫ソングとなるのが最新シングル「CAT IS LOVE」。この曲が書かれた経緯について、原田はこう話す。

「2月22日の猫の日に『Cats &Mellow』というパーティをやってるのですが、パーティに向かっていく曲を1つ書きたいなって思ったんです。猫のモチーフとパーティの感じ、ライブをやる10人編成の音像がイメージとしてあって、そこからはつれづれなるままに書いていった感じでした」

猫戦「CAT IS LOVE」配信ジャケット

猫戦「CAT IS LOVE」配信ジャケット [拡大]

この曲は「借りたい借りたい」というフレーズで幕を開ける。「猫の手も借りたいぐらい忙しい」という曲なのかと思いきや、「君の手は要らない 他に手はない」と続いていく。さまざまなイメージをちょろちょろと迂回していく歌詞は、部屋の中をうろちょろする猫のようでもある。ステレオタイプな猫像に収まることのない「CAT IS LOVE」には、ソングライターとしての原田の視点の面白さも表現されている。

「思想があって何かをしゃべるというより、頭の中のものをそのまま書いていく感じというか。猫の行動もそういうものですよね。メシくれ!と言ったあと、そのことを忘れて何かで遊んでいる。私もそういうことはめっちゃあるし、この曲ではそういう作り方をしています」

猫缶を狙っている?

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「CAT IS LOVE」には次のようなフレーズも出てくる。

一家に一匹 必要なkitty 命の導きそこはかとない
(中略)
この家の猫と永遠を得ようとしても 絶対 有限のライフ

ここに表れているのは、猫の命に対する原田のまなざしだ。

「私自身は猫を看取ったことがないんですよね。目の前の命を慈しむことは手軽かもしれないけど、命が消えていくところは見ていないんです。頭では理解しているけど、身をもって引き離された経験がない。生があれば死があるし、そのことによって慈しむ気持ちが生まれてくるわけで、そこはぬいぐるみとは違いますよね。『CAT IS LOVE』はまだCと暮らし始める前に書いた曲なので、猫のことを喜びを与えてくれる存在として書いてるけど、ここには死があり、だからこそ今が大事なんやなと思うんですよ。Cとの生活が自分にとって当たり前になってきたとき、『CAT IS LOVE』とは違う歌詞が出てくるのかもしれない」

机の下から……。

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Cちゃんを抱っこする原田美桜(猫戦)。

Cちゃんを抱っこする原田美桜(猫戦)。 [拡大]

自分たちがいずれこの世からいなくなるように、小さな猫の命もいつの日か必ず消え去ってしまう。原田は「猫に対しては常に『かわいい!』というだけじゃない、慈愛みたいな感覚がある」と話すが、こうした感情は猫を愛する人々に共通するものと言えるかもしれない。

猫の死と向き合い生まれた「双子座(gemini)」

猫戦のレパートリーの中で、猫の死について触れた楽曲がある。それが「双子座(gemini)」だ。

冷たくなって戻った黄色い花の横
あたたかく鼓動をはらんだ春が そっと寄り添う

この歌詞は原田が「ボランティア先の保護猫が里子に出る前に亡くなってしまったときに書いた曲」なのだという。

「私は普段から思いついた言葉を書き溜めているんですけど、この2行はその子らのことなんです。その猫たちがいたということを歌にしました」

なでられるとこんな顔も。

なでられるとこんな顔も。 [拡大]

原田はグッズの売り上げが保護猫活動支援に寄付されるチャリティプロジェクト「meow's Groovin'」を主宰している。どのような思いがあってこうした活動を始めたのだろうか。

「猫を保護している方々にとって、猫のお世話はもう本当に絶え間ない作業なわけですよね。目の前の命と向き合っていて、気まぐれにはできない。私はライブなどで東京を不在にすることも多いですし、いくつかの理由でごはん当番やトイレ当番はできないんですが、その代わりにシールを売って会の活動を知ってもらいたいんです。ペット産業の背景にこぼれていく命があるということを広く知ってほしいし、そういうことは自分にもできるんじゃないかと思っています。とはいえ、なにが自分にできて、周りの人や猫たちにとって助けになることなのかは常に自身に問いかけながら小さく活動しています」

猫の命についての話になると、原田の口調はさらに熱を帯びた。最後まで一気に話し終えると、彼女は「ちょっと泣きそうなんですけど……」と目尻に溜まった涙をそっと拭った。

なお、来年2月22日の猫の日も主催パーティ「Cats &Mellow」を開催予定とのこと。メロウなサウンドに包み込まれながら、猫のかわいらしさとかけがえのなさについて思いを馳せる一夜となるはずだ。

原田美桜(猫戦)と愛猫。

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原田美桜が猫と聴きたい25曲

01. スカイツリー / □□□
02. すてねこ / シャムキャッツ
03. もちもち / 猫戦
04. nekomeshi / やくしまるえつこ
05. Shining Star / KOJI 1200、TOWA TEI
06. 野良猫 / Elle Teresa
07. すまあと(にぎやか Ver.) / 入江陽
08. ミルク / Chara
09. 空飛び猫(feat. 大貫妙子) / Schroeder-Headz
10. 개냥이 gae-nyang-i / 美桜 美藍
11. ねこの夢 / Megu
12. Cat / Chara
13. ネンネコ / KIRINJI
14. 涙ごはん / 柴田淳
15. ただそばにいてくれて / 石原詢子
16. 私のお気に入り / 土岐麻子
17. 双子座(gemini) / 猫戦
18. トゥイギー・トゥイギー / 野宮真貴
19. Morph the Cat / ドナルド・フェイゲン
20. 恋人の部屋 / サニーデイ・サービス
21. ねこの森には帰れない / 谷山浩子
22. みんなネコになりたいのさ(「おしゃれキャット」より) / スキャットマン・クローザース, フィル・ハリス & サール・レイブンズクロフト
23. Moon River (From Breakfast at Tiffany's) / オードリー・ヘップバーン
24. 猫 / クレイジーケンバンド
25. CAT IS LOVE / 猫戦

原田美桜が猫と聴きたい曲

プロフィール

原田美桜(はらだみおう)

1999年生まれ。京都・立命館大学在学中に、自身がボーカル・作詞作曲を担当するバンド「猫戦(ねこせん)」の活動を開始。2022年にアルバム「蜜・月・紀・行」でCDデビュー。東映アニメーション制作アニメ「いきものさん」の主題歌を手がけるなど、活動の幅を広げている。毎年2月22日(猫の日)に「Cats & Mellow」を開催している。個人としては楽曲提供、CMソング歌唱、ゲストボーカルとしてさまざまな作品に参加。2025年8月8日の世界猫の日には、猫本屋や猫用品店を出店に招聘し、売上の一部が保護猫活動のチャリティにつながるソロパーティー「SWEET NIGHT FEVER」を開催したほか、ディスクレビューやエッセイ執筆などの文筆活動も展開。保護猫支援のチャリティープロジェクト「meow's Groovin'」を主宰している。

バックナンバー

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大石始 @OISHIHAJIME

音楽ナタリーの連載「猫と音楽家の二重唱」がひさびさに公開。今回ご登場いただいたのは猫戦の原田美桜さんです。保護猫活動を支援するためのグッズを販売するなど、猫の命に対しても真摯な眼差しを向けてきた原田さんにじっくりお話を伺いました。原田さんちの愛猫のかわいらしい写真も盛りだくさん! https://t.co/JL0pU2HH7Z

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