前作「風に乗る」のリリースから1カ月足らず。緑黄色社会が早くも新曲「章」(しるし)を発表した。
「章」は、波瑠と麻生久美子が主演を務めるドラマ「月夜行路 -答えは名作の中に-」の主題歌。原作小説や台本からインスピレーションを受ける形で長屋晴子(Vo, G)が作詞を担当し、穴見真吾(B)が作曲した。
緑黄色社会は昨年2月の「Channel U」リリース以降、フィジカル / 配信合わせて5作のシングルをリリースしており、その制作ペースと作品の充実ぶりはキャリアハイを迎えているようにも思える。お茶の間に似つかわしいポップネスと、冒険心あふれるクリエイティビティを両立させながら、次々と新作を世に送り出す4人の原動力はいったいどこにあるのだろうか。「章」の制作秘話を中心に、現在の4人のモードを紐解いていく。
取材・文 / 高橋智樹撮影 / 神藤剛
私たちには4つの脳がある
──シングル「風に乗る」のインタビュー(参照:緑黄色社会「風に乗る」インタビュー|劇場アニメ「パリに咲くエトワール」と重なるバンドの軌跡)が掲載されて1週間も経たないうちに、もう次の新曲のインタビューをさせていただいているわけですが……(※取材は3月下旬実施)。
長屋晴子(Vo, G) そうですね(笑)。
──昨年の東京体育館ワンマン「Channel Us」のタイミングで「illusion」(昨年7月4日リリース)、その2週間後に「つづく」(同7月18日)がリリースされて、さらにアジアツアー中の11月12日に「My Answer」、今年の3月18日に「風に乗る」……昨年2月のアルバム「Channel U」発表以降、タイアップ曲も含めてリリースペースが加速していますよね。
長屋 確かに……今挙げていただいて、「けっこう出してるな」と実感しました(笑)。制作の時期がバラバラだったりするので、“出してみると意外と”っていうことでもあるんですけど。
小林壱誓(G) 何が健全かって、僕らは「自分たちがやりたいこと」ができてるんですよね。タイアップのお話をいただいた中でも、作品サイドの希望と自分たちがやりたいことの共通項を見つけられているのが幸せだなと思います。
──しかも、1作ごとに音楽的な挑戦と冒険がありますよね。
長屋 そうですね。それはけっこう大事にしているところかもしれないです。
──「風に乗る」に至っては、使う楽器まで先方からリクエストがあったわけですが、緑黄色社会の場合、それをハードルとも感じていないような気がするんですよね。
長屋 確かに。「風に乗る」は「パリに咲くエトワール」の時代背景を汲んで、「当時存在した楽器だけでアレンジしてください」というリクエストがあって。それを聞いたときには「マジか!」と思ったけど、メンバーみんな「面白そうじゃん」というマインドではいられたかなと思います。
小林 俺らは基本、ライブと音源を分けて考えてるから。
長屋 そうだね。「それはできないです」ということはなくて。基本NGなしです(笑)。
小林 「風に乗る」も、この間ファンクラブライブで初披露したんですけど、音源とは全然違う、バンドっぽいアレンジにしたんですよね。
──特に「なんでもやる」ということを標榜しているわけではないものの、音楽的な縛りを自分たちに課さないというか、新しい扉を開けることをいとわない、という方向性が、ここまでの活動の中で血肉化されている印象があります。
長屋 そうですね。タイアップのお話をいただくことも増えてきましたけど、私たちには4つの脳があるし、これまでやってきた経験からちゃんと対応できるんだという自信もある。それが、私たち自身のハングリー精神にもつながっている気がします。
こういうエンタメ性が僕らも欲しい
──今回の新曲「章」は、ドラマ「月夜行路 -答えは名作の中に-」の主題歌として書き下ろされました。お話をいただいたときの第一印象は?
長屋 まずは「こういう話です」というざっくりしたあらすじと、キャストの方々の情報をいただきまして。以前、波瑠さんが主演の別のドラマで主題歌を担当させていただいたことがあったので、また波瑠さんのドラマに関わることができるのがうれしかったですね。そこから原作を読んでいったんですけど、主人公たちの年齢設定も、「30歳になった私たち」──真吾以外はですけど──というテーマで書いてみたいな、という個人的な思いとリンクしていたので、そこにトライできるなと思いました。
──「月夜行路」は、文芸作品の名作を下敷きにしつつ、ミステリーが展開されていくという、ありそうでなかったストーリー展開ですよね。
長屋 異色の作品だとは思ったんですけど、「今までなかったから面白い」とも思えました。単純にドラマとして観てみたいな、映像作品になったときにこのお二人がどう演じるんだろう、という興味が湧いてきましたね。私はもともと文学に詳しいわけではないんですけど、読んでいて「へえー!」と思う知識が出てくるので、ちょっと物知りになれた感覚があります。
──ちなみに、緑黄色社会で文学に詳しい方というと?
長屋 詳しいというか、一番本を読むのはpeppeですね。
peppe(Key) そうですね。でも、私も「へえー!」って思いました(笑)。
穴見真吾(B) 壱誓は文学部だったんじゃない?
小林 言語表現学科だったから。本の歴史とかに詳しいわけじゃない(笑)。
──(笑)。実際に作品に触れてみてどうでした?
小林 僕は映画とかドラマを観るのが大好きなんですけど、「月夜行路」を読んだときに、「映画じゃなくて、ドラマ映えする小説だな」と思ったんです。1個ずつセクションがわかりやすく切れていて、それが数珠つなぎになっているし、時系列もしっかりつながっている。さらに、ハッとするラストもあって。ドラマという形にこの作品を落とし込んだときに、楽曲も数珠つなぎになって解明されていく、みたいな未来が見えた。素敵なタイアップだなと思いましたね。
peppe 私は、原作の小説を買ったら、それがたまたま秋吉(理香子)先生のサイン本だったんですよ。たぶん、先生が前にその本屋さんにいらしたんだと思いますけど、それだけで作品への距離が近く感じました(笑)。「月夜行路」はミステリーの解き方が新感覚で。新しい目線で読めたし、臨場感のあるミステリーを楽しませてもらいました。聖地巡礼もしたくなりますよね。私も、自分で旅に出たような感覚になったので。
小林 大人向けの作品だなという印象を受けましたね。僕らも30代になったメンバーがいたりするので、そういう意味でも自分たちの新しいフェーズが見せられるんじゃないかな、とすごく感じました。
穴見 常に読者の腕を引っ張って連れていってくれるエンタメ性がありながらも、別に魔法とかは出てこない。非現実性がありつつも、全部が想像できる。文章だけで、ここまで濃密に表現しているのはすごいなと感じましたし、こういうエンタメ性が僕らも欲しいなと思いました。
大人だからこその悩みへの共感
──ドラマ制作サイドから「こういう楽曲を」というリクエストはあったのでしょうか?
穴見 紆余曲折あったんですけど、結論として「リョクシャカとしていい曲を」ということになって。もちろん、物語のよさとの接点を見つける作業はしたけど、「こう言われたからこう作った」というよりは、素直に物語と音楽がつながる表現にしよう、というところに落ち着きましたね。
──「月夜行路」というフィクションに基づいて生まれた楽曲ではあるけども、「『月夜行路』に触れて、緑黄色社会のメンバーは何を思ったか、4人の心はどう動いたか」を封じ込めたフィクションでもあるわけですね。その中で、長屋さんが特にこの歌詞に重ねたものは?
長屋 どこから話そうかな……まず、文学を扱っている作品なので、そのよさは絶対に入れたいなと思ったんですね。で、内容的な部分で言うと、「この主人公はなぜ旅に出るのか?」というところを考えて。大人だからこその悩みに、自分も「わかるなあ」という部分が多かったんですよ。人生を重ねるにつれて、いろんな立場や役割とか、自分の名前だけではない肩書きがいろいろ増えてくるじゃないですか。そういうプラスアルファのものが増えてくると、視点がどこかに寄ってしまうみたいなことがあるだろうし、それによって生きづらくなったり、寂しくなったり、虚しくなったりするのもわかるなあって。大人だけど、子供になりたいときってあるじゃないですか。メンバーともそういう話をするんですけど。「中身はけっこう子供だよね」「絶対みんな、おじさんおばさんになってもこのままだよね」って。大人って、子供から見たらすごく大人に見えていたけど、大して大人じゃないというか。
──確かに。年齢を重ねて、それはつくづく思います。
長屋 それを最近すごく思うからこそ、子供心に憧れたりするし。大人だからこそ、「それいいよ!」と言ってくれる人が欲しいなって。この作品ではそれがルナ(波瑠)なんですよね。そういうふうに誰かを肯定できる曲になるといいな、というところから歌詞を書き始めていきました。
──「月が頷いてくれる」は、そんなルナさんに重ねたフレーズでもあるわけですね。
長屋 それもありますし、大人が思考を張り巡らせるのって、夜が多い気がして。家事とか育児を終えて「ふうっ」とひと息つける時間になったときに、自分のことを深く考える気がするので。
──肩書きや役割を「えーいっ!」と全部捨てて逃げ出すわけではないし、毎日着実に目標に向かって歩いてはいるけど、脱ぎ捨てる場面も必要だな、というリアリティは、この楽曲の中に確かにありますよね。
長屋 そういう絶妙にアンバランスな感じが、リアルに思えるようになりました。だから、道を変えるわけではなく「寄り道」だし。それが大人なのかなと思いますね。
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