森山直太朗がTBS系の新金曜ドラマ「田鎖ブラザーズ」の主題歌「愛々」を書き下ろした。
「田鎖ブラザーズ」は、映画「ラストマイル」や、ドラマ「アンナチュラル」「MIU404」「最愛」などで知られる新井順子プロデューサーが手がけたクライムサスペンス。企画書を作るときにイメージに沿った1曲を無限ループ再生するなど、音楽への並々ならぬこだわりを持つ新井は、今作の主題歌を森山に直接オファーしたという。
音楽ナタリーでは森山と新井にインタビュー。新井が森山に主題歌をオファーした理由やドラマに込めた思い、そして2人が主題歌「愛々」の制作を通じて感じたことなどを聞いた。
取材・文 / 森朋之撮影 / 前康輔ヘアメイク / 河西幸司衣装 / 夏見恵美子(suzuki takayuki)
ドラマの最後に、愛で包み込むような曲が流れていてほしいんです
──ドラマ「田鎖ブラザーズ」の制作が発表された際、新井さんは「このドラマは、クライムサスペンスと謳いながらも、その本質は兄弟愛の物語であり、家族の物語であり、大きな愛の物語でもあります」とコメントされていました。改めて、このドラマの立ち上げの経緯を教えていただけますか?
新井順子 私、刑事ドラマが好きなんですよ。2020年に「MIU404」というドラマを作ったんですが、それ以来、刑事ドラマをやっていなくて。「最愛」(2021年放送のドラマ)には刑事が登場しましたけど、ひさしぶりに刑事ドラマを作りたいと思ったのが最初です。ただ、それだけでは企画が通らないので、刑事と検視官がタッグを組む復讐劇はどうだろうと。テーマは“時効”です。2010年に法改正で殺人、強盗殺人などの重大犯罪の公訴時効が廃止されたのですが、対象は1995年4月28日以降に発生した事件で、それ以前の事件には時効が成立する。「どうして全部の時効を撤廃しないんだろう?」と弁護士の方や元警察官の方に取材させていただいて、少しずつ企画を固めていきました。
──「刑事と検視官が兄弟」という設定も当初から決めていたんですか?
新井 インスピレーションを受けた事件があるんです。その事件のことを調べる中で、「もし自分が生き残った子供で、犯人がわからなかったとしたら、どうするだろうか?」と考えたんですよね。それらを企画書にまとめて、脚本家の渡辺啓さんとさらに膨らませていったという流れです。その時点ではまだ企画が通っていなかったのですが。
──新井さんご自身の思いが込められた企画なんですね。森山さんに主題歌をオファーした理由は?
新井 私は企画書を作るとき、音楽を無限ループしてかけているんです。
森山直太朗 どの作品でもですか?
新井 はい。今回の場合は、ずっと「愛し君へ」を聴いていて。
森山 え、そうなんですか?
新井 はい。サスペンスではあるんですけど、被害者である兄弟のやるせなさ、悔しさ、「両親が生きていたら」という思いを描きたくて。兄弟愛にぴったりだったのが「愛し君へ」でした。演出の方々、脚本家にも曲を聴いてもらって、「こういうイメージなんです」と説明していたし、主題歌も「愛し君へ」がいいんじゃないかと。でもこの曲、フジテレビさんのドラマの挿入歌なんですよね(笑)。
森山 そうですね(笑)。
新井 なので、それに気付いたあとは「生きている」をずっと聴いていました。
森山 ありがたいです。主題歌のお話をいただいたのは、ちょうど自分のツアー(森山直太朗 Two jobs tour 2025~26『あの世でね』~「弓弦葉」と「Yeeeehaaaaw!」~)が始まる時期で。アルバム2枚を作り終えたばかりだったから、新しい曲を作る意欲があまりなかったんです。だけど「僕みたいなしがないフォークシンガーに直接オファーしてくれるということは、よっぽどの思いがあるんだろうな」と思い直しまして。そこからドラマのプロットを読ませていただいて、スタッフの皆さんとお話ししたんですが、とにかく新井さんご自身のこだわり、「このドラマを作りたい」という思いがすごかった。そういうタイプのプロデューサーさんは初めてだったし、もちろん作品自体もすごく興味深くて。ただ、「愛し君へ」のようなラブソングは作ろうと思って作れるものではないんですよね。自分の中に蓄積された景色が成熟を迎えたときに、曲になって外に出るみたいな。そもそも作為的に作品を作れるタイプでもないから、どうしようかなと思っていたんです。
──なるほど。
森山 新井さんからは「ドラマの最後に、愛で包み込むような曲が流れていてほしいんです」というお話がありました。このドラマは社会的な要素もあるし、「田鎖ブラザーズ」というポップなタイトルとは裏腹に、取り扱っているテーマが重い。だけど最後は愛で包みたい。つまり「憎しみも悲しみも歓びも根源は愛なんだ」ということなんですが、そのお話を聞いたときは「これはかなり難題だな」と思いました。最初は「すでにある曲から選んでもらうわけにはいきませんか?」と弱音を吐いたくらいで。
新井 そうでした(笑)。
──いろいろな思いや葛藤を抱えながらの制作だったんですね。
森山 そうですね。もちろん打ち合わせも重ねたんですが、曲を作るための衝動やきっかけが欲しくて、新井さんと飲みに行ったんですよ。
新井 4時間くらい飲みました(笑)。
森山 そのときに改めてドラマへの思いや、新井さんご自身の人となりに触れることができて。新井さんは、最初からプロデューサーになろうと思っていたわけではなかったんですよね?
新井 そうですね。ドラマに関わりたくて、どんな仕事があるのかもわからず、とりあえず制作会社に入ったら、助監督をやることになって。その中でプロデューサーやディレクターという仕事があることを知りました。何年目かで「あなたはどっちをやりたいの?」という話になったんですけど、その前から企画書はよく書いてたんです。カット割りをする監督の仕事よりも、自分で作った企画を形にするほうが楽しいだろうなと思って、プロデューサーを目指しました。
森山 新井さんからとにかくドラマが好きだということがひしひしと伝わってました。今回の「田鎖ブラザーズ」も、新井さんのビジョンが明確だったんです。さっきも言ったように、このドラマは新井さんご自身の思いから始まっているし、スタッフの皆さんがそれを具現化していくような感じがあって。主題歌を担う立場として「どういう楽しみ方ができるだろう?」と考えてから、徐々に曲作りが始まりました。
聴けば聴くほど味が出てくる曲
──「愛々」はどんな曲想から制作が始まったんでしょう?
森山 ある季節、ある時期を一緒に駆け抜けた人というのが、誰しもいると思うんですよね。つまりはバディですけど、そこに焦点を置くことで、曲が作れるんじゃないかなと。最初のデモ音源を送ったのは昨年末ですね。
新井 送っていただいたとき、会社のデスクにいたんですよ。たまたま周りにスタッフもいたので、「みんな、曲が来たぞー!」と共有して。
森山 号外みたいな(笑)。
新井 初めて聴いたときから、すごくいい曲だなと思いました。
森山 実は2曲送ったんですよ。もう1曲のほうは、70年代後半から80年代前半くらいに放送されてた刑事モノをイメージした曲で。もっとテンポ感のある曲だったんですけど、「新井さん、ぜんぜんピンと来てないみたいです」と言われまして(笑)。
新井 もちろんいい曲なんですけど、「どこで使ったらいいんだろう?」という(笑)。
森山 なのでやっぱり「愛々」なんだなと。
新井 しかも「愛々」は聴けば聴くほど味が出てくる曲だったんです。半日くらい聴き続けていたんですけど、どんどんよさが感じられて。
森山 新井さん、「Aメロ、Bメロ、サビみたいな曲じゃないほうがいいです」とおっしゃったのは覚えてます?
新井 言いましたっけ?
森山 はい(笑)。考えてみると「愛し君へ」もAメロ、Bメロ、サビみたいな曲じゃないんですよね。
新井 聴く人によって「ここがサビじゃない?」と思う箇所が違う曲が好きなら、そういう曲はドラマでも使い甲斐があるんです。
──アレンジは映画「国宝」の劇伴を手がけた原摩利彦さんです。
森山 摩利彦くんとはかねてからの知り合いで、いつか一緒にやってみたいと思っていたんです。「この曲でいきましょう」とOKをもらったのが年末で、年が明けてから摩利彦くんに連絡して。あまり時間がなかったんですけど、摩利彦くんと話して、須原杏さんとの共同編曲にしましょうということになりました。須原さんは共通の知り合いで、僕のライブにもミュージシャンとして参加してくれてるし、「国宝」の劇伴でも演奏しているんですよ。2人とも「愛々」を気に入ってくれて、それもすごくうれしかったですね。ストリングスはかなり大勢で録ったんですけど、すごくふくよかになった分、前に進んでいくグルーヴ感がちょっと弱まってしまって。テンポを上げたほうがいいねという話になり、BPMを3くらい上げました。
新井 そう、テンポが変わったんですよね。デモ音源を映像に当てていたんですが、完パケの音源に差し替えたらズレてしまって。「なんで?」ってスタッフに聞いたら、「曲のテンポが速くなってます」と。ときどきそういうことがあって、間に合わない場合はズレたまま放送することもあるんですけど(笑)、今回は早めに撮影していたので、アレンジされた曲に合わせて改めて編集しました。
──新井さんのほうから「ここを直してほしいです」という要望はなかったんですか?
新井 歌詞の内容などについては何も言っていないです。でも途中に早口で歌うところがあったので、そこは「もう少し言葉数を減らせますか?」とお願いしました。
森山 いわゆるフォークソング的な歌い方ですよね。
新井 それもすごくいいんですけど、映像と合わせたときに、ドラマのセリフとぶつかってしまうんです。どうにか被らないように編集してたんですけど、できたら言葉数を減らしてほしいなと。
森山 「わかりました」と言いながら、1カ所くらいしか減らすことができなくて。「どうでしょうか?」と伺いを立てつつ、結局、ほとんどそのまま使っていただきました。
新井 直しをお願いして、そこが直ってこなかった場合は、「ここはこだわりなんだな」と思うようにしているんです。そこはアーティストの根幹だから、これ以上は言っちゃいけないなと。
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「あの日の二人が 舌を出してはにかんでいる」



