荒谷翔大インタビュー|自分だけの音楽を追求した初ソロアルバム「TASOGARE SOUL」完成

2023年末にyonawoを脱退し、翌2024年4月に配信シングル「涙」でソロアーティストとしての活動をスタートさせた荒谷翔大。彼にとって初のソロアルバム「TASOGARE SOUL」が、4月17日にユニバーサルミュージック内のEMI Recordsからリリースされた。

「TASOGARE SOUL」は、昨年発表された「ピーナッツバター」「真夏のラストナンバー」「煌めきワンダー」を含む全14曲入りのアルバム。ソロデビューから約2年を経た荒谷のミュージシャンとしての成長と、さまざまなジャンルを貪欲に吸収した独自の音楽性を提示する、集大成的な1枚となっている。音楽ナタリーでは本作のリリースを記念して荒谷にインタビュー。ソロデビュー後の日々を振り返りつつ、「TASOGARE SOUL」に込めたこだわりを語ってもらった。

また特集の後半には、いしわたり淳治、内澤崇仁(androp)、甲斐まりか、奇妙礼太郎、小関裕太、TENDRE、藤原季節、森田美勇人による「TASOGARE SOUL」についてのコメント、荒谷へのメッセージを掲載する。

取材・文 / 金子厚武撮影 / 峰岡歩未

ソロデビューからの2年間

──ソロデビューシングル「涙」の発表から2年を経て、ついに初のソロアルバム「TASOGARE SOUL」が完成しました。これまでの活動を振り返っていかがですか?

自分でソロになると決断したとはいえ、最初の1年間は戸惑いながら進んでいた感覚で。立ち止まる余裕もなかったので、けっこう頭はパンパンな状態でしたね。バンドの頃はメンバーに甘えてた部分もあって、1人でやるからには音楽もビジュアルも自分でディレクションしたいと思っていたけど、いざやってみると想像以上に大変で、いろいろなことが追いついていないことを実感する1年でもありました。でもアルバムの制作が始まった頃からモードが変わって、その1年間があったからこそ自分が本当にやりたいことが見えてきたし、それをチームで共有することでより明確になったと思います。なので「TASOGARE SOUL」は、この2年間の集大成と呼べるんじゃないかなと。

荒谷翔大

──この2年は自身の作品のリリースだけでなく、ほかのアーティストへの楽曲提供や歌唱参加も数多くありました。それもソロだからこそやりたいことだったのか、結果的に増えたのか、どちらが近いですか?

それは後者ですね。バンドのときも客演を迎えたり、いろんな方とお仕事はできていたので、その欲求は満たされていたけど……バンドとしての表現と自分1人の表現は違うから、いろんなアーティストの表現に触れることで、また違う景色が広がった感覚があります。特にアレンジャーさんとの関わりを欲していて。やっぱりバンドのときはメンバー全員の意思を尊重して、それぞれが納得できる人にお願いしてたから、そうなると頼める人は限られちゃう。ソロになってその間口は広がりましたね。今回のアルバムはだいたいの曲を自分で編曲・演奏してるんですけど、その判断もいろんなアレンジャーさんとの出会いがあってたどり着いたものなので。

──いろんなアレンジャーさんから知識や技術を吸収しつつ、今回のアルバムは自分主体で作り上げたと。

ソロアルバムを作るにあたって「ポップスをやる」というテーマを掲げていたけど、自分がそういうアレンジをできるとは全然思ってなくて。そこは今でも手探りなんですけど、だからこそ、ポップスというステージで、職業として編曲をやってる人にまずお願いしたいと思ったんです。だから「ポップスとはなんだ?」みたいなことはずっと考えていました。その感覚を探る1、2年でもあったかもしれないです。

荒谷翔大にとっての“ポップス”とは?

──アルバムの制作を終えて、「ポップスとは?」という問いに対する答えは出ましたか?

まだ誰もやっていない、かつ大衆に届く音楽、そういうものだろうと思っていて……でもやっぱり、それは未知との遭遇でしかないから、まず既存のものを追うのはやめようと。これまでも何かを追ってたわけじゃないけど、1回そこを離れようと思えたのがこのアルバムの最初のとっかかりですかね。「ポップスとはなんだ?」とずっと考えてたけど、そこから脱却することで、気持ちよく制作に取りかかれたところはあると思います。

──「ポップスとは?」を頭でっかちに考えちゃってた時期もあったかもしれないけど、このアルバムはそこに囚われずに作れた?

そうですね。自分にしか出せない音をとにかく追求すれば、その先に「ポップス」と呼べるものが見つかるかもしれない。そこにたどり着けるかはわからないけど、そう考えるとこれまで以上にアイデアも湧いてきました。あと今回は最初からコンセプトを立てて作ったことも大きくて。yonawoの頃もコンセプトはあったんですけど、後付けなことが多かったんですよね。「制作の中で、その時期の思想とかが反映されるからまとまりが出るはずだ」みたいな。でも今回はそこを最初の段階で見据えて、自分の中で言葉にもしたうえで作ったのがかなり挑戦でもあるし、これまでとの違いですね。

荒谷翔大

──アレンジャーの存在が大きかったとのことですが、特にどなたとの作業が印象に残っていますか?

「東京」のアレンジを手がけてくれたknoakさんは、トラックの整え方や、音作りのバランスに自分と近いものを感じるけど、そのうえでちゃんとポップスとして聴かせる力があるんです。それは一緒に作業していて、すごく勉強になりましたね。100回嘔吐さんとESME MORIさんもそうですけど、「洋楽のトラックを、どうにか日本のポップスとして落とし込む」みたいな姿勢を感じるんですよ。100回嘔吐さんが担当してくださった「ピーナッツバター」は、バンドメンバーとライブアレンジを練っているときにディアンジェロのムードを感じて、「ポップなものにこういうビート感を忍ばせてるのか」と、すごくヒントをいただきました。ESMEさんとは「真夏のラストナンバー」を作ったときにドミニク・ファイクがリファレンスに挙がって、ビート感や音像を意識しつつ、ちゃんとJ-POPというか、歌ものとして成立できるんだと思いました。そういうやりとりを経て、アルバムではより自分の色を出した形でやりたいと思ったんです。

自分だけの音楽を追い求めて

──アルバムを作るにあたっては最初からコンセプトがあったそうですが、それはどんなものでしたか?

今でもどんなジャンルの音楽をやってるのか聞かれることがありますが、正直、自分の中に明確な答えがないんです。それはいろんな感覚が共存しているからなんだけど、ちゃんと答えられないことに引っかかってもいて。The Beatlesの音楽は「The Beatles」としか言えないし、星野源さんだったらアルバムタイトルでもある「YELLOW DANCER」という言葉に、その音楽性や独自性が表れているじゃないですか。自分もそういう明確な何かが欲しいと思ったんです。それでジャンル名というわけではないけど、荒谷翔大というミュージシャンの音楽を表す言葉を「TASOGARE SOUL」と名付けました。「TASOGARE」はyonawo時代から自分の中に強くあったフレーズであり、情景でもあるんですけど。

──「涙」の歌詞にも、「黄昏」という言葉が入ってますもんね。

そうですね。「SOUL」はソウルミュージックの意味もあるんですけど、そもそもは「魂」っていう意味じゃないですか。「黄昏時」は魂が溶け合う瞬間というか、他者と自分が溶け合う瞬間とも捉えられるし、さまざまなジャンルが溶け合う瞬間だとも捉えられる。自分の思想や、音に乗せる言葉の背景にぴったりだなと思って、「TASOGARE SOUL」がしっくりきたんです。

──「黄昏」は「誰そ彼」が語源だから、人とのつながりも表せるし、昼と夜の境界線が溶け合う瞬間でもあるから、ジャンルの混ざり合いも表現できますよね。きっと感情的なことでも、喜びと悲しみが混ざってたり、そういう両面性を表す言葉としてぴったりです。

そうなんですよね。だから「TASOGARE」は絶対入れたかったし、これはこのアルバムだけに留まらない考えかもしれないです。1stアルバムなので、自分の根本にある姿勢を言葉にしたいなっていう思いが強くありました。

──「dancing between the light and dark.」と歌う1曲目の「黄昏ソウル」は、まさにアルバムのテーマ曲のような仕上がりですね。

「黄昏ソウル」という言葉自体が強いから、みんなで歌えるようなシンプルなものでありつつ、抽象度の高い楽曲にできればと考えていました。だから歌詞は自由に響きを優先して、「儚くゆらmakin' love」「きみは夢浪ダンサー」のように、なんだかわからないけど頭に残るような言葉を探しました。なおかつ、曲から浮かぶ情景をベースに持ちながら言葉を選んだというか、ストーリーというよりも、1つの大きな風景を描く、情景を描く意識を大切にしました。洋楽チックな雰囲気も感じてほしいけど、日本の古きよき歌謡曲のようなテイストも入れたかったんです。これはアルバム全体に対しても言えることで、その思いを表現する、シンボルのような曲になったらいいなと思いながら作りました。

荒谷翔大

自分の軸をしっかり確立できたからこそ

──「黄昏ソウル」「Osmanthus」「disco - Tasogaresession」の3曲は、yonawoのSaito Yuyaさんがミックスを手がけています。

「TASOGARE SOUL」の制作時期に、YuyaはSkaaiのアルバムを作っていて、音源を聴かせてもらったら「やっぱり音作りがめっちゃいいな」と思ったんです。で、たまたまYuyaに会う機会があって、「今アルバム作ってるんやけど、何曲か合いそうなやつがあって」と相談して、彼に参加してもらうことになりました。だから偶発的というか、最初から計画してたわけではないんですよ。

──それもきっとこの2年間があったからこそでしょうね。yonawoを抜けてすぐに頼むのは頭になかっただろうけど、作品の方向性がちゃんと決まった今だからこそ頼めたのかなと。

そうですね。自分の軸をしっかり確立できたからこそ、頼んでもブレないだろうなと思えた。どうしても最初はyonawoを意識的に遠ざけていたところがあったんです。「抜けたからには」みたいな気持ちがあって。でも今は吹っ切れたというか、自分がやりたいことが見つかったから、作品ファーストで考えて、絶対にYuyaが合うから頼みたいなって。

──J-POPと海外のサウンドのバランスみたいな話で言うと、例えば去年はDijonがアルバム「Baby」で、宅録をベースにしたモダンなサウンドを提示しました。もちろん「TASOGARE SOUL」とイコールではないけど、時代感のようなものは反映されてる気がしていて。実際にはどういったバランスを意識しましたか?

そこはあんまり意識しなかったかもしれないです。Dijonは好きで聴いていたから、無意識にそのムードは入ってるかもしれないけど、基本的には自分が今聴きたい音を優先しました。僕が編曲と演奏を担当した曲は、全部自分のスタジオで完結させたので、1つの狭い空間で作ったという意味では少しDijonっぽさもあるのかもしれない。ボーカルもそのスタジオで録っていて、防音をそこまでしてないから、部屋の鳴りも入ったりしてますが、それすらもいいなって。

荒谷翔大

──けっこう環境音が入ってますもんね。

そうですね。今回メインボーカルは修正なしで入れたかったんですよ。アルバムの制作前にリリースしたシングル曲は少し修正してるけど、自分で編曲した曲は基本的にノータッチ。そのままの肉体感というか、生身の音を残したかった。だから部屋の鳴りが入ってるし、近所の子供の話し声や、ちょっとしたノイズが入っていても、「その瞬間を捉えてるから、一緒に音として届けたい」という判断であえて残しました。アレンジャーさんと一緒にやるときはデッドな環境でしっかり録っていて、それも素晴らしいことだし、ポップスの1つの在り方だと思うんですけど、生感のときめきは若干薄れてしまう。実際に自分のスタジオで録ってみたら、「これこれ!」みたいな感覚があったんです。バンドの頃はそこをすごく大事にしてたし、「こういうの、やっぱり好きだな」と改めて気付きました。

──バンド時代はYonawo House(yonawoのプライベートスタジオ)で録音して、それをYuyaさんがミックスしてたわけですもんね。いろんなアレンジャーさんとの経験を踏まえて、もう1回それをやってみたと。特にYuyaさんがミックスで参加してる曲はそういう曲なのかも。

確かに、「この曲はYuyaが合うんじゃないか」と思ったのは、そういうことが理由だったのかもしれないです。

──AIが一般的になって、整えられた作品が増えていく中で、いかに人間らしい、生感のあるものを作れるかは、多くのミュージシャンが向き合っていることなんだと思います。

そこはめっちゃ意識しましたね。最近の音楽を聴いて「なんで人間のいいところを削ってるんだろう?」と思うことも多いんですよ。AIを使ったアレンジがたくさん出回っていて、それはそれですごいけど……今回のアルバムは「揺らぎ」もテーマの1つだったんですよね。歌録りをするときは自分の理想を目指しますけど、そのときの声の揺らぎがいいものとして自分の中で捉えられるなら、極力残したいなと思いました。

2026年4月17日更新