生田絵梨花「I.K.T(I Know Tomorrow)」特集|希望を抱いて明日へと進む、“愛”に満ちた1stフルアルバム

生田絵梨花が1stフルアルバム「I.K.T(I Know Tomorrow)」を完成させた。

タイトルの「I.K.T」は「I Know Tomorrow(私は明日を知っている)」という言葉の頭文字であり、自身の名前を刻んだアルファベット。希望を抱いて明日へと進んでいくという、彼女の力強いステートメントと言える作品だ。アルバムには生田が自ら作詞作曲を手がけた楽曲も多く収録。大人の女性のアンニュイな表情を見せる「ナイトアクアリウム」や、乃木坂46の数多くの楽曲を制作している杉山勝彦とのタッグで仲間への絆をつづった「百日草」など、そこには29歳を迎えた彼女の“等身大の愛”が鮮やかにパッケージされている。

音楽ナタリーでは生田にインタビューを行い、まっすぐに未来へと進んでいく彼女の思いに迫った。

取材・文 / 西廣智一撮影 / 入江達也

今日が暗くても、明日は絶対に訪れる

──昨年3月に2nd EP「bitter candy」をリリースして以降、6月から8月にかけてはコンサートツアー「Erika Ikuta Tour 2025『bitter candy』」があり、さらにドラマ出演や舞台「リア王」出演などかなりの多忙ぶりでしたね。

そうですね。いろんなジャンルを渡り歩いて、やらせてもらってます。ただ、突っ走るときは突っ走って、何もしないときはただボケーッとしているんですよ(笑)。

──メリハリは大事です(笑)。そんな中、1stフルアルバム「I.K.T」の制作も進めていたわけですよね。聴かせていただきましたが、かなり大人な作品に仕上がりましたね。

ありがとうございます。今年の1月で29歳になり、30代手前だからこそ大人っぽくて、今の年齢感のある歌を歌えたらいいなと、スタッフを含めてみんなで話し合いながら作りました。

──これまで発表された2枚のEPは、いい意味で乃木坂46時代からの生田さんのイメージを踏襲しつつ、その都度新しいことにチャレンジして引き出しを増やし、ソロアーティストとしての地盤を作っていた印象でしたが、今回のアルバムは30代を目前に、ここから先どんな自分を見せていきたいのか、その一歩となる作品にしたかったのかなと感じました。

ちゃんと伝わっていてうれしいです。今まではちょっとはみ出してみたり、イメージにないものに挑戦してみたりするターンだったのかなと思うんですけど、それを続けていくうちに「逆に私、全然バラードとかラブソングを歌ってないな」と気付いて。そこから、今回はそういった曲を中心に歌っていこうと考えたんです。

──それもあって、楽曲ごとにシチュエーションは異なるものの、大枠のテーマとして「等身大の愛」が用意されたと。

そうなんです。どの曲も愛について歌っているんですけど、それぞれ誰に対しての愛なのかというところをあまり抽象的にせず、それが家族に対してなのか、恋人なのか友達なのかと、方向を定めながら作っていきました。なので、アルバムを聴いてくださる方にも、いろんな相手を思い浮かべながら楽しんでいただけるんじゃないかと思います。

生田絵梨花

──アルバムタイトル「I.K.T」は「I Know Tomorrow」の頭文字とのことですが、生田さんのお名前にも引っかかっているわけですよね。この「I.K.T」には、どんな思いが込められているのでしょう?

明日のことや未来のことって、わからないからこそ不安にもなるじゃないですか。だけど、それでも意思を持って進んでいきたいという気持ちを「I Know Tomorrow」という言葉に込めて、このタイトルに決めました。

──生田さんにとって「明日」って、どういうものですか?

私も基本的には、見えない先のことに対しては不安を感じちゃうことのほうが多くて。だけど、必ずしも不安だと決めつけずに、どこか希望を持って委ねてみたいという気持ちもある。そんな存在かな。

──「明日」に期待してしまう?

期待しすぎちゃうと、あとでつらくなることもあるじゃないですか。だから、委ねるとか手放すとか、それくらいのニュアンスかな。私自身、どうにもならないくらい行き詰まってしまうこともあるけれど、とりあえず寝て「また考えるのは起きてからにしよう」というスタンスでいられたらいいなって思います。

五感を使うように歌いました

──今回のアルバムで、最初に取りかかった曲は覚えていますか?

1曲目の「今も、ありがとう」です。アニメのタイアップが決まって、早い段階に曲を提出しなくちゃいけなかったので。「リア王」が始まる前だから、まだ暑かった記憶があります。

──「今も、ありがとう」はテレビアニメ「本好きの下剋上 領主の養女」のために制作された楽曲です。このアニメは、アルバムのテーマ「等身大の愛」ともリンクした側面がありますよね。

そうですね。今春から放送される第3部は主人公のマインが神殿に養女として入り、家族と離れて生活しなきゃいけないというストーリーで、家族への感謝や愛を歌ったこの曲をエンディングテーマに採用していただきました。すでに完成したアニメをちょっと観させてもらったんですけど、心細い中でも懸命にがんばるマインの姿を見て、かつ彼女の家族の思いも知って、それで最後にこのエンディングテーマが流れたときに……自分の曲ながら、すごくグッときてしまいました(笑)。アニメを観た方やこの曲を聴いた方の心を、優しく包み込めるような曲になっていたらうれしいです。

──作詞は田辺望さんと海野水玉さんが担当されていて、すごく優しいテイストの歌詞ですよね。

優しいし、とってもストレートですよね。だからこそ、普段は恥ずかしくて言えないような言葉が詰まっているのかなと思います。

──かつ、情景が浮かびやすいんですよ。

ですよね。私もこの歌詞の情景や温度感や匂いを、五感を使うように感じながら歌いました。また、そういう歌詞にケルト調のサウンドがぴったりで。「アニメの世界観が中世っぽいから、ケルトっぽい要素を入れたらどうか」というアイデアが楽曲制作のスタートだったので、結果的にとてもマッチしました。

──この曲でアルバムが始まることで、「ここから先、肩の力を抜いて楽しめるな」と感じさせてくれます。

正直、1曲目をどれにするかすごく迷ったんです。でも、肩の力を抜いて楽しめると言っていただけて、すごくホッとしました。

──この曲を筆頭に、アルバム全体での生田さんの歌い方がいい意味で力が抜けているところが印象的で。

今回、歌い方に関しては新たなチャレンジをしていて。曲ごとにいろんな表現ができたらいいなと思って探ってみたので、そう感じてもらえるのはうれしいですね。私はもともと、歌に関してはミュージカルが入り口だったので、しっかりはっきり歌うとか、大きな声で張って歌うとか、そういうことに重きを置いてきたんですが、今回に関してはつぶやくよう歌ったものが音に乗っている歌もあって。基本的に自分の歌いやすいポジションがあるんですけど、それをあえて変えてみたり、それこそブレス感を調整してみたり、 けっこう探りましたね。

「都会の女性の夜」と「ナイトアクアリウム」

──個人的に一番グッときたのは、作詞を生田さん、作曲を生田さんと野村陽一郎さんが担当した「ナイトアクアリウム」なんですよ。

この曲は制作過程がすごかったんですよ。一番苦労したかも。でも、そのおかげで覚醒できました(笑)。まず最初にメロディやトラックを作って、そこから何について歌うかを考えるんですが、実はそこに一番時間がかかってしまって。曲調もなんだか不思議な感じじゃないですか。弾む感じや明るさはあるんだけど、寂しさも感じるし、大人感もある。だからこそ、どんなストーリーにしようかめちゃくちゃ悩みましたね。

──そこから歌詞のテーマを、どのように導いていったんですか?

今言ったような感覚に加えて、強がっている感じも伝わってくる。シチュエーションで言ったら、ちょっと夜景が見えて、きらめいている感じもある。そこから「都会の女性の夜」みたいな状況をイメージしていたら、ふと「ナイトアクアリウム感もあるな」と思いついて。「この2つの情景を結び付けたらどうなるかな」みたいな発想からストーリーが浮かんで、言葉を紡いでいった感じです。最初に歌詞を見せたとき、周りのスタッフさんは驚いてくれつつ、ちょっとそわついていました(笑)。

──今までの生田さんのイメージからすると、だいぶ大人の女性の世界ですものね。

はい(笑)。ナイトアクアリウムを題材にしているものの、具体的な魚の名前を出すのは違うなと思って、実は歌詞の中に“さんずい”の入った漢字をたくさん入れているんです。

──あ、本当だ。

“さんずい”の漢字って、水を連想させますよね。最初はまったく違うワードを使って書いたんですが、それも“さんずい”系の言葉で表現できないかと考えて、どんどん変換していきました。そこも完成するまでに苦労した一因です。

生田絵梨花

──そういう楽曲を、気だるさを交えたセクシーな歌い方で表現するところも新鮮です。

実はこれ、録り直したものなんです。自分で生み出した楽曲なので、模範となる仮歌がないじゃないですか。どういう歌い方がベストなのかもわからなくて、最初にいろいろ試してみたんですけど、それを聴き返したら「もうちょっとこうすればよかった」とか「この方向性もありだったかも」とか心残りが芽生えてきて。それで、今までやったことがなかったんですけど、「この曲、録り直したいです!」と初めて自分からお願いしました。

──録り直す前のテイクはどんな歌い方だったんですか?

もうちょっとほわっとした感じで、あれはあれでよかったと思いますが、もっとリズム感やアクセントを加えたかったんです。そういう微妙なニュアンスの違いなんですけど、別スケジュールを作っていただいて録り直しました。

──この曲は生田さんにとって新境地ですよね。そこから「the boy is mine」へと続く流れも絶妙です。

この2曲の流れはだいぶ大人ですよね。「the boy is mine」みたいなR&Bテイストの楽曲も、今まで通ってこなかったので、最初はどう歌っていいかわからなくて。自分の中にノウハウがなさすぎると思い、この曲は唯一ボーカルレッスンしてもらって、新しいニュアンスを吸収したうえでレコーディングさせてもらいました。

──世界観もそうなんですけど、吐息混じりの歌い方からは実年齢よりも本当にプラス5歳くらいで大人に感じられました。

難しいことに対しても消極的にならず、やろうと思ったら何でもできるもんだなと、この曲で実感できました。