世界的な楽器メーカー、フェンダーによる期間限定のポッドキャスト番組「Fender Radio Tokyo」が始動。その初回の公開収録が東京・FENDER FLAGSHIP TOKYOで実施され、ZAZEN BOYSの向井秀徳がトークゲストとして登場した。
本稿では、向井が軽妙なトークと演奏で観客を沸かせた収録の模様をレポート。さらに収録後に行った向井へのインタビューも併せて掲載する。
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 曽我美芽
さかのぼること75年前、1951年に誕生したフェンダー・テレキャスター。1949年に発売された“世界初の量産型ソリッドボディエレクトリックギター”とされるフェンダー・エスクワイアの後継機として1950年に「ブロードキャスター」の名称で売り出されたのち、翌1951年に「テレキャスター」へと改称された。その革新的かつ魅力的な楽器はポピュラー音楽のあり方をすっかり塗り替えることとなり、後発のフェンダー・ストラトキャスター、ギブソン・レスポールと並び称されるエレクトリックギターの代名詞的存在として、世界中のギタープレイヤーたちから今なお愛され続けている。
その傍ら、エレクトリックベースの定番中の定番モデルの1つとして知られるフェンダー・プレシジョンベースも、実はテレキャスターと同じ1951年に誕生している。テレキャスターが“ソリッドボディのエレクトリック・スパニッシュ・ギター”という新たな楽器カテゴリを世に浸透させたのと同じように、プレシジョンベースは“低音域を鳴らせるエレクトリックギター”すなわち“エレクトリックベース”という、それまで存在しなかった概念を一般化させた革命児だ。
そんなテレキャスターとプレシジョンベースが75周年の節目を迎えた今年、フェンダーはアニバーサリー仕様の特別モデル「75th Anniversary Telecaster Collection」「75th Anniversary Precision Bass Collection」を発表。それに付随したさまざまな施策が世界規模で行われる中、日本における期間限定の特別プロジェクトとしてポッドキャスト番組「Fender Radio Tokyo」が始動した。この番組では、アーティストが楽器について語る「"TELE"-ME WHY」、有識者が専門的な視点で掘り下げる「STORY TELE-ING」など、音楽ファン必聴のさまざまなプログラムが届けられる。
その記念すべき初回の公開収録が4月1日に東京・Fender Flagship Tokyoで行われ、ゲストとして向井秀徳(ZAZEN BOYS)が出演。雨のそぼ降る平日の日中にもかかわらず、原宿駅からほど近い明治通り沿いの旗艦店には熱心なファンが傘を手に詰めかけ、向井のひょうひょうとした軽妙な話術とテレキャスターのトゥワンギーな調べを大いに楽しんだ。
「なんかジャガいなあ」と見ているだけでビールのツマミになる
番組パーソナリティを務めるジョー横溝に呼び込まれ、一面ガラス張りになった開放的なエントランス付近に設けられたラジオブースに向井が姿を現すと、盛大な拍手が迎え入れる。Fender Flagship Tokyoには何かと縁があるという向井は、店内を見回しながら「フェンダーのギター、ベース、アンプも含めてズラッと並んでいるのは、ミュージアムといってもいい。ここに来ればフェンダーのすべてがわかる。見ているだけで夢の時間が過ぎていくよね」と所感を語り、和やかなムードで収録をスタートさせた。
向井の目の前には、ギターヘッド柄をあしらったプラスチックカップに琥珀色のクラフトビールがなみなみと注がれている。これは同店舗の地下1階フロアに常設されている「FENDER CAFE」で提供されているものだ。
向井はこのビールをいたく気に入った様子で、「フェンダー・ジャガーとかを『なんかジャガいなあ』と見ているだけでツマミになる。1杯引っかけたくなったときに地下に降りれば、こういうものがある。まあ飲みながらギターを眺めることはできないと思うけど、『これを今、月賦で払ったら……』と考えをまとめるために地下に降りて、ちょっと落ち着こうってグビッとするわけだ」と具体的な利用シーンをシミュレート。「自分の人生について考えることができるよね」との見解を示した。
そこへ75周年記念モデルのテレキャスター「75th Anniversary Player II Telecaster」が運び込まれる。“Diamond Dust Sparkle”と呼ばれる宝石のようなフィニッシュが施されたラグジュアリーなボディを目の当たりにして「キラキラキラってえらいピカっとるばってん、なんですかこれ」と目をぱちくりさせる向井。おもむろにこれを抱えて軽く爪弾いてみせた彼は、その芳醇できらびやかなクランチトーンに「おお、鳴ってますね」とうなる。SNSを通じて“テレキャスター川柳”を投稿したリスナーの中から1名に、この「75th Anniversary Player II Telecaster」がプレゼントされるとの情報を聞いた彼は、「相当いいプレゼントですね」と舌を巻いた。
これしか弾けない体になってしまったんだよ。どうしてくれるんだ!
「ギターといえばフェンダー」だという向井は、テレキャスターがその誕生から75年にわたって基本設計がまったく変わっていないことに改めて称賛の意を表する。「最初にもう完成されているわけです。これがずっと使われ続けているということがすごい。生まれた瞬間に“決定された何か”があったんでしょうね」と、自動車や家電のようにモデルチェンジを重ねるごとに中身が刷新されていく工業製品を引き合いに出しながらその特異性を強調した。
屈指のテレキャスター使いとして知られる向井だが、最初にテレキャスターを手にしたのは、1995年にNUMBER GIRLとしての活動を始めてからだそう。それ以前、中学生の頃に初めてギターの購入を検討した際、兄に相談すると「テレキャスばい」と勧められたものの、当時は同世代が手にする新しいモデルに惹かれていたという。しかし田渕ひさ子(G)の姉が所有していたホワイトのテレキャスターを借りて弾いたときに、向井は「自分のやりたいことにビシッとハマった」という感覚に。その瞬間、中学生時代にはピンと来なかった兄の助言がよみがえってきたのだと当時を振り返る。「そこからずっとテレキャスターしか使っていない」という彼は現在、「American Ultra II」シリーズのテレキャスターを使用しているとのこと。
テレキャスターの何が向井をそこまで魅了するのか。彼はボディの裏面が平坦でエッジが角ばっていることをその理由の1つとして挙げつつ、「抱え込んでギターを弾くわけだけども、肋骨の3本目か4本目かの間に固定させて、角を突き刺して、その振動を受けながら……私はギターを弾きながら歌いますもんで、歌の振動も肋骨から伝わるわけね。で、テレキャスの振動も肋骨から私の体に伝わってくるわけよ。それをひっくるめて自分の表現になるわけだな。一体化してるわけ、テレキャスターと」と独特の表現でまくし立て、「これしか弾けない体になってしまったんだよ。どうしてくれるんだ! 肋骨に突き刺さったまま俺はやっていくしかないのか!」と理不尽に食ってかかり笑いを誘う。そんな自らの状態を「テレキャスター病……病気じゃないんだけどね」と総括した。
必要になったとき、そこにフェンダー・ギターはあるよ
また番組内では、事前に向井が選曲した“テレキャスターの魅力が炸裂する5曲”が紹介された。テレキャスターならではの特徴的なサウンドやフィーリングを存分に味わえる楽曲として向井が選んだのは以下の5曲。
- 長渕剛「TIME GOES AROUND」
- Captain Beefheart & The Magic Band「Moonlight on Vermont」
- NUMBER GIRL「透明少女」
- ZAZEN BOYS「Fender Telecaster」
- 向井秀徳アコースティック&エレクトリック「はあとぶれいく」(※サブスク未配信)
選定理由や聴きどころについての解説はもちろん、自曲に関してはその制作秘話も交えながら、手元の「75th Anniversary Player II Telecaster」での実演も惜しみなく披露した向井。さらにはリスナープレゼントの要件に含まれる“テレキャスター川柳”の作例も琵琶法師さながらに弾き語ってみせるなど、そのサービス精神あふれるパフォーマンスで集まった観衆を大いに喜ばせた。
最後に「これから楽器を始めようという方の背中を押すメッセージを」と水を向けられた向井は、「バンドをやれい!とかギターを弾けい!とか、私からけしかけることはありません」とキッパリ。「たぶん、楽器を鳴らすってのはその人にとって必要なことだと思うんですよ。必要になったとき、そこにフェンダー・ギターはあるよと。テレキャスターはあるぜと。ドント・ウォーリー・ビー・ハッピー、ウィズ・テレキャスター! フェンダー!」と確信に満ちた語り口で結び、喝采を巻き起こした。ディス・イズ・向井秀徳。
この日に収録されたポッドキャスト番組を聞く
Fender Radio Tokyo VOL.1
「日本屈指のテレキャスタープレイヤー向井秀徳登場!テレキャス以外弾けない体に…!?」
次のページ »
向井秀徳インタビュー




