「細野ゼミ」メインビジュアル

細野ゼミ 10コマ目(後編) [バックナンバー]

細野晴臣とテクノ

テクノをテクノたしめるものとは何か? 細野晴臣の体験をもとに定義する

84

908

この記事に関するナタリー公式アカウントの投稿が、SNS上でシェア / いいねされた数の合計です。

  • 187 515
  • 206 シェア

Perfumeはテクノ文脈なのか? 注目の新鋭LAUSBUBの面白さとは

──2000年代の日本のメジャーシーンに目を向けると、Perfumeの登場で“テクノ”という言葉がまた広まったところもありましたね。細野さんはPerfumeはテクノ文脈のアーティストだと感じますか?

細野 思うよ。面白い曲もあると思ってる。YMOのあと、僕からすればテクノ系って圧倒的に少ない印象があったんだ。だから目立つよね、Perfumeは。

ハマ Perfumeが登場した頃は、“テクノ”という単語を初めて聞くって人もかなりいたかもしれませんよね。

──Perfumeは振付や衣装、ライブの演出などを含めてスタイルがあるので、もしかしたら音楽性のみならず、そういったところもテクノっぽいのかもしれません。前々回のKraftwerkの話を踏まえると。

ハマ コンセプチュアルですよね。MIKIKO先生のああいう無表情でクールな振付も。それにやっぱり、“中田ヤスタカワークス”だよなあ。

細野 2000年代といえば、つい数日前に僕のラジオにLAUSBUBという大学生の女の子2人組がゲストで来たんだよ。札幌にいる子たちなんだけど。2003年生まれだって。いやあ、2003年なんてついこの間だよ。

ハマ 僕らは中学生だ。めちゃめちゃ「グラセフ」(コンピュータゲーム「グランド・セフト・オート」の略)やってた頃。

安部 それはどういうお知り合いなんですか?

細野 僕の曲をやってるって言っててね。それで彼女たちのオリジナルの「Telefon」っていう曲がYouTubeにアップされているのを聴いたんだけど、アシッドハウスみたいな感じで。

ハマ 細野さんが聴いても「アシッドハウスだ」って思ったんですね。2人もアシッドハウスだと思ってやってるんですか?

細野 わかってるんだよね。彼女たち、初めて聴いた音楽がYMOだったんだって。それからテクノを追い続けて、そのうちにアシッドハウスを聴くようになったって。

安部 その年齢ですごい(笑)。そんな方がいるんだ。

ハマ 細野さんが聴いて「アシッドハウスじゃん」って思えるような音楽をやってるってことは、わかってやってるわけだから。細野さんは「好きなの、このへんじゃない?」って言えますよね、きっと。

細野 DAFが好きって言ってたな。Deutsch Amerikanische Freundschaft。ドイツの2人組。とにかく彼女たちは、ドイツですごく人気があるそうで。LAUSBUBもドイツ語なんだよ。ただ、番組が始まったら何もしゃべらないんだ、緊張してて。僕が独り言でずっとしゃべってる、みたいな。

(ネットにアップされていたLAUSBUBの高校時代の画像をスマホで見て)

安部 ……思ったよりめちゃめちゃ女子高生でびっくりしちゃった(笑)。こういう子たちが札幌から出てくるの、すごいね。

ハマ MOOGとか置いてるんだ。

細野 TB-303(Rolandのシンセベース)も使ってるって言ってた。iPadで作ってるんだって。楽曲も、いろんな要素がてんこもり。自分たちでもそう言ってたけど。

ハマ 突然変異かもしれませんね。「初めて聴いた音楽がYMO」って、ご両親の影響なのかね。

──もう、神様と会ったみたいな気持ちだったでしょうね。

ハマ そりゃあ無言になりますよ。

安部 僕だって、いまだにここに来る車の中で、「なんでこんなに頻繁に細野さんに会えてるんだろう」って思うもん(笑)。

ハマ 俺も思うよ。でもすごい話だな。僕らが細野さんの音楽を聴いていたっていうのとは、また世代がまるっと変わってるから。

細野 2人はテクノ、聴いてないからね(笑)。

安部 でもすごく素敵ですね。世代が関係なく音楽でつながる感じ。

ハマ やろうとしてる方向もすごい。アシッドハウスとか、なんとなくアンダーグラウンドなジャンルっていう認識があるじゃないですか。そんなことも全部ぶっ飛ばしたそういう世代がいる。しかるべきだなとも思う。

──ドラッグとは無縁な中で、アシッドハウスに音楽として興味を抱いて、それを実際に作るっていう。

安部 確かに! 札幌の自然が何かさせてるんだろうな。絶対関係あると思うよ。毎日見てるものとか、毎日感じることって。

ハマ それは絶対ありますよね。広大な大地のエネルギーとか、寒い環境とか。

安部 鳥の鳴き声とか聞いていると、ちょっと電子音みたいだもん。“テテテテテ”ってリズムもあるし。何かつながるんだと思いますよ、土地土地のそういったものに。いいね。デトロイトとかと一緒でさ、“札幌ハウス”みたいな感じで。地域性があるんだよ、きっと。

ハマ 僕らにテクノのことを教えてほしい。わかりやすく説明してくれそうだし。

細野がテクノを通して体感した「テクノロジーのシャーマニズム」

──ここまで3回にわたりテクノについて伺ってきました。触れておきたいトピックやアーティストはまだまだたくさんありますが、今回はここまでということにさせていただきます。しかしひと言にテクノと言っても、細かく棲み分けされてきたジャンルであることに改めて気付かされました。

ハマ だからこそ難しいジャンルだなと思った一方で、逆にいえば、歴史をたどっていくと面白い変革がどんどんつながっていて。そういう変革のテンポが、ロックよりも早かったりするのかなって。これまで自分が幅広く聴いてきたジャンルではなかったけど、いつか何かのタイミングでハッとなる可能性もありますね。

細野 昔は“国”によって音楽が違ったわけだよ。で、だんだんそのくくりが“都市”になってきた。テクノは都市でくくられるものだと思う。ミュンヘンとか、デトロイトとか、東京とかね。そのあとの、例えばエレクトロニカなんかの時代になると、“人”でくくられるようになってくる。なぜなら、アーティストが自分の部屋で作り出すから。それが細分化の基本的な姿だと思うな。

──そして前回、前々回のお話を振り返ると、やはり細野さんはテクノをやろうとしてテクノを始めたわけではなくて、ご自身がやられた音楽がテクノになったという。

細野 厳密に言うと、テクノはNECのパソコンやRolandのMC-4っていうシーケンサーで打ち込んでいた、あの時代の音楽がテクノなんだよ。

──細野さんがおっしゃるからこそ説得力のある発言(笑)。

細野 要するに、パソコンの鍵盤で打ち込む音楽がテクノ……鍵盤っていうのはキーボードじゃなくて、パソコンのテンキーのことね。Macの時代になったら違う。DAWソフトになるとテンキーで打ち込みしないし、しかも勝手にクオンタイズ(編注:打ち込みのタイミング補正機能のこと)されるじゃない。それに昔、Macでテクノを作り始めた人が、「何かが違う」「テクノができない」って言ってた。

ハマ 細野さんはそれを聞いて、「ホントだね」って?(笑)

──DAWソフトなどは、初期設定として勝手にクオンタイズがかかるようになっていることもありますよね。

細野 僕らは“ドは36、48、72”って数値が頭に刷り込まれてるんだ。慣れていくと、ドンドン打ち込めるようになる。それが面白くてね。

安部 すごくいい話だ(笑)。細野さんっていろんなことができるのに、最終的に「フィジカルなんだよ」っていうところに落とし込んでくれるのが、個人的にはすごくうれしいんですよね。「プラグインは気合い」って言ってくれたりしますし(笑)。

──「直観的に作るものじゃなくて、計算して作るもの」っていう逆説的な意味もあるかもしれないです。

細野 脳が作る音楽なんだよ。

ハマ そうなると、みんなが簡単に模倣できるわけじゃない。一般的な音楽制作の感覚と違いますよね。

細野 だって、苦労したんだから。あの頃の経験のおかげで、自分の音楽の作り方が変わっちゃった。例えば、MC-4は4chしかない。4つの音は同時に作れるけれど、時間がかかるんだよ。2小節作るのに30分くらいかかる。まず2小節は即興的に打っていく。で、それを聴きながら、また次の2小節を30分かけて……っていうやり方だったね。“テクノロジーのシャーマニズム”っていうか。

安部 あああああ!

ハマ どういうリアクションなの、それ。

安部 なんか、すごいなって……なんでもやりすぎはダメだね、人間は人間でがんばらないといけないよね! 人間がパソコンになっていっちゃダメで、パソコンを使う側でないといけないなって。作るうえで、フィジカルの部分も忘れてはいけないんだな。

ハマ 僕は体験したことすらない世界なんで、同調できない(笑)。

──細野さんは今でもサントラの制作などで打ち込みをされると思うんですけど、今はMIDI鍵盤でリアルタイムに?

細野 そう。今はみんなと同じ。目的は音楽を作ることだから、出来がよければそれでいい。

ハマ 好きな音をどうやって出すかってことですもんね。それを使って。

細野 あの当時の作り方は、今はできないね。再現もできないし。

ハマ その体感があるわけですよね、細野さん世代には。

<終わり>

細野晴臣

1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざまなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とYellow Magic Orchestra(YMO)を結成した一方、松田聖子、山下久美子らへの楽曲提供も数多く、プロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO“散開”後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2018年には是枝裕和監督の映画「万引き家族」の劇伴を手がけ、同作で「第42回日本アカデミー賞」最優秀音楽賞を受賞した。2019年3月に1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」を自ら再構築したアルバム「HOCHONO HOUSE」を発表。この年、音楽活動50周年を迎えた。2021年7月に、高橋幸宏とのエレクトロニカユニット・SKETCH SHOWのアルバム「audio sponge」「tronika」「LOOPHOLE」の12inchアナログをリリース。9月にオリジナルアルバム全3作品をまとめたコンプリートパッケージ「"audio sponge" "tronika" "LOOPHOLE"」を発表した。

hosonoharuomi.jp | 細野晴臣公式サイト
細野晴臣 | ビクターエンタテインメント
細野晴臣_info (@hosonoharuomi_)|Twitter
Hosono,Haruomi (@hosonoharuomi_info) ・Instagram写真と動画

安部勇磨

1990年東京生まれ。2014年に結成されたnever young beachのボーカル&ギター。2015年5月に1stアルバム「YASHINOKI HOUSE」を発表し、7月には「FUJI ROCK FESTIVAL '15」に初出演。2016年に2ndアルバム「fam fam」をリリースし、各地のフェスやライブイベントに参加した。2017年にSPEEDSTAR RECORDSよりメジャーデビューアルバム「A GOOD TIME」を発表。日本のみならず、上海、北京、成都、深セン、杭州、台北、ソウル、バンコクなどアジア圏内でライブ活動も行い、海外での活動の場を広げている。2021年6月に自身初となるソロアルバム「Fantasia」を自主レーベル・Thaian Recordsより発表した。2022年9月21日にnever young beachとしてニューシングル「こころのままに」を配信リリースする。

never young beach オフィシャルサイト
Thaian Records
never young beach (@neveryoungbeach)|Twitter
Yuma Abe (@_yuma_abe) ・Instagram写真と動画

ハマ・オカモト

1991年東京生まれ。ロックバンドOKAMOTO'Sのベーシスト。中学生の頃にバンド活動を開始し、同級生とともにOKAMOTO'Sを結成。2010年5月に1stアルバム「10'S」を発表する。デビュー当時より国内外で精力的にライブ活動を展開しており、2021年9月29日にニューアルバム「KNO WHERE」をリリース。またベーシストとしてさまざまなミュージシャンのサポートをすることも多く、2020年5月にはムック本「BASS MAGAZINE SPECIAL FEATURE SERIES『2009-2019“ハマ・オカモト”とはなんだったのか?』」を上梓した。

OKAMOTO'S OFFICIAL WEBSITE
ハマ・オカモト (@hama_okamoto)|Twitter
ハマ・オカモト (@hama_okamoto) ・Instagram写真と動画

バックナンバー

この記事の画像・動画(全5件)

読者の反応

細野晴臣 Haruomi Hosono _information @hosonoharuomi_

細野晴臣とテクノ | 細野ゼミ 10コマ目(後編) https://t.co/QhdWnRexNy

コメントを読む(84件)

細野晴臣のほかの記事

このページは株式会社ナターシャの音楽ナタリー編集部が作成・配信しています。 細野晴臣 / OKAMOTO'S / never young beach / Perfume / LAUSBUB / チャットモンチー の最新情報はリンク先をご覧ください。

音楽ナタリーでは国内アーティストを中心とした最新音楽ニュースを毎日配信!メジャーからインディーズまでリリース情報、ライブレポート、番組情報、コラムなど幅広い情報をお届けします。