令和オルタナティブロックシーン最前線|ルサンチマン、kurayamisaka、雪国、ひとひら

ここ数年、若い世代が全国のライブハウスで“日本のオルタナティブロック”を更新している。

「主流から取って代わる新しいもの」がオルタナティブの意味合いであるゆえに、時代によってそのサウンドなどの方向性は異なるが、オルタナティブロックはいつの時代も独自路線を貫くロックバンドにしっくり来る言葉であることが多い。

オルタナティブロックと言えど、バンドごとに独自性が強いこともあってサウンドの傾向もさまざま。派生ジャンルと言うべきか、関連ジャンルと言うべきか悩ましいところだが、パンク、ニューウェイブ、グランジ、シューゲイザー、ミクスチャー、ポストロックといった幅広いジャンルを内包し、ほかにも歌謡、エレクトロニカ、ローファイ、ドリームポップなどからの影響を感じさせるオルタナティブロックバンドも活動している。

本特集では、“令和オルタナ”とも言うべき次世代オルタナティブロックシーンの一線に立つルサンチマン、kurayamisaka、雪国、ひとひらという4組を本人たちの証言も交えて紹介。それぞれが影響を受けた音楽やルーツなどを掘り下げつつ、彼・彼女らが鳴らす現代のオルタナの姿を追う。少しでも気になるバンドがいたら、ぜひこの機会にライブに足を運んでみてほしい。

文 / 森朋之

ルサンチマン

ルサンチマン

新世代のバンドシーンにおいて、新たな「オルタナ」のムーブメントが来ているのではないか? 筆者がそのことを強く感じたのは、ルサンチマンの「ニヒリズム」を聴いたときだった。鋭利なギターリフ、緻密な構成と奔放なグルーヴを同時に感じさせるアレンジ、諦念や葛藤が混在する歌詞の世界を含めて、この曲を表す言葉があるとするなら「オルタナ」しかないな、と。

2018年6月、北(Vo, G)、中野(G)、もぎ(Dr)によって都立高校の軽音部で結成されたルサンチマン(2つ上の先輩だったベースの清水は後から加入)。軽音部には「コピーバンド禁止」というルールがあり、半ば強制的にオリジナル曲を作り始めたという。

それぞれのルーツは、北は[Alexandros]やKANA-BOONなど、中野はゲスの極み乙女、ツキミ、稲葉曇など、清水はサカナクションやPrimus、Red Hot Chili Peppersなど、もぎはSEKAI NO OWARI、MY FIRST STORYなど。バンド名の由来はteto(現the dadadadys)の楽曲「ルサンチマン」だ。

ルサンチマンの音楽には明らかにオルタナやマスロックなどのテイストが感じられるが、それは最初から意図されていたものではなく、4人でアイデアを出しながらアレンジを組み立てていく中で、自然発生的に生まれているものだという。ただしインスト曲に関してはtoeの影響もあり、さまざまなバンドのテイストを自由に取り込みながら、ルサンチマンの特徴である“精度の高いアンサンブルと研ぎ澄まされた音像”にたどり着いたのだ。

2019年、高校在学中にオーディションを勝ち抜き「ROCK IN JAPAN FES」に出演。その後、都内のライブハウスを中心に精力的な活動を続け、早耳のバンドキッズたちの圧倒的な支持を得たルサンチマンは、2023年10月に1stフルアルバム「ひと声の化石 / rebury」を発表。「十九」「大団円」「荻窪」といった人気曲、ライブの定番曲を網羅した、ボーカル曲とインスト曲のCD2枚組となる本作は、約5年間の活動の軌跡そのものであると同時に、新世代オルタナバンドとしての圧倒的な個性をダイレクトに見せつけた。

北による歌詞も、このバンドの大きな武器。例えば「忘れそう」は、彼の少年期の思い出に始まり、「拝啓この世界で 最低な 記憶は 大体忘れそうだが / 幸いだ 僕は だってこの先は 想いも 記憶も 全部歌える」というフレーズへと結実する。安易なポジティブに逃避することなく、自らが経験したことをまっすぐに見つめながら、痛々しさと鋭さを併せ持った歌詞に変換し、爆発的なテンションのロックチューンとして解放する。これこそが、ルサンチマンの楽曲が強い共感を呼び続けている理由なのだと思う。

2024年には東名阪を“歌モノのみ”と“インストのみ”で2度回るツアーを開催。cinema staffのLIQUIDROOM連続企画にオープニングアクトとして出演し、2025年1月には東京キネマ倶楽部でのワンマンライブがソールドアウト。回を重ねることでライブのクオリティも向上している。以前は勢いやテンションの高さで押し切る印象もあったが、最近のライブでは高い熱量をキープしつつも、しっかりと“歌”を聴かせるようになり、バンドの魅力を多くのオーディエンスに浸透させているのだ。

そして2025年11月5日に約2年ぶりとなるフルアルバム「一生モノの陽射し」を発表した。「いやいやいやいや」「忘れそう」などの既存曲、先行配信された「きっとそう」「約束は午後四時に赤い屋根の公園で」を含む15曲を収めた本作。このアルバムについて北は「作詞には相当時間を費やしました、苦悩満点、根明な曲たちではないですが、どこか1節でも聴き手にとって一生残る陽射しになれたらうれしいです」とコメントしている。

ギラッとした手触りのギターフレーズと心地よい疾走感をたたえたバンドサウンドの中で「ああ、きっとそう / 僕は君を誇るよ」というラインが突き刺さる「きっとそう」、前衛とポップの瀬戸際のサウンドに乗せて、暗闇、感傷、焦燥、憔悴といった感情を照らし出す「曇りのち」。北の哲学、価値観が火花を散らすこれらの楽曲は、ルサンチマンの存在感と知名度をさらに押し上げることになるだろう。

……ここまで読んでくれた方の中には「ずいぶん尖ったバンドだな」という印象を持つかもしれない。それは間違いないのだが、メンバー自身はとてもオープンで、ほとんど暗さを感じない。その明るさも令和のオルタナバンドの傾向であり、よいところなのだと思う。

ルサンチマン「一生モノの陽射し」

ルサンチマン「一生モノの陽射し」

ルサンチマン「一生モノの陽射し」

2025年11月5日(水)発売
Blue echo records
[CD] 税込3300円 / BER-1016

Amazon.co.jp

収録曲

  1. きっとそう
  2. yeah yeah yeah yeah(Prelude)
  3. いやいやいやいや
  4. 曇りのち
  5. BUT STRAIGHT
  6. 黙れと思う
  7. ずっと、メロディ
  8. EL
  9. たとえ下手でも
  10. ここにいた才能
  11. IAI
  12. 忘れそう
  13. 約束は午後四時に赤い屋根の公園で
  14. dollon

kurayamisaka

kurayamisaka

今年の「FUJI ROCK FESTIVAL」初日、RED MARQUEEのトップとして登場したkurayamisakaのアクトは本当に強烈だった。オルタナ~シューゲイズ直系の轟音トリプルギター、厚みのあるグルーヴで楽曲を支えるリズムセクション、そしてノスタルジックな手触りを感じさせるボーカルの旋律。爆音のバンドサウンドによって観客をグイグイと惹きつけるステージは、このバンドの勢いを改めて証明していた。

令和オルタナバンドを語るうえで、kurayamisakaが最も重要なバンドの1つであることに疑問の余地はないだろう。

結成は2022年。社会人として働いていた清水正太郎(G)が大学時代の音楽仲間である内藤さち(Vo, G)に「toddleみたいなバンドをやろう」と声をかけたのが始まりだ。さらにyubioriのギタリスト・阿左美倫平をベーシストとして誘い、阿佐美の知り合いだった堀田庸輔(Dr)、SNSを介して自ら「一緒にやりたい」と連絡してきたフクダリュウジ(G)が加わり、現在の5人体制となった。

2022年3月2日に「farewell」をTwitter(現X)に投稿。My Bloody Valentine直系のノイジーで美しいギターサウンドとどこか淡々とした女性ボーカルの組み合わせは、SUPERCAR(日本のオルタナの最重要バンドと言える存在だ)を想起させる。しかし単なるフォロワーにはとどまらない確かな個性が感じられるこの曲はすぐに拡散され、下北沢のライブハウスで行われた初ライブにも多くの観客が足を運んだ。

バンドの中心である清水がロックに目覚めたきっかけは、ASIAN KUNG-FU GENERATION。14、15歳の頃にラジオから流れてきた「ループ&ループ」を聴き、次の日に中古ショップでアルバム「ワールド ワールド ワールド」を購入。後藤正文(Vo, G)がブログで紹介していたRadiohead「In Rainbows」なども熱心に聴いていたという。バンドを始めたきっかけもアジカン。清水は「誤解を恐れずに言うと、当時世間知らずだった私は、『俺でもできそうかも』と根拠のない自信を覚えた。人生でやりたいことができた瞬間だった。そこから徐々に道を踏み間違え、今に至ります」とコメントしているが、アジカンをきっかけにロックの初期衝動を手にしたというわけだ。さらにbloodthirsty butchers、toddleといった日本のオルタナを形成してきたバンドにも傾倒。ほかのメンバーのルーツであるOasis、Muse、cinema staff、Death Cab for Cutie、The Novembersなどの影響も取り込みつつ、唯一無二のバンドサウンドを作り上げてきた。このバンドのもう1つの特徴は、切ない叙情性をたたえた内藤の歌声。aikoを愛してやまないという彼女のJ-POP的な志向が、kurayamisakaのポピュラリティに大きく関わっていることは間違いないだろう。

2022年リリースの「kimi wo omotte iru」がライブハウスシーンで話題になり、2024年に「FUJI ROCK FESTIVAL」における若手の登竜門「ROOKIE A GO-GO」に出演。さらにUKの老舗音楽メディア「NME」誌の「THE NME100 Essential Emerging Artists for 2025」(※新進気鋭のアーティスト100組を「今後の音楽シーンにインパクトを残す可能性を秘めている存在」として選出する企画)に日本人アーティストで唯一選出されるなど、各方面で存在感を強めてきたkurayamisaka。2025年9月にリリースされた1stアルバム「kurayamisaka yori ai wo komete」は、これまで培ってきた音楽性、バンドのスタイルを結晶化させた最初の集大成と呼ぶべき作品だ。

金属的なギターの響き、ライブの高揚感を想起させる演奏、浮遊感のあるボーカルがひとつになった「metro」、美しく、穏やかなメロディと独創的なギターのアンサンブルが溶け合う「nameless」、思春期の切ない焦燥を心地よく広がるサビの旋律が包み込む「jitensha」、そして清水自身の死生観を反映させた「あなたが生まれた日に」などを収録した本作は、瞬く間に音楽ファンから注目された。そこで巻き起こったのが「kurayamisakaはシューゲイザーなのか?」論争。現在では「もちろんシューゲイザーの要素はあるが、メンバー同士の化学反応によって、完全に独創的なサウンドが実現されている」という結論になっているようだが、ロックバンドのアルバムに対してこれほどまでにSNSで意見が飛び交うことはきわめて稀であり、それもまたkurayamisakaの注目度の高さの表れだ。

アルバム「kurayamisaka yori ai wo komete」に関する音楽ナタリーのインタビューの中で清水は「一番の目的は自分が受けた衝撃を今のリスナーにも伝えること」と語っている。10代の頃に感じた衝撃や衝動を自らのバンドで新たな作品へと昇華し、それを下の世代にも伝えていきたい──それは言うまでもなく、ロックバンドのもっとも真っ当なモチベーションだ。9月から11月にかけて行われたツアー「kurayamisaka tte, doko? #6『くらやみざかより愛を込めてツアー』」は全公演ソールドアウト。清水が掲げている「一番の目的」はしっかりと実現されつつあるようだ。

kurayamisaka「kurayamisaka yori ai wo komete」

kurayamisaka「kurayamisaka yori ai wo komete」

kurayamisaka「kurayamisaka yori ai wo komete」

2025年9月10日(水)発売
tomoran/bandwagon/chikamatsu
[CD] 税込3500円 / TMN-012

Amazon.co.jp

収録曲

  1. kurayamisaka yori ai wo komete
  2. metro
  3. sunday driver
  4. modify Youth
  5. nameless
  6. evergreen
  7. sekisei inko
  8. weather lore
  9. ハイウェイ
  10. theme(kurayamisaka yori ai wo komete)
  11. jitensha
  12. あなたが生まれた日に