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細野ゼミ 番外編(前編) [バックナンバー]

「トロピカル・ダンディー」50周年記念企画(前編)

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細野晴臣が生み出してきた作品やリスナー遍歴を通じてそのキャリアを改めて掘り下げるべく、さまざまなジャンルについて探求する「細野ゼミ」。2020年10月の始動以来、「アンビエントミュージック」「映画音楽」「ロック」など全10コマにわたってさまざまな音楽を取り上げてきたが、細野の音楽観をより深く学ぶべく2023年より“補講”を開講している。

ゼミ生として参加するのは、氏を敬愛してやまない安部勇磨(never young beach)とハマ・オカモト(OKAMOTO'S)という同世代アーティスト2人。今回は番外編として、6月25日に発売50周年を迎えた氏の2ndソロアルバム「トロピカル・ダンディー」をフィーチャーする。「HOSONO HOUSE」とは趣を異にする独自の音楽性が表現された本作は、どのような環境やマインドで作られたのか。安部とハマが迫る。

取材・/ 加藤一陽 題字 / 細野晴臣 イラスト / 死後くん

四畳半の部屋で生まれた「トロピカル・ダンディー」

──細野さんが1975年に発表したソロ2作目「トロピカル・ダンディー」が発売50周年を迎えました。それを記念して、今回は「トロピカル・ダンディー」をテーマに進めていければと思います。

安部勇磨 このジャケットって、細野さんもデザインのアイデアを出したりしてるんですか?

細野晴臣 いやいや、「トロピカル・ダンディー」というイメージでイラストレーターの八木康夫(ヤギヤスオ)さんに頼んだらすぐ返って来て。それを見て、即決だったな。

ハマ・オカモト 何か元ネタはあるんですか?

細野 イギリスの「NAVY CUT」っていうタバコの箱のデザインがモチーフになってる。輪っかの中に水兵がいるんだよ。僕は当時「ハイライト」を吸っていたんだけど、「ハイライト」じゃサマにならない。

ハマ 「HOSONO HOUSE」とは録音環境も全然違いますよね。

細野 全然違う。「HOSONO HOUSE」ははっぴいえんどの流れで作った作品だから、吉野金次さんにミックスしてもらったり、制作スタッフも同じで。でも、「トロピカル・ダンディー」は赤坂にあったクラウンのスタジオで録ったんだよ。そこにあったミキシングコンソールを見て、「なんてイナたい卓だろう」と思って。イギリスのTridentのコンソールだったんだけど、何をやったって味わいのある音になる。その卓のよさを積極的に生かして作ったのが、次の「泰安洋行」。「トロピカル・ダンディー」のときは初めて使うから、「へえ」って感じだった。

細野晴臣「トロピカル・ダンディー」

──曲作りを始めたのは、どのくらいから?

細野 埼玉の狭山に住んでるときに「HOSONO HOUSE」を作って。その後、娘が産まれるというので、病院の近くの西落合にアパートを借りて1年くらい住んだんだよ。その時期に「トロピカル・ダンディー」を作ったんだよね。四畳半の部屋で。

ハマ ベースラインやシンセのフレーズも、ある程度、細野さんが考えたんですか?

細野 どうだったけな。「泰安洋行」はけっこうきっちり作っていったけど、この作品は思いつきで作ったんで。ミュージシャンの人たちに任せる感じ。

ハマ それにしては、すごく完成されてますよね、アレンジとか。デモはアコギで作っていたんですか?

細野 そうね。けっこうアコギで作ってたね。あと、自分の部屋にエレクトリックピアノがあって、それがすごい好きだった。ただ、使いすぎて鍵盤が折れちゃったんだよ(笑)。

ハマ 鍵盤が折れるって聞いたことない(笑)。先ほど一緒に録音されるミュージシャンの人に任せるとおっしゃっていましたけど、とはいえ、きっと細野さんの頭の中に鳴っている音もあるじゃないですか。

細野 頭の中では、わりとカリブっぽい音が鳴ってた。マイティ・スパロウとかね。あとはヴァン・ダイク・パークスの影響が強かったよね。最初に考えついたのがマイティ・スパロウのようなサウンドだった。バイヨンの「♪チャーチャ、チャーチャカ」ってリズム。それで「北京ダック」という曲ができた。そこで満足しちゃったんだけど、1曲じゃダメだろうと思って、でっち上げていろいろ作って(笑)。なんとかA面をコンセプト通りに作って、それで力尽きたのでB面をおまけで作ったんだね。あり物の曲を使ったりして。

マイティ・スパロウ「Hot and Sweet」

安部 「北京ダック」が最初にできたんだ。

細野 うん。でも、そのちょっと前までは、Little Featとか、ビリー・プレストンとかを聴いてたわけでしょ。ベーシストとしてはファンクが好きだったから、レコーディングの1テイク目はファンクの曲を録音したんだよ。「北京ダック」のレコーディングの1週間くらい前かな。でも、ファンクのリズムだとどうしても歌えないんだよ。ファンクは僕の歌と合わない(笑)。それでストップさせちゃったんだよね。

ハマ もしそれで細野さんが納得いく録音ができていたら、違うテンションのアルバムができていたかもしれないですよね。

細野 僕が歌えていたら、いまだにファンクをやっていたかもしれない。ビリー・プレストンをレコーディングメンバーみんな聴いていて、かなり影響されてるんだよね。今聴くとどうなんだか知らないけど、当時は斬新だったから。だからそういうアルバムを作ろうと思ったんだけど、挫折して。で、どうしようかちょっと考えていたところに久保田麻琴がやって来て、「細野さんはトロピカルダンディーだ」と言ったんだよ(笑)。それで、一発でアルバムのイメージが決まったわけ。

ハマ 伝説のひと言が。その言葉、発明ですよね。めちゃくちゃわかるけど、よくぞその言葉が出ました、ですよ。細野さんは、その言葉を気に入ったんですか?

細野 いいなと思ったんだよね。

──久保田さんは何をもって細野さんのことを「トロピカル」と表現したんでしょうね。

安部 何かを感じたからそう言ったわけですもんね。

細野 それがわかんないんだよね。顔かな(笑)。本人もなんでそう言ったのかわからないみたいだけど。直観的に言ったんだろうね。

久保田麻琴のひと言で路線変更

ハマ 話を戻すと、前段としてファンキー路線のティン・パン・アレーのテンションがあったんですね。

安部 アルバムに入ってないファンク路線の曲もあったんですか?

細野 あったよ。1曲だけ、アレンジを変えて「フィルハーモニー」に入れたんだよ。「L.D.K.」という曲なんだけど。でも、あんまりうまくいかなかった(笑)。

安部 へえ!

細野 The Watts 103rd Street Rhythm Bandとか、あのへんのバンドに影響を受けていてね。彼らのやり方に影響されていたかも。まあ、そんな感じでファンクが好きだったんで、もし歌えてたり、自分のソロを作らなかったら、ミュージシャンとしてそっちに行っちゃってたね。ハマくんみたいに。

ハマ すごい話だな。トロピカル路線に向かう転機。

細野 1日で変わったという。分かれ道だよ。久保田くんのひと言で全部そっちに行っちゃった。アルバムでカルメン・ミランダの「Chattanooga Choo Choo」をカバーしてるんだけど、演奏はLittle Featみたいなんだよね。スライドギターが入っていたり。オリジナルの雰囲気とは違うけど、「まあいいや、これが今の自分だろう」と思って。

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キーパーソンは佐藤博

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