栗林みな実の3カ月連続新曲リリース企画が11月まで展開されている。
栗林は9月に「LAST LOVERS」、10月に「透明な砂時計」、11月に「ふたりのデスティネーション」というラブソングをリリース。いずれの楽曲も自ら作詞作曲を手がけ、作家としての才能も発揮している。
音楽ナタリーでは栗林にインタビュー。「音楽に対して自由でありたい」という思いを大切にしながら、異なる恋愛模様を描く「LAST LOVERS」「透明な砂時計」「ふたりのデスティネーション」を完成させた彼女に、3曲のこだわりや制作過程はもちろん、来る歌手活動25周年への思いを語ってもらった。
取材・文 / 須藤輝撮影 / 星野耕作
私から“みんな”へというよりは、私から“あなた”へ
──3カ月連続で配信リリースされる3曲はすべてラブソングですが、何か意図があったんですか?
3曲続けてリリースすることが決まったときに、「せっかくなら何か共通のテーマがあったら面白いね」という話をマネージャーさんたちとしていて。うちの事務所は女性スタッフが多いんですけど、それもあってか「恋愛はどうですか?」と提案してくれたんですよ。私としても、長い間アニメソングに携わってきた中で戦っている曲を歌うことが多かったので、全体の割合で見るとラブソングは少ないんです。なおかつ、今回の連続リリースは制作の自由度が高いというか、自分のオリジナリティを追求できるいい機会だし、そこで恋愛という普遍的な、誰もが共感できる題材を扱うのも面白そうだなって。
──3曲とも、これまで栗林さんが作ってきた楽曲と比べると、シンプルですよね。
そうなんです。あんまり複雑な曲にならないように意識していて。メロディであれば音符の数をなるべく少なく、歌詞であれば言葉を詰めすぎないように気を付けながら制作を進めていきました。やっぱりキャッチーで、みんなが歌いやすい曲のほうがいいと思ったんですよね。
──9月に配信された「LAST LOVERS」は特にキャッチーで、しかもこの曲における栗林さんのボーカルは、かわいいですね。
確かに、ここまで「かわいい」に振り切った歌い方は珍しいかもしれません。今までもかわいい曲は歌ってきましたけど、実はけっこう闇を抱えていたりするので(笑)。それに対して「LAST LOVERS」は、天気で言ったら快晴のイメージですね。こういうさわやかでかわいいサウンドになったから、歌い方もそれに合わせた感じです。
──作詞作曲するときは、曲によるかもしれませんが、詞先ですか? 曲先ですか? あるいは歌詞とメロディが同時に浮かぶタイプ?
歌詞から書く場合がほとんどで、今回の3曲もすべて歌詞からですね。
──「LAST LOVERS」では「この恋は最後だって」と歌っていますが、「最後」ということは、そのパートナーと生涯をともにすると決めたと。
そういうことです。今の事務所にお世話になってから、私の人生で初めてのファンクラブができたんですよ。そのファンクラブのみんなとの距離がどんどん近くなってきているんですけど、恋愛って、1対1でするものじゃないですか。だから恋愛というテーマを借りて、私から“みんな”へというよりは、私から“あなた”へ、1人ひとりに対して気持ちを伝えるようなイメージで歌詞を書いていきました。
──ファンの人たちからすれば、それぞれが栗林さんと1対1の関係になっていますからね。
そうですね。例えば「LAST LOVERS」には「慎重な君のこと 見ているね」という歌詞があるんですが、私のファンの人たちって、比較的おとなしいタイプの人が多い印象なんですよ。もちろん元気で積極的な子たちもいるけれど、みんなの総合的なキャラクター性を「君」に落とし込んだりしています。あと、まさにサビの「この恋は最後だって」は、長く活動を続けてきて、覚悟が決まったから言えたのかなって。ファンのみんな、1人ひとりに対して責任を負えるようになったというか、逆に責任を負う気がなければ言えなかったかもしれません。
47都道府県ツアーで決まった覚悟
──「覚悟が決まった」というのは、具体的には?
私はずっと、この仕事に対して「いつ終わってしまうんだろう?」と思いながら活動してきたんです。人気商売であって、いつ辞めることになってもおかしくない、厳しい世界にいることは自覚していたので。もちろん仕事は大好きだし、常に全力を尽くしてきたつもりではあるんですけど、1つひとつの仕事に向かっていく姿勢にどこか受け身なところがあったんですね。でも、2年前に47都道府県ツアー(「栗林みな実 LIVE TOUR 2023 “voice trajectory”」)をやったときに、もっと積極的に、正面から向き合っていこうという覚悟が決まったんです。
──栗林さんは2000年代初頭から第一線で活動していますが、わりと最近まで「いつ終わってしまうんだろう?」と思っていたというのは、けっこう衝撃的です。
たぶん、この仕事をしている人なら誰しも一度はそういう危機感を抱いたことがあるんじゃないかな。私に関して言えば、47都道府県ツアーを通じて、みんなとのストーリーもたくさん生まれていたんですよ。最初はみんな、例えば関東の人であれば「東京と神奈川、あと埼玉も行けるかな」みたいな感じだったのが、ツアーを続けるうちにだんだん「行けるだけ行こう!」って言ってくださる方が増えて。だいたい週に4回ライブをしていたんですけど、人って、同じ時間を過ごすと心の距離も近くなるし、私もステージ上で「あの子、また来てくれてる!」と顔を覚えていくようになって、みんなとの信頼関係も生まれていった。そういうことをきっかけに、いつか終わりが来ることを考えるんじゃなくて、いつまでもみんなと一緒にいるためにがんばろうという気持ちになったし、その1つの結果として「LAST LOVERS」が生まれたんだと思います。
──現在の事務所であるクラウドナインに所属してから、47都道府県ツアーだけでなく、全曲書き下ろしの9thアルバム「LEAP」(2023年8月発売)にアコースティックライブ(「栗林みな実 マロンティックナイト 2024」)、そして今回の3カ月連続配信リリースと、初めての試みをガンガンなさっていますね。しかも、活動20年を超えたタイミングで。
本当にありがたいことです。普段から、何かやりたいことがあるときは言葉にするように心がけてはいるんですよ。だから事務所に入ったときに「やりたいことはある?」と聞かれて、現実的ではないかもしれないけど、言うだけ言ってみようと思って「47都道府県ツアーをやりたい」とお伝えしたんです。そしたら叶えることができて、そのおかげで出会えた人たちもいっぱいいるので、“伝える”ということはとても大事だなと。
──47都道府県ツアーを全通したファンの方は、さすがに……。
1人だけ……!
──いるんですか!?
いてくれたんです! 私も全公演を観に来てくださる方がいるとは思っていなかったので、ツアーが終わったときはすごく感動しました。ずっと一緒に全国を旅した仲間というか、もはや家族みたいな存在ですね。
みんなの声が重なることで、また違った響きが生まれる
──「LAST LOVERS」に話を戻しまして、作曲はピアノでするんですか?
はい、いつも鍵盤で。「LAST LOVERS」もいつも通り鍵盤を弾きながら作りました。
──先ほど「みんなが歌いやすい曲のほうがいい」とおっしゃいましたが、例えばBメロは、ライブではコール&レスポンスが起こりそうです。
そう、ライブで歌うのがすごく楽しみな曲なんですよ。音源は音源で、前口ワタルさんの素敵なアレンジで完成されているんですけど、そこにみんなの声が重なることで、また違った響きが生まれるはずなので。
──前口さんは「LEAP」に収録されていた「♡に気をつけて。」と、名前が漢字の前口渉名義で「approach completion」(2012年4月発売の25thシングル「HAPPY CRAZY BOX」カップリング曲)の編曲もなさっています。「LAST LOVERS」は「♡に気をつけて。」と同系統のエレクトロポップですが、より音数の少ない、歌が映えるアレンジになっていますね。
本当に必要な音だけがそこにある感じですよね。ベテラン作家のアレンジだなと思いました。
──アレンジャーの選定、発注は栗林さんご自身がなさるんですか?
そうですね。ほとんど私からリクエストさせてもらっています。「LAST LOVERS」の編曲を前口さんにお願いしたのは、今言及してくださった「♡に気をつけて。」の、かわいいけれどちょっと刺激的なサウンドがフィットすると思ったから。私から前口さんにデモをお送りした際にその旨もお伝えしたところ、「デモを聴いて、こういうアプローチもいいんじゃないかと思いました」といったことが書かれた文章とともにこのアレンジをいただきました。かわいくてカッコいい、甘すぎない感じの、絶妙なバランスですよね。
──ちなみにデモは、栗林さんの弾き語りみたいなものですか?
歌と鍵盤と、ドラム、ベース、あとハモとコーラスも、自分が思いついたものは全部入れてお渡ししています。そんなに難しいことはできないんですけど、曲の雰囲気が把握できるぐらいの情報は自分で打ち込んで。
──リズムも打ち込んでいるんですね。
ループですけどね。曲のテンポは細かく決めているので、アレンジャーさんもそのままのテンポで編曲してくださいます。
──珍しくかわいい歌い方をされたわけですが、レコーディングで難関などはありませんでした?
自分で作っている曲なのですでに答えが出ているというか、曲ができた時点で1回フルサイズで録っていて、プリプロが終わっているような状況なんですよ。それを本番のレコーディングで、前口さんが作ってくださったオケに合わせて、細かいニュアンスの付け方とかを微調整していく感じなんです。だから特に苦戦することもなく、楽しく歌えました。
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心の中から広がる宇宙を描いてみたくなった

