Aimerがニューシングル「Little Bouquet / Pastoral」をリリースした。
シングルには映画「羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来」の日本版主題歌「Little Bouquet」と、テレビアニメ「羅小黒戦記」の日本語吹替版主題歌「Pastoral」が収録される。「羅小黒戦記」は中国のアニメ監督である木頭(MTJJ)と寒木春華(HMCH)スタジオが制作した冒険ファンタジーで、黒猫の妖精・シャオヘイたちの物語が描かれている。
Aimerは「羅小黒戦記」の物語をどのように受け取り、作詞や歌唱に思いを注いだのか? 彼女ならではの真摯かつ繊細な表現にインタビューで迫る。
取材・文 / 須藤輝
悲しみも前向きな気持ちも内包したバラード
──「Little Bouquet」はアニメーション映画「羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来」の日本版主題歌ですが、フィジカルのシングルの表題曲としてはひさしぶりのオーソドックスなバラードですね。
まず、「羅小黒戦記」の新作映画とテレビアニメの主題歌のお話をいただきまして、映画のほうは「バラードをお願いしたい」とのことだったんです。なおかつ映画の最後に流れる曲なので、シリアスなストーリーに則して悲しみも内包しているバラードではあるけれど、あくまでも前向きな気持ちで終わりたいと。だからかなり繊細さが要求される曲でもあって、その微妙な温度感をどのあたりで落ち着かせるかを吟味しながら制作を進めていきました。
──作編曲の横山裕章さんは、過去に「Cold Sun」(2014年6月発売の2ndアルバム「Midnight Sun」収録曲)と「marie」(2020年3月発売の18thシングル「春はゆく / marie」収録曲)を作曲された方ですね。
そうです。横山さんは、初期の頃からライブでピアノを弾いてくださっていた方なので、プレイヤーとしてコミュニケーションを取る時間のほうが多い印象があって。こうして作編曲で関わっていただくのはひさしぶりで、うれしかったです。
──少し脱線しますが、「marie」はリリース当時にインタビューさせてもらったこともあり、印象に残っています(参照:Aimer「春はゆく / marie」インタビュー)。
私も、特に“赤と青”のツアー(2019年10月から2020年2月にかけて行われた「Aimer Hall Tour 19/20 "rouge de bleu"」)のアンコールで歌ったときの印象がすごく強い曲です。
──まさにそのツアーで私は「marie」を初めて聴いて、なんて攻撃的なバラードなんだろうと。
攻撃的と言っていいのかわかりませんが(笑)、ものすごくボーカルが高ぶる曲ですね。それと比較すると、「Little Bouquet」はアレンジも含めて正攻法というか、「marie」ほどの過剰さはないけれど、切なさと温かさのどちらも持っている曲という言い方ができるんじゃないかな。
──映画「羅小黒戦記2」は、現時点では公開前なので私は未見ですが、前作にあたる第1作目は正しくエンタメしていましたね。
うんうん。シンプルに物語に飲み込まれるというか、心をつかまれるようなエンタテインメント作品だと私も思いました。映画の第1作目は、主人公であるシャオヘイ(小黒)という黒猫の妖精と、彼の師匠になるムゲン(無限)という人間の、2人の関係性が描かれていて。「羅小黒戦記2」ではそこにもう1人、同じくムゲンの弟子で、シャオヘイにとっては姉弟子にあたるルーイエ(鹿野)というキャラクターが登場するんです。
──トレイラーを拝見するに、そのルーイエがキーパーソンなんだろうなと。
そう。「羅小黒戦記2」は、ルーイエとシャオヘイの交流が物語の主軸になってくるんですけど、この2人には似たような背景があって。大まかに言うと、孤独に追い込まれていたような状況から、時間をかけて、段階を踏みながら他者と交流するに至っていく。ただ、その過程はそう単純ではなくて、頑なな心を徐々にほどいていく様子が、私は一番印象に残ったんです。その肝の部分を、余韻として、映画の最後に流れる主題歌にちゃんと残してあげたいという思いがありました。
大切な誰かの姿が浮かび上がってくるような曲
──今のお話は、作詞にも関わってくる部分ですよね。
はい。まずはシャオヘイとルーイエの境遇を汲み取ってあげたい。そのうえで、映画「羅小黒戦記」は、1作目にも2作目にもサブタイトルが付いていて。1作目は「ぼくが選ぶ未来」だったのが、2作目は「ぼくらが望む未来」と、主語が変化しているんです。つまり、未来は自分1人で選ぶものではなくて、誰かと一緒に望むものになっているんですね。そういう他者の存在、自分1人だけじゃないという感覚がもたらすエモーショナルさが「羅小黒戦記2」を観ても伝わってきたんです。なので「Little Bouquet」も、聴いたときに大切な誰かの姿が浮かび上がってくるような曲になったらいいなと思いながら歌詞を作っていきました。
──タイトルの「Little Bouquet」は歌詞にある「小さな幸せを束ねて」「きっと花開いた願いを」といった言葉を象徴していると思いますが、ブーケというモチーフはどこから?
「Little Bouquet」も「Pastoral」も、映画とテレビアニメという違いはありますけど、どちらも「羅小黒戦記」の主題歌で、時系列としては先に「Pastoral」を作ったんです。その「Pastoral」の歌詞にたまたまというか、特に意図せず「花の香りを両手に」というフレーズを入れていたので、さりげなく2つの曲を「花」でリンクさせられたらいいなって。今おっしゃったように、束ねられた小さな幸せを表すものとしてもきれいになじむんじゃないかと思ったんです。
──先ほど「微妙な温度感をどのあたりで落ち着かせるか」とおっしゃいましたが、当然ボーカルもそのあたりに留意して録られたわけですよね?
私としては、シンプルに言えば真摯に歌いました。このバラードのよさを声の響きでも引き出せるように、エモーショナルになりすぎることなく、かといって客観的になりすぎることもなく、うまくバランスをとれる立ち位置を探しながら。例えば前作の「太陽が昇らない世界」(2025年7月発売の26thシングル表題曲)はエモーショナルな方向に振り切っていましたけど(参照:Aimer「太陽が昇らない世界」インタビュー)、「Little Bouquet」のような曲では、感情が先走らないように歌いたいという気持ちが強いですね。
──そのうえで、「Little Bouquet」はわりとリズムセクションが前に出てくるアレンジになっていますが、そこにうまく乗りつつ歌声で緩急、あるいは流れを作っているように思います。
意外とバラードってリズムが大切で。ロングトーンだったり、緩やかな言葉の乗せ方をする部分がある曲になればなるほど、16分に乗せる言葉のちょっとした切り方とかがすごく大事になってくるんですよ。そういう部分では、歌からもちゃんとノリが伝わるように、注意を払いながら歌っています。
──特に注意した部分は?
ちょっと“ノリ”の意味合いが変わってしまうかもしれませんけど、落ちサビの「小さな足跡を重ねて」から始まるブロックは、まさに歌でリズムを作らなきゃいけない部分で。かつ、ここは歌の温度感についても慎重に考える必要があって、最初はもうちょっと強めに歌っていたんです。でも、この曲でディレクションに入っていただいたレコーディングエンジニアのGENDAMさんこと岡村弦さんが「もっと声量を落として、はかなく、か細く歌ってはどうでしょう?」と提案してくださって。それに従って歌ってみたら、自分でもすごくしっくりきたんです。普段だと、落ちサビではどうしてもエモーショナルになりがちというか、声量を抑えられなくなりがちなんですが、そこを岡村さんが客観的に指摘してくださったおかげで初心に立ち返ったような気持ちになれて、とてもありがたかったですね。
ざらつきが自然と出るような声が好き
──あくまで主観ですが、「Little Bouquet」ではAimerさんの声のおいしい成分が随所で聴けるように思いました。
うれしい。こういうバラードでは自分でも好きな声の出し方を生かせると思っているので、自分にとっても、願わくば聴いてくださる皆さんにとっても心地いい、雑念なく聴ける響きになるように意識して歌いました。
──「自分でも好きな声の出し方」とは、具体的に説明できます?
言葉にするのは難しいですけど、ちょっとざらついている感じと言えばいいのかな? 私はデビューしてから歌い方をいろいろ変えて今に至っているんですが、どういう歌い方をしていても、素直に好きだと思える自分の声というのは、エアリーという意味でのざらつきが自然と出るような声なんですよ。そういうざらつきは、声を張っていると自然には出てこなくて、ある程度声量を抑えた、優しい表現をするときに出てくるんです。
──歌い方の変化といえば、「Little Bouquet」の作編曲者である横山さんが「Cold Sun」を作曲されていたのでひさしぶりに聴いたのですが、今とはずいぶん……。
違いますよね。どのぐらい息を混ぜるかとか、どこに響きを向けるかとか、細かい発声の部分においては自分の中で「これだ」というセオリーがずっと固まっていなくて。その都度、曲に合わせて変えながら歌っているという自覚はあるんです。その時々の表現の変化を、長く聴いてくださっている方はより感じてくださるんじゃないかと思いますね。
──その時々でベストな選択をしようとした結果が変化につながっている。
うん、そうですね。これからも変わり続けるかもしれない。とはいえ私の声自体は1つしかないので、微々たる変化ではあるとも思いますけど、いろいろ試しながら歌っていきたいなって。
──微々たる変化であっても、今言った「Cold Sun」のように10年以上前に飛ぶと違いは明白で、リスナーとしては面白いです。
実は私も最近、自分の1stアルバム(2012年10月発売の「Sleepless Nights」)を、本当にひさしぶりに最初から最後まで通して聴いたんですよ。そしたら、私がこのアルバム、あるいは自分の歌に対して抱いていたイメージとはけっこう違う部分もあって、確かに面白かったですね。そうやって自分で聴いても発見があるので、例えば新しく私の音楽に出会ってくださった方が、昔のアルバムにたどり着くようなことがあってほしいと願っているんですけど、そうなったときにどう感じていただけるのか、すごく興味深いです。
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