山内総一郎は過去を捨てず、全部一緒に連れていく──魂込めた新曲携えソロアーティストとして本格始動

山内総一郎が配信シングル「旅にでる」「GOOD FELLOWS」を10月22日に、「人間だし」を10月29日に連続リリースした。

山内が約21年にわたって所属したバンド・フジファブリックは今年2月のライブをもって活動を休止。その時点で「あとのことは全然考えられなかった」という山内だが、周りの仲間たちに支えられながらゆっくりと曲作りを進め、今年7月にワンマンライブ「The Hole In The Wall」を行ったことで自らの進むべき方向性を見出していったという。

そんな山内が今回リリースした2曲は、いずれも7月のワンマンライブでファンに初お披露目した曲。このうち「GOOD FELLOWS」はサントリーのWeb動画「好きな人と、好きな時に、乾杯。」編のタイアップナンバーとしてもおなじみの楽曲で、「人間だし」はテレビ東京系ドラマ25「晩酌の流儀4 ~秋冬編~」のオープニングテーマとしてオンエアされている。

音楽ナタリーでは新曲3曲のリリースを記念し、山内にインタビュー。バンドの活動休止を経て自らのソロ活動を本格化させた経緯、“山内総一郎”として表現したいものとは何か、10月25日に東京・昭和女子大学人見記念講堂で行われたバースデーライブ「OCTOBER SONGS」を経たその先に見据えるものについて語ってもらった。

取材・文 / 森朋之撮影 / 須田卓馬

活動休止まで、その後のことはまったく決めてなかった

──1stデジタルシングル「旅にでる」「GOOD FELLOWS」、2ndデジタルシングル「人間だし」が2週続けてリリースされ、いよいよ“山内総一郎”としての音楽活動が本格的に始まりますね。

はい。新しい曲もボンボン作ってるんですよ。寝不足です(笑)。

──素晴らしい。創作意欲が湧きまくってますね。

ライブに向けて、というところが一番デカいんですけどね。新曲が中心になるし、ライブで初めて聴いてくださる方に対して、できるだけ齟齬がないように作りたくて。今は曲作りやアレンジを詰めているところです。

──「齟齬がないように」というのは、曲を誤解なく伝えたいということですか?

そうですね。サウンドのカラーリングってあるじゃないですか。ざっくり言うと「盛り上がってほしい」とか「じっくり聴いてほしい」みたいなことですけど、それを言葉で説明しなくても伝わるようにしたいので。もちろんサポートメンバーにも助けてもらいながらやってるんですけどね。

山内総一郎

──なるほど。改めてソロ活動がスタートした経緯を順番に聞いていきたいんですが、まず、2025年2月6日にフジファブリックの活動休止前のラストライブ(東京・NHKホール)がありました(参照:フジファブリック「最高のバンド人生」を経て新たな未来へ、活動休止前ラストライブで23曲熱演)。今振り返って、山内さんにとってどんなライブでしたか?

去年の2月に「PORTRAIT」というアルバムを出して、そのあと東京ガーデンシアターと大阪城ホールでのライブがあって。その間もずっと、活動休止前の最後のライブに向けて生きていたんですよね。メンバー3人でセットリストを決めて、「自分たちができる一番パワフルな演奏をしよう」と思っていた。もちろん節目のライブだったし、いろんな思いがありますね。

──今年の2月の時点で、その後の音楽活動もイメージできていたんですか?

いえ、まったく。2月のライブが終わるまで、そのあとのことは全然考えられなかったというか……もちろん「音楽をやって生きていきたい」というのはあったんですが、やり方はいろいろあるじゃないですか。例えば違う名前で活動するとか、新たにバンドを作るとか。いろいろ考える中で、やっぱり「山内総一郎としてやっていこう」と決めて。この先に対する不安もあったし、「そんなこと考えても仕方ない」というのもありましたが、今振り返ってみると、停滞していたところもありましたね。タイアップのお話をいただいて「GOOD FELLOWS」を作ったり、Salyuのトリビュートアルバム(「Salyu 20th Anniversary Tribute Album "grafting"」)に参加したり、何度かレコーディングもしていたんですよ。つまり音楽は作っていたけど、この先、どんなことをやっていこう?というのはまったく決めてなかった。そこから感情の上がり下がりもありつつ、ぽつぽつと曲を作りながら、最近ゆっくりと固まってきたという感じですね。

──長い目で見たら、すごく貴重な時間かもしれないですよね。ミュージシャンとしての自分を新たに構築するという。

ポジティブに捉えればそうですよね。実際、この期間も明るく過ごしてはいたんですよ。いたって笑顔でした(笑)。

──旅行とか行かなかったんですか?

ずっと家にいました(笑)。映画を観たり、あとは本をいっぱい読みましたね。めっちゃ長いやつがいいなと思って、SF小説の「三体」を読んだり。日中の時間は音楽に費やしたいので、読書するのは寝る前だったんですけど「面白すぎて寝られん!」みたいな(笑)。ざっくり言うと人生の目標を失った状態だったので、焦ってもしょうがないし、ただただ日々を過ごす中で、自分が何を感じていて、何を生み出そうとしているのかを見つめて。まったく堅苦しいものではないんですが、そういう生活だったと思います。

ソロワンマンライブで穴の中から光のある場所に行けた

──7月9日には東京・EX THEATER ROPPONGIでワンマンライブ「The Hole In The Wall」を開催されました。音楽ナタリーでもレポートしましたが(参照:山内総一郎の決意表明、ソロワンマンライブで新曲8曲披露「完全に光が見えました」)、どんな心境でしたか?

いろんな感情がありましたね。バンドが活動休止という形になって、「まだまだ、こんなもんじゃねえぞ」という自分もいて。

山内総一郎

──新曲も8曲あって。新しい出発にふさわしいステージだったと思います。

ありがとうございます。最初は4曲くらい新曲をやろうと思っていたんですよ。あとは提供させていただいた曲のセルフカバーだったり。でも準備しているうちに8曲くらいできて、結果として冒頭から新曲というライブになりましたけど、怖かったですね、本当に(笑)。「知ってる曲をやってほしい」という人もいらっしゃったと思うんですが、それ以上に今の自分を見てほしくて。あの日は新曲を初めて演奏する瞬間だったり、まだスタートも切れていない“前夜”みたいな状況を共有したかったというか。拍手が大きかったのもうれしかったです。いっぱいいっぱいだったけど、穴の中から少しずつ光のある場所に行ける、そんな感覚になれるライブでした。

──ライブの前、サポートメンバーともセッションを繰り返していたそうですね。

はい。もともとつながりがある人たちなんですよ。伊藤大地くん(Dr)はフジファブリックをずっと支えてくれたし、ベースの砂山淳一は中学の同級生で、一緒に音楽を始めた仲間。大樋祐大(Key / SANABAGUN.)も同じ大阪出身ですからね。MCでも話したんですけど、僕が1人で音楽をやろうと決める前、大地くんが「スタジオに入ろうよ」と連れ出してくれたんですよ。1時間あたり1人500円のスタジオで、何もない状態からセッションして、そのときにポロッと弾いたフレーズでちょっといいのがあるとメモしたり。そこから少しずつ「音楽、作れそうだな」と思えたというか。その頃は自分と対峙するのに精一杯で、最後まで曲を完成させる精神力はなかったんですけど、みんなに支えてもらって一歩一歩進んでこれたんだと思います。