Diosの3rdアルバム「Seein' Your Ghost」がリリースされた。
Diosはこれまで、内省的かつコンセプチュアルな「CASTLE」、外に向かうパワーにあふれた「&疾走」と、異なるテイストのアルバムを発表してきた。そんな2作に続く「Seein' Your Ghost」は、フロントマンであるたなかが“喪失”にまつわる感情と向き合い制作したアルバムだ。本作のリリースを受け、音楽ナタリーはDiosにインタビュー。前作「&疾走」からの約2年半における変化や、それが「Seein' Your Ghost」にどのようにつながったのかなど、制作の裏側を語ってもらった。
取材・文 / 蜂須賀ちなみ
Diosとしてどう生きたいか
──音楽ナタリーでのインタビューは、2023年12月以来となります(参照:Diosインタビュー|新たなフェーズへ進んだ3人は今、何を考える?)。この2年間でDiosは「ガソリンEP」「脱構築β EP」という2つの作品をリリースし、ライブを含め、精力的に活動されていました。振り返って、バンドにとってどのような期間でしたか?
たなか 1stアルバム「CASTLE」が内を向いた作品で、2ndアルバム「&疾走」が外に向けた作品だったので、「その間にあってDiosにできることはなんだろう?」と探っていく期間でした。途中、ササノが元気のない時期があったので、外部プロデューサーを招いてEPを制作して。
ササノマリイ 「Diosとしてこれからやっていきたい音楽と自分の得意分野が違う場合、自分はDiosにどう貢献できるだろう?」と悩んでいました。「ガソリンEP」は、いい意味でDiosらしくない作品になったんですよ。外部の人にお願いした結果、刺激も受けたし、悔しくなって「これは俺がやらないと」という気持ちにもなりました。ライブで演奏することでEPの曲を自分の一部にできたのも、新しい音楽の楽しみ方という感じがして楽しかったです。
Ichika Nito いろいろな人たちとの制作はいい経験になったけど、EP2作の時期は「Diosとしてどう生きたいか」「どういうバンドでありたいか」という部分が定まっていなかったと思っています。「今の俺たちは100%じゃないんだぞ」という虚栄心もありつつ、「次に出すアルバムは、俺らの本気のアルバムになるはずだ」と思いながら曲を作っていました。だから、今こうして「Seein' Your Ghost」の完成を迎えられてよかったなと。あの期間があったから、このアルバムができたと思ってます。
──メンバーのみでの制作に回帰したのは、今話していただいたような流れがあったからでしょうか?
ササノ それもあるし、僕が潰れなければ、基本的に外部には頼まないので。
Ichika Diosはメンバー構成が独特なんですよ。ベースとドラムがいない代わりに、ササノマリイという“個性”がいるという。彼はベース、ドラム、キーボード、編曲……本当になんでもできるし、キーボーディストとかトラックメーカーと呼ぶのもなんか違うなという感じで。もはや「ササノマリイ」というポジションとしか言いようがない。プレッシャーをかけるようなことを言いたいわけではないけど、うちのバンドの骨格なんですよね。
ササノ いやいや、そんな。
──同じように、たなかさんも「たなか」というポジションを担っていて、Ichikaさんも「Ichika Nito」というポジションを担っている。そういうDiosの在り方を再認識しながら制作したのが、今作ということでしょうか?
たなか まさにそんな感じですね。Ichikaが最後まで仕上げた曲もあるんですよ。
Ichika 「醜形の女神」「花霞」「周回遅れ」は、作曲とアレンジを自分がやってます。
たなか 3分の1も作ってるのか。偉すぎる。
Ichika ベースを弾いている曲もあるし、確かに自分のポジションも、ギターだけではなくなってきていますね。
──そもそもIchikaさんの編曲スキルがここまで高いとは。とんでもない隠し玉じゃないですか。
Ichika 今までは、自分の編曲スキルがそこまで高くなかったので、全部ササノマリイにやってもらっていたんですよ。だけど最近、ゲームや映画の音楽制作、音楽監督的な仕事を個人で任せてもらう機会が増えたことからDTMのスキルも上がってきて。「Diosでも編曲できるな」と思えたので今回ジョインしました。
ササノ 「醜形の女神」は、俺には作り得ない曲だなと特に思います。最初、自分はずっとグチグチ言ってたんですよ。「俺だったらこうするけどな」って。でもレコーディングに入って、すべてのピースがハマった状態のものを聴いたら、「すごくいいな」と。
──「俺だったらこうするけどな」という気持ちが完全に消えた?
ササノ そう言っていたのは、8割方嫉妬からなので(笑)。僕には思いつかないような曲をIchikaが作ってきてくれたことで、Diosとしての表現の幅が広がりました。「EPで外部に頼んでたこと、3人でできるじゃん」っていう。その結果、バリエーション豊かなアルバムになったなと思っています。
全曲に共通しているのは“喪失”
──今回の制作は、たなかさんの“アルバム構想案”というメモからスタートしたそうですね。
たなか 「トリコ」というマンガがありまして。世界を旅して食材を集めて、自分の理想とする“人生のフルコース”を作るのが主人公の目的なんですけど、Diosでも音楽における“人生のフルコース”を作りたいなと。そこに向けて、「1曲目はこういう曲」「次にこういう曲が来て」という収録曲一覧みたいなメモを作ったんです。
──たなかさんの理想のアルバムの構成ということですね。
たなか 例えば映画における三幕構成や物語における起承転結のように、鉄則ってあるじゃないですか。アルバムにおける美しい形、絶対的な正解も何パターンかに絞られると思っていて、その1つを確立してみようというモチベーションでした。
ササノ そのメモにはリファレンスとして、ほかのアーティストの曲名が書いてあるんですよ。「ああ、〇曲目はアーバンロックな感じね」「四つ打ちでアッパーな曲か」と受け取って、曲調を踏襲したデモを作ったら「そういうことじゃない」と言われて。
たなか そう、曲調の話じゃない。例えばSuchmosの「STAY TUNE」って、アーバンな曲調であることや、ベースラインがカッコいいことにももちろん価値があるけど、音楽が時代の空気感とうまくフィットして、詞の温度感もちょうどよくて、時代を象徴する音楽だったから、あんなに流行ったわけじゃないですか。そういう感じで、「この曲は、このアーティストにとってこういう立ち位置だよね」みたいな話をしたかったんですよ。
──メンバー間で認識をすり合わせて、「Diosだったら」「今の時代だったら」と翻訳していく作業はかなり大変そうですね。
ササノ そのメモから制作が始まったのがもう1年以上前になります。話し合いや制作上のラリーは今回かなり多かったですね。
──アルバムタイトルになっていて同名の曲もある「Seein' Your Ghost」が、アルバム全体を貫くフレーズになっています。このフレーズやアルバムのテーマは、どのタイミングで浮かびましたか?
たなか 制作が半分ぐらい終わったタイミングで、「そろそろアルバムのタイトルを付けましょう」という話になって。そのときに、全曲の詞に共通しているのは“喪失”だなと思いました。失う対象はさまざまだけど、どの曲も「悲しい」「寂しい」という気持ちを抱えつつ、何かを取り戻しにいったり、新しいところに向かったりしている。忘れるわけでもなくて、むしろなくなったという事実をありありと見ることに意義がある。そう思っている節が自分にあるなと、全曲の共通点として気付いたんです。そこから「Seein' Your Ghost」というフレーズが出てきて、そのあとに同名の曲を作りました。
──例えば、別れてしまった人が残していった思い出や移った癖、断念した夢に対する後悔なども、今作における「Ghost」の定義に当てはまりますか?
たなか 当てはまると思います。例えばペットが亡くなったとして、家に小さな仏壇を作るとか、iPhoneのケースの裏に写真をずっと入れているとか、埋めて弔ったから「俺の心に一生住んでるぜ」なのか、やり方は人それぞれだけど、人はみんなそうやって喪失を受け入れながら生きているんじゃないかと思うんですよね。見つめる作業をちゃんとしたあとにようやく空いた穴の輪郭が見えて、「失ったのはこういうものだったんだ」とわかる。そのうえで次に進めるという話なのかなと。
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メンバーにとってのGhostは?





