友成空の1stアルバム「文明開化 - East West」が配信リリースされた。
「文明開化 - East West」は友成にとって初のフルアルバム。彼が単曲以外の作品をリリースするのは、2021年3月の高校生活最後の日に発表したEP「18」以来となる。友成が音楽ナタリーのインタビューに登場するのは、4年半前の人生初インタビュー(参照:友成空の人生初インタビュー、王道を歩む18歳のシンガーソングライターがデビュー作への思いを語る)以来。あれから「鬼ノ宴」をはじめ数々のヒット作を生み出し、人気アニメへの楽曲提供を行うなど、彼を取り巻く状況は大きく変化したかのように見えるが、本人の心持ちはどうなのだろうか。ここ数年での環境の変化から、初のアルバムを完成させた今の気持ちまでたっぷりと語ってもらった。
取材・文 / ナカニシキュウ
迷いなく音楽をやれるようになった
──音楽ナタリーでのインタビューは2021年4月以来、約4年半ぶりになります。その間、友成さんを取り巻く状況は一変しましたよね。
そうですね。一番大きな変化は、迷いなく音楽をやれるようになったことだと思います。始めたばかりの頃は「この道でいいのかな?」という気持ちをずっと抱えたままやっていたので……それは数字とかそういう問題じゃなくて、単に自分の周りで音楽の道に進む人が少なかったし、自分の進路の延長線上に音楽というものがない環境にいたという意味で。
──その意識が変化したきっかけは?
けっこう複合的なものだとは思うんですけど、1つはメジャーデビューをさせてもらったことです。より多くの人にいろんな形でお力添えいただきながら曲を作って出す、というサイクルみたいなものができたことは大きかった気がします。もう1つは、2023年に「鬼ノ宴」という曲を出したときに、自分では予期せぬところから評価してもらえたことですね。そのときに「突拍子もないことをやっていても意外といいのかもしれない」と思えたというか。ある意味自由になれたような感覚があって。
──それまでは自由にやれていなかった?
やはりバズみたいなものの渦中にあると「これを続けなければいけない」というような……強迫観念とまではいかないけど、そういう感覚は少しあったので。そこからどうにか抜け出したいと思いながら、いろんな曲を作っては捨てることを数カ月繰り返していく中で、だんだん「あれ? 今の状況って、ただ好きなことをやっていてもいい状態なんじゃないか?」と思うようになって。「鬼ノ宴」が一定の評価をいただけたからこそ、自分の好きなことを好きなようにやれる地盤が固まったと考えることもできるので、そういう思考になった瞬間にけっこう自由に作れるようになりました。
──言ってみれば、「鬼ノ宴」の呪縛から解き放たれた。
そうです(笑)。
──そこにたどり着くのが早いですよね。ヒット曲の呪縛から解放されるまでに、普通は数年から数十年を要するものなんですけど。
なるほど。言われてみればそうかもしれないですね。
──ちょっと巻き戻りますが、そもそも「鬼ノ宴」自体がそれまでの作風とは異なるものでしたよね。そのタイミングでも何か“解放”があったのでは?
自分の中では、新しい挑戦という意識ではなかったんです。単にそれまで出していなかっただけで、作り溜めているものの中に「鬼ノ宴」みたいな曲もあったんですよ。ただ、「こういうのは自分が目指すべき方向性ではない」と思ってお蔵入りにしていた。それを出してみたら評価してもらえたので、「あ、こっちもいいんだ」と思えたという感じですね。
アルバムは“音楽のテーマパーク”
──そしてこのたび、1stフルアルバム「文明開化 - East West」が完成しました。“アルバムというフォーマット”にすごく執着のある人の作品、という印象を受けたんですが……。
執着はありますね(笑)。僕の音楽活動における1つの大きな目標がアルバムを出すことだったんです。趣味で音楽をやっていたときから「高校を卒業したらアルバムを出そう」と思っていたんですけど、いろいろな紆余曲折があって、今のところまとめて出した音源は最初のEP「18」だけで。フルアルバムを出したことがないというのは、ずっと僕の中で引っかかっていた部分なんですよ。それは“執着”と言えるものだと思います。
──アルバムに執着するのはなぜなんですか?
僕、テーマパークがすごく好きなんです。小さい頃から東京ディズニーランドとかによく行っていて、「ディズニーで育った」と言っても過言ではないくらい。テーマパークって、1つのパークの中にいろんなテーマのエリアがあって、その中に1つひとつ違うアトラクションが存在していますよね。そういう構造のものが何かと好きで、アルバムはまさに音楽のテーマパークだと思うんです。そういうものを作ることが、実は僕の一番やりたいことなのかもしれない。
──“箱庭”の完成度に喜びを感じるタイプなんですね。ということは、ジオラマ作りも好きだったり?
めちゃめちゃ好きで、小さい頃から建築模型とかをずっと作っていました。なんなら昔は建築家になりたいと思っていたぐらいで。
──筋金入りですね。ではもっと狭い意味で、“音楽アルバム”の話に限定した場合はどうですか?
僕が小さい頃から触れてきた音楽のフォーマットは、ずっとCDでした。父親の部屋にあるCDを引っ張り出してきてフルで聴く、というのが僕の最初の音楽体験だったので、“アルバム”という形が僕にとって音楽の標準としてありましたね。
──その中で、友成さんにとっての“理想のアルバム”と言える作品を挙げるとすると?
いくつかあるんですが……小さい頃からすっごく好きだったアルバムがありまして。maigoishiさんの「Encounter」という、インストアルバムなんですけど。父がジャケ買いしてきたCDが家にあって、小学生のときからずーっとウォークマンに入れて聴いていました。「歌がないのに、こんなにテーマパークっぽくなるんだ」という作品で、聴いていると絵が浮かんでくるんですよね。「こういうアルバムを作りたい」と思わせてくれる、僕にとって理想的な1枚です。
めちゃめちゃひねくれてるんですよね、このアルバム
──アルバム制作はどのように始まったんでしょうか?
今年の初め頃に「11月にアルバムを出すことを目標にしよう」という方針をチームで固めたのが始まりでした。ただ、そのときに想定していたのは“今までのシングルをコンパイルしたアルバム”というイメージで、新曲をいっぱい入れるようなコンセプトではなかったんです。でも、いざ作り始めてみたら「そういう、ある種雑多なアルバムとして出した場合、その先に何をすればいいのかわからなくなりそう」と感じ始めて。それよりは、“ちょっとやり残した”ぐらいのアルバムを作りたいなと思ったんです。
──しかもシングル集のようなアルバムだと、今の時代は「別にプレイリストでよくない?」という話にもなりそうですしね。
そうそう。だったらもっとアルバムとして出す意味のある、僕の中の世界の一部分にはっきりとフォーカスしたアルバムにしようと。そこで僕のストーリーテラー的な一面、ファンタジックな側面だけを抽出する意識で作ったのが今回のアルバムで、これが僕の音楽のすべてではないんです。
──言うなればこれはアドベンチャーランドの一区画だけであって、まだほかにもトゥモローランドとかトゥーンタウンとかがあるんだよと。
まさにアドベンチャーランドって感じです(笑)。そのコンセプトが固まったのが夏頃で、そこから急ピッチで新曲7曲を仕上げなきゃいけなくなって。かなりハードスケジュールではあったんですけど、それがめちゃめちゃ楽しくもありました。
──その時点で、曲自体はすでにあったんですか?
デモとしてはできていた曲がほとんどで、例えば「アリババ」なんかは3、4年前にはすでにありました。逆に、アルバムのキーポイントになる「East West」や「white out」は、アルバムを作ることになってから考えた曲ですね。「月のカーニバル」もそうかな。
──そのお話にはすごく納得がいきます。とくに「East West」と「white out」の2曲は、まさに“アルバムありきの曲”という感じがしますし。
全体として、両極端なものを並べてバランスを取るということをすごく意識していて。例えば「宵祭り」のあとに「white out」が来る並びは真夏と真冬みたいなイメージ。サウナのあとの水風呂のような感じで、全部の整合性が取れるように組み上げていきました。パズルみたいに。
──アルバム全体を引きで見てもそうなっていますよね。LPで言うA面 / B面のような構成になっていて、前半は「鬼ノ宴」などで提示したアーティスト像をそのまま拡張する内容で、後半はどんどん様子がおかしくなっていくという。
はい(笑)。まさにそういう作りを目指しました。めちゃめちゃひねくれてるんですよね、このアルバム。
リアリティ自体がウソくさい
──「ACTOR」で始まる、というのがまず挑戦的ですよね。
音楽って、ちょっと油断すると暴力性を帯びてしまうものだと思っているので、「表面上はちょっとおどけていなければいけない」という使命感があるんです。「ACTOR」はそれに対する免罪符みたいなもので、「僕はこういうふうに音楽を作っているし、エンタテイナーというのはそういうものだから許してね」という曲なんですよ。それを最初に置くことによって、「これから始まる物語はフィクションです」と※印で注釈を付けているようなイメージです。
──それを言わなければならない分、一番ノンフィクションに近い曲になっているという。
はい。その整合性が取れるように、アルバムジャケットに自分の写真を使うという挑戦的なことも試みました。そのリアリティ自体が逆にウソくさいというか(笑)、虚実入り交じる感じを演出したいなと思って。
──「リアリティが逆にウソくさい」はすごくいい表現ですね。このアルバムで言うと、個人的には「コーヒー」にその思想を強く感じました。
生楽器中心の音だからこそ、フィクションであることが際立つ構造といいますか……最初はもっとボーカルの音量が大きめで近くに聞こえるミックスにしていたんですけど、「悲しいときってこんなに大きな声で歌わないよね」という話になって下げたりとか、ある種究極のリアリティを求めてミックスバランスまで調整した曲ですね。
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“無自覚なエゴ”だけで十分



