「いよいよ」「ついに」「やっと」「満を持して」……そんな言葉が似つかわしい。a flood of circleが2026年5月6日に、初の東京・日本武道館でのワンマンライブを行うことが決定した。
a flood of circleは「武道館」というワードをこの数年たびたび口にしてきた。2023年にリリースした楽曲「ゴールド・ディガーズ」の中で、佐々木亮介(Vo, G)は「武道館 取んだ3年後 赤でも恥でもやんぞ」と血気盛んに歌った。あれから時が経ち、11月9日に新宿・歌舞伎町で行われたフリーライブでa flood of circleは武道館公演の開催を発表。そこにいた多くのファンが、大歓声を上げ、沸き立ったことは記憶に新しい。
そんな喜ばしいニュースが駆け巡る中、a flood of circleのニューアルバム「夜空に架かる虹」がリリースされた。音楽ナタリーでは武道館公演に向けての推進剤となる新作のリリースを記念して、佐々木と20年近い交流を持ち、バンド結成20周年イヤーに武道館公演を成功させているUNISON SQUARE GARDENの斎藤宏介(Vo, G)との対談を企画。実は同じ小学校に通っていたという数奇な縁を持つ2人に、自由に語り合ってもらった。
取材・文 / 森朋之撮影 / YOSHIHITO KOBA
佐々木亮介と斎藤宏介に共通する原風景
佐々木亮介(a flood of circle) ちょっとおひさしぶりですよね。
斎藤宏介(UNISON SQUARE GARDEN) そんな気がするね。
佐々木 いつだったか忘れちゃったんですけど、スタジオでばったり会って。俺はTHE KEBABSの練習だったんですけど、たまたま斎藤さんがいて、「これから貴雄(鈴木貴雄 / UNISON SQUARE GARDEN)とサウナ行く」って言ってて、仲いいなあと思いました(笑)。
斎藤 そうだっけ?(笑) じゃあ、今年の初めくらいかな。
──初対面はいつだったんですか?
斎藤 いつだっけかな……僕が覚えているのは、新宿LOFTですね。確かイベントかサーキットで、フラッドは小さめのバーステージ(サブステージ)に出てたんですよ。
佐々木 あ、マジですか。
斎藤 うん。人が多くて動けなかったから、店のモニタで観てたんですけど、そのパフォーマンスがミュージックビデオみたいにカッコよかったというか、すごく雰囲気があって。音楽もすごいし、何より歌声が素晴らしかった。
佐々木 うれしい。
斎藤 打ち上げで話しかけたら、歳が近いことがわかって。「普段どんな音楽聴いてるの?」と聞いたら、スピッツって言われたことを鮮明に覚えてます。
佐々木 俺が初めてUNISON SQUARE GARDENを観たのは渋谷のLUSHかな。自分たちも出ているイベントだったんですけど、「ユニゾンは上に行くのが決まってるバンドだから」みたいな雰囲気だった。
斎藤 いやいや(笑)。
佐々木 たぶん俺が20歳か21歳の頃だったから、もう20年近く前ですね。ユニゾンの3人もまだ大学生で、「1つしか年違わないじゃん!」って。最初のアルバム(2009年リリースの「UNISON SQUARE GARDEN」)に入ってる曲もやってたし、完成度がすげえなと。デビュー前後はよくイベントで一緒になってましたよね。
斎藤 うん。当時はジャンルとか関係なく、いろんなバンドが1カ所に集められて「はい、やれ!」という感じで(笑)。People In The Boxもいたし、The Novembers、the telephonesもいて、切磋琢磨してた。
佐々木 そうですね。対バンも何度かしてもらったんですよ。メンバーが失踪したときも……。
斎藤 あったね。伝説のツーマン。
佐々木 デビューアルバム(「BUFFALO SOUL」)を出して、ツアーをやり。ファイナルがユニゾンとの対バンだったんですけど、その1週間前にギターがいなくなっちゃって。自分たちはバンドを続けるって決めたけど、ユニゾンには対バンするメリットがないじゃないですか。でも「出るよ」って言ってくれて、ライブもバッチリ決めてもらえた。そのとき俺らは初めてトリオでライブやりました。
斎藤 いいライブだったよね。あとにも先にも佐々木くんの涙を見たのはあのときだけ。
佐々木 泣いてました? ヤバい(笑)。今年20周年でいろいろ振り返ることもあるんですけど、ユニゾンには事あるごとに助けてもらっていて。
斎藤 要所要所に呼んでもらってる感じがありますね、確かに。テツくん(アオキテツ)が正式加入したときも対バンしたよね。
佐々木 そうですよね。あと、これは個人的な話なんですけど、知り合ってだいぶ経ってから小学校が一緒だったことが発覚して。
──ロンドンの日本人学校ですよね。
佐々木 はい。僕は1歳下だから一緒に通ってたわけではないんだけど、「ロンドンで一緒の学校だった」ってめっちゃ奇遇じゃないですか。
斎藤 ホントだよね。焼き鳥屋さんで小学校の校歌を歌った記憶があるんだけど(笑)。
佐々木 「Big Ben, Big Ben♪」って(笑)。勝手にシンパシーも感じてたし、同じような原風景があるのかもなって。
斎藤 わかる。大人になってからひさしぶりにロンドンに行くと、気候がめっちゃしっくりきたり。
佐々木 空の暗さとか。
斎藤 そうそう。サウンドの好みとかも、ロンドンで幼少期を過ごしたことが影響しているかもしれないですね。
佐々木 これも俺が勝手に思ってることなんですけど、佇まいもちょっと似てる気がして。所在なさげというか、居場所があるような、ないような感じがありつつ、それを別に気にしてないという。
斎藤 それもわかる気がする。
才能に甘えず、ずっと音楽をやってる人=佐々木亮介
──斎藤さんは佐々木さんに対してどんな印象がありますか?
斎藤 才能に甘えず、ずっと音楽をやってる人という印象が一番強いですね。フラッドはもちろん、ソロで弾き語りをやったり、THE KEBABSでも歌ってて。
佐々木 斎藤さんほどじゃないです。
斎藤 いやいや、そんなことないよ(笑)。
佐々木 どのライブか忘れちゃったけど、リハのあととか、楽屋でもずっと歌ってるのを見たことがあって。
斎藤 ライブ前って時間を持て余すでしょ? そこで練習しようと決めてて。
佐々木 なるほど! それ、いいですね。
斎藤 そうでしょ(笑)。あとはずっと頭がグルグルしてる感じもありますね、佐々木くんは。近くにいなくても、曲を聴いてるとそれを感じる。
佐々木 ずっと考えてるといえば、そうかも。斎藤さんはグルグルしてないですか?
斎藤 どうだろう? さっき「所在のなさ」みたいな話をしてたけど、確かにそうだなと思っていて。どこにいても、ある程度いい感じでやれるんだけど、だからこそUNISON SQUARE GARDENを大事にしなきゃなと。
佐々木 なるほど。軸はやっぱりユニゾンなんですね。
斎藤 そうだね。自分が音楽の世界に出たきっかけはUNISON SQUARE GARDENだから、そこはちゃんと自覚しておきたくて。ユニゾンというバンドにおいては、田淵智也が曲を作って、自分はギターと歌で、貴雄がドラムを叩く。そういう役割分担に疑問を持たないようにするのが大事なのかなと。それはたぶん佐々木くんも同じだと思うんだよね。それで、フラッドの新しいアルバム(「夜空に架かる虹」)も聴かせてもらったけど……。
佐々木 ありがとうございます!
斎藤 アルバム、すごくよかった。音楽的にいろんなアプローチがあるし、新しいこともやってるけど、全部がロックンロールマナーに沿っていて。それをあえてやってるんじゃないかなと。本当はあれもこれもできるのに、「a flood of circleの佐々木はこうあるべきなんだ」って自覚しながらやってる印象があるし、それがすごくカッコいいなと。
佐々木 うれしいです。今回のアルバムは録音したあとで全部ぶっ壊して、編集してる曲が多いんですよ。フレーズを組み替えたり、テンポを変えたり、勝手にトランスポーズしてキーを上げちゃったり。
斎藤 そうなんだ!?
佐々木 メンバーに嫌われないか心配してます。なので、さっき斎藤さんが言った「バンドの役割に疑問を持たないようにしている」という言葉がグサッと来ちゃって。
斎藤 ハハハ。
佐々木 今だったら甘えても大丈夫というか、「これだけめちゃくちゃやってもわかってくれるかな」とも思ってるんですけどね。
斎藤さんに褒められたからOK
──今回のアルバム、佐々木さんがミックスをした曲もあるそうです。
斎藤 え、嘘でしょ?
佐々木 ホントです(笑)。なかなか曲ができなくて、最初は6曲しかなかったんですよ。それじゃアルバムにならないから、がんばって3曲くらい作って。締め切り過ぎちゃったけど、自分でミックスすればいいかなと。
斎藤 ちなみにどの曲?
佐々木 7曲目の「キメラファンク(FLY! BABY! FLY!)」と9曲目の「全治」ですね。8曲目(「ルカの思い出」)も途中まで自分でやりました。
斎藤 そうなんだ。「キメラファンク」のスネアも?
佐々木 自分で(笑)。
斎藤 あれはめちゃくちゃカッコいいよね。「キメラファンク」と「ASHMAN」が好きです。
佐々木 やった! 斎藤さんに褒められたからOKですね(笑)。編集もミックスも自分でやったから、素人感が出すぎてないかなと思ってたんだけど。
斎藤 自分でやったからこその説得力があると思う。いろいろ経験すると、できることが増えていくでしょ? ちょっとベースが弾けるようになったり、ピアノに触れるようになったり。それはいいことだと思うんだけど、どこまで追求すべきか?というのもあって。「片足突っ込んだったら、首まで突っ込んでやれ」という気持ちもあるけど、時間って有限だから。
佐々木 わかります。終わりが近いとは言わないけど、40歳くらいになると残り時間のことも考えますよね。
斎藤 RPGで育ってる自分としては、ステータスの振り分け方も大事というか(笑)。
佐々木 「すばやさのたね」の使い方ですね。
斎藤 そうそう(笑)。これまではギターと歌に時間を割き続けてきたけど、佐々木くんみたいにミックスの部分まで手を伸ばすのもカッコいいなと。
佐々木 神は細部に宿るって言うじゃないですか。俺の場合は「神は大雑把さに宿る」を信じてるところがあるんですよ(笑)。音楽的な「まあ、いいか」がだいぶ手前にあるからやれるんだと思います。ただ、もうこれ以上は手を広げられない感じもあって……と言いつつ、来年あたり新しい楽器を始めてるかもしれないけど(笑)。
斎藤 やってそう(笑)。
佐々木 ユニゾンは20年メンバーが変わってないのもすごいですよね。フラッドも今年20周年ですけど、ずっとやってるのは俺となべちゃん(渡邊一丘)だけなので。あと……斎藤さん、髪型がぜんぜん変わらないですよね。会った頃は長かった気がするけど。
斎藤 大昔ね(笑)。
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