リアクション ザ ブッタが新作EP「still e.p」を配信リリースした。「still e.p」には、リード曲「恋を纏って」や、CBCドラマ「もしも世界に『レンアイ』がなかったら」第3話のエンディング主題歌「常夜灯」を含む全6曲を収録。ジャケットは、昨年リリースされた「ドラマのあとで - retake」「恋を脱ぎ捨てて」でもバンドとタッグを組んだ軍司拓実が制作を担当した。なお軍司は、「恋を纏って」のミュージックビデオの監督も務めている。
今回、音楽ナタリーは「恋を纏って」のMV撮影現場に足を運んで取材を実施。リアクション ザ ブッタ、「恋を纏って」のMVに出演した俳優の萩原利久、MV監督の軍司へのインタビュー、そしてバンドへの単独インタビューを行った。EPや「恋を纏って」MVの制作についてはもちろんのこと、萩原&軍司が考えるリアクション ザ ブッタの音楽の魅力から「これまで出してきた音源の中でも一番いいものができた」と語るほどに本作に自信を持つ真意まで、さまざまなトピックを掘り下げる。
取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / 山崎玲士
木田の弟の親友
──今回はブッタの新曲「恋を纏って」のMV現場で取材をしており、ブッタの3人のほか俳優の萩原利久さんと、監督の軍司拓実さんにも参加していただいています。萩原さんがブッタのMVに出演するのは初めてですが、かねてからバンドのメンバーと交流があると聞いています。
木田健太郎(G, Cho) 実は僕らというより、僕の弟と利久くんがめちゃくちゃ仲よくて。
萩原利久 はい。20歳の頃に出会ったから、もう6年ぐらいの付き合いになりますね。僕が木田さんの弟を含む仲のいい3人で旅行に行ったとき、車の中でブッタの曲が流れたことをきっかけに、お兄さんがバンドをやっていることを知りました。
大野宏二朗(Dr) すごい。いい感じのシチュエーションで紹介してくれたんだ(笑)。
木田 弟からも「友達の利久がブッタ聴いてくれてるよ」って報告をもらってました。
萩原 弟を通じてバンドの近況を聞いたり、曲の感想を伝えてもらったりして(笑)。それでライブを観に行かせてもらったのが、メンバーの皆さんとの初対面です。
佐々木直人(B, Vo) イベントで偶然出会ったこともあって。会うのは今日で3回目かな。
──そういった交流もあってMVの出演をオファーしたんですか?
木田 はい。弟から利久くんがすごい俳優さんであることは聞いていたので、ぜひ僕らのMVにも出てもらえたらな、と。
萩原 仕事のオファーなので事務所同士の正式な連絡はもちろんあるんですが、弟からは内々に「こういうお願いってできるものなの?」と聞かれたことがあって。もうエージェントですね(笑)、彼は。
聴くだけで情景が見えるバンド
──軍司監督がブッタのMVを担当するのは「ドラマのあとで - retake」「恋を脱ぎ捨てて」に次いで3作目になります。「恋を纏って」という楽曲と萩原さんというキャストが決まったうえで、軍司監督にMV制作のオーダーがあったわけですよね?
軍司拓実 はい。萩原さんという素晴らしい方にお声がけいただいていたのは、僕としては完全にプラスでした。ブッタの楽曲のMV制作を過去に担当させていただいたときも感じていましたが、楽曲を聴くだけで情景が見えてくるのがこのバンドの魅力だと思っていて。その情景をどう映像に落とし込むのが正解か。歌詞で描かれているシチュエーションを忠実に拾うか、拾わないかでけっこう悩みました。
──「ドラマのあとで - retake」と「恋を脱ぎ捨てて」のMVは、歌詞で描かれたシチュエーションを拾っていく、いわゆる“ロケもの”的な側面がありましたが、今回のMVでは同じ手法を取っていません。
軍司 萩原さんが表情だけでいろんな演技ができる方だという確信があったので、今回はシンプルに彼1人だけをフィーチャーして、心象風景を描き出すようなアプローチにしてみました。
佐々木 これまでの2曲で、軍司監督は心の描写をうまく映像で表現できる方だなと感じていて。「恋を纏って」って少し微妙な距離感の“別れの歌”なんですよ。こういう曲を軍司監督にお願いしたらどうなるかな、という期待も込めて声をかけさせていただきました。
──「恋を纏って」で描かれている男女は、まだ一緒にいるけれども別れることが決まっている、少し複雑な境遇の2人ですよね。
佐々木 はい。別れることは決まっていて、最後の最後に「さようなら」をするまでの時間を書いたのが「恋を纏って」という曲です。けっこう具体的な描写も多いから「これまでの2作のようにロケものになるのかな」と予想していたので、今回のアプローチは意外でした。けど、すごくよかったです。
軍司 僕としても「ロケものが期待されているだろうな」と思いながら、今回は違うアプローチを提案してみました。ハマるかどうかは今日の撮影次第だったので、いい感じに撮れていて満足しています。
「顔から歌詞が出てる」
──心象風景を描くとなると、萩原さんの演技が担う役割が大きいと思います。萩原さんはこの曲をどのように自分の中に入れて、今日の撮影に臨みましたか?
萩原 難しいことはそこまで考えてなくて。先ほど監督がおっしゃったように聴くだけで情景が浮かんでくる曲なので、流れている音楽に耳を傾けて、その通り体を任せれば自ずと表情に表れる、という感じでした。
大野 監督が「ちょっとモヤモヤした感じでお願いします」ってオーダーを出したあと、利久くんの表情を見たらちゃんとモヤモヤした感じになるんですよ。さすがプロだなあ、と感心しました。
佐々木 隣で歌っていて、利久くんの表情を見ると、僕が書いた歌詞そのままの苦悩や葛藤を表現してくれているようで、すごく頼もしかったです。
木田 ウチのスタッフが「顔から歌詞が出てる」って感動してましたよ(笑)。
萩原 ありがとうございます。
木田 撮影しているうちに「ジャンルは違えど負けたくない」という思いが強くなっちゃって、演奏にも熱が入りました。熱が入りすぎて、監督に「もう半歩下がってください」と立ち位置を直されちゃって(笑)。あれは自然と利久くんに向かっていったんだと思います。
萩原 逆に僕からすると、目の前で3人が演奏してくれているわけですから、特等席でライブを観せてもらっているような感覚でした。アンプを通していないからライブハウスで聴くような音が鳴っているわけではないけど迫力がありましたし、やっぱり僕1人を撮るシーンよりも皆さんと一緒のシーンのほうが入り込める感覚がありました。ここまでの話を聞いて、お互いの存在がすべてにおいてポジティブに働いている、いい現場です。
軍司 そう言ってもらえると監督冥利につきますね。今回のように心象風景を描く映像って正解がないので、説得力を持たせるのが一番大事。言ってしまえば、キャストさんにめちゃくちゃ依存してしまうところがある。今回は一発目のカメラを回したときから、楽曲で描かれている感情を萩原さんが表現してくれている手応えがあったので、これはもうイケるなと。
──MVによってはドラマシーンと演奏シーンを完全に切り分ける構成もありますが、今作はその境界が極めて曖昧な、萩原さんを囲うようにブッタの3人が演奏するシーンがあるのも見どころだと思いました。
軍司 そこは非常に悩んだところですね。MVの中で、バンドが出る意味みたいなものは常に考えています。今回は「恋を纏って」という曲名からインスピレーションを受けたところが大きくて。我々映像監督は楽曲をもとに映像の世界を作り上げるわけですが、結局のところ元となる音楽そのものを作っているのはバンドの3人なんですよね。なのでそもそもまず、3人が楽曲の心情みたいなものを直接体現してくれる存在なわけで。今回に関しては萩原さんが登場したときに、彼が演じる男性の頭の中の、本当の感情、心の叫びみたいなところを3人に直接的に体現してもらう、といった感覚に近いでしょうか。で、結果として萩原さんの周りを、“恋(感情)纏う”ように3人が演奏するのがコンセプトにも当てはまるなと。特にブッタの3人が大人っぽい感情を体現するのにも長けていたので、イメージ通りの絵が撮れています。
友情出演でいつか弟を
──監督と萩原さん、それぞれブッタの曲でこんなものを撮ってみたい、もしくはこんな役をやってみたい、といったイメージはありますか?
軍司 これまで携わった3作品でわかってきたこともあるので、今度はショートフィルム風のMVなんかも撮ってみたいですね。キャストさんを立てる手法はブッタのMVに合うと感じつつ、もうちょっとリアルさを追求するというか。妥協なくみんなのインスピレーションのままガッツリ撮って、それをショートフィルム風にするのは面白いと思います。
萩原 そうだなあ。僕というより、弟に出演してほしいな。友情出演として。
木田 (笑)。
萩原 今回のMVで僕が出演させていただいたので、例えば僕の友人役だったり。
大野 小道具的に、利久くんの写真に写っているのが弟、とか。
軍司 「恋を纏って」に関連した楽曲が今後作られるとしたら、あり得ない話ではないですよね。また萩原さんに出演してもらって、楽しかった過去のシーンの中に友達が出てくるとすれば自然な話ですから。
大野 本物の友達2人が出ていたらショートフィルムじゃなくてドキュメンタリーになっちゃうよ(笑)。それはそれで面白そうだけど。
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リアクション ザ ブッタ 単独インタビュー



