緑黄色社会のニューシングル「My Answer」がリリースされた。
「My Answer」には表題曲のほか、2023年5月リリースのアルバム「pink blue」に収められていた楽曲「さもなくば誰がやる」を収録。「My Answer」は天海祐希主演のテレビ朝日系ドラマシリーズ「緊急取調室」、「さもなくば誰がやる」はその劇場版の主題歌としてそれぞれ使用されている。緑黄色社会は2021年発表の楽曲「LITMUS」でも「緊急取調室」の主題歌を担当しており、バンドと同作の強いつながりが今作で示された。数々のタイアップを経験してきたリョクシャカだが、4人にとって“キントリ”とのタッグはどのようなものなのだろうか。リョクシャカのタイアップへの向き合い方を含め、シングル「My Answer」制作の裏側について話を聞いた。
取材・文 / 天野史彬撮影 / 笹原清明
内省的な顔を出す絶好の機会をいただけた
──最新シングル「My Answer」は、表題曲「My Answer」、そしてカップリングの「さもなくば誰がやる」の2曲ともに刑事ドラマ「緊急取調室」シリーズの主題歌ですね。2021年の「LITMUS」から始まった緑黄色社会と「緊急取調室」のタッグですが、この3曲を順番に聴くとバンドのドキュメントのようにも感じられます。改めて、「緊急取調室」に楽曲を提供してきたことは、どんな体験でしたか?
長屋晴子(Vo, G) ほかにもタイアップで楽曲を制作させていただくことはありますけど、シリーズとして携わったのは「キントリ」が初めてなんです。3作を通して、「前作とは違いを出したい」という思いで曲作りをしてきて。同じドラマ作品に対して曲で変化を出していくのは自分たちにとって新しい体験だったし、この関係性じゃないと作れない曲を作ることができたと思います。振り返ってみても、ありがたい体験でした。
穴見真吾(B) 緑黄色社会がタイアップで曲を作るときって、僕らのパブリックイメージ的に明るくてさわやかな曲を求められがちなんです。でも「キントリ」さんはそういうことは関係なく、素直にいい曲を求めてくれる。それがうれしかったですね。バンドとして内省的な顔を出す絶好の機会をいただけたなと思います。ノンタイアップでも、自分たちからそういう曲をシングルで出すことは少ないバンドなので。
peppe(Key) 歌詞に関しても、誰の目線で書いているかが曲ごとに違うんですよね。被疑者目線の曲もあれば、キントリチーム目線の曲もある。そういう部分に着目して聴いてもらえるとより楽しいと思います。何より、長年愛されてきた作品に少しでも仲間入りできたことが私はうれしいです。
小林壱誓(G) 「LITMUS」からの3曲で、ちゃんと1曲ずつ歴史が刻まれていった実感があります。それぞれ曲を書いたメンバーは違うけど、緑黄色社会としては“3部作”みたいな感覚がありますね。
穴見 本当に、3曲とも全部顔が違うよね。
長屋 ね、本当に。
──「My Answer」はドラマ「緊急取調室」5th SEASONの主題歌で、作詞は長屋さん、作曲は穴見さんが担当されました。歌詞には、人生の選択の重みや、その選択を自分にとっての「答え」だと言えることの強さが描かれているように感じました。長屋さんはどんなことを考えながら歌詞を書かれたんですか?
長屋 被疑者になった人は、最終的に「ああすればよかった」と後悔する方が多い、という話を聞いていて。そこから「選択肢」というキーワードが浮かんできたんです。まずはそこから広げていきました。「答え」と歌っているので、すごく強い曲だと思われるかもしれないけど、私としてはあきらめや虚しさも含んだうえでの答えを歌っている感覚です。
──なるほど。
長屋 そのほうが人間らしいと思うんです。大人になると、何かを選択しなければいけない場面が増えますよね。でも、正々堂々と「これが答えだ」と信じながら答えを出せることのほうが少ないと思うんですよ。どこかで、「ちょっと違ったかな……」と考えながらする選択のほうが多いはず。それでも、自分がした選択を答えだと信じながら進んでいく。そういう姿を私は描きたかったんです。なので、その先に迷いがあってもいいし。もどかしさがあるけど、強さもある。そういうものを書きたいと思って作詞を始めました。
「君は本当に良かったのかい?」
──皆さんは、今回の「My Answer」の歌詞をどのように受け止めていますか?
peppe 私は歌詞を読んだときに一番ビビッときたのが「この未来が別れてしまったなら 私などいなくなる」という部分でした。私はもう少しで30歳になりますけど、メンバーのみんなと出会ったのは15歳のときで、バンドという存在がなくなったら私ではなくなるなと。そのくらいバンドが自分の中で大きい存在になっているし、メンバーに育ててもらったくらいの感覚があるんです(笑)。それは人間的にもそうだし、音楽的にも言えること。このメンバーで歩み続けてきたから今の私がいるんだなって、この歌詞を見たときにふと思ったんですよね。「緑黄色社会がなくなったら、私はいなくなる」と宣言できてしまうくらいの強い気持ちが自分にはあるんだなと気付きました。
穴見 僕は最後から3行目の「君は本当に良かったのかい?」という部分が印象的でしたね。それまでずっと自分の感情を出し続けてきて、そのまま振り切るかと思いきや“君”の存在が出てくる。そこが人間らしくて好きです。全体としては開き直っている感じがするけど、最後の最後に追い詰められた部分が表れる。そこにハッとするし、共感できますね。
──長屋さんご自身としては、この部分はどんな思いで書かれたんですか?
長屋 自分で「これが答えだ!」と思った瞬間にこそ、余計に迷いが出てくることってあるよなと思って。恋愛の曲だと思われるかもしれないけど、それ以外も含めて自分だけの出来事じゃない場合こそ、選択は重くなるし、なかなか踏み切れなくなると思うんです。私自身、そういうことがすごく多くて。それで最後の最後に、「君は本当に良かったのかい?」という歌詞が出てきたんだと思います。
小林 僕も、この「君は本当に良かったのかい?」の部分でハッとしました。“他者がいるからこそ揺らぐ自分”が出ているというか。人の一番脆いところが表れている気がします。長屋らしい歌詞だし、自分だったらこうは思わないなと。
長屋 そうなんだ(笑)。
小林 僕はこんなに優しくないので(笑)。
──(笑)。「My Answer」はサウンド面のインパクトもとても大きいです。セクションごとにさまざまな要素が入っているし、音像も立体的だし、「この曲はどこから作ったんだろう?」と不思議な気持ちになる曲ですね。
穴見 一緒に編曲してくれた横山(裕章 / agehasprings)さんの意見が加わって、より立体的になっていきました。最初のデモは、もっとアコースティックな雰囲気だったんですよ。シンセもほとんど入っていなかったし、アコギとピアノとエレキギターとベースとドラムぐらいで。5人で演奏しているのがそのまま聴こえてくるくらいの“部屋感”があったというか。それに対して、横山さんがシンセを足してくださったりして、景色が立体的になっていきました。風の音のようなSEも入っているし、主人公の心情をさらに豊かに描いてくれたと思います。
──そもそも穴見さんは、今回の「緊急取調室」の主題歌としてどんな曲がふさわしいと思っていたんですか?
穴見 「LITMUS」や「さもなくば誰がやる」のような緊張感ではなく、凪のような感覚というか。温かみもあり、憂いもある……そういうバランスの曲を聴けたらうれしいって、監督からは伝えられていて。僕の個人的な思いで言うと、被疑者って、どうあがいても孤独じゃないですか。抱えているものが大きいうえに、それを誰にも言えないでいる。それを、一筋の光のような、救いのような……優しさで包み込んであげられる音楽になればいいのかなという、ざっくりとしたイメージがあって。そういうことを考えながら道を歩いていたときに思い浮かんだのがイントロのフレーズでした。
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