「ワンス・アポン・ア・塊魂」特集|個性全開の「素敵ソング」解説&クリエイターコメント

ゲーム「塊魂」シリーズの最新作「ワンス・アポン・ア・塊魂」が、Nintendo Switch、PlayStation 5、Xbox Series X|S、Steam向けゲームソフトとして先日発売された。これに合わせてゲームを彩るサントラが11月13日に配信で、12月17日にCD盤がリリースされる。

2004年に誕生した「塊魂」は、球体の塊を動かし、さまざまなものを巻き込んで大きくしていく“ロマンティックアクションゲーム”。毎作さまざまなアーティストによる素敵ソング(オリジナルソング)がBGMとして使われており、その独創的なラインナップやサウンドが音楽好きにも高く評価されている。「ワンス・アポン・ア・塊魂」の素敵ソングを歌うのは、歴代シリーズでもおなじみの松崎しげるや新沼謙治のほか、クレモンティーヌ、こっちのけんと、さだまさし、やくしまるえつこ、花譜、suis from ヨルシカ、Daoko、chelmico、花海咲季、朝倉さや、サンフランシスコ少年合唱団、ウ山あまねといった面々。歌唱ありの楽曲作家陣もシリーズファンにはおなじみのサウンドディレクター兼メインコンポーザーの三宅優(MIYAKEYUU STUDIO)をはじめ、みすみゆり(MONACA)、矢野義人(Bandai Namco Studios Inc.)、Shogo Nomura(Bandai Namco Studios Inc.)、Asuka Sakai、TAKU INOUE、ミフメイ、AJURIKA、神前暁、石濱翔、広川恵一、瀬尾祥太郎、オリバー・グッドといったラインナップだ。

ゲームの発売およびサントラのリリースを記念して、音楽ナタリーでは「ワンス・アポン・ア・塊魂」の特集を企画。素敵ソング全曲解説と、みすみ、三宅、矢野、Shogo Nomuraらクリエイター陣のコメントを通して、「ワンス・アポン・ア・塊魂」の音楽世界を紐解く。

文 / 秦野邦彦

「ワンス・アポン・ア・塊魂」素敵ソング全曲解説

塊魂 feat. chelmico「カタマリタイム!」
[作詞・作曲:Yuu Miyake、chelmico / 編曲:Yuu Miyake]

「カタマリマス! アザ アザマス!」のパンチラインに思わず心ウキウキ! 笑顔が浮かぶ素敵ソングを届けてくれたのは、RachelとMamikoの友達2人組で結成されたラップユニットchelmico。母親譲りで大のゲーム好きというRachelは、今回14年ぶりの家庭用新作となる「塊魂」シリーズへの参加に大喜び。タッグを組んだ作詞・作曲・編曲の三宅優との息もピッタリの「塊魂」を作り上げた。ラップパートのリリックは2人が書いているため、いつものchelmicoらしさが炸裂。ファンの喜びもひとしおである。

Daoko「やんやん」
[作詞・作曲・編曲:ミフメイ]

「やんやんやーんやーんやーんやー…」という謎フレーズ、そしてほどよい脱力感のラップが頭から離れなくなる中毒性の高いナンバー。現在放送中のテレビアニメ「ある日、お姫様になってしまった件について」の日本語版オープニング主題歌「いいよ」、そして自身初のアジアツアーで深圳、上海、バンコク、台北、ソウルを熱狂させたDaokoの快進撃が止まらない。作詞・作曲・編曲のミフメイは「アイドルマスター」シリーズやアニメ「新幹線変形ロボ シンカリオンZ」のエンディングテーマ「キズナ・レール」、ゲーム「鉄拳8」の音楽を手がけ、制作「ホロライブEnglish -Advent-」に楽曲提供をしている鬼才で、クラブでも盛り上がりそうなゲームカルチャー発のベースミュージックを提供した。Daoko×ミフメイのタッグは今後もぜひ続いてほしいところだ。

塊魂 feat. 花譜「カタマリイズム」
[作詞・作曲・編曲:TAKU INOUE]

YouTube登録者数100万人超え、総再生数3億回を突破するバーチャルシンガーの花譜。今回は「何度も続けて聴きたくなるような、ヤミツキのサウンド、語感がたまらんのです…歌うの本当にたのしかったな」という本人のコメント通り、彼女のハジけた一面をクローズアップした楽曲となっている。作詞・作曲・編曲のTAKU INOUEは、「リッジレーサー」「鉄拳」「アイドルマスター」シリーズなどゲームの楽曲や、DAOKO、Eve、ナナヲアカリ、月ノ美兎らのサウンドプロデュースおよび楽曲提供を手がけ、星街すいせいとの音楽プロジェクトMidnight Grand Orchestraといった幅広い活動で海外からの支持も高い。時代を象徴するポップミュージックの送り手と言える。

こっちのけんと「ええじゃええじゃないか」
[作詞・作曲・編曲:矢野義人(Bandai Namco Studios Inc.)]

2024年に「はいよろこんで」が大ヒットしたソロシンガー、こっちのけんとが「塊魂」シリーズに初参加。大学在学中はアカペラサークルで活躍していただけあって、聞き取りやすい発声と抜群のリズム感でゲームとの親和性の高さを伺わせる。ヴァースの「タッタッと走る トコトッコ進む ゆらりゆらりとなんだかかんだか気分」のフロウではけんと節が全開に。続く「ライライライ Gotcha くっつけえんやさ ライライライ そんでええじゃええじゃないか」は解放感に満ちあふれ、クセになること請け合い。作詞・作曲・編曲の矢野義人は初代「塊魂」から楽曲を手がけ、椛田早紀「LONELY ROLLING STAR」、松崎しげる「愛のカタマリー」など数々の素敵ソングを生み出してきた人物。これまたプロフェッショナルの仕事を垣間見た気分だ。

ウ山あまね「skyscraper(s)」
[作詞・作曲・編曲:広川恵一(MONACA)]

タイトルの「skyscraper」とは摩天楼、超高層ビルのこと。空を削るようにそびえ立つ存在は繁栄する大都会の象徴だ。シティポップを令和風に再解釈した同曲でボーカリストを務めたのはウ山あまね。クリエイティブ集団PAS TASTAでの活動や長谷川白紙との交流でも知られる彼は現在のオルタナティブシーンを代表する気鋭のアーティストだ。「tick tack stick 回す」の特徴的な息遣いはCorneliusファンにもオススメしたいところ。作詞・作曲・編曲の広川恵一はキャッチーなメロディと個性的なサウンドメイクに定評があり、現在放送中のテレビアニメ「キミとアイドルプリキュア♪」のオープニングテーマ「キミとアイドルプリキュア♪ Light Up!」でも見事な手腕を発揮している。

クレモンティーヌ「Katamari Damacy」
[作詞:Clémentine / 作曲・編曲:神前暁(MONACA)]

クレモンティーヌ×神前暁によるジャジーなムード漂う極上のフレンチポップが誕生した。クレモンティーヌは1992年に井出靖プロデュースで小沢健二、田島貴男、ゴンチチ、高浪敬太郎らが作編曲に参加したアルバム「アン・プリヴェ~東京の休暇」で一躍その名を広めたアーティスト。2010年には「アニメンティーヌ ~ボッサ・ドゥ・アニメ~」で日本のアニメソングをフランス語で歌い、話題となった。「Katamari Damacy」作・編曲の神前暁は、初代「塊魂」を彩った「塊オンザロック ~メインテーマ」にトランペット演奏で参加して以来21年ぶりの「塊魂」シリーズへの参加となる。クレモンティーヌとは2016年公開の映画「傷物語 II 熱血篇」のエンディングテーマ「étoile et toi」(作詞:meg rock / 作曲:神前暁 / 編曲:神前暁、高田龍一)以来の付き合いで、今回も息ピッタリ。

塊魂 feat. suis from ヨルシカ「彗星日和」
[作詞・作曲・編曲:Shogo Nomura(Bandai Namco Studios Inc.)]

ヨルシカのボーカルであるsuisの透明感ある歌声と、疾走するストリングスの音色が極上の爽快感を与えてくれるナンバー。中でも「愛を、愛を、愛を」に顕著なsuisの圧倒的な表現力が、聴く者の頭上を駆け抜けていく彗星を想起させる。作詞・作曲・編曲を担当したShogo Nomuraいわく「彗星の歌であり再会の歌なので、時空を超えるような転調が何度も繰り返されながらキーが行ったり来たりします」とのこと。歌詞をなぞった展開が素晴らしく気持ちいい。Shogo Nomuraは本作にミュージックディレクターとしても参加し、さだまさし「愛しているから」の編曲のほかインストBGMも多数手がけている。

塊魂 feat. 朝倉さや「古今東西塊道中」
[作詞・作曲・編曲:瀬尾祥太郎(MONACA)]

「おらは流離の風来坊」というこぶしが効いた歌い出しで聴き手を魅了するのは、山形県出身のシンガーソングライター朝倉さや。小学生のときに民謡を習い始め「民謡民舞少年少女全国大会」で2度優勝し、2013年にデビュー。山形弁で歌ったカバーアルバム「方言革命」やゲーム「天穂のサクナヒメ」の主題歌「ヤナト田植唄・巫 ―かみなぎ―」が大きな話題に。今回は「NieR」シリーズの音楽やテレビアニメ「顔に出さない柏田さんと顔に出る太田くん」のエンディングテーマ「あまのじゃくヒーロー」や学園アイドルマスター「Yellow Big Bang!」などで知られる瀬尾祥太郎と抜群のコンビネーションを見せている。朝倉いわく「ゲーム内に山形弁で巻き込まれるオカミサンも爆誕いたしました。見つけでけらっしゃい」とのこと。「古今東西塊道中」にハマった人は彼女の「秋田大黒舞 -Future Trax-」も気に入るはずなので、ぜひチェックを。

松崎しげる「Power of 塊魂」
[作詞:みすみゆり(MONACA) / 作曲・編曲:Oliver Good(MONACA)]

「ハッハッハー…… Let's Go!」という豪快なシャウトで幕を開けるファンキーなR&Bナンバー。1970年に歌手としてソロデビューし、デビュー55周年を迎えてなお「生ある限り歌う」と誓う松崎しげるの真骨頂を堪能できる1曲となっている。制作は、みすみゆり、オリバー・グッドという鉄壁の布陣。余談だが松崎はギタリストとしても活躍しており、本作の「レフティーなギターも 左手でカッティング」という歌詞の通り、本人は左利きである。「塊魂」シリーズには「ビューティフル塊魂」を除いて毎回参加し、歌詞に「日に焼けた肌」というフレーズが入るのがお約束だが、今回も終盤に「救われてきた アツい歌と日に焼けた肌に」という一節が。思わずガッツポーズするファンの姿が目に浮かぶようだ。

San Francisco Boys Chorus「San Francisco Katamari Boys Chorus Song」
[作詞:Mary Carter / 作曲・編曲:Asuka Sakai]

「塊魂」の音楽と言えば、意表を突くキャスティングが特徴とはいえ、1948年に設立された伝統あるサンフランシスコ少年合唱団まで参加するとは想定外。メンバーも「普段歌っている曲とはまったく違ったので、とても楽しかったです」とコメントしており、澄んだ歌声で「カタマリダマーシー」と歌われると魂が浄化される思いだ。4章からなるメドレー構成で5分半ある大作だが、どのパートも展開が素晴らしく、時間を忘れて聴き入ってしまう。作曲・編曲のAsuka Sakaiは近年はテレビアニメ「ゆゆ式」「星屑テレパス」の劇伴でも手腕を発揮している。作詞者のMary Carterは、つまりカーターマリーということだろうか。

花海咲季「カタマリオンザドゥン」
[作詞・作曲・編曲:Yuu Miyake]

「塊魂、ここにあり!」。話題沸騰のアイドル育成シミュレーションゲーム「学園アイドルマスター」より、入学試験首席の新入生元アスリートの花海咲季が参加するこの曲。「塊魂」シリーズ初代からサウンドディレクターおよびメインコンポーザーを務めてきた三宅優の才気が随所で炸裂しており、謎の高揚感に包まれること間違いナシだ。「I wannaドゥン!Cause like a ドゥン! You know theドゥン!ドゥン ドゥ ドゥン!」というフレーズに続いて、広がるのは牧歌的世界。「学園アイドルマスター」の月村手毬、藤田ことねもコーラスで参加しており、実質Re;IRISの新曲と言っても過言ではない。今後は「ドゥーン」は芸人・村上ショージ、「ドゥン」は花海咲季と覚えておきたい。

新沼謙治「脱力王子」
[作詞・作曲・編曲:AJURIKA]

「ちぇけだ! あ、ふぁんきだ!」の名フレーズで話題をさらった初代素敵ソング「月と王子」から21年。ヒップホップ勢からも熱い注目を浴びる新沼謙治が三たび「塊魂」シリーズに登場した。今回も「Yo! Yo!」の合いの手を挟みながら、バリバリの岩手訛りで王子ソングを熱唱。「小さな事など気にすんな 大きい事だけ夢描け」「脱力で楽しんで ダメでもともと動き出せ」と優しく喝を入れるメッセージソングとなっている。AJURIKAが手がけた「月と王子」に続き、歌詞に「自由なマインドと溢れるソウル」というフレーズが入っていることもポイントだ。

やくしまるえつこ「DIVER」
[作詞:みすみゆり(MONACA) / 作曲・編曲:石濱翔(MONACA)]

時を超え、世を巡る今作のテーマを凝縮したような1曲。やくしまるえつこの歌声で「時を超えるダイバー 珍獣使いに似て 声なき虹を放つ つまり最強」と歌われれば誰もがひれ伏さざるを得ない。羽田空港第2ターミナル国際線到着エリアのサウンドアート、大阪・関西万博でケン・リュウ原作の「SF狂言 もののあはれ」のボイス&ミュージックなど多岐にわたる活動で日常を“HACK”する彼女。作詞のみすみゆりは「太鼓の達人」「塊魂」シリーズで多数の曲を手がけ、「katamari mambo~塊シンドロームmix」「輝け!Mr.サンシャイン」などで作詞・作曲・編曲を担当。作曲・編曲の石濱翔は最近では「アイドルマスター シンデレラガールズ」シリーズや、映画「アイカツ!×プリパラ THE MOVIE -出会いのキセキ!-」のエンディングテーマ「プリティー×アクティビティ」の作曲も手がけている。

さだまさし「愛しているから」
[作詞・作曲:矢野義人(Bandai Namco Studios Inc.) / 編曲:Shogo Nomura(Bandai Namco Studios Inc.)]

さだまさし×「塊魂」とくれば、長崎弁でラップに挑戦した「がんばらんば」やオートチューンを駆使したEDM歌謡「パスワードシンドローム」のような変化球が来るかと思いきや、この曲は作詞・作曲の矢野義人、編曲のShogo Nomuraの手腕が発揮された美しい王道バラードとなった。さだはこれまで「愛」「愛について」「愛の音」「愛をみつけた」「風が伝えた愛の唄」など多数の“愛の歌”を歌ってきたが、今回は宇宙規模の壮大なスケールに。途中に挿入される語り、そして「Love and Katamari」といったワードセンスも光る。間もなく20周年を迎える人気トークバラエティ番組「今夜も生でさだまさし」同様、この素敵ソングで「今夜もゲームでさだまさし」といきたいところだ。

ほかにもいっぱい!聴き応えありまくり「ワンス・アポン・ア・塊魂」BGM

今後世界的に大幅な成長が予測されるゲームミュージック市場。その歴史はYellow Magic Orchestraとナムコ(現バンダイナムコ)の存在を抜きに語れない。1978年にYMOが発表した「コンピューター・ゲーム “サーカスのテーマ”」(デビューアルバム「イエロー・マジック・オーケストラ」収録)は、細野晴臣がKORG PS-3100を使って米Exidy社のビデオゲーム「サーカス」の音色と音階を模倣したもの。1984年には細野プロデュースのもとナムコのアーケードゲームの音楽を収録した世界初のゲームミュージックアルバム「ビデオ・ゲーム・ミュージック」がリリースされた。これを機に世界初のゲームミュージック専門レーベルが発足し、現在の隆盛へとつながっていく。

ゲーム内容のみならずクオリティの高い音楽を追求してきたナムコの伝統は「塊魂」シリーズに色濃く継承されている。14年ぶりの家庭用新作となる「ワンス・アポン・ア・塊魂」も「素敵ソング」と呼ばれる楽曲やBGM制作に、サウンドディレクター兼メインコンポーザーの三宅優をはじめ、AJURIKA、Asuka Sakai、TAKU INOUE、ミフメイ、バンダイナムコスタジオから矢野義人、Shogo Nomura、大木奏弥、大澤めい、Sho Okada、北谷光浩、坪井リヒト、中鶴潤一、増渕裕二、バンダイナムコ研究所からHiroshi Okubo、そして音楽集団MONACAから、みすみゆり、神前暁、石濱翔、広川恵一、瀬尾祥太郎、オリバー・グッド、井上馨太というそうそうたる顔ぶれが参加。「タイムトラベル」がテーマとあって、BGMも和風ファンクな「ムカシニホン」、ニューオリンズ・ビートの「ムカシアメリカ」、エレクトロニカ風の「ムカシヨーロッパ」、エスニックな「ナナナンフシギ」など、世界各国の民族音楽をベースにしたナンバーが満載だ。「ICE CUBE SOUL」の80'sフュージョン感や、「大コスモ絵巻」の90'sアンビエントテクノなどは、サウンドのみでストレートに刺さる世代も多そうだ。