XinUがメジャー移籍後初のEPとなる「XinU EP #04」を11月12日にリリースした。
今年7月にキングレコード内のレーベル・HEROIC LINEから「Monday to Friday」を発表してメジャーリリースを果たしたXinU。「XinU EP #04」は、「Monday to Friday」や、Aile The Shotaとのコラボ曲「Timing (feat. Aile The Shota)」、Michael Kanekoやグソクムズの中島雄士を作家として迎えた新曲など全6曲で構成されている。
音楽ナタリー初登場となるこのインタビューでは、メジャーリリースを経ての環境の変化、「XinU EP #04」に込めたクリエイティブにおけるこだわりや挑戦についてたっぷりと語ってもらった。
取材・文 / 内本順一撮影 / 梁瀬玉実
自分たちのやりたいことを
──今年のトピックと言えば、まずメジャーレーベルであるキングレコード内のHEROIC LINEに移籍して、7月に「Monday to Friday」をリリースしたことですよね。環境が変わって、いかがですか?
「Monday to Friday」をリリースする半年前から方向性を模索していて、チームで「メジャーから出す曲はどういう作品がいいだろう?」と話し合っていたんです。いろんなアイデアが出たけど、結局は「自分たちのやりたいことを素直にやろう」「XinUらしい曲を素直に作ろう」という結論に至った。なのでHEROIC LINEに対しては、自由に制作させてもらえて感謝の気持ちが強いですね。それとライブの現場やミュージックビデオの撮影現場に、レーベルのスタッフの皆さんが来てサポートしてくださるのはかなり心強いです。これまでは2、3人でいろいろやっていたけど、サポートしてくださる方が増えたことによって、私は作ることと歌うことだけに時間を費やすことができる。そこが大きく変わったところですね。
──自分のやるべきことに、より集中できるようになった。
はい。いいことしかないです。
──「XinU EP #04」の話をしましょう。制作前には、どんなEPにしたいと考えていたのですか?
コンセプチュアルなEPにする案もあったけど、いろんなアイデアを出し合う中で「Monday to Friday」ができたんですよ。「Monday to Friday」は8曲くらいデモがある中で模索しながら正解を見つけ出せた曲で、さっきお話しした通り、「自分がやりたいことを素直にやるのが一番だ」と改めて思った曲だったんです。だからEPも「こういう作品にしよう」と決め込みすぎるのではなく、1曲1曲で今やりたいことを素直に詰め込もうと思えた。新しいビート感で歌うことを試したり、一緒にやってみたかった人とコラボレーションしたり、とにかく何かしら自分なりの挑戦ができてきればOKってことで進めていきました。
XinUらしさを見つめ直しながら進化したい
──本作は「Monday to Friday」「Timing (feat. Aile The Shota)」と軽やかな曲が頭に続くこともあって、気持ちよく聴けるEPという印象です。憂いのあるR&Bチューン「Day 6」やミッドバラード「余韻」もあるので全部が軽やかというわけではないけれど、「バタフライ」のようなエレクトロ味のある曲も収録されていた昨年12月の2ndアルバム「A.O.R - Adult Oriented Romance」に比べると非常にとっつきやすい。まあ今回はEPというサイズ感だからというのもあるでしょうけど。
確かに「A.O.R - Adult Oriented Romance」には「バタフライ」のように攻めた曲もあったし、アンビエント調の「ア・ラレイ」もあったし、「ロマンス」のアカペラバージョンもあったけど、今回はEPなので、そうやって新境地を切り開くような曲は1回置いておこうと思ったんです。アルバムを作るときにまた思い切った新しいことをやりたくなるかもしれないけど、「XinU EP #04」の6曲はメロディを口ずさみやすい曲やダンサブルな曲で構成したいという意識が根底にありました。
──Michael Kanekoさんとがっぷり組んだ「Day 6」を除いて、残りの5曲はXinUさんをデビュー時から支えている松下昇平(M-Swift)さんがプロデュースを手がけています。そうした布陣からも原点を見つめ直しながらクオリティを高めていく、というアプローチで作られたEPであることが伺えます。
そうですね。メジャーからのリリースだからといってゲストをたくさん呼ぶのではなく、今までやってきたことをもう1回見つめ直してやってみようという考えは確かにありました。XinUらしさを見つめ直しながら進化できたら、という思いがあったんです。
──リリックも以前に比べたらずいぶん外に開かれている印象を受けました。
最初のEP(2022年発表の「XinU EP #01」)は、自分の内面をつづった曲ばかりでしたからね。でもそこからライブをする機会が増えたり、台湾公演を経験したりする中で、“みんなで一緒に揺れよう”というテーマも生まれたんです。「みんなで一緒に楽しみたい」という気持ちがどんどん大きくなったことで、歌詞の内容も自然と外に向くようになったんだと思います。
──確かに「XinU EP #01」や「XinU EP #02」(2023年)の頃は自分自身の迷いや逡巡、葛藤が書かれた曲が大半を占めていました。その点はだいぶ変わりましたね。
ライブをたくさんする中で、「もっと多くの人と気持ちを分かち合いたい。つながりたい」という思いが強くなって、それで歌詞の方向も変わったし、そんな中でキングレコードさんとの出会いもあった。ここからまた1歩、前に進みたいと思っていたときの出会いだったからこそ「じゃあ一緒にやりましょう」と話がスムーズに進んだんだと思っています。
みんなとつながりたいと思うようになった
──ライブを楽しめるようになったのと比例して、制作も楽しめるようになったところがあるんじゃないですか? 今作はサウンド面にも遊び心が反映されているようですし。
確かに。今まで作ることにおいては苦しいが勝っていて、楽しいと思うことはあんまりなかったんですよ。心に余裕がなかったというか。でも、「あんまり張り詰めないでやろう」っていうふうに変わったところはありますね。「触れる唇」がそういう意識で制作した初めての曲だったんですけど、今回はもっとユーモアを意識しながら、それこそ遊び心も入れつつ制作できたと思います。
──ボーカルに関しても表現の幅が広がっているのを感じます。強い音に負けないボーカルの存在感がある。自分ではどう思っていますか?
うまくなったんだと思います。昔だったら歌えなかったような曲が歌えるようになった。今回のEPのどの曲も、3年前だったら技術的にやれなかっただろうなって。
──ロウとハイを行き来するような曲もあったりしますもんね。
そうですね。あと、曲を捉える力が早くなったのかな。これまでは歌録りだけで数時間……下手したら2日間くらいかかっていて、それに加えてコーラスの録りも2日間かかったりしていたんですけど、今回の「Timing (feat. Aile The Shota)」はほぼ一発録りでいけたし。「Monday to Friday」もいい感じで歌えたから、これはほとんどコーラスは入れなくていいねとなった。Michaelさんにプロデュースしていただいた「Day 6」も1回でOKが出て、「え? 毎回こんな感じなんですか?」と驚かれました(笑)。
──すごいじゃないですか。
でも、自宅での歌い込みはそれまでにしっかりやっていますからね。その分、レコーディング本番がスムーズになったのかな。でも技術が上がったことは、自分でちょっと実感しています。
──今聞いてきたように、曲の持つ軽やかさだったり、外に向いた歌詞だったり、遊び心のあるサウンドだったり、ボーカルの存在感だったりを全部ひっくるめて、洗練の度合いが非常に高まっているなと感じました。ジャケットも青を基調にしたパキッとしたものですし、それらすべてからXinUさんの現在のモードが伝わってきます。
以前、内本さんに別の媒体でインタビューしていただいたときに、「まだ私は聴く人を引っ張るような歌詞は書けない」とお話ししたと思うんですよ。実際、曖昧な歌詞が好きだったし、曖昧であることを歌いたいと思っている自分がいた。でもライブを重ねて、みんなの声が自分に届くようになったり、みんなとつながりたいと思うようになったりする中で、私自身も前向きになりたいって気持ちが強くなったし、曖昧じゃなくてハッキリ言ってみるのもいいなって思うようになって。「Monday to Friday」や「Timing (feat. Aile The Shota)」は、そういう私自身の変化が反映されている気がします。でも「Refrain」という曲は以前の私っぽいというか、葛藤とか、どこか曖昧なままの自分を表しているところがあって、そういう自分もなくしたくないという思いで書いていたりもするんですけどね。




