岡田奈々 3rdアルバム「Unformel」インタビュー|穏やかな心でつづった全10曲

11年間在籍したAKB48を2023年4月に卒業し、同年11月にソロアーティストとしてデビューした岡田奈々。それから2年が経ち、早くも通算3枚目のアルバム「Unformel」がリリースされた。

アルバムタイトルの「Unformel」は、“定型に縛られない芸術”を意味するフランス語「Informel」が由来。作品を「I(私)からU(あなた)へ贈る花束」に見立て、愛や葛藤、生きることそのものに対する思いが計10曲を通して描かれている。前2作のアルバムに引き続き全曲の作詞を岡田が自ら手がけ、内なる感情をさらけ出しているが、デビュー当初はシリアスなテーマが多かった歌詞に変化が表れている。

岡田はどのようなモードで今回のアルバムを作り上げたのか。初めて作曲に挑戦した「あなただけを求めてる」をはじめ、収録曲に込めた思いを聞いた。

取材・文 / 小野田衛撮影 / 笹原清明

暗い感情が自然と減った

──AKB48卒業後、岡田さんのソロデビュー作となる1stアルバム「Asymmetry」がリリースされたのが26歳の誕生日でもあった2023年11月7日。そこから2年を経て発表された今作「Unformel」は、通算3枚目のアルバムとなります。非常に順調なリリースペースだと思いますが、ソロ活動を始めてからの2年間を振り返ってみて、手応えはいかがですか?

壁にぶつかりながら、なんとかやってきたという感じですかね。ソロデビュー当初は「がんばらなきゃ」という意思がとにかく強すぎて、休みなく働き続けたんですよ。でもソロデビュー後に一度休養したのを機に今は無理のないぺースで活動させていただいています。

岡田奈々

──今回のアルバム「Unformel」を聴いたときに、ソロデビュー当初のダークな作風から変化した印象を受けました。これは岡田さん自身の心持ちの変化も大きかったのでしょうか?

精神面はかなり変わりました。今は健康的で明るく元気に過ごしているので、自然と曲にもそういったテイストが反映されるんですよね。今回の10曲には「現在の岡田奈々」が詰まっています。

──前回の音楽ナタリーのインタビューでは「『自分のことが嫌い』というところから抜け出せないのは、ある意味、私ならではの特性」とまで言い切っていました(参照:岡田奈々 2ndアルバム「Contrust」インタビュー|歌と詞でさらけ出す自らの“明”と“暗”)。

その発言をしたときと比べると、今回のアルバムではだいぶ暗い感情を減らせました。意図して減らしたというより、自然と減ったんだと思います。マイペースに自分らしく生活できているのと、年齢を重ねて心が穏やかになったという面も大きいですかね。

──年を重ねると、「生きづらさ」みたいな感覚が減りますよね。

若さの特権みたいなところは失われていくけど、その分、動じない心を手に入れられるというか……。今でもまだネガティブだし、卑下してしまうことのほうが多い私ですが、これでもだいぶマシにはなった気がします。

──確かに、最近の岡田さんからは肩の力が抜けたような印象を受けます。

とは言っても、劣等感、コンプレックス、焦燥感……そういった感情はどうしても拭い去れないんですよね。この仕事をしている限り、一生消えないんじゃないかと思います。そこは私の根源でもありますから。

こんな温かみのあるラブソングを書いたのは初めて

──今回のアルバムですが、まず「Unformel」というタイトルに込めた意味から教えていただけますか?

読み方は「アンフォルメル」。「形に捉われない」という意味のフランス語「Informel」から取っているんです。ただ「In」を「アン」と読ませるのはフランス語特有のルールなので、日本人にはちょっと読みづらいかなと思いまして。そこで「In」を「Un」と変えてみるのはどうだろうという話になりました。ちょうどそれが「I」から「You」、つまり「私」から「あなた」へというダブルミーニングにもなっているので、「これしかない!」と。

──今作は、1stや2ndに比べて楽曲の振り幅が大きくなりましたね。

そこは意識したポイントです。いろんなタイプの曲を入れたかったんですよ。特に6曲目の「ゼロセンチ」や9曲目の「僕らだけの音で」あたりは今までの岡田奈々とは違うアプローチになっているんじゃないかと思います。

岡田奈々

──「ゼロセンチ」はポップでメジャー感がある楽曲です。

そう、「ゼロセンチ」はすごくピュアなラブソングなんです。こんな温かみのあるラブソングを書いたのは初めてだったので、難しかったですね。

──難しかったとは?

暗い曲はすらすら書けるんですよ。自分の中の負の感情を出しちゃえばいいので。でも、明るい感情っていうのは出し方がわからなくて。何しろ私の場合、「自然な姿=根暗」になっちゃうので。「僕らだけの音で」も「みんなで歌いながら楽しもうぜ!」というタイプの曲なので、そういう意味では難しかったです。

いかに自分をダメに書くかがこだわりポイント

──「僕らだけの音で」のようなパーティチューンは、岡田さんの新機軸と言えるかもしれません。逆に「いかにも岡田奈々テイスト」というナンバーは?

3曲目の「爆裂ロンリーガール」。それに5曲目の「Undead Anniv.」あたりでしょうか。完全に自分好みの曲です。

──「爆裂ロンリーガール」は、すさまじい情報量に圧倒されました。

自分でも口が回らないんじゃないかと思うくらい、歌詞に文字数を詰め込んでいるんですよ。途中でセリフが入ってきたり、意表を突くような展開も続きますし。この曲、歌詞のフレーズがすごく多いわりに尺は2分半くらいしかないんです。

──歌声についても、まるで多重人格のように途中で声色が変わりますよね。

そうなんです。めっちゃ変えているんですよ! ジェットコースター並みの感情の起伏を表現しながら、ちょっとメンヘラチックなイメージも入れつつ歌いました。

──「ねぇワタシって 神様の失敗作だよ完全に」という歌詞も“岡田奈々節”が全開で、強烈なインパクトがあります。

いかに自分をダメに書くか、というのがこだわりポイントなんですよ。というか、実際に自分のことをダメだと思っていますし。

──そのメンタリティは映画やマンガなど、これまで接してきた作品の影響もあるんですか?

あるでしょうね。若い頃、ボーカロイドにハマっていたので、その影響がすごく大きいと思います。ダークサイドに落ちていくようなタイプのボカロ曲がとにかく大好きだったんですよ。

──「Undead Anniv.」は、マキシマム ザ ホルモンに通じるようなイケイケなファストナンバーです。

好きなんですよ、こういうタイプの速いロックテイストの曲。作曲してくれたサクマリョウさんは1stアルバムのときからお世話になっているんですけど、途中でラップが入るのがすごくサクマさんらしいなって。韻を踏むところとか難しいんですけど、歌っていて楽しい曲です。

岡田奈々

──アルバムの1曲目には配信シングルとして先行してリリースされた「インコンプリート」が収録されています。

これは作詞に苦労した曲ですね。歌詞のテーマで悩んで、紆余曲折がありつつ、今の形に収まりました。もともとは普通の恋愛ソングだったんです。だけど、ディレクターさんから「いや、これは夏に関する曲にしましょう」と言われまして。ひと口に「夏」と言ってもいろいろ切り口がある中で、熱血系の甲子園球児をテーマにしてみました。

──岡田さん、野球は好きなんですか?

いや、それがまったく詳しくなくて……。そうした知識不足もあって、その路線はしっくり来なかったんです。で、その次に考えたのがピュアな学生の恋愛模様。ところが、これもいまいち弱かったんですよ。そして最後の最後に振り絞って出たテーマが、10代ならではの葛藤。これなら私もアイドル時代に感じたことをストレートに表現できるなと思いまして。若い頃の葛藤というネガティブな要素を入れつつ、「それでも前に進んでいこう」と背中を押すような応援歌になっています。

──そういうことだったんですね。最初に聴いたとき、少し不思議な感じがしたんです。全体のトーンとしては応援ソングなんだけど、「ブチかましてやろうぜ!」といった勢いよりも葛藤して悩むようなニュアンスが感じられたので。

そこがまさにインコンプリート……つまり不完全ということなんです。やっぱり10代ってまだ不完全じゃないですか。青さもありますし。だからこそネガティブな葛藤もあるんだけど、そこから持ち返していくという流れになっています。