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佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 12回目 前編 [バックナンバー]

作詞作曲家・星部ショウとハロプロソングを考える

名曲「眼鏡の男の子」はいかにして生まれたのか?

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作家になるため合唱部に所属

佐々木 星部さんが小学生だったのは90年代ですよね。日本で一番音楽が売れていた時代で、次から次へと新しい才能が出てきて、数々のヒット曲を浴びるほど聴いて育ったわけですね。中学生の頃にはもう曲を作っていたんですか?

星部 中3くらいには、「これ曲になるかも?」みたいな感じで楽曲の断片みたいなものを作っていました。ちゃんと1曲にしたのは高校生になってからですね。

南波 普通は「こういうことを歌いたい!」みたいな気持ちが先に立つと思うんですけど、曲の構造ありきで曲を作り始めたというのが面白いですね。メッセージとかよりも、曲の仕組みに興味があるという。

星部 そうですね。目立ちたいとかモテたいとかいう動機じゃなくて、単純に「いい曲を作ってみたい」というところからスタートしました。

佐々木 完全に作曲家志向ですよね。

星部 はい。実際、作家になりたかったんです。なので中学卒業後は合唱部が強い高校に入学しました。作家になるにしても、1回は出役として売れたほうがいいかもしれないという思いもあったので。

佐々木 めちゃくちゃ戦略的(笑)。

星部 そのルートをたどったほうが近道だと思ったんです。

佐々木 90年代は特にそうですよね。

星部 小室哲哉さんとかつんく♂さんが活躍している姿を見ていたので。一旦、出役で売れるほうが早いらしいと(笑)。裏方として活躍するにはそこが最短のルートなのかなと思ったんです。なので、ちょっと歌えたほうがいいかもと思って合唱部に入ったんですよ。

南波 そこで合唱を選ぶのも面白いですね。

星部 軽音楽部と合唱部がある学校に入ったんですけど、軽音だと単にコピーバンドをやるくらいなのかなと。だったら合唱部に入って、専門的に声楽を学べるのはいいかもと思ったんです。実際、ある程度歌えるようになりましたし。デモ音源を作るときも仮歌さんに頼む労力を省けているので、今の仕事にも役に立ってるんですよね。全部つながってるじゃんと思って(笑)。

南波 今も仮歌は星部さんご自身で歌ってるんですね。

星部 そうです。

南波 キーを変えて?

星部 はい。5つ下げて自分の歌いやすいキーで歌って、アイドルの皆さんには、それを5つ上げて歌ってもらってます。

佐々木 ちなみにバンド活動とかはしてたんですか?

星部 そうですね。高校時代からしばらく。ギターボーカルをやってみたんですけど、ある時期から、自分は人前に出て何かをすることがそんなに好きじゃないんだということに気付いちゃって(笑)。これは違うかもと思って24歳くらいのときにボーカルをやめて裏方に回ろうと思ったんです。ギターで伴奏を弾きつつコーラスもやるみたいな。そうやって一緒に組んだシンガーが、アップフロントのオーディションの話を持ってきたんです。

佐々木 すごいですね。無駄な要素がない(笑)。全部が現在につながっている。

南波 当時はハロー!プロジェクトが新しい人材を探しているタイミングでもあったんですよね。それこそ作詞家の児玉雨子さんもそうですし。そういう意味ではタイミングもばっちりで。

星部 運のいいことだなと思いますね。

「英雄~笑って!ショパン先輩~」の衝撃

佐々木 さっきの話に戻りますけど、90年代の数々のヒット曲に触れていく中で、当然つんく♂さんが作ったモーニング娘。の楽曲も聴かれていたわけですよね?

星部 もちろんリアルタイムで聴いてました。カラオケでみんなでモー娘。の曲を歌ってましたし。「LOVEマシーン」が大ヒットした1999年は、僕は中2で多感な時期でした。

佐々木 そのままオタクになっても不思議じゃないですよね(笑)。のちに星部さんはアップフロントの楽曲オーディションに参加することになるわけですけど、オーディションに合わせて楽曲のテイストをハロプロ寄りにしていった感じですか?

星部 ハロプロに曲を書くことなんて想定はまったくしていなかったし、当時はとにかく作家として食べられるようになるにはどうしたらいいんだろうと日々考えていて。2014年の秋くらいにハロプロも外部作家の楽曲を募集するようになったということを耳にして、そこから具体的に考え始めました。じゃあ改めて研究しようって。

佐々木 そこで傾向と対策を練ったわけですね。

星部 そうです。どんな楽曲が求められているのか、おぼろげにでも把握しておかないと通らないだろうなと思って。

佐々木 結果それがすごく成功したわけじゃないですか。そこで引っかかったのが「眼鏡の女の子」ならぬ「眼鏡の男の子」だったわけですけど(笑)。

星部 そうですね、確かに。ああいう曲が引っかかる会社なんだなって(笑)。普通じゃないものを求められているんだなっていうのは思いますね。

南波 きっと、それまでにつんく♂さんが書かれていたハロプロソングとはまた違う魅力が楽曲にあったんでしょうね。

星部 つんく♂さんと同じ感じの曲を作ろうとしても同じにならないことはわかっていたので。どうしたって自分の色は出ると思うので、そこが新鮮さにつながったのかもしれないですね。(ハロプロの楽曲を)分析しつつも、ある程度がむしゃらにやっていましたね。

南波 BEYOOOOONDSの楽曲では歌録りにも立ち会っているんですよね。最初からですか?

星部 そうです。「立ち会ってみる?」と言っていただいて。最初はCHICA#TETSUの都営大江戸線の曲(「都営大江戸線の六本木駅で抱きしめて」)でした。僕が合唱部出身だったり、もともと前職でボイトレの仕事もしていたので、ボーカルディレクションもできるんじゃないかと思ってくださったみたいで。それ以来立ち会わせてもらっています。あと個人的には、作家がディレクションしたほうが早いっていうのもあります。一番曲をわかっている人がディレクションしたほうが意図が伝わるんだろうなって。

南波 星部さん、作家になる前にボイトレの先生もやってたんですね。

星部 やっていましたね(笑)。音楽関係の仕事には携わりたいなと思っていたので。

南波 BEYOOOOONDSの楽曲に関して言うと、「英雄~笑って!ショパン先輩~」は本当にビックリしました。

佐々木 まず発想がスゴいなって。ショパンのクラシック曲をこういう形で使うんだという新鮮な驚きがありました。

星部 海外のクラシックをオマージュした曲って、昔はけっこうあったと思うんですよ。例えばベートーヴェンの「エリーゼのために」を元ネタにしたザ・ピーナッツの「情熱の花」とか。でも最近少ないなと思って。平原綾香さんの「Jupiter」くらいですかね?

佐々木 あれもだいぶ前ですね(※2003年発表)。

星部 なので、そろそろやってもいいかなと思って。あとは楽曲会議の段階で、メンバーの小林萌花さんがピアノを弾けるから、「クラシックを使った曲があったら面白いよね」という話も出ていて。小林さんはショパンが好きだから、ショパンで1曲まとめられたら一番きれいだよなと思って作りました。

南波 そこから元曲の分析が始まって?

星部 そうです。ショパンの人気曲上位5曲はこれか、みたいな。

佐々木 ショパン最大のヒット曲(笑)。

星部 僕はそんなにクラシックに詳しくないんですけど、人気の上位5曲は僕でも知ってる曲だったので(笑)。この中から1曲を選ぶより、何曲か組み合わせたほうが面白いなと思って。キーが全然違ったんですけど、奇跡的に使える箇所があったんですよね。「これサビに持ってこれますやん!」っていう。

南波 キーが違う2つの曲が絶妙につながっていて純粋にすごいなと思いました。

星部 キーを変えないで1曲にできたのはよかったですね。やってよかった。

南波 そのアイデアを思いついたときはパズル大成功って感じですよね。

星部 「知恵の輪解けました!」って感じでした。これは外せないんじゃないか……カチャ! おお!みたいな(笑)。

南波 しかもあの曲、生のオーケストラを入れてライブでもやりましたよね。「こんなことができるんだ!」って驚きました。

星部 クラシック畑の方々に怒られない程度のチャレンジをさせてもらいました。キーを変えなければ大丈夫だろうって(笑)。あの曲に関して言えば、何より、小林さんが自分でピアノを弾けますので。そういう意味でも説得力があるし、取って付けたような感じにはならないだろうと思っていました。

<後編に続く>

左から佐々木敦、星部ショウ、南波一海。

左から佐々木敦、星部ショウ、南波一海。

星部ショウ

1985年、東北出身の作詞作曲家。12歳でギターに出会い、作曲に興味を持つ。高校卒業後、音楽学校進学のため上京。2015年より作家活動をスタートする。以降、ハロー!プロジェクトを中心に、さまざまなアーティストに楽曲提供を行っている。2020年9月にYouTubeチャンネル「星部ショウのハッケン!音楽塾」を開設。ハロプロ楽曲を教材に、音楽・作曲理論を教える授業を配信中。

佐々木敦

1964年生まれの作家 / 音楽レーベル・HEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画ほか、さまざまなジャンルについて批評活動を行う。「ニッポンの音楽」「未知との遭遇」「アートートロジー」「私は小説である」「この映画を視ているのは誰か?」など著書多数。2020年4月に創刊された文学ムック「ことばと」の編集長を務める。2020年3月に「新潮 2020年4月号」にて初の小説「半睡」を発表。同年8月に78編の批評文を収録した「批評王 終わりなき思考のレッスン」(工作舎)、11月に文芸誌「群像」での連載を書籍化した「それを小説と呼ぶ」(講談社)が刊行された。近著に「映画よさようなら」(フィルムアート社)、「増補・決定版 ニッポンの音楽」(扶桑社文庫)がある。

南波一海

1978年生まれの音楽ライター。アイドル専門音楽レーベル・PENGUIN DISC主宰。近年はアイドルをはじめとするアーティストへのインタビューを多く行い、その数は年間100本を越える。タワーレコードのストリーミングメディア「タワレコTV」のアイドル紹介番組「南波一海のアイドル三十六房」でナビゲーターを務めるほか、さまざまなメディアで活躍している。「ハロー!プロジェクトの全曲から集めちゃいました! Vol.1 アイドル三十六房編」や「JAPAN IDOL FILE」シリーズなど、コンピレーションCDも監修。

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