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佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 12回目 前編 [バックナンバー]

作詞作曲家・星部ショウとハロプロソングを考える

名曲「眼鏡の男の子」はいかにして生まれたのか?

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佐々木敦南波一海によるアイドルをテーマにしたインタビュー連載「聴くなら聞かねば!」。この企画では「アイドルソングを聴くなら、この人に話を聞かねば!」というゲストを毎回招き、2人が活動や制作の背景にディープに迫っていく。12回目となる今回のゲストは、ハロー!プロジェクトの楽曲を中心に独創的な作風で注目を集める作詞作曲家の星部ショウ。前編となる今回は、音楽的なルーツや作家活動をスタートするまでの経緯を掘り下げつつ、BEYOOOOONDSに提供した「眼鏡の男の子」「英雄~笑って!ショパン先輩~」といった人気曲の制作背景に迫る。

構成 / 望月哲 撮影 / 沼田学 イラスト / ナカG

作家デビュー時の目標は?

星部ショウ 大変ご無沙汰しております。

南波一海 星部さんには以前、「ヒロインたちのうた」という書籍でインタビューをさせてもらってるんですよね。

星部 あれが僕の初めてのインタビューだったんですよ。

南波 2015年だから、もう8年前とか?

星部 ちゃんとお話しさせていただくのは、あれ以来ですね。

南波 よろしくお願いします。

星部ショウ

星部ショウ

佐々木敦 僕も星部さんが作るハロプロソングが大好きなので、お話を聞けるのを楽しみにしていたんです。

南波 佐々木さんが最初に星部さんの名前を意識したのはどのタイミングだったんですか?

佐々木 BEYOOOOONDSのデビュータイミングかな。「眼鏡の男の子」のインパクトがすごかったから。そこから過去に手がけた楽曲もさかのぼってチェックして。YouTubeの番組(「星部ショウのハッケン!音楽塾」)もいつも観てます。

星部 ありがとうございます。

佐々木 でもさっき取材前にご挨拶したとき、ご本人だと気付かなかったんですよ(笑)。YouTubeのハジけたイメージと全然違ったから。サングラスもかけていなかったし。

星部 「どーもー!」って感じで来そうですよね、YouTubeのイメージだと(笑)。

佐々木 すごく真面目そうな方だなと。会社の人かと思ってしまった(笑)。最初にインタビューしたとき、なんちゃん(南波)は星部さんにどんな印象を持った?

南波 すごくしっかりした方だなと思いました。作詞家とか作曲家の方ってミュージシャン経由の人が多いじゃないですか。だから皆さん、なんとなくアーティストっぽい雰囲気があるんですけど、星部さんに関しては、めっちゃサラリーマンみたいな(笑)。

星部 はははは。そうですね。実際サラリーマンの経験もあるので。

佐々木 印象的には間違ってなかった(笑)。

星部 はい、全然(笑)。事務所のスタッフに間違われたりすることもありますし。

南波 でもそこからめちゃめちゃ曲を書かれて。ガッツリ専業になってから長いんですか?

星部 2016年から作家仕事だけで食べられるようになりました。南波さんのインタビューのときはまだそんな状態ではなかったですね。

南波 会社で働かれていたんですか?

星部 はい。2015年まで。

南波 知らなかった。

星部 ちょうど南波さんにインタビューしていただいた頃、加藤裕介さんという先輩の作家さんに今後についてよく相談してたんですよ。加藤さんからは「とりあえず、JASRACに100曲登録されることをまずは目指そう」とアドバイスされて。その目標を去年ようやく達成しました。

南波 ということは1年に約15曲ペースで作っていたんですね。

星部 そうですね、単純計算すると。自分では、そんなにがんばってる感じはしなかったんですけど。

「眼鏡の男の子」誕生秘話

南波 こぶしファクトリーとBEYOOOOONDSには、グループの立ち上げから作家として携わっていますよね? 佐々木さんも先ほど挙げていましたけど、やっぱり僕もBEYOOOOONDSの「眼鏡の男の子」を初めて聴いたときの衝撃がとにかく大きくて。

星部 2012年にアップフロントが新人発掘オーディション(「フォレストアワードNEW. FACEオーディション」)を開催して、僕も当時組んでいたシンガーと一緒にエントリーしたんですけど、そのときに作ったのが「眼鏡の女の子」っていう曲だったんですよ。

佐々木南波 ええ!

星部 オーディションの本選には残らなかったんですけど、「曲が面白いね」と評価していただいて。そこでアップフロントとのつながりができたんです。その曲を寝かして寝かして、2018年に性別を男の子に変えて作り直したのが「眼鏡の男の子」だったんです。

佐々木 性別を変えた以外は原曲とどのくらい変わってるんですか?

星部 歌詞のシチュエーション的には同じです。電車の中で出会った眼鏡の女の子に一目ぼれする男の子の話で。主人公を男の子から女の子に変えて、それに合わせてストーリーを微調整して、あと、最後の「たいしたことないじゃん!」っていう女の子の強がりっぽいフレーズも足しました。

佐々木 元のバージョンは、それまでによくあった“ボーイミーツガール”みたいな曲だったと思うんですけど、主人公の性別を入れ替えることで、歌詞の意味合いも変わってくるし、BEYOOOOONDSのキャラにもぴったり合ったという。

星部 そうですね。前田こころさんがMVで演じてくれた眼鏡の男の子もハマってくれて。

南波 原曲も基本的にはユーモラスな歌詞世界だったんですか?

星部 あんな感じでした。そのへんもアップフロントのスタッフさんが面白がってくれたのかなと思います。

南波 先日、インタビューを読み直したら、取材に立ち会っていたアップフロントの橋本(慎 / ディレクター)さんが「送ってきた曲がすごく変で引っかかった」って話していて。それが、まさに「眼鏡の男の子」の原曲だったんですね。

星部 そうです。

南波 数年かけて話がつながった(笑)。

佐々木 伏線回収みたいな(笑)。

小学生時代からヒット曲を分析

南波 昔からコミカルな曲が得意だったんですか?

星部 そうですね。技巧を凝らした歌詞はあまり書けないタチなので、それよりもシチュエーションで見せたりするような書き方が得意で。

佐々木 ドラマっぽいというか、ストーリー展開があるような。

星部 ワンセンテンスでどう伝えるかというよりも、ストーリーとして面白い方向に持っていくというか。

南波 そのスタイルが、演劇的な要素もあるBEYOOOOONDSにハマったわけですね。

佐々木 作家デビューする前から詞と曲は両方いける感じだったんですか?

星部 昔から、デモの音源には詞と曲を両方入れるようにしていました。何かしら歌詞が付いていたほうが採用率が高いんですよ。なので、がんばって歌詞まで書いていましたね。

南波 そういう話はよく聞きますね。すごくラフなものよりも、ある程度アレンジを作りこんだほうが聴いてもらいやすいとか。

星部 印象的なフレーズはちゃんと押さえて、音質がチープでもやりたいことは伝わればいいかなって感じでした。

星部ショウ

星部ショウ

佐々木 星部さんの楽曲は聴けば聴くほどバラエティに富んでいて、一時期は“星部ショウ=作家チーム説”というのもあったみたいですね(笑)。

星部 はははは。なんかそうみたいですね(笑)。

佐々木 個人ではなくて、複数の作家のチーム名が“星部ショウ”なんじゃないかっていう。僕の中でもずっと謎めいたイメージがあって。そもそも音楽を始めたのは、どういうきっかけだったんですか?

星部 小学生の頃から音楽のランキングの番組を観るのが好きで。僕が小2のときに「COUNT DOWN TV」が始まったんですけど、毎週ビデオに録画して観てました。

南波 深夜放送でしたもんね。

星部 はい。深夜1時前から始まるんですけど、土曜日の放送だということもあって、小学高学年くらいからは親に無理言って観せてもらってました。で、毎週観ているうちに自分が好きな感じの曲が上位にランクインする割合が高いことに徐々に気が付いて。世の中でヒットしている曲と自分の感性に齟齬がないんじゃないかと思うようになったんです(笑)。そこで、「自分はなんでこの曲を好きだと思うんだろう?」って、なんとなく分析するようになって。

佐々木 YouTubeで今やっていることと、ほぼ一緒ですね(笑)。

星部 そうですね(笑)。それで小学6年生くらいからギターを始めて、好きな曲をコピーしたりするうちに、どうやらコード進行が大事らしいということに気が付いて。そこから自分の好きなコード進行がだんだんわかってきたんです。「こういう展開だと売れやすいのかな?」みたいな。答え合わせをしているような感覚でしたね。

佐々木 作家になるべくしてなったというか。まさに「三つ子の魂百まで」ですね。

南波 しかもランキングに入ってる曲が好きだと、おのずと雑食になるというか。

星部 特定のアーティストに興味を持つというよりも楽曲単位で引っかかってました。楽曲派です(笑)。

南波 ロジカルに音楽を考えるようになったんですね。YouTubeを観ていても、説明が丁寧ですし。学理がわからない人でも理解できるようにお話しされているから。

佐々木 小2から、今に至る流れが始まっていたんですね。

星部 はい。「いい曲とは、なんだろう?」って。あと、ビートたけしさんの「たけしの万物創世紀」という番組も記憶に残っています。「ミリオンヒットの法則」という回があって、サビは「あ」とか「え」とか明るい母音を多用しがちとか、ヒット曲の法則を論理的に考察する内容で、それが印象に残っています。

左から星部ショウ、南波一海、佐々木敦。

左から星部ショウ、南波一海、佐々木敦。

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作家になるため合唱部に所属

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