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佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 13回目 後編 [バックナンバー]

もふくちゃんとアイドルグループの持続可能性を考える

後世に残すべきポップカルチャーのレガシー

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佐々木敦南波一海よるアイドルをテーマにしたインタビュー連載「聴くなら聞かねば!」。前回に引き続き、音楽プロデューサー・もふくちゃん(福嶋麻衣子)をゲストに迎えてお届けする。10年以上の長きにわたり、でんぱ組.incをプロデュースしてきた彼女が見据える今後のビジョンとは?

構成 / 望月哲 撮影 / 沼田学 イラスト / ナカG

オタクの子供がでんぱ組.incのメンバーになる時代

南波一海 令和に入ってアイドルブームが落ち着いてきたタイミングで、でんぱ組.incが、人生をテーマにしたような楽曲をリリースし始めたのが個人的にはすごく興味深いなと思ったんです。

もふくちゃん そうですね。「いのちのよろこび」あたりから。(古川)未鈴ちゃんの結婚・出産もあったり。

南波 あの一連の動きには、未鈴ちゃんの人生の変化も関係していたんですか?

もふくちゃん 未鈴ちゃんも当時いろいろ考えていたと思うんですけど、その結果、出産後もアイドルとして生きていく姿をみんなに見せたいということになって。「時代に先んじて、私がやる!」みたいな。

南波 すごすぎますね。

もふくちゃん 本当にそれをやってのけているので、「こいつはすごい!」って思います。もちろんメンバーの中には一生アイドルを続けたい子と、そうじゃない子がいるので、そこをどうやって見せていくかは今後の課題なんですけど。でも楽しいですよ。みんなある程度大人なので、今後のアイドル人生について前向きに話せるし。悲壮感はないです。

南波 長く活動していると、ファンの若返りみたいなことも考えなきゃいけなくなってくるじゃないですか。でも、でんぱ組.incは、例えば「オーギュメンテッドおじいちゃん」の歌詞に顕著ですけど、今付いているファンの先のことも、ちゃんと考えているというか。

もふくちゃん 「おじいちゃーん!」って(笑)。

南波 ひどいですよ、ファンをおじいちゃん扱いして(笑)。でも、みんなで一緒に老人になるまで歳を取っていこうという発想は素敵だなと思うんですよ。

南波一海

南波一海

もふくちゃん でんぱの場合は、子供の頃に聴いていた人がもう大人になっていたり、ファンの世代が1周しちゃってるんで。それこそメンバーの高咲陽菜ちゃんの親御さんはでんぱのオタクだったんですよ。今やオタクの子供がでんぱ組.incの新メンバーになる時代なんですよね。卒業していったメンバーの子供たちがアイドルになる時代もきっといつかありますね(笑)。

佐々木敦 でも、そういう現象が起きるのって今まではハロプロぐらいだったわけで。グループを長く続けてきたからこその賜物ですよね。もふくちゃんは、でんぱ組.inc以外にも、虹のコンキスタドールとか、いろんなグループを手がけられていますけど、正直でんぱ組.incを続けていくのがつらくなったような時期はあったんですか?

佐々木敦

佐々木敦

もふくちゃん 何度もありましたよ。人気が出始めた途端、いろんな人たちが来て、いろんなことを言ってくるようになって。「もっとテンポを落としてください」とか、挙句の果てには「もっと普通で売れそうな曲を歌わせてください」とか。すごくしんどい時期があったんですよね。虹コンで忙しかった時期は、最終的な部分だけチェックするみたいなこともあったし。去年の12月に出したEP「でんぱぁかしっくれこーど」のタイミングで、一旦「売れる」みたいなことから、「でんぱ組でしかできないことをやる」というふうに考え方を変えたんです。そうしたら好き勝手にしていい土台ができて。私も肩の力が抜けて制作に自由に関わるようになったんですけど、そうしたらやっぱりバレるんですよね(笑)。

南波 明らかに変わっただろ、みたいな。

もふくちゃん すぐにバレた(笑)。ひさしぶりに制作だけに100%打ちこめて、でんぱ組.incにしかできないことがあるというのに改めて気付いたんです。あと最近は「Y2K」というワードが出てきて、「Y2Kって私の時代じゃん!」と思って。冒頭でも話しましたけど、私は2000年代前後の10代の頃に、スリルジョッキーとか、あのあたりの音楽から大きな影響を受けてるんで。ついに自分の時代がやってきたと思っていて。

佐々木 時代がひと回りしたというか。

もふくちゃん そうです。だからLightning Boltとかに曲を書いてもらえないかなと思っていて。

南波 Y2Kの捉え方が独特すぎないですか(笑)。

もふくちゃん だから今こそ佐々木敦さんの時代なんですよ。

佐々木 えっ? そうなの(笑)。

もふくちゃん 今あっちゃんがやらないで誰がやるんですか(笑)。もう1回、「UNKOWNMIX」を復活させるべきなんですよ。あれこそY2Kです!

南波 見落としてた(笑)。

佐々木 全然気付いてなかったよ。

もふくちゃん もう、バカバカバカ。確実にあのへんが今、キテるんですよ!

もふくちゃん

もふくちゃん

佐々木 そうだったのか(笑)。

南波 もふくちゃんの「今、キテる」がみんなよりも先に行っちゃってるのか全然違う方向に向かってるのかわからないけど、明らかにズレてるのは間違いないですよね(笑)。

もふくちゃん そうかも(笑)。なので、もうちょっとポップな人にも書いてもらおうと思って、これは佐々木敦系じゃないですけど、新作ではTahiti 80にも曲をお願いして。結局は自分が楽しいことをやったほうがいいなと思うんですよ。そうしないと、この先の人生が楽しくならないような気がして。

今のアイドル業界はパクりだらけ

佐々木 要するにもふくちゃんの場合は、発想の入り口が「これをやったらウケそう」とか「売れそう」というところじゃないんでしょうね。誰もやってないからやるっていう。

もふくちゃん 私の中で最上級のモチベーションって、「誰もやってないことをやる」ということなんです。誰もやってないことをやる以外はカッコ悪いと思っていて。これは声を大にして言いたいんだけど、今のアイドル業界はパクりだらけなんですよ。

南波 実際でんぱ組.incのフォーマットはめちゃくちゃ流用されまくってますよね。

もふくちゃん クリエイティブな何かを加えてくれれば全然いいんです。むしろ、うれしいというか。「そう来たか!」って驚きがあること自体は楽しいし、そこにリスペクトを感じられるので。もちろん、そういうのが大半だとは思っています! ただ、あまりにもそのままパクられることも多いし、パクリまくってドヤ顔してる感じが理解できなくて。もうちょっと恥ずかしそうにしろよって思うんだけど(笑)。「出典:でんぱ組.inc」って書いてくれるならいいんですが。ああいうのって、なんなんですかね。

南波 もしかしたらパクってるという意識自体ないのかもしれないですね。「好きだから、いつの間にか真似してた」みたいな。

もふくちゃん 例え「好きだから」という理由だとしても、物作りをしてる人間なんだったら、もうちょっと工夫してほしい。私はリスペクトの気持ちがあるから、ハロプロさんのことをそんなふうに扱わないし。もしハロプロさんの真似をするとしても、私なりの解釈で、「この作家さんにハロプロっぽいテイストの曲を書いてもらったら面白いものが生まれるんじゃないか」とか、最大限の敬意を込めて、クリエイティブ面で工夫すると思います。

佐々木 YouTuberの世界でよくある、「バズるためには過去にバズったことをそのままやるのが一番手っ取り早い」みたいな感覚に近いのかな。

もふくちゃん そんな時代は早く終わったほうがいい。つまんなすぎて、先細りする未来しかありません。なので私は今後、老害になります(笑)。老害としてやることは1つ。ツマらないことやってるやつらに「お前らカッコ悪いことやってんじゃねえよ!」って言っていくしかない。もちろんカッコいいことをやってる若い人たちは応援しますけど。

佐々木 今の話が象徴的だけど、ある時期からメタがベタに取って代わって、「ベタであることの何が悪い?」みたいな風潮ができあがってしまったよね。そしてタチが悪いことに、大資本が絡んだりすると、今やそれがビジネスになってしまうことさえある。

もふくちゃん そうそう! 本当そうなんですよね。オリジナルに対してのリスペクトが本当にない時代です。

佐々木 ベタが持っている無意識の暴力性が今後さらに顕在化していくような気もするよね。

もふくちゃん でも、最後お金がなくなって立ち行かなくなって「どっちを選ぶ?」って言われたとしても、私はクリエイティブなほうを選びます。最後の残党になっても、絶対にやり続けようと決めたので。だからこそ、あえて老害になろうと思って。

佐々木 この連載で今まで何度も言ってきたんだけど、僕は長い間アイドルに興味がなかったんです。それがある時期からいろいろ気になるようになってきて。そんなときに、「形而上学的、魔法」のミュージックビデオを偶然YouTubeで観て驚いたんだよね。でんぱ組.incはもちろん知ってたんだけど、諭吉佳作/menが曲を書いてるんだ、と思って。あれは早かったよね。これぞクリエイティブだなって。

もふくちゃん やっぱりプライドもあるし、手垢の付いてない人にお願いしたくて。だから自然とそういう感覚になりますよね。「この人、もうアイドルの曲書いてるじゃん」とか。

佐々木 面白い曲を書く人ってたくさんいますからね。

もふくちゃん そう! 探せばいるんですよ。でも、いざオファーしたら「アイドルはちょっと……」って断られるのが9割。そんな中で曲を書いてくれたのが玉屋(2060%)さんとか清竜人さん。最初戸惑ったんですよ、竜人さんには。

南波 オファーを受けてくれないんじゃないかって?

もふくちゃん いや、そうじゃなくて。毎回とんでもない曲ばかり書いてくるから。

佐々木南波 あはははは。

もふくちゃん そのつど、「アイドルにこういうこと歌わせたらダメだよ」ってやりとりするみたいな(笑)。でもそれが、電波ソングの持つギリギリ、ハラハラの加減とめちゃくちゃ相性よしだったんですよね。それがのちのちいろんなアイドルに曲を書くようになって。挙句には自分でもアイドルグループ(清 竜人25)を始めて。

佐々木 もふくちゃんを通じてアイドルソングのノウハウを学んだわけですね。そして見事に花開いたと思ったら……。

もふくちゃん アーンって食べようとしてたハンバーグを、サッとトンビに持ってかれちゃうみたいな(笑)。まあ、いいんですけど。

南波 大丈夫ですよ。誰がオリジネーターなのか、わかる人はわかりますから。

もふくちゃん いやいや最近のオタクは知らないでしょ。おじいちゃんしかわかってくれない。だから最近はおじいちゃんの歌ばかり作ってるんです(笑)。

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黒人音楽と宇宙の関係性みたいなものをでんぱ組.incで表現したい

読者の反応

相沢梨紗 @RISA_memesama

もふくちゃんはうちらの為にどんどん大人になってくれてんだよね。ありがとう〜。かっこよくありたいぜ。大人になりきった先は赤ちゃんのはず。そこまで関わっていきたい👶baby💕

佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 13回目 後編 https://t.co/el7EFzEQRx

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