「12 hugs (like butterflies)」の世界を再解釈
「ひみつの庭」は羊文学の最新アルバム「12 hugs (like butterflies)」のアートワークを手がけたクリエイティブチーム・HUGが楽曲を再解釈し、さまざまなアーティストとともに作品の世界感を表現する空間展示。音楽ナタリーでは昨日29日に行われたオープニングレセプションにて、HUGの代表であるharu.にインタビューを実施した。この記事では彼女のコメントを交えながら場内の様子をレポートする。
「12 hugs (like butterflies)」がリリースされたのは、約半年前の2023年12月6日。羊文学のファンは音源やアートワーク、ミュージックビデオなど、アーティストサイドから発信されるクリエイティブを受け取ったり、インタビューに目を通したり、実際にライブに足を運んだりする中でアルバムの世界観を徐々に理解していったことだろう。haru.はすでに世間の評価を受けた本作を再解釈し、公の場で発表するという行為に一抹の不安があったという。
「最初は恐怖でしかなかったし、正直オープンを前日に控えた今も不安はあります。アートワークを制作する際はアーティストから届いたまだ世に出ていない作品に衣をあてがうような感覚なのですが、今回の展示については『この作業をすることが何を意味するのか?』というのがピンとこなかった。でも、自分の周りにいる羊文学のクリエイティブを支えているスタッフやクリエイターの物語なら描けるかもしれないと思ったんです」
羊文学とファンをつなげる縁側
ギャラリーに足を踏み入れると、アルバムの冒頭を飾る短尺の弾き語りナンバー「Hug.m4a」を繰り返し再生するスマートフォンが置かれた切り株、失恋後の不安定な心の動きを歌った「つづく」から“すべてを吹き飛ばす竜巻”を連想して制作されたオブジェ、そしてアルバム収録曲「GO!!!」からインスパイアされたという複数のドアの連なりで構成された小屋などが美しい植栽とともに来場者を出迎える。
haru.は本展において羊文学そのものを“庭”、展示に携わるクリエイターやスタッフたちを“庭師”と定義。衣装担当のAva、いけばな草月流師範のアレキサンダー・ジュリアン、仕立て屋 / リサーチャー / 彫金師のクリストファー・ローデン、クリエイティブプラットフォーム・konomad、デザインスタジオ・DODI、フォトグラファー / 映像作家のニコ・ペレズ、フラワーアーティストのfinaleflwrとともにこの不思議な空間を作り上げた。
「羊文学とファンが出会う一番の場所は、ライブのステージだと思うんです。ただ、この展示ではそれとは違う、もう少しパーソナルなんだけど踏み込みすぎていない場所を作りたいと考えていていました。それは家の中ではないけれど、完全に公共の場でもない縁側のようなイメージです。あとはフランスの庭師であるジル・クレマンの著書『動いている庭』からもインスピレーションを受けていて。その本は植物たちの意思で作られていく庭について書かれているのですが、それは羊文学も同じで、彼女たちがどのように進んでいくのかは誰にも決められないし、私にはメンバーたちにもコントロールできないもののようにも見える。この展示がメンバーを含めた全員で『庭はどういうふうに進んでいきたいんだろう?』と一度立ち止まって考えるきっかけになったらいいなと思います」
アルバムの制作過程が見える“ひみつの庭”
小屋の中には、どこか愛嬌のあるお化けのオブジェとミラーセルフィーができる全身鏡や、本展のキービジュアルにもなっている蝶形の蝶番が刺繍されたジャンプスーツ、羊文学が「more than words」をイメージしてセレクトした香りが楽しめるインセンス、実は3WAY仕様だという三つ編みやチェーンで装飾されたステンシル入りのバット、haru.が制作した消しゴム判子の「FOOL」ロゴが押されたマッチボックスなど、アルバム収録曲を各クリエイターが独自の解釈で具現化した作品が所狭しと並んでいる。
壁面には「12 hugs (like butterflies)」のジャケットで塩塚モエカが実際に着用した衣装や、ニコ・ペレズが撮影したメンバーの写真を展示。さらにアルバム収録曲の譜面の現物や、HUGがアートワークを制作した際のスケッチや色校正の用紙など貴重な資料も並んでおり、「12 hugs (like butterflies)」が生まれるまでの過程の一部を覗くことができる。また会場では羊文学とharu.の対談音源も放送されるので、これから来場するファンは楽しみにしておこう。
「感動的な体験をしてほしいわけではないんです。縁側に座っていたらお茶が出てきたり、人が話しかけてきたりする。そんな日常の中でひと息つけるような時間や場所を提供できたらいいなと思います。人の歩んできた道や時間を見ることで、自分に立ち返る瞬間ってありますよね。アルバムの制作過程が見える資料を展示しているのにはそういった意図があります。普段音楽を聴いていて、その作品が作られた経緯やミュージシャンが過ごした時間を完全に理解するのはむずかしいと思う。この展示に来てくれるのは羊文学のことが好きな人たちだと思うので、その一部だけでも感じ取ってもらえたらいいですね」
「“ひみつの庭” inspired by 羊文学 - 12 hugs (like butterflies)」の開催は6月23日まで。展示物のうちジャンプスーツやインセンス、マッチボックスなどは会場で購入することもできる。入場チケットはイープラスにて販売中。
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羊文学のアート企画展がオープン、haru.がクリエイターたちと表現した“バンドとファンをつなげる縁側” https://t.co/d2mro2pvVk