多次元制御機構よだかインタビュー|“希望と空虚”を抱え、田淵智也サウンドプロデュースでメジャーへ発進

多次元制御機構よだかのメジャーデビューEP「ODYSSEY」が12月3日にリリースされた。

多次元制御機構よだかは「閃光ライオット2013」のグランプリバンドであるフィッシュライフのフロントマン・林直大が、2018年のバンド解散後に立ち上げたソロプロジェクト。2020年に初の作品となる楽曲「夜間飛行」を配信リリースし、2023年には活動拠点を大阪から東京に移した。その後は田淵智也(B / UNISON SQUARE GARDEN、THE KEBABS、Q-MHz)、鈴木浩之(Dr / THE KEBABS)をレギュラーサポートメンバーに迎えてライブ活動を本格化。2024年以降に行ったワンマンライブのチケットは軒並みソールドアウトするなど、その注目度は急上昇している。

田淵をサウンドプロデューサーに迎えた「ODYSSEY」には、表題曲「オデッセイ」やインディーズ時代の楽曲「或星」の再レコーディング版など4曲を収録。初回生産限定盤には林がメジャーデビューを発表した今年6月のワンマンライブの音源7曲を収録したCDが付属する。

本作のリリースにあたり、音楽ナタリーでは林にインタビュー。多次元制御機構よだかの発進の経緯から田淵との出会いとその影響について、新作「ODYSSEY」で描いた世界について語ってもらった。

取材・文 / 天野史彬

「多次元制御機構よだか」はJAXA開発のタイムマシン?

──僕は、多次元制御機構よだかの楽曲が持つポジティビティと言いますか、さまざまな経験を経て、現実を知ったうえで生まれる力強さを感じて、そこに惹かれています。今日はよだかとして初インタビューなので、過去の話から始めたいんですが、林さんが前にやられていたバンド・フィッシュライフが解散したのが2018年で、その後2020年に多次元制御機構よだかの活動がスタートしました。この時期の話をさかのぼって伺いたいのですが、バンドを解散して次のプロジェクトを始めるにあたり、林さんの中にはどんな心境の変化があったのでしょうか?

フィッシュライフが解散した頃に今の事務所に所属することになって、まずは楽曲提供を始めたんです。バンドが解散したからといって音楽を完全に辞めるつもりはなく、その頃にDTMも本格的に始めたし、「次やる音楽はどうしようかな?」って、プロジェクトの名前なんかも含めてふわふわ考えていて。そんなことをしながら1、2年が過ぎた頃、あるとき突然「夜間飛行」という曲ができてしまったんです。あの曲は2年間くらい迷いに迷った、その結論のようなものだったと思います。朝起きてすぐ、ギターを弾きながら歌詞まで全部、音源になっている曲の長さとドンピシャで「夜間飛行」ができた。プロジェクト名の「多次元制御機構よだか」も、あの曲からズルズルと引っ張られるようにして出てきて。それで、2020年8月に「夜間飛行」をリリースしました。

──「多次元制御機構よだか」というプロジェクト名は、林さんにとってどんな意味合いを持つものなんですか?

フィッシュライフというバンド名は、当時のメンバーとかなり適当に決めてしまったんです。その反動で「次のプロジェクト名は、日本語で一番カッコいい文字列にしたい」という思いが出てきて。日本語で一番カッコいい文字列を考えるって、要は「日本で一番カッコいいものって何?」という話じゃないですか。僕なりに日本で一番カッコいいものを考えたら、それはタイムマシンだろうと。タイムマシンという概念がこの世で一番カッコいい。そこから「JAXAが本当にタイムマシンを開発したら、こういう名前になるんじゃないか?」ということで「多次元制御機構よだか」にしました。

──そもそも「タイムマシンが一番カッコいい」という発想が、かなり特殊ではあると思います。

え、本当ですか?(笑)

──林さんはタイムマシンのどこに惹かれるんですか?

一番“不可能”じゃないですか、タイムマシンを作ることって。だからです。どうあがいても人間には作れないから、カッコいいなと思うんです。

──フィッシュライフの頃から林さんの世界観にはSF作品とのリンクを感じさせる部分があると思うんですけど、林さんにとってSFは影響源として大きいものですか?

いや、例えば「SF映画をたくさん観ているか?」と言われると、そうでもないんです。ただ、SF映画は「不可能なものが画面に映っている」という前提で観るじゃないですか。不可能だとわかっているものにキュンとするって、希望を持つうえで大事な態度のような気がする。そう考えると、僕は態度がSF的な気はします。自分が生きていくうえで、性格的に「どうにもならんな」と思うことにぶち当たったり、いろんな試行錯誤をしたりする中で、SF的な態度を身に付けた感じですね。

多次元制御機構よだか

多次元制御機構よだか

自分の弱い部分がしゃべり出した「夜間飛行」

──フィッシュライフを解散して、多次元制御機構よだかを始めるまでの2年間にあった「迷い」というのは、どういったものだったんですか?

バンドを解散したから迷い始めたというよりは、「もっといいものを作りたい」という気持ちを持ち続けてる中で、ずっと抱えていた迷いだと思います。フィッシュライフは「バンドをやりたい」と言って集まった3人だったので、3人で大きい音を出す楽しさ、フィジカル的な気持ちよさを求めて突っ走って、最終的にはやりおおせた。でも僕はメンタル的な気持ちよさも探し始めていたと思うんですよね。だから迷っていたというよりは、必然的に考えていたという感じかもしれないです。

──そういう中で「夜間飛行」はなぜ林さんを引っ張り上げる力を持っていたのだと思いますか?

あの曲ができたとき、すごく不思議でした。「完璧すぎる」と思った。自分が勝手に歌い出したような、自分が言ってほしい言葉を臆さずに自分に語り出した、そんな感覚でした。フィッシュライフの頃は若かったどころか幼かった部分があって「カッコつけないといけない」というのがあったと思うんです。でも「夜間飛行」は、フィッシュライフの頃の自分だったら「ダサいんじゃないか」と思ってしまったような自分の弱い部分が、独り立ちして急にしゃべり始めた。泣き虫な自分が我慢できずに「私が出撃する!」という言葉を紡ぎ始めた。さっき言った「SF的な態度」が、自分の中で始まった感覚だったと思います。自分という人間の20数年間の半生を参考にして、自分の一番好きなものができた。「夜間飛行」は、どの時点の自分のことも裏切っていない曲という感じがした。だから「これはすごいことが始まる!」と自分でも感じることができたんじゃないかと思います。

多次元制御機構よだか

多次元制御機構よだか

──「夜間飛行」はバンドサウンドを軸とした楽曲ですが、そうした音楽的な方向性も自然と生まれてきたものですか?

あの曲ができた2020年は宅録的なものが流行り始めていた時期だったし、それまで「俺もそういうものを取り入れるべきなのかな?」と思ったりもしていたんですけど、「夜間飛行」ができたとき、そういうことが一切気にならなくなりました。「ブリッジミュートして、オールインして、やったったらいいんや!」という感じだった。この曲には自分の表現の出発点が完全にあるから、ここからは何をしても正解。なので「いつも通りやりまーす」って、そんな感覚でした。

──フィッシュライフは3ピースバンドでしたが、今、多次元制御機構よだかのライブも3ピースバンド編成でやられていますよね。「3ピースバンド」というスタイルは、林さんにとって特別なものですか?

特別なものですね。ハヌマーンや凛として時雨、the cabsみたいな、3ピースバンドに憧れることが多かったんです。3ピースというか、すべての楽器が1つずつというバンドを気付いたら好きになっていた気がします。時代もあると思いますね。自分が音楽に夢中になり始めた頃、洋楽でもレッチリ(Red Hot Chili Peppers)がめっちゃ流行ってて。当時聴いていたレッチリの曲を昨日聴き直してたんですけど「音数少ないなあ」と思いましたもん。でもすごい迫力がある。そういう音楽が原体験としてありますね。あと、ギターソロを自分で弾きたいというのもあると思う(笑)。

──2023年に活動拠点を大阪から東京に移されたそうですが、東京に出てこようと思ったのは、どんなきっかけがあったんですか?

2020年頃、あるアニメのキャラソンのコンペをきっかけに、田淵(智也 / UNISON SQUARE GARDEN、THE KEBABS、Q-MHz)さんから声をかけていただき、それから一緒に田淵さんがプロデュースするDIALOGUE+の曲を書かせてもらうようになったんです。そのうち、田淵さんから「そろそろ東京来ないの?」と言われるようになって。事実、東京での仕事も増えてきていたし、気付いたら自分も東京に向かって歩いてるような感じもした。それで出てきました。なので、よだかをやるために東京に来たというより、必然的に東京に来ることになったという感じでしたね。

多次元制御機構よだか

多次元制御機構よだか

──その後、田淵さんは多次元制御機構よだかのサポートや作品のサウンドプロデュースもされるようになるわけですよね。田淵さんは林さんにどんな影響を与えた存在といえますか?

高校生の頃からUNISON SQUARE GARDENは聴いていましたからね。20代になり、いろんな角度から音楽を聞くようになったあとで田淵さんから受けた影響で言うと、カノン進行のカッコよさを教えてくれたのは田淵さんだと思います。フィッシュライフを解散したあと、1年くらいゆっくり過ごしていた時期にTwitterで「『タイバニ(TIGER & BUNNY)』が面白いぞ!」みたいなツイートがバズっているのを見て、Netflixで観てみたんです。そしたら、オープニングの「オリオンをなぞる」が始まる瞬間が本当に最高なんですよね。もちろんずっと知っていた曲だけど、「タイバニ」で流れる「オリオンをなぞる」を聴いたときに不意打ちを食らって。一昨年、ONIGAWARAの企画でユニゾンが新宿LOFTに出たのを観たとき「オリオンをなぞる」をやっていて、そのときに感じたのは……僕の解釈ですけど、田淵さんは、カノンコードを3コードのロックンロールの気持ちでやっているんじゃないかと思ったんです。僕はカノン進行ってホロリとくるようなものだとずっと感じていたけど、田淵さんにとっては、きっとそれだけじゃないんだと思った。「まだまだ奥が深いな」と実感しましたね。田淵さんからは現在進行形で影響を受け続けています。