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chef's chiffon
“おいしいおんがく”を掲げる4ピースバンドが描く「居場所としての愛」
文 / 天野史彬
力を抜いて、隣にいる人の肩にそっと寄りかかる。「支える」ことだけでなく、「支えられる」ことにも、それ相応の勇気と覚悟がいる。突然、相手がスッと体を離していなくなってしまうかもしれない。そうなれば、自分は体も、心も、バランスを崩して地面に倒れ込んでしまうだろう。それでも、「支えられている」という自分を受け入れる。そうしなければいられない自分の悲しさや弱さからは目を背けないようにしながら。どこからともなく「おまえがやっていることは依存なんだ」という棘のついた言葉が飛んでくるかもしれなくても。それでも、「居場所がある」ということの温もりと尊さを知っているから、「支えられている」自分を受け入れる。それに、誰かに支えられている人間が、誰のことも支えていないとは限らない。
2021年に結成された4ピースバンドchef’sの新曲「chiffon」は、「居場所としての愛」をテーマにしている。chef’sはボーカル、2本のギター、ベース、ドラム、というシンプルな編成のバンドだが、作詞作曲を手がける高田真路(B)を中心に生み出す楽曲のサウンドは「ギターロック」という範疇には収まらない。この「chiffon」も、ピアノなどのさまざまな音が重ねられたアレンジが華やかでソウルフル。しかし、派手な印象というよりはむしろ親密で温かく、ボーカル、ギター、ドラム、ベースという、バンドの根幹にある4人の音が生き生きと存在感を持って響いている。大事なものを塗りつぶしてしまう装飾ではなく、大事なものを際立たせるための装飾なのだ。そこが、この曲の「居場所としての愛」というテーマとぴったりフィットしている。バンドだって「居場所」なのだ。
この曲には宇多田ヒカルなども手がける小森雅仁がミックスエンジニアとして参加している。そんな小森の手腕もあるのだろう、情感豊かなアヤナ(Vo, G)の歌声も際立って聴こえてくる。食べれば食べるほど不健康に肥えていくのではなく、食べれば食べるほど健やかに豊かになっていく。そんなふうにジャズやR&Bなどさまざまなエッセンスを消化する新世代ポップバンドが、そのサウンドにおいてもテーマ性においても、自らの旨味を最大限に引き出している1曲である。
chef's - chiffonー "Official Music Video"
chef's(シェフズ)
2021年結成の4ピースバンド。さまざまなジャンルの音楽を混ぜ合わせ、ポップミュージックの可能性を広げる“おいしいおんがく”をテーマに活動する。2021年に1st EP「NOBODY CALLS ME CHICKEN!」、2022年に1stミニアルバム「selfish theater」を発表。同年5月には、おいしいおんがくの祭典として初の自主企画「東京晩餐会」を立ち上げ、東京・下北沢ERAで開催された第1回公演はソールドアウトを記録した。次世代バンドとして存在感を高める中、2024年8月に東京・Shibuya eggmanで開催した自主企画にてmurffin discs所属を発表した。2025年3月リリースの初の全国流通盤「thirsty flair」はタワレコメンに選出され、スペースシャワーTV4月度「it!」に決定。さらに収録曲2曲が全国16局でパワープレイされるなど注目を浴びた。2025年8月にはShibuya eggmanにて初のワンマンライブを開催し、チケットは即日完売。同月配信リリースされた「メイブルー」は、ドラマ「もしも世界に『レンアイ』がなかったら」第5話のエンディングテーマとして使用され、初のドラマタイアップ作品となった。2026年4月16日には東京・渋谷CLUB QUATTROにてワンマンライブ「chef's 2nd ONE MAN SHOW 『Cenacle』」を開催する。
