日本と台湾の音楽業界関係者が交流するイベント「TAIWAN × JAPAN MUSIC MEET 2025」が、11月12日から14日にかけて都内で開催された。
「TAIWAN × JAPAN MUSIC MEET」は、台湾の独立行政法人・TAICCA(台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー)、日本のインディペンデントレーベルのグローバル展開を支援する業界団体・Independent Music Coalition Japan(IMCJ)、日本やアジアの才能を世界へ発信するショーケースやカンファレンスを手がけるCUEW Showcase&Conferenceの3者による共催で、レーベルやイベンターなどの関係者が直接コミュニケーションを取ることで新たなコラボレーションやビジネス機会を生み出すことを目的とする催し。台湾から14社、日本から33社の音楽関連企業が参加し、マッチングセッションやパネルディスカッション、レセプションなどを通じて交流を図った。
このうち、13日に「JAPAN SESSION」と銘打って開催されたワークショップでは、ポニーキャニオンのグローバルマーケティング部部長・石井慎一氏、CUEWの共同創設者・タカハシコーキ氏が登壇。日台における国際的なパートナーシップの成功事例を、レコード会社とライブ制作の視点からそれぞれ解説した。この記事ではワークショップのレポート、石井氏とタカハシ氏のインタビュー、そしてTAICCA理事長である王時思氏のメールインタビューを通して、「TAIWAN × JAPAN MUSIC MEET」の実績や展望を紹介する。
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / はぎひさこ
ワークショップレポート
なぜ台湾なのか?
「JAPAN SESSION」ワークショップは、まずモデレーターを務めたブレンダン・ガッフニー氏(IMCJ)による日台の音楽マーケットの現状分析からスタート。日本の音楽市場は3285億円の規模を誇り、CDをはじめとしたパッケージの売上が6割以上を占める“フィジカル強国”と位置付けられている。その一方で、近年では若年層を中心にストリーミング市場も急成長しており、アジア最大の有料ストリーミング市場を形成していると述べた。
「そんな日本にとって、なぜ台湾市場が重要なのか?」との問いかけを提示した氏は、まず文化的な親和性の高さに言及。音楽を含むポップカルチャーの好みが似ている両国民には、互いのコンテンツを受け入れる素地が初めから備わっているのだという。さらに地理的にも距離が近く、ライブツアーなどのイベント展開が比較的容易であることから、経済的な利点も大きいと指摘。石井氏からは「ポニーキャニオンの海外売上ランキングでは、台湾がアメリカ、韓国に次ぐ第3位につけている」との証言も添えられ、日本の音楽業界にとって非常に重要なマーケットであることがエビデンスとともに示された。
成功事例紹介:レコード会社の視点から
そしてセッションは、メインテーマである具体的な日台コラボの成功事例紹介へ。石井氏は、所属するポニーキャニオンが2024年に同社の台湾支店をPONYCANYON ENTERTAINMENT TAIWAN, INC.として法人化したことに言及。現地での音楽戦略を強化しているところだと述べたのち、以下の3事例について解説した。
事例1:Kroi
オンラインのネットワーキングイベントをきっかけに台湾のフェスに出演。これが成功体験となってポニーキャニオン社内の意識に変革をもたらし、アーティストの台湾ならびに海外進出を後押しするきっかけの1つとなった。
事例2:chilldspot
台湾アーティスト・LINIONとのコラボ楽曲「music feat. LINION」は、台湾での再生シェア20%を記録し、コラボ以前の4%程度から急増。お互いのファン層を拡大するWin-Winの関係を築いた。
事例3:Hakubi
片桐(Vo, G)の祖父がかつて暮らしていた台湾・嘉義市で「何者」のミュージックビデオを撮影する際に、現地の行政(嘉義市政府文化局)とも連携。文化的なつながりを生かすプロモーションを展開した。
成功事例紹介:ライブ制作の視点から
続いてタカハシ氏は、コライト~コラボライブ事例を3つのパターンに分けて紹介。「優劣を意味するカテゴライズではない」ことを念押ししながら、次の3例を挙げた。
ケース1:プロデューサー主導型
Ai Kakihiraと台湾のラッパー・VUIZEが、プロデューサーの仲介によって福岡県糸島市でのコライト合宿を実施。文化交流を深めることから始め、2曲のリリースにこぎつけたほか、日台でのライブでの共演も実現した。
ケース2:オファー型
WONKが結成10周年記念で海外コラボを企画した際、もともとWONKのファンだったという台湾アーティスト・9m88にオファーして共演が実現。制作はすべてオンラインで行われた。既存の関係性を生かした事例。
ケース3:自然発生型
Billyrromが台湾の5人組バンド・Wendy Wanderのライブに感銘を受けたことがきっかけで両者の交流が始まり、自然なセッションからコラボ曲が誕生した。偶然の出会いが大きな成功につながったケース。
タカハシ氏は「いずれの例からも、アーティスト同士が互いの文化や考え方を理解し合う時間を持つことがいい作品作りにつながる」という共通点を見出せると分析。それを聞いた石井氏も大きくうなずき、同様の見解を示した。
&タカハシコーキ(CUEW共同創設者)
インタビュー
台湾は特別な地域
──まず、お二人がこのプロジェクトに参加された経緯を教えてください。
タカハシコーキ(CUEW) 私はCUEWというショーケース&カンファレンスのメンバーとして参加していまして、IMCJからご依頼いただいて、日本側のコーディネーターのような役割を担っています。私たちが普段から行っている、日本のアーティストと海外の関係者をつなぐ活動とTAICCAのビジョンが完全に重なっていることもあって、自分たちの活動の延長として参加させていただいているイメージです。
石井慎一(ポニーキャニオン) 私は音楽レーベルの人間として、台湾での音楽戦略を強化していきたい思いがあって2022年から参加しています。そこには、コロナ禍をきっかけに日本の音楽やアニメがデジタルコンテンツとして直接世界に届くようになり、特に台湾の数字が非常に伸びてきた背景があります。その数字をどうやってさらに上げていこうかと模索している中で、このプロジェクトへの参加を続けている状況です。
──その「特に台湾の数字がいい」というのは、そもそもどういう理由によるものなんでしょうか。
石井 先ほどのワークショップでも話に出ましたが、おそらく文化的な近さが非常に大きいかなと。Taipei Music Centerという場所に台湾の音楽史に関する展示があるんですが、それを見ると、歴史的に日本の音楽ジャンルやアーティストとすごく似通っている部分があることがわかります。お互いに影響し合ってきたんだろうな、と感じられるんですよね。そういった文化的な近さに加え、物理的な距離の近さも相まって日本の音楽やアニメが人気なんじゃないかな、と個人的には考えています。
タカハシ 台湾のCDショップに行くと、大きな店でも町の小さな店でも必ず日本のコーナーがあるんですよ。これには本当に驚きました。台湾アーティストのコーナー、日本のコーナー、その他海外のコーナーと分かれていて……最近はそこにK-POPも加わってきていますが、日本のコーナーはメジャーでもインディーでも絶対にある。みんな昔から日本の音楽をちゃんと聴いているんだな、とそこで理解しました。
石井 しかも最近のアーティストだけじゃなくて、昭和の作品などもたくさん置かれているんですよ。「え、これがここにあるの?」みたいなものもあったりして、面白いんですよね。
タカハシ 本当に親日の国だと思いますし、日本人が思っている以上に台湾の方々は日本のことを意識してくれているんじゃないかと感じます。
石井 ただ、日本の人はあまりその状況をご存知ないですよね。このプロジェクトのような試みを通じて、そのことがもっと伝わったらいいなという思いもあります。
タカハシ よくも悪くも日本の音楽業界はずっとドメスティック中心だったので、その意識改革は必要だと思っています。僕らの活動は、日本のアーティストを直接海外とつなげることはもちろんですが、みんなの意識を少しずつ変えることも重要だと考えていまして。先ほどのワークショップで石井さんがおっしゃった「Kroiが台湾ライブを成功させたことで社内の意識が変わった」という例などは、まさに僕らが目指すものですね。海外での成功例や交流の実例をリアルなものとして知ることが、「自分も行ってみようかな」という考えにつながっていくと思うんです。
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日本の音楽市場の現状と特性



