DUSTCELLインタビュー|アルバムに込めたメッセージは「生きてほしい」

DUSTCELLの最新フルアルバム「碧い海」がリリースされた。

「碧い海」は「変わらないまま、変わるもの」というキーワードをもとに、DUSTCELLにとってその象徴と言える海や宇宙をモチーフにしたアルバム。EMAが幼い頃の記憶をたどりながら制作した「いちばんぼし」、Misumiの楽曲「死に場所じゃない feat.初音ミク」の延長線上にある「後書き」など全11曲が収められている。

音楽ナタリーではメンバーのMisumiとEMAにインタビュー。「碧い海」に収録されている新曲の聴きどころはもちろん、「救いのあるアルバムにしたかった」というその真意について話してくれた。

取材・文 / 天野史彬

変わらないまま、変わっていく

──アルバム「碧い海」、聴かせていただきました。シングル「灯火」リリース時の取材でMisumiさんが「『灯火』同様、アルバムには『生きていく』というメッセージに通じる曲たちがある」とおっしゃっていましたが(参照:DUSTCELLインタビュー|夢の舞台を経験した2人が「ガチアクタ」エンディング主題歌に込めたメッセージ)、まさに、そのメッセージを強く感じるアルバムだと思いました。ラスト11曲目の「心臓」が、それまでの10曲で描いていることのすべてを包括しているような気もします。

Misumi おっしゃる通りで、「心臓」の歌詞は「今を生きていく」で終わるんですけど、この言葉に向かっていくアルバムになったなと思います。まさに「生きていく」というのが、全体を通してのキーワードというか。このアルバムの制作中、身近な人が亡くなったり、周りの人を見ていても「生きづらさを抱えているんじゃないか」と感じたりすることが多くあって。そういう中で、「生きてほしい」という気持ちを込めた歌詞が増えていった気もします。

EMA 「今を生きていく」ことは本当に大事だなと私も思います。過去や未来も大切だけど、先のことを考えてもどうにもならないことだってあるし。みんな、それぞれ自分にしかわからない悩みやつらさをいっぱい抱えているはずだから、今を一生懸命生きている人たちに「碧い海」が届いてほしいなと思います。

Misumi EMAが作詞した「いちばんぼし」の歌詞にも「あの時流した涙は生きるためだって信じてるよ、音が心地良いなあ」とあって、この曲も「生きていく」ことについて歌っているんですよね。このアルバムを作っている間、僕もEMAも同じようなことを考えていたんだなと思いましたね。

「DUSTCELL LIVE 2025 -月の裏-」の様子。(撮影:日吉“JP”純平)

「DUSTCELL LIVE 2025 -月の裏-」の様子。(撮影:日吉“JP”純平)

──前作「光」のときも語られていましたが(参照:DUSTCELL 3rdアルバムインタビュー|長い長いトンネルを抜けよう──暗闇の中から見える「光」目指して)、「海」というのはMisumiさんにとって重要なモチーフですよね。「碧い海」というタイトルはどのように考えられたんですか?

Misumi アルバムタイトルで悩んでいたとき、EMAから「変わらないまま、変わっていく」というキーワードをもらったんです。それについて考えてみたら、「海だな」と思って。海って、引きで見るとずっと変わらないように感じるけど、その中にいる生物たちはものすごく変化していたりする。海はまさに「変わらないまま、変わっていく」存在だよなと思ったんです。そこから連想して、EMAから「『碧い海』はどうかな?」という案が出てきたんです。最初は「BLUE」という案も出したんですけどね。

EMA うん、もうちょっと捻りたいなと思って。

──EMAさんが「変わらないまま、変わっていく」ということをキーワードに出したのは、きっかけがあったんですか?

EMA 私はサカナクションがすごく好きなんですけど、山口一郎さんが「芯の部分は変わらないまま、変わっていきたい」とおっしゃっていたのを聞いたとき、私たちがDUSTCELLでやりたいことの本質と重なるなと思ったんです。DUSTCELLって、初期の曲を振り返ると、闇を表現していることが多いんですよ。1stアルバムの「SUMMIT」(2020年5月発売)には特に色濃く出ていますね。それからアルバムを出していくにつれて、曲調はどんどん変わっていったと思うんです。でも、芯の部分には、結成当初からずっと変わらないものがあると思っていて。人として生きていれば当たり前のように変わっていく部分はあるけど、自分たちが作りたいものを作るという、音楽に対しての信念は変わらない。今のDUSTCELLにとってタイムリーだったんですよね、一郎さんの言葉は。

──「変化すること」は、Misumiさんが常々楽曲で描いてきたことでもありますよね。そこに「変わらないまま」という前置きが付いた感じもしますね。

Misumi そうですね。「変わらないまま、変わっていく」というのは、本当に今の自分たちにピッタリだなと思います。

「DUSTCELL LIVE 2025 -月の裏-」の様子。(撮影:日吉“JP”純平)

「DUSTCELL LIVE 2025 -月の裏-」の様子。(撮影:日吉“JP”純平)

海をぼんやりと見ていると、苦しみが和らいでいく

──「生きていく」というメッセージを描こうとしたとき、曲や歌詞の方向性としてはどんなものが浮かびましたか?

Misumi サウンド的に暗い雰囲気にはならなかったし、自分の身の周りには人間関係で苦しんでいる人が多かったので、「救いのあるアルバムにしたい」という気持ちがありました。今回のアルバムには海とか、あるいは宇宙というモチーフがあって、それは人間社会よりもっと大きなものじゃないですか。人間社会という円があるとしたら、その外側にもっと大きな円として、海や宇宙があると思う。そういう社会の外側に開かれている、大いなる存在を描きたかったんです。

──なるほど。ではタイトルにも掲げられた「海」は、「変わらないまま、変わるもの」の象徴でもあり、人間社会の外側にあるものの象徴でもあるんですね。

Misumi 僕自身、海をぼんやりと見ていると、苦しみが和らいでいく感覚になることがあって。あと、飼っている猫を見ていても、同じ気持ちになりますね。

EMA めっちゃわかる。猫って、人間誰しもが持っている欲とか、劣等感とか、そういうものが存在しない生き物なんじゃないかなって思う。もちろん、猫には猫の世界での悩みがあると思うんですよ。でも、Misumiさんが言いたいことはめっちゃわかる。私たちは、世界をもっと俯瞰で見たほうがいいと思う。視野が狭くなっちゃうと、つらいことも増えちゃうから。

「DUSTCELL LIVE 2025 -月の裏-」の様子。(撮影:日吉“JP”純平)

「DUSTCELL LIVE 2025 -月の裏-」の様子。(撮影:日吉“JP”純平)

──スマホばかり見ていると、どうしても社会との距離感はおかしくなるし、視野は狭くなりますしね。

EMA それこそ現代病ですよね。

Misumi このアルバムを通じて「もっと広いんですよ、世界は。だから、大丈夫」と伝えたいんです。