森口博子のデビュー40周年記念アルバム「Your Flower ~歌の花束を~」がリリースされた。
本作には1991年公開の映画「機動戦士ガンダムF91」の主題歌としてヒットし、「NHK紅白歌合戦」で披露された楽曲「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」のアンサーソングで、再びシンガーソングライターの西脇唯が書き下ろした「ETERNAL DAYS ~あなたがいてよかった~」や、デビュー曲である「機動戦士Ζガンダム」オープニングテーマ「水の星へ愛をこめて」を手がけた売野雅勇とニール・セダカによる40年ぶりのタッグで生まれた「聖なる惑星 -Sanctuary-」を収録。さらに平松愛理、前山田健一、広瀬香美、岸谷香、西村由紀江、木根尚登、畑亜貴といった豪華作家陣による提供曲が収められている。
バラエティ番組で活躍する傍ら、40年間にわたり真摯に音楽と向き合い続け、幅広い作家とともに珠玉の楽曲を世に送り出してきた森口。「Your Flower ~歌の花束を~」は新曲を通して“歌手・森口博子”の熱量と軌跡をしっかりと感じられる、非常に濃密な作品に仕上がっている。音楽ナタリーでは森口にインタビューし、40年間の総決算とも言えるこのアルバムの制作過程や、楽曲に込めた思いをたっぷりと語ってもらった。
取材・文 / 西廣智一
森口博子の40年全部詰め
──森口さんのオリジナルアルバムが発売されるのは、2021年8月発表の「蒼い生命」以来約4年ぶり。前作は既発曲が多かったですが、今作はほぼ新曲で固められており、かつ1曲1曲の密度が濃いものばかりです。デビュー40周年という大きな節目のタイミングに、こういうアルバムを作ることになった経緯を教えていただけますか?
新曲がたくさん詰まったオリジナルアルバムを作りたいと、スタッフにはずっと伝えていたんです。ありがたいことに、2019年にリリースした「GUNDAM SONG COVERS」がオリコンウィークリートップ3にランクインしまして。その後シリーズ化されて、さらに最近は「ANISON COVERS」も2枚作らせていただきました。令和に毎年アルバムをリリースして7枚とも立て続けにオリコントップ10入りといろいろ好状況が続いている中で、いよいよデビュー40周年が近付いてきたので「そろそろオリジナルを!」と希望を伝えて、ようやくここで形にしていただくことができました。
──森口さんとしては、オリジナルアルバムをどんな内容にしたいと考えていましたか?
まずプロデューサーにお伝えしたのが、今まで私がお世話になったそうそうたる作家の方、アーティストの皆さんに再集結していただいて、新曲を書いていただきたいということ。その作家の方々は、今もプライベートでつながっている仲良しの方を中心にお声がけさせていただきました。
──確かに、森口さんのキャリアを振り返ったときに必ず名前が挙がるような、納得の面々ばかりです。
そうなんですよ。代表作と呼べるような楽曲を書いてくださった方々ばかりですし、クレジットだけを見たら「何が起きているんだ?」と驚くような、「森口博子の40年全部詰め」みたいな内容になりました(笑)。幅広い作家の皆さんにいろんなタイプの楽曲を書いていただきましたが、私が強く伝えたいのは、熱量のある方々が丁寧に作ってくださった作品ばかりで、本当に名曲ぞろいだということ。たぶんバラエティ方面の私しか知らない人は、こんなに真面目に音楽と向き合ってきたんだと驚くと思います。その事実はこのアルバムからしっかり伝わると確信していますし、私にとって譲れない、40年の誇りです。
──ここ数年の「GUNDAM SONG COVERS」での森口さんしか知らない方にも、1980年代から現在に至るまで、真摯に音楽と向き合ってきたからこそこの内容なんだぞと、しっかりアピールできると思います。
ガンダム関連の楽曲で私のファンになってくださった方はもちろん、バラエティでファンになってくださった方、ガンダム以外のオリジナル曲でファンになってくださった方、全方位に刺さるアルバムになっております。ここまでいろんなことを一緒に乗り越えてきたファンの皆さんには、シンプルに懐かしさを感じてもらえると同時に、未来に向かっていくエネルギーも感じてもらえるんじゃないかな。原点に返って売野雅勇さんとニール・セダカさんにお願いした楽曲もあれば、ライブ映えするJ-POPも沁みるバラードもあるし、ヒャダイン(前山田健一)さんが書いてくれたバラドルとしての私を象徴するような曲もある。バラエティーのレギュラー番組をたくさんかかえていた私のことを知っている人は「そうそう、これこれ!」って思うだろうけど、知らない人にとっては「こんなことやってたのか! どれから聴こうか?」という(笑)、いい意味で間口の広いアルバムになったと思います。
「ETERNAL WIND」のアンサーソングに込めた思い
──アルバムのオープニングを飾る「ETERNAL DAYS ~あなたがいてよかった~」は、森口さんにとって大きなターニングポイントとなった楽曲「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」のアンサーソングです。
またもや名曲が誕生しました。初めて「NHK紅白歌合戦」に出場した際に歌った、ファンの皆さんにとってもすごく思い入れがある曲のアンサーソングを作りたいと、西脇唯さんにお伝えしまして。「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」の歌詞をちりばめるのはプロデューサーのアイデアでもあり私の思いもあったので、それも一緒にお伝えしたんですけど、そうしたら「ほほえみは光る風の中」というワードを歌詞に入れてくださったんです。
──「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」の中には「ほほえみは光る風の中」というフレーズは登場しないんですよね。しかも、「ほほえみは光る風の中」のあとに今回のサブタイトルである「あなたがいてよかった」というフレーズが並ぶという、ニクい演出です。
最後に「あなたがいてよかった」を2回繰り返しているじゃないですか。私、「同じ言葉を2回繰り返さずに違う言葉で締めるのはいかがですか?」と西脇さんに提案してみたんです。そうしたら、「これには意味があって、1回目の“あなた”は『ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~』という曲に対して、2回目の“あなた”はファンの方や支えてくださっている方々に対してです」というお返事をいただいたんです。その言葉を聞いて感動してうるうる。「変えないで、そのままでいいです!」と即答しました。私は「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」で初めてチャートのベスト10に入って、紅白出場や初めての全国ツアーにつながった結果、大勢の人に“歌手・森口博子”の存在を知ってもらえた。デビューして6年目にいただいた楽曲だったので、当時は本当に「あなたがいてよかった」という思いが強かったですし、そういう私の「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」やファンの皆さんに対する思いを投影してくださったことに心が震えます。
──「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」と比べて、「ETERNAL DAYS ~あなたがいてよかった~」はちょっとテンポを落として、表現的に大人びたものを感じます。そこからも30数年の成長や変化が伝わります。
伝えたいことを落ち着いて伝えられる年齢になってきたというのもありますし、歌詞の深さも……例えば「あなたは言ったね 『生きることは戦いだけど それはなんて美しい』」というフレーズについては、今ここで話していても泣けてきちゃうんですけど、西脇さんが「ファンの皆さんにもスタッフの皆さんにもいろんな役割があって、その中で時には傷付きながら毎日戦って生きている。森口さんも同じように、ずっとその中で歌い続けてきたわけですが、それはなんて美しいことなんだろうという気持ちを込めて、このフレーズを書きました」とおっしゃってくださったんです。実はこの歌詞を受け取った当時、私は骨折していて歩けなかった時期で、「なんで40周年のこのタイミングで神様は試練を与えるんだろう」と自問自答していた頃だったので、歌詞が当時の自分とリンクして本当に泣けました。
──そうだったんですね。それにしても、30数年を経てこういったアンサーソングの制作が実現したことは、ここまで長く続けてきたことへのプレゼントのようでもありますね。これが「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」リリース直後だったら、言い方が悪いですが2匹目のドジョウを狙っているように見えちゃいますし。
ファンや皆さんと積み上げてきたものがあったからこそ、「あなたがいてよかった」と心の底から言えるわけですからね。だからなのか、リリースイベントで「ETERNAL DAYS ~あなたがいてよかった~」を歌うと、皆さん号泣しながら聴いてくださるんです。それを見て私も泣くのをこらえているんですけど、プロデューサーからは「最後の2行を歌い切るまでは、何があっても泣かないで歌ってください。がんばれますよね?」と言われてしまいました(笑)。
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1曲入魂ではなく11曲入魂



