マカロニえんぴつのメジャー3rdフルアルバム「physical mind」がリリースされた。
6月にデビュー10周年を記念して2日間にわたって行ったキャリア最大規模の神奈川・横浜スタジアム公演「マカロニえんぴつ 10th Anniversary Live 『still al dente in YOKOHAMA STADIUM』」を成功に収めたマカロニえんぴつ。彼らが記念すべきハマスタ公演を経てリリースする「physical mind」には、精神を解放してフィジカルで表現できるものを思う存分ぶつけるというマカロニえんぴつの気概が示されている。
はっとり(Vo, G)、高野賢也(B, Cho)、田辺由明(G, Cho)、長谷川大喜(Key, Cho)はどのような思いで「physical mind」と向き合ったのか。それぞれのクリエイティブが遺憾なく発揮された本作についてじっくり話を聞いた。
取材・文 / 西廣智一撮影 / YOSHIHITO KOBA
ライブハウスみたいに裸一貫で
──マカロニえんぴつは今年デビュー10周年を迎え、新曲リリースやライブに明け暮れた1年だったように思います。中でも特に印象的だったのが、6月の横浜スタジアム2DAYS公演。僕は2日目を拝見しましたが、初日は雨で大変だったそうですね(参照:マカロニえんぴつ、横浜スタジアムで“雨にも風にも負けど”届けたグッドミュージック)。
はっとり(Vo, G) 小雨で始まって途中で大雨になりましたからね(笑)。昨年末ぐらいからハマスタのことが頭の片隅にあって、ずっと気を張っていたので、2日間終わった直後は達成感よりも正直「解放された!」って気持ちが強くて。なので、もっとあとになってから、じわじわと喜びが湧いてきました。
田辺由明(G, Cho) 僕も開催を発表してからしばらくは「チケット売り切れるのかな?」とか、そういう不安ばかりでしたけど、いざ始まったらこんなにもマカロニえんぴつのことを愛してくれている人がいるんだと、感謝の気持ちがあふれてきました。あと、自分が憧れてきたロックバンドはスタジアムクラスの人たちばかりなので、そういうステージにこのメンバーと一緒に立てたことが純粋にうれしかったです。
長谷川大喜(Key, Cho) 普段は会場に着いてからはあんまり緊張しないタイプなんですけど、ハマスタに限っては「どうしよう……」という気持ちがめちゃくちゃ強かったですし、何か食べていれば落ち着くはずが、あの日はどんなに食べても緊張が消えなくて。「これヤバいぞ。本番は動揺しなきゃいいな」と思いながら、本番が始まってリリーフカーに乗って会場を1周したとき、お客さんの顔を見たら「待ってたよ!」みたいなムードで迎えられて、そこでようやく気持ちも和らぎました。
高野賢也(B, Cho) あの2日間のためにいろんな準備をしていたんですけど、僕自身は「ハマスタでライブをする」という実感が薄くて。でも、公演前日に会場入りして、客席からステージ全体を見渡したときに初めて「ああ、ハマスタでライブをするんだ」とやっと実感が湧いてきたんです。グランドのいろんな場所に立って「ここからステージを観てくれる人がいる」ということを意識したらうれしくなってきて、「これは本当にいいものを届けたいな」と気持ちも引き締まりましたし、本番前は緊張もマックスだったんですけど、初日にSEが鳴った瞬間、急に「いつも通りの自分でいればいいんだ」と思えてきて。そこからはライブが終わるまで本当にあっという間でした。
──僕がステージを観て特に印象に残ったのが、皆さんがいい意味でいつも通りの雰囲気でステージに立っていたこと。約3万人キャパのスタジアムにもかかわらず、ライブハウスでライブを楽しんでいるようで、ロックバンドとしての軸の部分がしっかり確認できたことは個人的にも大きな収穫でした。
はっとり 確かに、ロックバンドをやっている誇りや意地みたいなものを背負ってステージに立った気持ちはあります。賢也も言ってたけど、あんなにものお客さんが期待して待ってくれていたんだと思ったら、普段のライブハウスのように裸一貫でぶつかったほうがいいと思って。あと、いろいろガチガチに組み立てすぎなかったからこそ、おっしゃるようにライブハウスで観ているような、お客さんとの自然な一体感を作り出すことができたんでしょうね。ここまでの10数年のキャリアで得た財産だと思います。
「静かな海」で進んでいく
──もう1つ印象的だったのが、ラストに披露された「静かな海」。初日に関してはリリース前ですし、完全なサプライズでした。あの曲が最後にあることで、全体がギュッと締まった印象です。
はっとり セットリストを決めてリハーサルに入った段階では、まだやる予定がなかったんです。でも、4月に録った時点ですごくいいものができたと思ったし、この周年に向けた今までの流れを汲んでできた曲のように感じたから、せっかくのハマスタの機会にやらないのはもったいない気がして。なので、急遽組み込んだんですよ。セットリストの中盤に入れる案もあったんですけど、すでに完成していたセトリだったから壊したくなくて。かと言ってアンコールはやらない想定だったので、最後にしれっとやって、「ありがとう、またね」と言って帰るのが一番合いそうだなと。そのほうがお客さんの中に「静かな海」が残るのかなとも思って、あの位置になりました。
──あの2日間は「10周年ありがとう」を伝える場だったけど、最後に「静かな海」が加わることで「ここからまた続くよ、よろしくね」という次への期待感も高めてくれましたよね。
田辺 確かに。あの曲がなかったら、終わったあとの雰囲気も全然違っただろうし。
はっとり 過去の楽曲だけにしがみつくことなく、バンドとして前に進んでいくことを提示できたし。お客さんも安心してくれそうだよね。俺がファンだったら、たぶん喜ぶと思います。
──僕、大きな節目のライブを経て最初に発表された「静かな海」は超ド級の名曲だと思っていて。マカロニえんぴつには今までも刺さる楽曲がたくさんありましたけど、個人的には一番刺さりまくったんです。なので、この曲以降に発表されるであろう新曲やその先に控えているであろうニューアルバムが、楽しみで仕方なかったです。
はっとり 実際「physical mind」はどうでした?
──期待以上のロックアルバムで大満足でした。
一同 おお、うれしい!
はっとり 「期待通り」ではなく「期待以上」なのがありがたいです。
──これまで耳にしてきた既発曲も多いので、それらをどう並べて、かつそこにどんな新曲を加えることでアルバムとしての全体像が浮かび上がるのか気になっていたんですが、バンドとしての矜持が強く伝わる、すごくダイナミックで聴き応えのあるロックアルバムだと思います。
はっとり 「ロックアルバム」と言ってもらえると、こちらもそのテンションで作ったから救われます。うれしいなあ。
──レコーディングをする中でアルバムの全体像が見えてきたのはどの曲を録っているタイミングでしたか?
はっとり 「化け物」を録っているときですかね。ストレートなロックアルバムを意識して、そのテーマに振って作ったらどうかなと思っていたので、「こういう骨太のロックサウンドも出せるようになったんだ」とうれしくなって。そのあとに控えていた「パープルスカイ」のレコーディングでもロックに振り切ることができましたしね。やっぱりレコーディングで毎回思うのは、そのときのバンドの雰囲気って絶対作品に出るということで。ありがたいことに、去年から今年にかけてはライブが生活の中心にありましたし、全員が自分の音を追求して、アンサンブルでの立ち位置を自覚したことでバンド然としてきたと同時に、仕掛けじみたアレンジへの興味が薄らいだ。その結果、こういうロックアルバムになったんじゃないかと思います。
生きてるんだよね
──皆さんのプレイヤー、表現者としての技量がダイレクトに反映された結果、ライブと直結した楽曲がそろったアルバムになったと。
はっとり なので、「physical mind」というアルバムタイトルもそこを際立たせたかったから付けたというのもあります。自分の精神の部分を嘘偽りなく解放して、フィジカルで出せるものをぶつけていく。時にはボロが出てしまうこともあるかもしれないけど、覚悟を持って音を出すという気概で向き合ったアルバムなんです。
田辺 これだけライブをやってきて、自分の武器やファンの方々が喜ぶ音みたいなものを全部わかったうえで勝負している部分が全曲通してあって、その結果音がちゃんと生きているというか。レコーディングにおいてもリズムにハマっていればOKじゃなくて、生きている音やノリの部分を採用してきたので、それぞれの音が踊っている感じがしっかり伝わってくるんです。そういう意味でも「physical mind」というタイトル通りの内容になっているし、このタイミングじゃなきゃ作れなかったアルバムだと思うんです。
はっとり だから、録り終わった音をそれぞれ単独で聴くと、実はけっこう悲惨だったりするんですよ(笑)。以前はそういう音のヨレを直したりもしたんだけど、今回は全体で聴いたときのグルーヴがすごくて、「ああ、こういうことなのか! ここに着地するのか!」と納得した。
田辺 音が生きてるんだよね。
──ベースもグルーヴ感やフレージングが、より生き生きとしているように感じました。
はっとり 確かに、ベースは音作りも変わってきたしね。
高野 変わったね。ギター2人が太い音を出すから支配力がけっこう強いし、鍵盤もいろんな音色で存在を示すから、「ベースはどこにいようかな」と自分の立ち位置がフワフワしていた時期もあったんです。でも、今は「ここにいます」と具体的に提示するように変わりましたね。フレージングとか弾き方とか音色作りの向上を目指しながらも、あまり背伸びしすぎず、自分が今持っているもので一番強力な武器をやっと見つけ出せた気がして。あと、昔はアンプにあまり興味なくてずっと同じ物を使ってたんですけど、最近は自分から試奏しに行って購入することでアンプも増えて、その中で一番相性のよかったのが今使っているアンプなんです。そういう新しい武器を手に入れられたのが最近のことだったので、自信につながってサウンド面にも反映されている気がします。
──そうだったんですね。
高野 それと、ハマスタ初日の雨。あれこそフィジカルの強さが求められる経験で。雨で指がふにゃふにゃになっちゃって、指弾きだとあまり響かなくなってしまったので、急遽ピック弾きに変えたり、ベースも雨に濡れると音が響かなくなってくるので、2曲ごとに別のベースに持ち替えたりと、準備したことがやれないんだったら今できることを全力でやる……そういうマインドにシフトできたのは、自分の中でも大きな変化でした。
──キーボードに関しても、新作を聴くとアナログシンセを使っていたりと、音色的にいろいろ挑戦しているように感じましたが。
長谷川 今まではデジタル機材が多かったんですけど、最近はアナログ系の音にすごく魅力を感じていて、それ以外にもエレピとか実機が自分のものとして手に入る機会があったので、今回は私物を多めに入れてみました。それに、今までの作品作りでは集中して自ら弾いている感覚だったんですけど、今回はエレピとか鍵盤から出てくる気持ちいい音に僕が“弾かされている”みたいな感覚にもなったんです。
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