ゆり丸こと平野友里のニューアルバム「MagicBox」がリリースされた。
2012年結成のTAKENOKO▲を皮切りに、グループやユニット、そしてソロなどさまざまな形態を経ながら10年超にわたりアイドル活動を続けているゆり丸。2022年にソロ活動第2期に入った彼女は、ソロアイドルフィーチャリング企画を含め新曲をコンスタントにリリースしたり、ソロアイドル12組が集結する主催イベント「ソロ丸っと集まれ!」を開催したりと、今年1年を通して今まで以上に精力的な活動を展開してきた。
昨年9月発売の「MusicBox」以来約1年3カ月ぶりのフルアルバムとなる「MagicBox」は、そんな1年間の軌跡を計14曲に凝縮した作品。聴き終えたときに1本の映画を観終えたような気持ちになれるよう、“エンタメ映画”のような構成を目指して制作された。
音楽ナタリーでは前作リリース時に引き続き、ゆり丸にインタビュー(参照:平野友里「MusicBox」特集|ゆり丸の波乱万丈なアイドル人生を振り返る1万字インタビュー)。そこで彼女の口から語られたのは「作品をリリースし続けることを自分の強みにしたい」「ソロアイドルの未来が明るくなる活動をしたい」といった意欲的な言葉の数々だった。その背景にはどのような心境の変遷があったのか、今回もじっくりと話を聞いた。
取材・文 / 南波一海撮影 / はぎひさこ
いろんな曲にチャレンジするのがゆり丸
──昨年9月にリリースした前作「MusicBox」はご自身の「ソロ活動第2期」を総括するような内容でしたが、ゆり丸さんはその後もハイペースにリリースを続け、このたび新たなオリジナルアルバム「MagicBox」を完成させました。当初から次のアルバムは2025年にリリースしようと考えていたのでしょうか?
実は今年の2月くらいにはリリースしたいなと思っていたんですよ。
──2月ですか?
自分でも生き急ぎすぎていると思います(笑)。ただ結局、自分のこだわりがあったりして、ずれにずれてこのタイミングになった感じです。去年の時点ではまだ細かいところまでは決めてはいなかったですけど、コンスタントにリリースしていくことは大事にしていきたいなと考えていました。
──リリースし続けることにこだわりがある。
これまでのグループ活動やその運営さんに感謝しているのは大前提なんですけど、過去のグループでは1年を2曲だけで乗り切らなきゃいけなかったときもありましたし、後輩ちゃんユニットはどんどん新曲を出していくのに自分たちはなかなか曲がもらえない、衣装もずっと変わらない、みたいな状況が続いたことがあって。そのとき、ファンの方たちからいただいている応援はどこに反映されているんだろうと思ってしまったんですね。きっとファンの方もそう感じていたと思います。それでみんなに対して申し訳ない気持ちになり、自分のソロ活動ではみんなの応援が明確に私への貢献になっているんだよ、ということが伝わるやり方にしなきゃいけないと思っていました。
──つまり、あなたが使ったチェキ代はちゃんと新曲の制作費に使われてますよ、と示したかった。
そうです(笑)。安心して推してほしくて、どんどん曲を増やしているところはあります。
──そうなると自然と日々のライブのセットリストにもバリエーションが増えていきますよね。
そうですね。ソロ第1期は当時の運営さんにプロデュースしていただいてがっつりバンドサウンドだったんですけど、2022年にソロを再始動するにあたって、自分には結局どれが一番合うんだろうと思って、いろんな曲にチャレンジするというコンセプトで活動を始めたんです。そうしていく中で、さまざまな表現をする力も得られてきて、それも自分の強みだなと思えるようになってきたんですよ。今はどれが合うか探しているというよりも、いろんな曲にチャレンジするのがゆり丸だと考えているので、どんどん幅が広がっています。
──ソロアイドルはコンセプチュアルな人も少なくない中で、ジャンルを絞らないという方向性を押し進めることにしたんですね。
そう思いつつも、自分に自信がないので、本当にこれでいいのかなと考えるときもあります(笑)。1つのジャンルに定めたほうがいいのかなって。でも、ライブを毎回「今日は何が聴けるんだろう?」と飽きずに観られるだろうし、そうやって楽しみにしてもらえることも大切だと思うので、これからもこの方向で続けていきたいです。セルフプロデュースのソロアイドルだからこそ、自分のやりたいことを大事に拾っていくのも長く続けるコツなのかなと考えたりもします。ただ、個性の面では悩んでしまうこともあって。
──個性ですか。
自分のキャラをものすごく貫かれているアイドルさんがたくさんいらっしゃるじゃないですか。たぶん、私はそれができないタイプなんだと思います。素でアイドルをやってしまっているというか。だからずっと自分の中で「ゆり丸と言ったらなんだろう?」という思いがあるんです。器用貧乏なのもあって、特徴らしい特徴がないのもコンプレックスで。だからとにかくライブの数で勝負していた時期もありました。今年で言うと、電車やバスの貸切ライブなどをやってきて、「“乗り物ライブ”と言ったらゆり丸」みたいなイメージができつつあるので、そういう特徴を増やしていくのもいいのかなって考えたりしてます。
──キャラがないなんてことはないとは思いますよ。ただ、ファンの中でも、ゆり丸さんのライブや音楽に触れていた時期が人によって異なるだろうから、イメージはそれぞれまったく違うかもしれないですね。
つい最近のライブで、コンスタントに観に来てくれるわけじゃないけど、2推し、3推しくらいの感覚で応援してくれているお客さんが来て、「毎回新曲やってるよね」と言われました(笑)。音楽ジャンルもキャラも絞らずにやることを強みにしていければいいのかな。そのためにボイトレもがんばったりしていますし、「MusicBox」と「MagicBox」を通じていろんな表現ができるようになったなと自分でも思います。
──とはいえ音楽的な傾向がないわけではないと思っていて。今回のアルバムに関しては、ラップの要素が増えたのかなと感じます。
そうなんです! SZWARC(※平野が2020年10月から2024年1月まで在籍していたガールズラップユニット)に入って初めてラップに触れて、それが純粋にすごく楽しくてもっとラップをやっていきたいなと思ったのと、あとは年齢的な部分もあって。
──年齢も関係ありますか?
例えば、今年からソロ第1期の曲をまたライブでやってますけど、あの頃みたいな元気さ、ハードさに比べるとやっぱり年相応のパフォーマンスになってきているのかなと自分でも感じているんです。今でも全然歌える曲もある一方で、初期のももクロさんみたいなアクロバティックに踊りまくる、しかもキーが高い曲もあって、さすがにそれを今の私がやるのはどうかなと思ったりするんですね。自分の性格がネガティブなのもあるんですけど、ツインテールひとつとっても、私まだいけるかな、大丈夫かなって思うし、年齢に見合ったものは何かということを敏感に考えるようになってきました。自分的には「MagicBox」の音楽は今の年齢にフィットしていると思います。応援してくれているファンの方の反応を見ても、今の楽曲のほうが好まれているなと感じます。
ソロアイドルの“界隈”を作っていく
──ゆり丸さんがすごいのは、移り変わりの激しいシーンに長くい続けるために、少しずつ形を変えながらいくつものチャレンジをしているところだと思います。ソロアイドルだけのイベントを開催したり、ソロアイドルとコラボした楽曲を積極的にリリースしたりしていますよね。近年はかなり意識的に居場所を作ろうとしているのかなと。
それはあります。昔は自分発信で何かをする力がまったくなかったんですよ。今の状況に危機感みたいなものはすごく感じていて、特にソロの子たちはみんな口をそろえて「昔みたいにライブすれば新規が増える時代じゃないよね」って言ってます。昔で言う「界隈」みたいなものがあまりなくなったような気がしているので、ソロ同士で何かをするというのを企画しています。自分はグループも経験しているから言えるんですけど、1人で戦えるって、本当にすごいことだと思うんです。それが合体したときにより強いものになれると思うから、ソロの界隈を作ることによって、それぞれ1人だけじゃ出ていけないようなところにも響いていったらいいな、という考え方をするようになりました。
──界隈を作っていこう、と。
じゃないとやっていけないなって思いました。対バンを重ねるだけじゃ、それぞれのお客さん同士が仲よくなるにも限界があるんだなとすごく感じます。昔はありがたいことに放っておいてもフロアで勝手に仲よくなってくれた気がするし、今考えると90%はお客さんのガヤで助けられてた。今は全部を自分で切り拓かないと進めない時代になったなと痛感しています。
──ゆり丸さんは「自分はライブしかできない」ということをよく言いますが、こういう話を聞くとまったくそんなことはないと感じます。
でもそれって、周りのソロアイドルの仲間たちが本当に魅力的だからだと思います。最近は自分のことよりも、ほかのソロアイドルのことで悔しさを感じたりするんですよ。例えば、2、3会場でイベントがあるときにソロアイドルは小さめのステージにされがちだなと感じていて。自分もそこのひとまとめの中にいるんですけど、先陣を切ってがんばっている子たちもその扱いにされちゃうことに「なんで?」って思っちゃう。イベント自体は好きですし、自分も主催イベントをやったのでわかるところもあるんですけどね。私なんかが言うには大きすぎる話ではあるけど、少しでもソロアイドルの未来が明るくなる活動をしたいなと思うようになりました。
──それはきっとご自身にとって大きな変化ですよね。
自分でもそう感じます。昔は運営さんに任せていたことが多かったし、自分のことで手一杯だったけど、そもそもここまでソロの不遇みたいなものを感じない時代だったと思うんですよね。自分が10周年のタイミングでソロ活動を再始動させたときに、このイベントに出たいと思ってその運営に連絡したら「ソロはやってないんです」と断られたことがあったんです。その話をソロ仲間にしたら、同じ気持ちの子がたくさんいて。私からすると「この子でもそんなこと言われちゃうの?」と感じたりして、全体的にそういう時代になってきているんだと思いました。
──その点で、現在進行中のコラボ企画はユニークな展開を見せていますよね。世代の近いおなじみの面々から、さくまる。さんのような新世代もフックアップしていて。
さくまる。はこれからのソロの未来を担っていくと思うんですよ。なので、自主企画のイベント「ソロ丸っと集まれ!」ではトリをさくまる。にお願いしました。トップバッターを、キャリアは長いけど若くてフレッシュな星野るなちゃんに飾ってもらったのも、ソロアイドルのシーンを途絶えさせたくないという思いからです。もっとソロアイドルを目指す子が出てくるような時代になってほしいなと思います。
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