Waive特集 田澤孝介(Waive)×葉月(lynch.)対談|互いの道を歩む同志の大放談

2023年4月に本格再始動して以降、リリースにライブにと精力的にバンドとして活動を続けてきたWaive。再始動から約3年が過ぎ、彼らは当初の宣言通り2026年1月4日に行う初の東京・日本武道館公演をもって解散する。

バンドの有終の美を飾る大舞台に向けて、音楽ナタリーでは2つの対談を企画。第1弾となるこの記事では、田澤孝介(Vo)とlynch.の葉月(Vo)によるフロントマン対談をお届けする。ヴィジュアル系シーンに長年身を置き、お互いの存在を認識しながらも、去年初めて対面したという2人。しかし、対談現場で醸し出される空気感は、旧知の仲のそれであった。

Waiveが解散を控える一方、結成20周年という節目を東京・東京ガーデンシアターでのワンマンライブで締めくくり、新たなフェーズへと突き進むlynch.。異なる意味を持つ大舞台に臨む2人に、出会いや互いへの印象、アーティストとしての矜持など、さまざまなことを語り合ってもらった。また特集の最後にはWaiveや田澤と関わりの深い暁(アルルカン)、石月努(FANTASTIC◇CIRCUS)、歌広場淳(ゴールデンボンバー)、クリス・ハート、TAKUMA(wyse)、逹瑯(MUCC)、中尊寺まい(ベッド・イン)、真緒(Sadie)、maya(LM.C)、来夢(キズ)からのコメントを紹介する。

取材・文 / 西廣智一撮影 / 堅田ひとみ
※コメント寄稿者は50音順

「絶対に田澤と葉月は合う」

葉月(lynch.) 田澤さんと最初にお会いしたのって、MUCCがきっかけですよね。

田澤孝介(Waive) そうか、去年9月の「LuV Together 2024」を観に行ったときが初めてだったのか。それ以前から存在は知っていたけど、あの日は「葉月と仲よくなるぞ」という意思を明確に持っていて。そもそも俺自身、自ら「この人と仲よくなろう」と距離を縮めることが意外とできないタイプだから、ここは一歩踏み出さねばというのを感じてて。

葉月 どうしてそんなに気にしてくれたんですか?

田澤 周りの共通の知人から、「絶対に田澤と葉月は合うと思う」と言われてたんよ。でも、正直よく知らないし、見た目が怖そうだったから「そうか?」と思ってたし(笑)、しかもSNSを通じてスタッフに任せずに自らガンガン行く振る舞いを目の当たりにして、「果たして本当に合うのか?」とますます疑問を感じて。だけど、いろいろと葉月のことを追いかけていくうちに、ある日突然「俺、もしかしてこうなりたいのかも」と思ったの。

葉月 ええっ!?

田澤 俺にも自分が先頭を切って突っ走っていきたい気持ちがあるのに、実際には人の目とかいろんなことを気にして踏み出せない。そういうところでうらやましいと思ってんちゃう?と気付いてから、今度は憧れじゃないけど「この人の根底を、もっと知りたい」と思うようになって。それが明確に「仲よくなるぞ」と決めた理由。それで、いざlynch.のライブをちゃんと観たら、シンプルにステージがカッコよすぎた。

葉月 あまりに褒められすぎて、「嘘でしょ?」って言いましたけどね(笑)。

左から田澤孝介(Waive)、葉月(lynch.)。

左から田澤孝介(Waive)、葉月(lynch.)。

田澤 自分も同じボーカリストだから、「この人、めっちゃ練習するタイプだな」というのがまずわかったし、これをステージでできるようになるまでに、どれだけの鍛錬を積んだのかも肌感で理解できた。しかも、そういう苦労を微塵も見せずに、覇王のように振る舞っていて。

葉月 でも、あのときは僕だいぶ調子悪くて、2曲目あたりから危なかったんですよ。「せっかく田澤さんが観てくれてるのに……」って緊張していたくらいですから。

田澤 緊張しとったんや(笑)。

葉月 周りのミュージシャン仲間から「とにかく田澤さんは歌がうまい」ってずっと聞いていましたし、ライブ映像とかを観てあまりのうまさにびっくりしたんですよ。そうしたら、MUCCの逹瑯さんが紹介してくれて、「今日、田澤さんに観られながらやるのか」と。僕は歌を始めてもう25年ぐらいになるけど、そのうち20年ぐらいは歌にあんまり関心がなかった。なんとなくやってもカッコいいと感じてもらえれば、それでいいやって。だから、本当にここ5年ぐらいですよ、「もっと歌がうまくなりたいから、ちゃんと研究しよう」と思うようになったのは。そうやっていろいろやっている中、田澤さんに観られたら、そりゃ緊張しますよ。

「Waiveのほうが分が悪い」の真意

田澤 そこから、Waiveとlynch.の競演となると今年10月の「VS GIGS『LIFE goes音舞美威闘.』」になるのか。

葉月 そうですね。それまでに何回も飲んでるし、しょっちゅうゲームも一緒にやるような仲になりましたが。

田澤 カラオケで歌の練習もして(笑)。そうやってお互いのことを理解したうえでの対バンだったので自然だったね。

葉月 最初のインパクトというか、「この人、どういうライブするんだろう」みたいなことは去年の12月にJさんの「放火魔大暴年会」(LUNA SEAのJが毎年末に開催しているライブイベント)のときに感じていて。あの日はWaiveがバンドとして出演して、僕はJさんのライブにゲスト参加したんですけど、そこで初めてWaiveのステージを観たんです。あのときは「MCがすごく不安だ」と言ってましたよね。

田澤 そうそう。アウェーな現場やったから、どうしようかなとか言って。

葉月 僕はわりとMCが得意なほうだから、「何か考えてアドバイスとかしたほうがいいのかな?」とは思っていたんですけど、でも先輩だしなあと。一旦何も言わずに観ようと思っていたら、全然フロアを掌握していたんで「できるんかい!」と(笑)。

田澤 いやいや、たまたまだよ。イベントの前日にJさんが布石になるようなポストをXにしてくれたから、そのおかげです。

田澤孝介(Waive)

田澤孝介(Waive)

葉月 あの日のステージを観て、自分たちのイメージを塗り固めて、ベールに身を包むのではなく、ちゃんと自分の人間味を出して勝負する人なんだなと思ったんですよ。そこはかなりシンパシーを感じました。僕は対バンのとき、そういうタイプのほうが持ってかれやすいというか怖い。

田澤 うん、それは俺もわかるな。

葉月 だから、「LIFE goes音舞美威闘.」のときはそういうことも全部知ったうえで、ずいぶん仲よくなって臨んだから、変な緊張とかもなく。

田澤 そうね。むしろ、こういうふうにお互いのファンに訴えかけようか、みたいな話もしてたくらいだし。

葉月 お互いデカいライブが控えていて、そこに向けて1人でもファンを増やしたいという目的もあったし、lynch.のライブを観たことがあるWaiveのファンの人は少ないと思ったので、どういったアプローチするのがいいのかはめちゃくちゃ考えました。

田澤 それはお互い一緒だよね。実は逹瑯に「lynch.とツーマンやるんだよ」と伝えたときに「lynch.とWaiveだったら、Waiveのほうが分が悪い」って言われたのよ。楽曲も世界観も完成されているlynch.に対して、Waiveはどちらかというと人間臭いし音数も少ないから、初めて観た人を巻き込むスピードは絶対にlynch.のほうが速いと。

葉月 「だから、こうしたほうがいい」という意見も教えてほしいですよね(笑)。

葉月(lynch.)

葉月(lynch.)

田澤 俺もlynch.のライブを観ていたから、逹瑯の言うこともわかるなと。ただ、Waiveは先に進んでいくバンドではないからさ。新しい曲がたくさんあるわけでもないし、昔からあるもんで勝負するしかないから、そこは開き直って「別モノなら別モノで、もうしょうがねえじゃん」みたいな姿勢で挑もうと。「クラシック聴くけどロックが好きな人だっているでしょ」みたいな、そういう人がおることに賭けようと思ってたんだけど、lynch.が思いのほかこっちに寄せてきてくれたんだよね。Waiveのカバーをしてくれたり、歩み寄り方がちょっと尋常じゃなくて。

葉月 そりゃそうですよ。イベントに呼んでもらえたこともありがたいし、せっかくならWaiveのファンの方にも気に入られたいし。ハードルを下げに下げて臨みましたから。あの日のlynch.の1曲目の意味ってわかりました?

田澤 それもさ、ニクイことするやんと思ったよ。

葉月 「ALLIVE」って曲からライブをスタートさせたんですけど、あれはlynch.が初めて武道館ライブをするときに作った曲なので、これはWaiveに贈りたいなと思って。

田澤 ズルいって(笑)。ファンの人たちもあのセットリストの意味を知って、俺と同じように思ったはずだよ。しかも、その意味を直接は言ってこないんだから。

葉月 今初めて伝えましたけどね(笑)。

田澤 こんなはなむけもらえるなんて、正直ちょっと泣けたよ。そうやって自分らの出番前にすでに喜びを感じて噛み締めていたから、より「絶対いい日にしよう」って気持ちも強まったし、本当にひとつになれたと思う。ありがとうございました。