ユニバーサルミュージックによる新たなサービス「U-CONNECT DOWNLOAD」が本格始動。第1弾として今年デビュー55周年を迎えたオフコースの新編集ベスト「ファイナル・セレクション 1975-81」、第2弾として2026年に結成55周年を迎えるアリスの新編集ベスト「アルティメット・メモリアル '72-'79」が企画された。ともにかつての東芝EMI・EXPRESSレーベルを支えたアーティストで、それぞれのアートワークにはレーベルカラーである水色と黄色があしらわれ、ジャケットの表面がくり抜かれた特殊仕様となっている。
これらはLPレコードに、そのマスターとして使用したハイレゾ音源が付属した、高音質をアナログとデジタルで楽しめる一挙両得な新形態。デジタル全盛期でありながら、レコードで音楽を聴く魅力が改めて注目されている昨今においてはうってつけのリリース形態と言える。この特集では、ディープなアナログ愛好家であるとともに、音楽配信にまつわる書籍「音楽配信はどこへ向かう? ― アップル、ソニー、グーグルの先へ…ユーザーオリエンテッドな音楽配信ビジネスとは?」を上梓するなど、古今東西の配信事情に精通するライターの小野島大による解説を通して、「U-CONNECT DOWNLOAD」サービスを活用した2タイトルの特徴を掘り下げる。
文 / 小野島大
「U-CONNECT DOWNLOAD」サービスを採用し、アナログとデジタルの両方でいい音を楽しめる本シリーズ。まずは今年デビュー55周年となるオフコースの新編集ベスト盤の登場だ。彼らのベスト盤は過去数多くの種類が出ているが、今回は東芝EMI / エクスプレス・レコード(現ユニバーサルミュージック)在籍時の1975年から1981年にかけて発表された楽曲の中から選りすぐりの名曲を10曲に凝縮したベストオブベストとも言うべき決定盤となっている。「ファイナル・セレクション 1975-81」と題しているのは、まさにこれが決定版、真打ちであるということだろう。配信やCDに慣れている身からすれば10曲では少なすぎると感じるかもしれないが、アナログ盤は曲数を詰め込みすぎると音質が劣化する。音質を最適化し、1枚に収めるためにはこれくらいの曲数がいい、ということだ。
今回の選曲は、ヒットしたシングル曲を売れた順に並べただけ、というような単純なものではない。大ヒットシングルだけでなく、それほどヒットはしなかったが長く愛され評価の高い曲、アルバム収録曲ながら隠れた名曲として知られる曲なども収められている。熱心なファンの間で愛され聴き継がれてきた名曲を収めた、通好みのベストなのだ。
A面には穏やかな情感と清冽なギターアンサンブルが印象的で、解散後も小田和正がソロでセルフカバーした「愛を止めないで」(1979年)、初のヒットであり、初期の代表曲として知られ、ライブで盛り上がる定番曲「眠れぬ夜」(1975年)、「君を抱いていいの / 好きになっていいの」というパンチラインがあまりに有名な大ヒット曲「Yes-No」(1980年)、アコースティック中心のフォーキーなサウンドと情景が浮かぶような歌詞が魅力で、ファンクラブ人気投票で1位の常連である「秋の気配」(1977年)、槇原敬之やEXILEなど数多くのアーティストにカバーされ続けている「言葉にできない」(1981年)を収録。B面にはメッセージのある歌詞が密かに支持を受け、東日本大震災以降に改めて注目された「生まれ来る子供たちのために」(1980年)、曲の合間にジョン・レノンの死を伝えるナレーションが入り、ひとつの時代の終わりを伝えた「I LOVE YOU」(1981年 / シングルバージョンとアルバムバージョンがあり、本作にはジョンについてのナレーションが入らないシングルバージョンを収録)、「秋の気配」の続編とも言うべきアルバム「FAIRWAY」収録の隠れた名曲「夏の終わり」(1978年)、オフコース最大のヒットであり、この時代を生きた者なら知らぬ者はいない名曲中の名曲「さよなら」(1979年)、「君が好きだから いつもそばにいて」というシンプルなメッセージとシンプルなサウンドが深い余韻を残す「私の願い」(1980年)が収録されている。
オフコースの音楽は小田和正のハイトーンのボーカル、鮮やかなコーラスハーモニーを生かすために、クリアで分離がよく、かつ温かみのある音質で聴きたい。アナログ盤をいち早く聴く機会を得たが、そうした繊細さと音の太さを併せ持った瑞々しく透明感のある、理想的なサウンドに仕上がっているという印象を受けた。素晴らしい音質である。
「U-CONNECT DOWNLOAD」サービスを採用し、アナログとデジタルの両方でいい音を楽しめるシリーズの第2弾アーティストはアリス。2026年に結成55周年イヤーを迎えるレジェンドの新編集ベスト盤「アルティメット・メモリアル '72-'79」だ。1972年のレコードデビュー以降、東芝EMI / エクスプレス・レコード(現ユニバーサルミュージック)からリリースされたシングルから選りすぐったもの。全12曲中7曲がチャートトップ10にランクインした大ヒットで、残りも彼らの歴史に欠かすことのできない名曲ばかりだ。
A面に収録されるのは、アリスのシングルとしては唯一のチャート1位を記録した名実ともに代表曲で、映画の一場面を思わせるようなドラマティックな歌詞と、当時のアリスにしては珍しいアップテンポのロック調のサウンドが今も鮮烈な「チャンピオン」(1978年)、ファンの間で今も根強い人気があり、当代一の売れっ子セッション・ギタリストだった矢島賢のエレキギターが印象的な「遠くで汽笛を聞きながら」(1976年)、友達から恋人へと一線を越えた揺れる心理を繊細なタッチで描く「秋止符」(1979年)、アリスにとって初のトップ10入りヒットとなったシンプルなフォークロック「冬の稲妻」(1977年)、当時の典型的なカレッジフォーク風の曲調がなんともナイーヴなデビュー曲「走っておいで恋人よ」(1972年)、古いシャンソンのような暗い情念を感じさせ、個人的には藤田敏八監督の同名の名作映画の主題歌として印象深い名曲「帰らざる日々」(1977年)の6曲。B面にはもともとはアリスとして制作される予定だったものの、谷村新司が病気入院でレコーディングに参加できず堀内孝雄のソロ名義として発表された「君のひとみは10000ボルト」(1978年)、「チャンピオン」の次のシングルとして発表され、高揚感のある同曲とは対照的な、喪失と別れを歌った叙情的な「夢去りし街角」(1979年)、60年代関西カレッジフォークのバンド、ウッディ・ウーの楽曲をカバーしてアリスとして最初の大ヒットとなった「今はもうだれも」(1975年)、洗練されたフォークロック調と谷村のコブシの回った歌がマッチした「涙の誓い」(1978年)、青春の思い出を苦く歌い上げる「ジョニーの子守唄」(1978年)、谷村新司生前最後のコンサートでもラストを飾り、谷村のソロ曲「昴 -すばる-」(1980年)に通じるようなスケールが大きな曲調が印象的な「さらば青春の時」(1977年)が収められている。特に彼らの熱心なファンでなくても聴き覚えのあるような楽曲ばかりだ。
フォークからロック、ドラマティックに歌い上げるバラードまで、リズムもアレンジも多様なアリスの楽曲は一定のジャンルに収めるのは難しいが、谷村と堀内という強力な2大ボーカリストの歌を中心とした音作りという点では一貫している。試聴はハイレゾで行ったが、アナログレコーディング全盛期の楽曲だけに、なめらかで有機的なサウンドからは、レコーディング現場の空気感まで伝えるような細やかなニュアンスが感じられる。まだ音楽ジャンルが細分化される前の日本のポップミュージックの、ごった煮的なエネルギーさえそこから聴き取れるだろう。
世界的なアナログレコードブームで、2024年のアナログレコードの国内生産額は、1989年以来35年ぶりに70億円を超えたが、アナログレコードはその10年前の1979年から80年にかけて生産枚数・金額ともピークを迎えている。つまり1970年代こそが名実ともに音楽ソフトとしてのアナログレコードの全盛期だった。
そして今回、その1970年代を中心に絶大な人気を誇った2大グループ、アリスとオフコースの新編集のベスト盤が最新仕様のアナログ盤でリリースされることになった。オリジナルアナログテープに収められた情報を忠実に、できるだけ余計な色付けをせずフラットトランスファーした24bit/96kHzのハイレゾ音源を新たにマスターとした2025年最新リマスター盤だ。もちろんミックスバランス、音質などは一切いじっていない。リマスター音源にありがちな、低域を持ち上げたり、中高域を華やかにしたり、特定の楽器を強調したり、といった操作が一切施されていない。1970年代のアナログ黄金期の活気のあるなめらかな音が当時のままに、最新技術でよみがえるのである。
そして今回のアナログ盤には、アナログ盤のカッティングの際に使用したデジタルマスターである24bit/96kHzのハイレゾ音源のwavファイルが、シリアルコード記載のダウンロードカードという形でおまけに付く。「U-CONNECT DOWNLOAD」と名付けられたサービスでは、ユーザーはコード1つにつき一度、期間の制限なくwavファイルをダウンロードすることができる。
そしてここが大事なポイントだが、そのハイレゾファイルは、いわゆるサブスクリプション型配信サービスにも、またダウンロード型配信サービスにも提供されない。今回のアナログ盤購入者しか手に入れることができないのだ。
つまり今回のアナログリリースは、アナログ盤愛好者のみならず、アナログを聴かないデジタルオーディオのリスナーにも朗報となる。ダウンロードしたファイルを自前のコンピューターに入れて聴いてもいいし、スマホで持ち歩いて出先でも聴ける。アナログ盤は再生できる環境が限定されるだけに、いつでもどこでもスタジオマスタークラスの高音質音源を聴けるのはありがたい。往年のオフコースファン、アリスファンのみならず、いい音で音楽を聴きたいと願うリスナーには見逃せないリリースとなりそうだ。
プロフィール
オフコース
1964年結成。1970年にシングル「群衆の中で / 陽はまた昇る」でデビューし、「さよなら」「愛を止めないで」「Yes-No」「言葉にできない」など数多くのヒット曲をリリースする。1989年2月に東京・東京ドームで開催した「OFF COURSE The Night with Us」をもって解散。2025年にデビュー55周年を迎えた。
アリス
1971年結成。1972年にシングル「走っておいで恋人よ」でデビュー。「帰らざる日々」「冬の稲妻」「ジョニーの子守唄」「チャンピオン」「狂った果実」といった数多くのヒット曲を世に放つ。1981年11月より活動休止期間に入るが、1987年にアルバム「ALICE X」とシングル「BURAI」を発表し再始動。2022年には活動50周年ライブを東京・有明アリーナで開催した。2026年に結成55周年を迎える。



