BUMP OF CHICKENメンバーとクリエイターが語り合うパッケージ作品論、藤原基央がエンディングテーマに込めた「ヒロアカ」愛

BUMP OF CHICKENのライブ映像作品「BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvous at TOKYO DOME」と、ニューシングル「I」が12月10日に同時リリースされる。

映像作品は最新アルバム「Iris」を携え、2024年に全国のライブハウス、ホール、ドーム10会場で約35万人を動員して行われたツアー「Sphery Rendezvous」から、東京・東京ドームで開催されたファイナル公演の模様を完全収録したもの。TOY'S STORE限定盤は多彩なグッズを同梱した特殊ボックス仕様のパッケージで、石川・金沢歌劇座公演の映像も追加収録される。

ニューシングルの表題曲「I」は、テレビアニメ「僕のヒーローアカデミア FINAL SEASON」のエンディングテーマとして書き下ろされた楽曲。ジャケットにはアニメの制作スタジオであるボンズフィルムによる描き下ろしアートワークが使用されており、TOY'S STORE限定盤は特殊ディスクケース仕様となっている。

今回、音楽ナタリーでは2作品のリリースを記念した特集を前後編で展開する。前編ではBUMP OF CHICKENの藤原基央(Vo, G)、増川弘明(G)、直井由文(B)、升秀夫(Dr)と、前ツアーに引き続き作品のアートワークディレクションを手がけたクリエイティブチーム・8%、そしてツアーに帯同しライブ写真の撮影を務めたカメラマンの太田好治によるトークセッションを実施。パッケージに込められたこだわりや楽曲への思いを語り合ってもらった。

なお後日公開の後編では藤原のソロインタビューを掲載。「I」に詰め込んだ藤原の「ヒロアカ」愛がたっぷりと語られる。

取材・文 / 柴那典メインカット撮影 / 太田好治

現場のワクワクをこういう形で再現できるんだ

──まずは映像作品「BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvous at TOKYO DOME」についての話を聞かせてください。かなりスペシャルなパッケージになっていますが、手にとってみての実感はいかがですか?

「BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvous at TOKYO DOME」TOY'S STORE限定盤パッケージ内容(撮影:山田隆史)

「BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvous at TOKYO DOME」TOY'S STORE限定盤パッケージ内容(撮影:山田隆史)

藤原基央(Vo, G) まず、外側を見てワクワクできるのが素晴らしいです。

升秀夫(Dr) 8%はいつも見たことないものを作ってくれるので、プレゼンのときからワクワクしますね。

──前回のインタビューでもお伺いしましたが(参照:BUMP OF CHICKEN|メンバーとクリエイターが振り返る、互いの理解と信頼が形になったリバイバルツアーの全貌)、前作の映像作品「BUMP OF CHICKEN TOUR ホームシック衛星2024 at ARIAKE ARENA」のアートワークも8%によるデザインでした。あの作品についての反響はいかがでしたか?

直井由文(B) 「思ったよりデカい」という声が多かったです。封入されたグッズも今までにないものだったので、うれしかったという声も多くて。実際に飾っている写真もいっぱい見せてもらいました。

──前作も今作も、単なる映像作品というより、ツアーの思い出を封じ込めた記念品のようなものになっているのではないかと思います。

8% バンドとファンのツアー期間中の熱量や思いが、ツアーが終わったあとに1つのものとして保管されるというのは、すごく意味があることだと思っています。最近はライブの映像作品のあり方が、配信やデータとしてのアーカイブに移行していると思うんです。でも自分たちのやったことをプロダクトとしてちゃんと残すことは、あとから振り返ったときの軌跡にもなるし、バンドにとってもファンにとってもいいことなのではないかと思います。それを毎回やらせてもらえているのは楽しいです。

──今作は円柱状のパッケージになっていますが、このデザインの由来は?

8% 円柱になったのは、最初に「Sphery Rendezvous」のキービジュアルを作るときに藤原さんが話してくれたコンセプトや、そのときに作ったもの、あとは「Iris」のジャケットを踏まえてですね。もちろん“Sphery=球体”だから丸いもの、という単純な発想もあります。開ける前からワクワクするものにしたいというのも意識しました。「ホームシック衛星2024」のときもそうですが「何が入ってるんだろう?」と開けたくなって、開けたときにより興奮するようなもの。ツアー全体をパッケージするなら、そういう宝箱みたいなものであるべきだと思っています。

「BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvous at TOKYO DOME」TOY'S STORE限定盤のパッケージ。(撮影:太田好治)

「BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvous at TOKYO DOME」TOY'S STORE限定盤のパッケージ。(撮影:太田好治)

──大きさについてはどうでしょうか?

8% 例えばクッキーの缶やお菓子のパッケージ、チョコボールの「おもちゃのカンヅメ」のサイズ感も頭の片隅にありました。あとは重さも重要だと思います。

増川弘明(G) 手にとったときにずっしり重いとうれしいですよね。

藤原 パッケージだけではなくて、実際のライブでも会場に着いたときや開演を待ってるときにワクワクしてもらいたいと思ってるんです。僕らも今年4人でGreen DayやOasisのライブに行きましたけど、やっぱりそのときも高揚感があった。それと同じように、ライブの前に感じるワクワクをこういう形で現物として再現できるんだなと、話を聞いてすごいことだと思いました。

──キービジュアルもパッケージのデザインも、ツアーのコンセプトに沿ったものになっているわけですよね。このあたりの意味合いも大きいのではないかと思います。

藤原 ツアーが始まる前、初めに「Sphery Rendezvous」の概念を8%の皆さんに話させてもらったんですけれど、そこを本当に大事にしてもらったなと思います。「ホームシック衛星2024」のときもそうでしたが、そのツアーのタイトルや持っている概念、BUMP OF CHICKENがこれまで歩んできた歴史も全部含めて、僕たちが気付かなかったような細かい要素も丁寧に拾って、整合性を欠くことなく、無理なくデザインに落とし込んでくれて。そこを我々4人は大変信頼しています。

発想は「ギフトボックス」

──映像作品はフォトブックだけでなく、いろんなグッズが入った豪華なアイテムになっていますが、これについてはどんなアイデアがありましたか?

 ギフトボックスみたいな発想はありましたね。

直井 基本は8%が考えてきて、ラフ案をいっぱい出してくれました。

 キーホルダーに関しては、ヒロ(増川)が言い出したことですね。

増川 子供の頃に、自転車にこういう方位磁石をよくつけてたんですよ。球体というコンセプトも生かせるし、「こういうのどうかな」と提案させてもらいました。

 あと、アクリルスタンドは過去のグッズとシリーズで出しているから連結できるようになってるんです。一緒に並べてもうれしいよね、ということで。

8% 今回はBlu-rayが2枚とCD4枚で、盤自体が相当ボリュームがあるし、太田さんが撮ってくれたフォトブックとアイテムが入っていて、加えて透明なクリアバッグも付いています。いろんなものを透明にしているのは「Iris」のパッケージからの踏襲で、「お客さんとの待ち合わせ」から生まれた重なりやレイヤーというキーワードを、透明なもので表現しました。あとは歌詞カードも気に入っています。歌詞はフォトブックの中にも写真と一緒に載っているので、こっちは1枚のグラフィックとして表現できたら、ポスターっぽくも見えるしカッコいいかなと思ってデザインしました。

「BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvous at TOKYO DOME」TOY'S STORE限定盤に封入されるフォトブックとグッズ。(撮影:太田好治)

「BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvous at TOKYO DOME」TOY'S STORE限定盤に封入されるフォトブックとグッズ。(撮影:太田好治)

ロゴやイメージを背負うことですごく強くなれる

──改めて振り返って、「Sphery Rendezvous」はバンドにとってどんなツアーになった実感がありますか?

 1年に2つのツアーをやるというのはチャレンジングなことだったんですけれど、「Iris」のレコーディングで培ってきたものを一挙に見せる機会ができて、すごく楽しい経験でした。「邂逅」とか「青の朔日」とか「strawberry」とか、新曲もけっこうあって。それがどういうふうに響いているのか、というドキドキ感がいつもよりあった感じがします。あと、このキービジュアルに引っ張られる部分もありました。

藤原 このキービジュアルにはまるで魔法がかかっているかのようで。僕たちも「こういうタイトルなんだ」「こういう思いを込めてつけたんだ」ということを説明はするんだけど、実際にステージに立つことで、だんだん「『Sphery Rendezvous』ってこういうことなんだ」とわかってくるようなところがあった。それはすごく言語化しづらいことなんです。こういうデザイン1つひとつがその手がかりになってくれました。

増川 8%のロゴや山田健人監督の映像演出に背中を押される部分があって、それは近年特に強く感じます。掛け算でよくなる、1を10にも100にもしてもらえていると実感していて。ロゴやイメージを背負うことですごく強くなれる、頼りになる。この作品にもそういうものが詰まっていると思いました。

直井 本当にみんなに助けてもらったツアーでした。みんなで一緒に作ったという気持ちが強いです。最後に8%がそれをギフトにしてくれた。「ホームシック衛星2024」のパッケージにはボイジャーの「ゴールデンレコード」のイメージがあって、もし僕らがいなくなって何年も経っても、この箱の中のものを見れば僕らが何者なのかが伝わるという。そういうものだと思ったんです。で、今回の「Sphery Rendezvous」は、みんなで一緒に作って全員で乗り越えた。そのギフトみたいな感じがします。

──確かに、お土産のような感じはありますよね。

直井 だからみんなに手に取ってほしいです。この蓋のパカっと開く感じが、なかなか出せないんですよ。リスナーとメンバーが一緒に喜び合えるもの、すごく意味があるものを作ってくれるんです。ロゴについてもそうで。ツアーが終わったあとでこのロゴを見たときに初めて意味がわかった感じがした。最初に見たときも「Sphery Rendezvous」を表しているんだろうなと思ったけど、「惑星が浮遊していろんなところを経由して1つにつながってる感じがするな」という程度で、ツアーが終わったあとに「本当に僕らはこういう軌跡の中で待ち合わせしたんだな」と実感して。

 背後のビジョンにこのロゴとビジュアルがバーンって出ているのを太田さんが写真に撮ってくれて。フォトブックにも載ってますが、それを見ると、自分が作ったわけじゃないのに「こういうことなんだよ」みたいに思ったりするんです。それくらい、タイトルとビジュアルと、すべてが密接につながったツアーだったと思います。

「BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvous at TOKYO DOME」TOY'S STORE限定盤の盤面。(撮影:太田好治)

「BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvous at TOKYO DOME」TOY'S STORE限定盤の盤面。(撮影:太田好治)

メンバーにとってはハードなツアーだったはず

──太田さんはツアーをどんなふうに見ていましたか?

太田好治 ホールだったりドームだったり、いろんな場所に連れてっていただけて。それはもちろん楽しいことではあるけれど、メンバーにとってはハードな環境だったと思うんです。会場のサイズも、最初にドームをやって慣れたと思ったらホールに行って、ドームに戻って、ライブハウスに行って、ホールに行って、ドームで終結するという。

──ドームとライブハウスやホールでは、ステージサイズもやることも違いますね。

太田 「ホームシック衛星2024」のほうがもう少し腰を据えて経験を積んでいけるツアーというイメージがあったんですけれど。本当にこのキービジュアルの軌跡みたいな旅だった。すごいバンドだなと思います。

──ツアーの撮影やフォトブックの制作については、どんなことを考えましたか?

太田 今回のツアーは自分だけでなく、新しい目線でBUMP OF CHICKENを見てくれるカメラマンにも入ってもらったのが「ホームシック衛星2024」と大きく違う点でした。ドーム公演ではヤオタケシくん、東京ドームでは鳥居洋介さんにも来ていただいて、ツアーの規模感に対応しつついろんな視点でブックレットを作れたのが新鮮でした。

「BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvous at TOKYO DOME」に封入されるフォトブックとニコルステッカー。(撮影:太田好治)

「BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvous at TOKYO DOME」に封入されるフォトブックとニコルステッカー。(撮影:太田好治)

──自分1人で撮るときとは視点も違いましたか?

太田 自分の伝えたいことは伝えて、それを技術的にもちゃんとフォローしてもらっています。今回はロングツアーだったので、自分が体調を崩したり何かあったときにサポートできる人がいないままにはできないな、という思いもあって。エゴとしては全部自分の目線で撮ったものにしたいという気持ちはあるんです。でもそういうことじゃないだろう、と。