宮川愛李「愛恋路」全曲解説インタビュー|“等身大の感情”でたどる愛の軌跡

宮川愛李が12月3日にミニアルバム「愛恋路」をリリースした。

約4年半ぶりとなるアルバムを今冬から来春にかけて2作リリースすることを発表している宮川。「愛恋路」はその第1弾となる作品だ。テレビドラマ「おじさんが私の恋を応援しています(脳内)」のオープニング主題歌「キミトソーダ」に加え、セルフプロデュース曲『「ただし好きとは言ってない!!」』「ノベル」「仮、おとぎ話」、そして新曲2曲を収録した今作では、恋愛をテーマにした等身大の感情が余すことなく表現されている。さらに、新曲の1つ「ぼくのかみさま、feat.宮川大聖」では、実兄である宮川大聖との初のコラボレーションが実現した。

リリースを記念し、音楽ナタリーでは宮川にインタビュー。楽曲制作の背景にある思いを1曲ずつ語ってもらった。

取材・文 / 真貝聡撮影 / 上野留加

等身大の感情を歌に乗せたい

──宮川さんは去年から楽曲のセルフプロデュースや路上ライブなど、積極的に新しい試みをされてきました。そこにはどんな思いがあったのでしょうか?

「自分から大きな1歩を踏み出さないと、徐々に沈んで消えてしまうな」と危機感を覚えたんです。去年、アーティストデビュー5周年を迎えたのを機に宮川愛李をリスタートしようと思って、セルフプロデュースをしたり路上ライブをやってみたり、イベントにもより一層力を入れてきました。

宮川愛李

──路上ライブを通して、得られたものはありました?

場慣れするうえでも、いい刺激になったと思います。それまでにも対バンライブとかフェスに出させていただいて、アウェイな会場で歌う経験も積んできましたが、路上ライブはまた違うんですよね。初見の人の関心を引きつつ、私を目当てに足を運んでくれた方々も満足させなければいけない。頭をフル回転させながら歌ったりしゃべったりするのって、けっこう難しいなと感じることが多かったです。特に、MCは自由気ままにしゃべってしまうんですよ。私を知っている方は「それでこそ愛李だよね」と思ってくださるけど、初めて見た方には「この子、めっちゃしゃべるな!」って、しゃべりが本業だと思われることも多くて(笑)。

──マシンガントークですからね。

そう! バーッとしゃべっちゃうので「酔っ払ってます?」と聞かれることも多いんですよ(笑)。でも、それも自分の武器なんだと気付けました。路上ライブはおしゃべりとか歌い方を意識するきっかけになったので、自分の長所や特性を再確認するうえでも、貴重な経験になったんじゃないかなと思います。

──「自分の特性を再確認する」ということで言うと、セルフプロデュースもそうですね。

はい。作曲を始めて間もないので、つい自分が作りやすい系統の音楽に寄りがちなんです。メロディしかりコード進行しかり、私の人間性的にどうしてもポップで明るめな曲が多くなってしまう。そこは課題かなと思うんです。

──それもアーティスト性じゃないですか?

でも、ポップな曲だけを歌いたいわけじゃなくて。自分が表現したい音楽の感情って、意外とバラつきが多いんです。10代の頃にデビューしたのもあり、感情の振れ幅が大きいことは自覚していて。デビュー時から変わらずにあるのは「等身大の感情を歌に乗せたい」という思い。活動を続ける中で、そこを多少はコントロールできるようになった一方で、うまく見せる方法を知ってしまえばしまうほど、リアルな部分が薄れてしまう気がして。作りやすい曲ばかりを作っていると、本当に表現したいことがおざなりになってしまう。それは嫌だなと思って、まだ模索中ではあるんですけど、もう少し自分のダークな面に寄せた楽曲を表現していきたいんです。そのために、言語化する力とか、感情を曲にする技術を高めたいと思っています。

──それこそ4年半ぶりにリリースされるミニアルバム「愛恋路」には、宮川さんのダークな一面も表れているように思います。

その感想はすごくうれしいです。今回のミニアルバムは恋愛をテーマに作った曲がほとんどで。セルフプロデュースした新曲もあれば、配信シングルでリリースした曲もあって、すべて自分が当時感じていたことをそのまま表現しています。1曲目から順に聴いてもらったあとに、今度はリリースした順番に聴いてもらえると「こういうことを思っていたんだな」と気持ちの変遷を感じられると思います。

宮川愛李

M1:「ただし好きとは言ってない!!」

──1曲目『「ただし好きとは言ってない!!」』は、「弱虫」に続いて2作目となるセルフプロデュース楽曲です。どんな思いで制作されたのでしょう?

当時はセルフプロデュースを始めたばかりで、作曲の軸が固まっていない中で書いた曲ですね。例えば、先にメロディを作って歌詞を付けて、アレンジを固めていく人もいれば、先に歌詞を書いてからメロディやコードを付けていく人もいますよね? その順番がめちゃめちゃだった時期に書いたのがこの曲で。どう作ればいいのかがわからない、という気持ちがダイレクトに詰まっていると思います。制作方法も特殊で、雰囲気もキーも違うデモ曲をいくつか作って「このメロディいいじゃん」と思ったものを、つまんで無理やりくっつけていくやり方だったんですよ。

──つぎはぎしながら形にされたんですね。

そうです。セリフのパートがあったり、しっかりしたメロディが付いてるパートもあったりして、ある種ハチャメチャな感じではあるんですよね。楽曲制作とか、そのときの活動に対する「頭の中がめちゃめちゃでわからないよ」という思いをそのまま反映したので、かなりリアルな感情が詰まっていると思います。

──おもちゃ箱をひっくり返したような多彩なサウンドや構成が、楽曲に登場する主人公の好きな人を思うあまりに混乱している様子とマッチしている印象を受けました。

恋愛にたとえるならこうだろうな、みたいな感じですね(笑)。自分の心境だったり、やりたいことを言葉や行動にできないもどかしさを詰め込んだ楽曲なので、そう感じていただけるならうれしいです。

──歌詞のストーリーについては、どんなことから着想を得たのでしょうか?

曲中の女の子はかなり自由奔放で、自分の思っていることが次から次へと口に出ちゃうタイプ。話もコロコロ変わって、感情もすぐ変わっていく。落ち込んでいると思いきや、すぐに次のことに意識が向いてしまい、周りの人は付いていくのがやっと、みたいな子なんです。まさに、私自身にもそういう面があると思っていて。テンションが上がっちゃうと、勢いが止まらなくなるんです。この曲の歌詞のように「今日はダメだったな」となるときもあれば、すぐに気持ちを切り替えて「え、雨降ってるじゃん! 傘を持ってない、やばいやばい!」と目の前のことに集中しちゃう。そんな自分を恋愛に置き換えたとき、どんな振る舞いをするのか想像して書きました。実際に恋愛してるときは自分のことを俯瞰で見られないけど「こうやって相手を困らせちゃうところもあるんじゃないかな?」とイメージしながら、面白おかしく表した曲ですね。

宮川愛李

──個人的に気になったのが「私を嫌う君が好きだ」というフレーズです。

この曲の主人公もそうですけど、私の楽曲に出てくる人物って、あまのじゃくな子が多いんですよ。私もそういうところがあって、誰かに「好き」と言われても素直に信用できない。むしろ、嫌いの感情の方が信用できるんですよね。「好き」は嘘をつけるけど、「嫌い」って本当に嫌いなときしか言葉にしないじゃないですか。忘れられないほど嫌ってくれたほうが、相手の心の中に自分が残っていられる。そういう歪んだ愛情を持った主人公を表現したかったんです。「好き」と言ってくれるから思いを感じるのではなくて、「嫌い」と言ってこっちを強く意識してくれているほうが、あなたからの強い気持ちを感じますよ、と。

──この曲のオフィシャルインタビューで「今作の制作途中で、『どんな状況に陥っても、私にはポジティブに変えられる良さがある!』ということに気付いたんです」と話されていましたが、それはどういうことですか?

私は嫌な出来事があっても、長く落ち込んでいられない性格なんです。つい笑いに変えたくなっちゃう。これは“ストレスからの逃避”だと思っていて。ずっと落ち込んでいると、食事が喉を通らなくなるし、生活がままならなくなるんですよ。そうなりたくないから、その境地に行くまでの防衛として、おちゃらけて気持ちを切り替えようとする癖がある。頭の中では真面目に向き合いたいことがいっぱいあるんですけど、言動とつながっていないことがけっこうあって。人前では明るく振る舞っていても、頭の中は葛藤していたり「助けてください!」となっていることが多いんです(笑)。

──暗い状況を明るく見せようとするのは、お笑いに近い感じがしますね。

確かにそうですね。お笑いと違うのは、「ポジティブに見せる」っていいことに思えるけど、すべてが前向きな意味ではない気がすること。それをセルフプロデュースを始めたあたりから、より感じるようになっていて。「自分は何が好きなのか」「どういうことを表現したいのか」を改めてじっくり考えたからこそ気付いた、私の特性かなと思います。