キニナル君が行く!

キニナル君が行く! 第14回 [バックナンバー]

PAってこんなことまでするの!?

MSI JAPAN 東京・谷下田慎之介さんに仕事内容を直撃取材!

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ヤッホーみんな! 僕、キニナル君。音楽愛する大学生♪ 将来の夢は音楽でごはんを食べていくことだよ。でも、正直わからないことばかり。だからこの連載を通して、僕が気になった音楽にまつわるさまざまな疑問を専門家の人たちに聞きに行くよ。

ちょっと前のOasisの東京ドーム公演のあと、「音がよかった」みたいな感想がすごく多かったよね。「機材の進化はもちろん、PAのおかげだ」っていう意見も多くて。東京ドームに限らず、ライブ会場に行くといつもPAの人たちがいるけど、具体的にどんなことをやってるんだろう。気になって夜も眠れなくなったので、YOASOBI、小柳ゆき、竹原ピストル、Conton Candyといったアーティストのライブを手がけるMSI JAPAN 東京の谷下田慎之介さんに話を聞いてきたよ!

取材・/ キニナル君 撮影 / ナカニシキュウ イラスト / 柘植文

音を大きくするのがPA?

──今日はよろしくお願いします! さっそくですが、PAっていったい何をするお仕事なんですか?

PAというのは「Public Address」の略で、直訳すると「公衆伝達」になるんだ。人の声や楽器の音を増幅して、たくさんの人に届けられるようにするのが基本的なPAの仕事だよ。日本ではライブなどの音響全般のことをPAと呼ぶんだけど、海外ではPAというとスピーカーのことだけを指す場合も多いんだ。

──なるほど! 音をでかくするのがPA、ってことなんですね!

「PAの仕事は音をでかくすること」と理解するキニナル君。

「PAの仕事は音をでかくすること」と理解するキニナル君。 [高画質で見る]

乱暴に言っちゃえばそうだね(笑)。ただ、日本で「PA」というときはそれだけじゃなくて、どの音をどう出すかまで調整することをいうよ。だから「音響」とか「サウンドエンジニア」というほうが正確かもしれないね。

──その「どの音をどう出すか」っていうのは、具体的にどういうこと?

スピーカーから出てくる音のチューニングだね。EQ(イコライザー)で周波数帯ごとの出方を調整したり、コンプレッサーという機器で音を圧縮してバラつきを抑えたりしながら、それぞれの楽器の音をどのくらいの音量バランスで出すかっていう調整をしてるんだ。

──その作業を、ライブ会場でよく見るあの宇宙船のコクピットみたいな機械のところでやっているんですね!

そうそう(笑)。ちなみにあれはFOHといって……「Front Of House」の略なんだけど、客席側に向いたメインスピーカーの音を調整してるんだ。ライブPAには大きく2種類あって、お客さんが聴く音を調整するFOHと、演者が聴く音の調整をするモニタPAに分かれる。小さなライブハウスなんかだと「卓返し」といって、1人のPAさんが両方を同時にやることもあるんだけど、ある程度大きな会場ではそれぞれ別の人が担当することがほとんどだね。

──「演者が聴く音」っていうのは何?

例えばバンドの場合、大きな会場だとメンバー同士の距離が物理的に遠くなって、生の音がほとんど聴こえなかったりするんだ。バンドじゃなくても、オケを使うアイドルとかの場合も「キックが大きく聴こえたほうが踊りやすい」とかあると思うから、お客さんに届ける音とは別に演者が聴くための音を返してあげる必要があるんだよ。

──なるほど……。

さらに言うと、音って反射するでしょ? スピーカーから出た音が客席の壁に反射して、ステージに戻ってきちゃうんだ。大きな会場になればなるほど、そのタイムラグも大きくなる。普通に演奏してたら、少し遅れて聴こえる音が常に混ざっている状態になるんだよ。

──歌いづらそう……! 昔、学校の体育館でマイクを使ってしゃべったことがあるんですけど、自分の声がグワングワン反響してました。あんな感じってことですよね。

そうそう。そうなると、どの音に合わせて歌えばいいかわからなくなっちゃうよね。その状態を緩和するためにも、演奏音を正確に聴けるモニタが必要なんだ。昔はそれをスピーカーでやっていたから、よくアーティストの足元にステージ側を向いたスピーカーが転がってたでしょ? 通称「コロガシ」っていうんだけど。

──見覚えがあります!

最近だと「イヤモニ」といって、イヤホンでモニタする方法が主流になっているよ。そうすることで、ステージ上で演奏音とモニタ音が混ざらずに済むというメリットもあるし、昨今では同期(事前に用意した音源を生演奏と重ねること)を使う関係で、クリック(メトロノームのように楽曲テンポをガイドする音)を聴いて演奏しているアーティストが多いんだよね。クリックの音をお客さんに聴かせるわけにはいかないので、そうなるとイヤモニが必須になってくるんだ。そういう、コロガシやイヤモニを通してアーティストが聴く音を調整するのがモニタPAの仕事だよ。

ミキサー卓があんなに大きい必要あるの?

──で、あのコクピットみたいな機械のことなんですけど……。

正確には、ミキシングコンソールという名前があるよ。僕らは簡単に「卓」と呼ぶことが多いけど。

──カッコいい! じゃあ僕も「卓」と呼びますね! ライブ会場で見かける卓ってすごく大きくて、めちゃくちゃいっぱいツマミやらなんやらがついてるじゃないですか。素朴な疑問として、あんなに必要なのかな?と思っちゃうんですけど。

例えばドラムがいるバンドの場合、まずバスドラムにマイクを2本立てて、スネアにも2本、それからハイハット、ライド、タム、フロアに1本ずつ、あとオーバーヘッドっていう上からシンバルを狙うマイクを2本使うので、これで合計10本になるよね。標準的なセットの場合、ドラムだけでも回線が10ch必要なんだ。

──ドラムだけで10ch!

ドラムだけで10ch必要と聞いてのけぞるキニナル君。

ドラムだけで10ch必要と聞いてのけぞるキニナル君。 [高画質で見る]

だから、あの大きな卓のうち10列はドラムだけで埋まっちゃう。もちろんほかの楽器の音も同時に調整しないといけないから、どうしてもあれぐらいの大きさは必要になってくるんだよ。

──5人組バンドだったら、5chあれば十分なのかと思ってました。

ギターとかは1chで済むこともあるけど、人によっては特性の違うマイク2本で集音して混ぜたり、アンプを何台も使い分けたりする場合もあるので、たくさん必要になることもあるよ。それがバンドの人数分と考えると、けっこうな回線数がいるよね。さっきも言ったように、最近はシーケンス(同期)トラックを使うアーティストも多いし。

──ちなみに、あのでっかい卓はだいたい何chぐらいあるんですか?

スタンダードなものだと、32chだね。

──32! その32chを、実際に端から端まで全部使うことはあるの?

僕はわりと使うかな……っていうか、大抵は32じゃ足りない(笑)。

──足りないんだ!

なので、回線を切り替えながら使うことがほとんどだよ。ページを切り替えるようなイメージ、といったらわかりやすいかな? 1ページ目を出しているときはドラムやベースを調整できて、2ページ目に切り替えると同じツマミで今度はシーケンストラックを調整できる、みたいな。

──カードゲームのデッキを切り替えるような感じ?

そうかも(笑)。例えば僕が担当しているYOASOBIの場合、ボーカルは常に見ておきたいから固定ですぐ触れるようにしておいて、ほかの楽器類を別デッキにまとめてる感じ。それを切り替えながら……4デッキくらいは行き来してるかもしれない。

──そこまでしないと追いつかないぐらい、ライブってたくさんの音を扱ってるんですね……!

なんとなく、業界的に「48chを超えるかどうか」が基準になっているところがあるよ。フェスとかに行くと、「48chまでに収めて」と言われることが多いんだよね。現地の音響システムに合わせなきゃいけないから、あんまり回線数が多いと大変なんで……まあ、だいたい超えちゃうんだけど。

ドームライブの音がよくなった理由

──実際にライブが始まってから、そんなに頻繁にツマミやフェーダーをいじることってあるんですか?

人によるかなあ。僕はそこまで触らないかもしれない。事前にリハーサルスタジオでアーティストやスタッフと相談しながら「こういう音にしよう」というのを決めておくので、会場入りしたあとは最初に微調整するくらいだね。そこからあんまりいじっちゃうと、「最初に決めたことってなんだったの?」ということになっちゃうから。ただ、ドラムとかはライブ終盤になるとチューニングが変わってピッチが落ちてきたりするし、ボーカルにしても常に一定の音量で歌い続けられる人なんていないので、そこはわりと臨機応変に調整するかな。

──僕、ライブを観に行ったときに「1曲目は音がボワッとしてたけど、2、3曲目ぐらいから聴きやすくなった」と感じることがすごく多いんです。あれはPAさんが調整してくれているってこと?

ライブ会場の響きって、お客さんが入る前とあとでかなり変わるんだよ。僕らは「吸われる」という言い方をするんだけど、人の体が音を吸収して響きがかき消されたりするんだ。だからリハーサルのときと響き方が違ってきちゃって、本番の1曲目で「この帯域が減った!」とかをメーターで見ながら調整し直すことはよくあるね。その変化具合は会場や気候によっても全然違うので、実際にお客さんが入って音が出てみないと、どう変わるかは予測できないんだ。「ここ、リハーサルやりづらいんだよな」みたいな会場があったり(笑)。

──へええー……! あと最近、ドームとかの大きな会場で「音がいいな」と感じる機会が増えた気がしていて。昔、親に連れて行ってもらったときは「ドーム=音が悪い」というイメージだったんですけど……。

ドーム会場は音が悪いというイメージを伝えるキニナル君。

ドーム会場は音が悪いというイメージを伝えるキニナル君。 [高画質で見る]

それはやっぱり、技術と機材の発展が大きくて。東京ドームでいえば、ステージ横にあるメインスピーカーのほかに、客席の間にバカでかい鉄柱みたいなものが立ってたりするでしょ?

──見たことあります!

あの柱にスピーカーが吊ってあって、ステージから遠いお客さんにはそっちをメインで聴いてもらってるんだよ。音響の世界には「システムエンジニア」という職種があるんだけど、その人たちが「この席にはこう聞こえるから、この位置にこの角度でスピーカーを置こう」というのを計算して、会場の音響を設計してくれているんだ。

──へええー、すごい! 逆に言うと、以前はステージ横にしかスピーカーが置かれてなかったってこと?

そうだね。しかも東京ドームには音量規制があるから、それだけではスタンド席の奥とかにまでしっかり音を届けるのは物理的に難しかったんだよ。それに加えて、今はスピーカー自体の性能も上がってるからね。昨今はスピーカーのコーンから丸い形に音を広げて飛ばすんじゃなくて、まっすぐ線で飛ばすイメージのものが主流になってきているんだ。

──かめはめ波ではなく、魔貫光殺砲ってこと?

厳密には従来のスピーカーはかめはめ波より広範囲に広がるんだけど(笑)、イメージとしては近いかな。それでだいぶ飛距離を出せるようになって、音質調整もしやすくなった。そういう進歩があって、今はドーム規模やアリーナ規模でもわりと満足いく音質と音量を届けられるようになってきたんだよね。

──あと、ちょっと余談ですけど、音って光よりも進む速さが遅いですよね。だから大会場ではスクリーンの映像と聞こえる音がズレるはずだと思うんですけど、あまりそれを感じたことがないです。もしかして、映像のタイミングをわざと遅らせていたりするんですか?

うん、映像さんが僕らに合わせてくれてる。まあ、映像自体も完全にリアルタイムで映すのは難しいので、そもそもディレイはあるんだよ。だから厳密にタイミングを合わせるというよりは、よっぽどズレてたらちょっと調整するぐらいかな。ステージからの距離によっても遅れ方は違うしね。

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では、日本武道館は?

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