キニナル君が行く!

キニナル君が行く! 第14回 [バックナンバー]

PAってこんなことまでするの!?

MSI JAPAN 東京・谷下田慎之介さんに仕事内容を直撃取材!

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では、日本武道館は?

──以前、この連載で藤井フミヤさんに「日本武道館って何がいいの?」というお話を聞かせてもらったことがあるんですけど……。(参照:日本武道館でのライブって何がいいの?

それもすごい話だね。

──そのときにフミヤさんが武道館について「昔はやりづらい会場だったけど、最近はだいぶ音がよくなった」とおっしゃっていて。それも機材の進化のおかげ?

そうだろうね。武道館はあの八角形という反射しまくる構造に加えて、天井がすごく高いこともあって、音響的にはかなりやりづらい会場なんだ。上から横から、いろんなところから音が跳ね返ってステージに戻ってくるので、かけてもいないリバーブが勝手にめちゃくちゃかかる。そもそも音楽をやるために作られた建物じゃないしね。それは東京ドームも同じだけど。

──“武道”館ですもんね!

ただ、武道館ライブにはかなりの歴史があるから、いろんな音響会社が試行錯誤を繰り返してきてるんだ。反射が多い構造はずっと変わってないけど、そこでいい音を鳴らすためのノウハウが溜まってきている部分もあると思うよ。もちろん機材の進化もあるし。

──なるほど……!

で、フミヤさんに関して言えば、たぶんイヤモニを使うようになってやりやすくなったんじゃないかな? 時代的に、昔は間違いなくスピーカーでモニタしていたはずだから、その違いは大きいと思うな。

──そういえば、急に思い出したんですけど……RCサクセションの1980年頃の武道館ライブの映像を観ていて、ステージがガランとしていることに違和感を覚えたことがあって。よくよく思い返してみると、忌野清志郎さんの足元にスピーカー類が何もなかったからだ!と今気が付きました。あれはどういうことなんでしょう? あの時代はまだイヤモニはないですよね?

ふと忌野清志郎さんのライブ映像を思い出したキニナル君。

ふと忌野清志郎さんのライブ映像を思い出したキニナル君。 [高画質で見る]

たぶんだけど、サイドスピーカー(ステージの両サイドから演者へ向けた補助的なモニタスピーカー)の音と、会場の跳ね返りだけを聴いて歌っていたんじゃないかな。それでできちゃう人がときどきいるんだよ。

──えー! すごすぎる!

例えばDA PUMPのISSAさんなんかは、武道館やアリーナ会場のセンターステージで歌うときに、メインスピーカーの音とモニタスピーカーの音、上や横から跳ね返ってくる音が入り乱れる中で「反響音も聴きながら計算して歌ってる」と言っていたよ。しかも、それを踊りながらやってるっていう。

──信じられない……!

さすがに最近はイヤモニを使ってるけどね。たまにそういう天才的というか、とんでもないタイプの人がいるんだよ。清志郎さんもそのタイプだったんだと思うな。

会心の公演は東京ドームのYOASOBI

──谷下田さんがこれまでに手がけてきた公演で、「あれは会心の出来だった」みたいなライブはありますか?

モニタPAとして関わったものでいえば、YOASOBIの東京ドームだね(YOASOBIの“原点”が東京ドームに出現、5年前と今をつないだ「超現実」)。ikuraがバルーンに乗って客席上空で歌う演出があったんだけど、地上からかなり離れるので、無線でイヤモニに送る音やマイクから受け取る音が安定するかどうかわからなかったし、メインスピーカーから出る音をボーカルマイクが拾っちゃうという問題もあって。それをどう調整するか考えるために、リハーサルで僕が先にバルーンに乗ったんだよ。

YOASOBIの東京ドーム公演でバルーンに乗るikuraさん。

YOASOBIの東京ドーム公演でバルーンに乗るikuraさん。 [高画質で見る]

──えー! PAさんがそこまでやるんだ!

PAが試さないことには、本人に話ができないからね。ものすごくビビりながら乗り込んで(笑)、どうにか上空でマイクでしゃべってモニタの聞こえ方を確認しつつ、スピーカーの前を横切る瞬間も実際に体感して。そのうえで、本人に「スピーカーに背を向けちゃうと出音がモロにマイクに被っちゃうから、なるべくスピーカーのほうを向いて歌ってほしい」と伝えたんだ。そしたら、リハーサルでも本番でも完璧にその通りにやってくれて、「モニタも聴きやすかった」と言ってくれて。ライブが終わってから、2人で「よくやったねー!」と讃え合ったんだよ。

──めちゃくちゃいい話! あとでうちに帰ったら、ikuraさんが向いている方向をBlu-rayで確認してみます。

ちなみにikuraだけじゃなくてAyaseもバルーンに乗ったんだけど、2人とも高所恐怖症なんだよ(笑)。それなのによくやったなあって。それを踏まえて映像を観ると、より味わい深いかもしれないね。

実は高所恐怖症にも関わらずバルーンに乗ったAyaseさん。

実は高所恐怖症にも関わらずバルーンに乗ったAyaseさん。 [高画質で見る]

──ところで、僕らが普段使っているワイヤレスイヤホンって遅延があるじゃないですか。ライブで使うイヤモニは大丈夫なんですか?

多少の遅延はあるよ。有線のマイクやモニタスピーカーを使う場合に比べたらね。ただ、無線の規格も普通のワイヤレスイヤホンとは違うから……。

──そっか! さすがにBluetoothではないってことですね。

Bluetoothだと飛距離もまったく足りないし、キニナル君がいうように遅延もけっこうあるからね。ライブで使う無線システムは、ラジオやテレビと同じ電波帯を使っているんだ。だから空を飛んでも大丈夫なんだよ。もちろん、僕らのほうで「どうやったらあそこまで電波が届くかな」っていっぱい調整もしているしね。

いい音を出したい気持ちはみんな同じ

──僕は将来アーティストとして食べていくことが夢なんですけど、PAさんの立場からアーティストに知っておいてもらいたいことって何かありますか?

個人的には、MCのときになるべくマイクを離してほしくないっていうのはあるかな。しゃべるときにマイクを離し気味にする人がよくいるんだけど、あれは本人が思ってる以上に極端に音量が下がっちゃうんだよ。何を言っているのか聴き取りづらくなりがちなんだ。

──なるほど、気を付けます! あと何か、「こんなアーティストは嫌だ」みたいなのはあります? 大喜利みたいな質問ですけど(笑)。

(笑)。それでいうと、テンション感も含めてリハーサルをおろそかにされると僕らは困っちゃうかな。

──ちゃんとやってくれないとリハにならない、ってことですか?

そう。PAだけじゃなくて、照明さんも困るんだよ。リハで試していないことを急に本番でやられると、「いや、ここで急に前に来るんかーい!」みたいな(笑)。「そこまで照明当たらないよ! 行くならリハでやっといてよ!」っていうことがあったりするんだよね。

──よく知らないアーティストの場合は、とくにそういうことが起こりそうですね……。

すでに関係性のあるアーティストであれば、こっちもある程度は想定できるんだけどね。はじめましての場合は、例えば「本番用に喉を温存したいので、リハでは50%ぐらいで歌います」とか「本番でテンション上がったらめっちゃ前まで出ちゃうかもしれないです」とかってちゃんと伝えてもらえたら助かるよ。あとは「ギターアンプの音、大きすぎないですか?」とか、気になることは遠慮せずにどんどん言ってほしい。いい音を出したい気持ちはアーティストも音響屋も一緒なので、ちゃんとコミュニケーションを取ることが大事かなと思うよ。

──自分の都合だけを考えるんじゃなくて、「みんなで一緒にステージを作ってるんだ」という意識が大切なんですね!

そういうことだね。

──勉強になります! 今日はありがとうございました!

お礼を言うキニナル君。

お礼を言うキニナル君。 [高画質で見る]

プロフィール

谷下田慎之介

1992年生まれ、千葉出身。2014年から下北沢Laguna / Daisy BarでPAを務めたのち、2017年にMSI JAPAN東京に入社。YOASOBI、小柳ゆき、竹原ピストル、Conton Candyといったアーティストのライブを手がける。
MSI JAPAN HOLDINGS

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2個@エンジェルドラゴン🐉 @TSUSHIMADAIJIN3

確かにPAの仕事気になる。 https://t.co/ww7dmuZQ6i

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