徹底検証「Japanese Funk」 (後編) [バックナンバー]
「MONTAGEM HIKARI」の作者BellyJayやドバイのレーベルに取材してわかったこと
J-POPのグローバルヒットとAI生成が生んだ新ジャンル、しかしそこには大きな問題が……
2026年4月16日 19:31 6
2026年に入り、日本のバイラルチャートを賑わせている音楽ジャンル「Japanese Funk」の謎に迫るこの連載。Phonkから連なるTikTokの音楽トレンドの変遷を振り返った前編に続いて、後編では「Japanese Funk」を代表するヒット曲「MONTAGEM HIKARI」の制作者や、発売元であるドバイのレーベルへの取材によって、「Japanese Funk」をさらに深く掘り下げる。(前編はこちら)
取材・
サンプリング / AI生成から見る日本語ボーカル【2024~】
2024年2月に公開された「FUKU」は、北米のKordhellと、ウクライナのzwe1hvndxrによる共作である。
Kordhell x zwe1hvndxr「FUKU」
動画のタグに「#futurefunk」「#futurephonk」と書かれているのは巧妙だ。前者は2010年代のヴェイパーウェイブの一潮流を指しながら、造語である後者と並べることで、目下流行中のブラジル音楽と掛けた洒落となる。ここで日本のシティポップの大ネタを使い、前者のジャンルマナーとしてのディスコ調アレンジを施して、2020年代的な速度で駆け抜ける。どうもシーンにおいては珍しい、十数年来の文脈を意識したアプローチである。
2020年代も半ば、ヴェイパーウェイブによる過去の日本語曲の大量発掘があり、海外プロデューサーにとっても日本語楽曲の大ネタというのは十分な在庫ができていた。これらをPhonk / Funk化するという流れが「Japanese Funk」の先鞭をつけたのだった。
Dyan Dxddy「CUTE DEPRESSED」
BLVKZ「STAY WITH ME FUNK」
DJZRX「Bunny Girl Brazil」
とはいえ、リミックスはリミックスである。仮にこれが「MONTAGEM HIKARI」ほどのヒットで日本市場に可視化されたなら、差し止めにかかる団体もいただろう。あるいはコンテンツIDのような自動検閲の壁もいつ迫り来るかわからない。生成AIによるボーカルは、まずこの問題をクリアしたのだと言える。
私が思うに、このシーンのプロデューサーたちは、音楽に配置される言語について何やら独特なこだわりを持っている。Phonkを作るならメンフィスラップを、Funkを作るならポルトガル語のMCを、自らの言語圏を超えても必ずや調達してくる。ライターのアボかど氏はPhonkについて「本場ではない場所から見せる本物志向」があると述べるが、この執着が現在まで色濃く持続しているのが、まさに言語的な側面なのだ。
先述の通り、Phonkは国境を超えてその音楽性を変化させていったが、東欧でもTikTokでも、90’sメンフィスラップは依然として使用され続けた。その代表的なサンプリング源であったThree 6 Mafiaが、TikTokでの爆発的なブームを経て、ついに公式に許可を下ろすに至ったことは象徴的な出来事だった。つまりPhonkシーンは膨大なトラフィックによって「本物」を借用する権利を勝ち取ったのだった。
また、Funkが隆盛するや、ポルトガル語を日常使いしないプロデューサーたちが頼ったのは、リオデジャネイロ出身のラッパー・MC Gwのサンプルだった。彼は自身のアカペラをSoundCloudやYouTubeに置いていて、世界中から使用されるので自動的に週に100曲近くの客演に入っているという。
ACAPELLAS MC GW 2025
このようなサンプリング / エディットの系譜にAIボーカルを位置付けてみると、それはクリアランス処理の必要ない、便利な異言語素材に見えてくる。すると「Japanese Funk」において頻用される「MONTAGEM」の題名も、声素材をエディットする手法こそ失われても、出自を示すシグナルに見えてこよう。
とはいえThree 6 MafiaとMC Gwの例は、むしろ権利者が利益のために動いたケースで、Phonk / Funkシーンそれ自体の権利意識の向上を示すものではない。「Japanese Funk」でAIが使用される理由は、適当な日本語素材がなかっただけか、あるいは新技術を使いたかっただけか、真意のところはわからない。ボーカロイドを使用するケースも稀にあるが、主流とならなかった理由は別で考えるべきだろう。
結果論ではあるものの、異なる言語圏のPhonk / Funkプロデューサーたちが日本語の歌を作るにあたって、新しい扉を開いたのがAIボーカルだったことは間違いない。それは、Phonk / Funkから連なるサンプリング / エディットの系譜の先で、連続的な歌唱を実現し、あたかもオリジナル作品という格好で日本市場に流通することを可能にしたのだった。(※これに関して記事の最後に追記)
J-POPのグローバルヒットがもたらした「Japanese Funk」
BellyJay「MONTAGEM KOE」
「YOASOBIの大ファンで、稲葉曇などのボカロPも大好きなんです。僕がメロディや全体のムードを作るときは、日本のアーティストからすごくインスピレーションを受けている。エモくてメロディアスなところとか。だから、日本で受け入れてもらえたのは本当にうれしいです」
「MONTAGEM HIKARI」の作者・BellyJayは、自身の楽曲がJ-POPチャートで首位を獲ったことを喜んでいる。Discordを通じて話を聞いた彼は、フィリピンに住む23歳のプロデューサーである。3年前にPhonkシーンと出会ったことが音楽制作のきっかけとなり、「Phonkのエネルギッシュさと日本の音楽の要素をミックスして、独自の作品を作っている」という。
「でも、フィリピンに住むほとんどの人は僕が日本でバズっていることを知りません(笑)。身近な友達と家族は知っています。とくに祖母と、韓国に住む姉妹はすごく誇りに思ってくれています」
韓国に住むBellyJayの姉妹が誇らしくなった理由は、彼のリスナーの国別分布を見ればわかる。日本だけで大きなシェアを占めたあとは、韓国が続く。そして台湾、ベトナム、インドネシア、タイといった東南アジア諸国、または北米が上位に入るという構成だ。
興味深いことに、この分布はYOASOBIのそれと近い。J-POPの海外受容については一概に予測できない現代であるが、BellyJayはその不確実性の根源たるTikTokを通じ、YOASOBIのたどった道をフィリピンから歩み直している。
BellyJay自身、2020年の「夜に駆ける」の世界的なバイラルを機にJ-POPリスナーとなった1人なのだという。6年後の彼の成功が明らかにするのは、近年のJ-POP市場の世界的な拡大が単に消費者の母数を増やしたというだけでなく、J-POPらしき音楽の生産者を国外に潜在させたということだろう。そして、それが再帰的にJ-POP市場に戻ってきたというのが現時点で確認できることだ。
ここで思い出しておきたいのは、TikTokにおけるFunk(Brazilian Phonk)のリスナーがブラジル国内に集中していることだ。本稿の冒頭、「Japanese Funk」に熱心なレーベル・0to8が予測したような、ローカルからグローバルへと拡散していく流れとは反対に、グローバルからの産物がローカルで集中的に消費される構造が見えてくる。
もしかするとこの機を見据え、日本市場に向けて「Japanese Funk」を集中投下しているのが0to8なのではないか、という疑惑も浮かんでくる。だが0to8はあくまでプロデューサーの楽曲制作に関与することはないという。レーベルが関わるのは、作品のアートワーク制作とプロモーション、配信、著作権管理においてであって、「私たちはアーティストのパートナーで、従来的なトップダウン型のレーベルではありません」という。
「アニメやゲームといった日本の視覚的な美学が、世界の若いアーティストたちの心の中に長年息づいてきました。彼らは日本をコピーしているのではなく、自らの経験を通してそれを再解釈しており、だからこそそのサウンドは生き生きと感じられるのです」
0to8の語る通り、遠く離れた異国のベッドルームで**再解釈された日本**が、今や生きたJ-POPとして日本の若者たちを踊らせている。この**鮮やかな文化の逆流**に直面するとき、私たちは確かに**現代**という時代の奇妙な手触りをなぞっている。
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Dina @Koralan111
@natalie_mu finally someone covering this angle, been waiting for this piece