市井由理「JOYHOLIC」イメージ

GREAT TRACKS×音楽ナタリー Vol. 1 [バックナンバー]

市井由理が語る「JOYHOLIC」

吉田豪が聞く90'sガールポップ名盤の裏側

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アナログ化の話を聞いたときは「え? なんで?」って

吉田 今こうやって自分の作品が再評価されていることにはどういう思いがありますか?

市井 すごくうれしいです。でもアナログ化の話を最初聞いたときは「え? なんで?」と思って。ナタリーさんの企画って最初わからなかったんですよ。デザイナーの陽子ちゃんに「今、かわいいジャケット作ってるからね」って言われて。

吉田 「なんの話だ?」って。

スタッフ 当時のデザイナーにアナログ盤のデザインもお願いしたんです。

市井 あとから聞いて「めっちゃうれしいんだけど!」って。

吉田 ボクの地道な再評価活動がプラスになってたらうれしいです。

市井 なので我が家にあった最後の1枚を差し上げます(笑)。

吉田 そういえば昨日もかせきさいだぁさんと会っていたんですよ。

市井 仕事?

吉田 ボク、しまおまほさんと仲よくて一緒にイベントやってるんですけど、そこに子供を連れてかせきさんが来て。

市井 しまおまほさん、RHYMESTERのライブのあとに関係者の中にたぶんいらっしゃったんですよ。「めっちゃかわいい!」と思って。でもジェーン・スーさんと話してたから声かけられなかった。アナログ盤ができたら、かせきさんから渡してもらおうと思ってたんだけど。めっちゃかわいいと思ってすぐわかったんですけど、私のことはわからないんじゃないかな。

吉田 わからないわけないじゃないですか。あの人、いろんな人のインスタを異常にチェックしてる人ですよ!

市井 へえ(笑)。

吉田 そして、とにかく市井さんが素晴らしい作品を残しているのは間違いないってことなんですよ。

市井 はい。ありがとうございます(笑)。

吉田 だから、また歌ってくれないかなとずっと思っていて。

市井 はい(笑)。

吉田 大々的に何かをやろうっていうスイッチは入らないけど、何か企画があればやるかもしれないって感じですか?

市井 楽しそうなことなら。

吉田 ボクらができることはどうにか説得して歌ってもらうことなので、とにかく生で歌声を聞かせてください!

市井 あはははは!

市井由理「恋がしたかった」アナログ盤

市井由理「恋がしたかった」アナログ盤

音楽活動は楽しそうだったらやります

音楽ナタリー ちなみに今回は再発ですが、新作を作りませんか?というオファーがあった場合はどうします?

市井 楽しそうだったらやります。でも、私にできるのかなって思っちゃう。音楽活動から離れすぎてて。

吉田 って言いながらも、MAGiC BOYZとのコラボとかもやってるじゃないですか(笑)。20年くらいやってないならわかりますけど、一度復活してるのに!

市井 でも、こないだのGAKUさんのライブもリハで1回だけ通して歌って、曲のサイズを確認しただけで出ちゃったから大丈夫だったかなって。みんな楽しそうだったからよかったのかな。

吉田 とにかくボクらはいつでも待っています。

音楽ナタリー もしかしたら、当時の音楽活動はご自身の中で黒歴史になっているのかな、と思っていたんですよ。

市井 全然、全然!

吉田 よく誤解されていますよね。TPD時代のことを話すのは嫌なんじゃないかとか。全然なんですよね?

市井 全然!

吉田 TPD関連の作品がアナログ化されるのはこれで何枚目ですかね? 木原さとみさんの「カーニヴァル」が出て……。

スタッフ あとは角松敏生さんがプロデュースした米光美保さんの「恋は流星 SHOOTING STAR OF LOVE / MOONLIT MERCY」、それとTPDの「WAKE ME UP!!」を出してるので4枚目ですね。

市井 へえ、そうなんだ。アナログって1枚いくらでできるの?

吉田 けっこうします! 大変ですよ、今は。

スタッフ 薄利多売ですね。

吉田 売値もすごいことになっていますね。

スタッフ 2,000円+税なので。

音楽ナタリー でも、「恋がしたかった」は予約の段階でかなり売れたんですよね?

スタッフ おかげさまで店舗の予約分が即完売しちゃったんで、追加分の在庫を放出して。現状ほぼ完売です。

市井 それってすごい?

スタッフ すごいです!

市井 そういうの全然わからない。

吉田 EAST END×YURIでバカ売れを経験している人だから(笑)。

市井 そういう意味じゃなくて(笑)。でも何も活動していないのに、ファンの皆さんが予約しましたって言ってくれるから本当にうれしくて。

スタッフ Xでリリースを発表したときもバズりましたね。

市井 私、インスタを非公開にしてて、自分に興味がある人だけ見てくれればいいやと思ってたんですけど、小泉今日子さんが事務所のアカウントでアナログ化のニュースに触れてくださったのを知って、非公開にしている場合じゃないないと思って鍵を開けたんですよ(笑)。ちなみに豪さんって今、アイドルだと誰が好きなんですか?

吉田 え! ひと言では言えないですけど、いまだに曲がいいと思ったら騒ぐっていう活動は続けていて、その原点に「JOYHOLIC」があるのは確実で。ただ、今は普通にいい音楽をやるアイドルは増えたんですよ。「JOYHOLIC」が出た頃は、いい曲がまだ少なかったからこそ、こんな面白いことやっている人がいるよって騒ぐ必要があって。そういう話ができるのが当時リリー・フランキーさんくらいしか周りにいなかったんです。

市井 へー。

吉田 当時、リリーさんとアイドルの8cm CDとかを流すイベントをやってて。CDJもまだないような時代(1994年発売)だから、ディスクマンを2台並べてDJやってたりして(笑)。で、リリーさんと出かけるときに、ちょうどEAST END×YURIの最初のミニアルバム(「denim-ed soul」)を池袋のパルコで買ってから合流して、「何買ったんだ?」って言われたんで、リリーさんに見せたら「豪も変なCD買うんだな」って。当時は、アイドルに理解ある人でも「また豪がTPDの変なラップのCD買ってるぞ」っていう感覚だったんですよね。

市井 「denim-ed soul 2」のジャケとかおしゃれなんだけどね。

吉田 めちゃめちゃいいですよね。衝撃でしたよ。こういうものも出せる時代が来たと思って。あそこまで売れるのが想定外だっただけで。そしてソロアルバムの発売がこんなに延びるのも想定外で。

市井 ははは。

EAST END×YURI「denim-ed soul 2」(吉田豪私物)

EAST END×YURI「denim-ed soul 2」(吉田豪私物)

「DA.YO.NE」がヒットしたタイミングで「JOYHOLIC」が出ていたら

吉田 もしも「DA.YO.NE」がヒットしたタイミングで「JOYHOLIC」が出てたら、世の中的な評価も全然違ってたんじゃないかと思うんですよ。

市井 あー。ディレクターとも、もしもEAST END×YURIがなくて、「JOYHOLIC」みたいな作風で活動してたら、もっとライブ活動とかしてたのかもねって話すんですよ。

吉田 EAST END×YURIが売れすぎた結果、芸能活動に疲弊しちゃったわけじゃないですか(笑)。それがなかったら、もうちょっと自然体で活動できたのかもしれないですよね。

市井 当時はスケジュールの組み方がひどかった(笑)。家に帰って、お風呂入って、2時間くらい寝て、すぐ仕事って感じの3年間でした。でも、やっぱりあれだけ売れる経験ってそうできないから。

吉田 紅白にも出て。

市井 そう。今思うと最高だったなって思いますね。

吉田 世の中にラップを広げた功績とか、EAST END×YURIって今思えば重要な存在だったと思いますよ。

市井 アイドルクソラッパーが(笑)。当時「音楽と人」編集部の市川(哲史)さんがかわいがってくれて。最初の取材のときも「私、アイドルクソラッパーだけど、こういう雑誌にインタビュー載せていいんですか?」って言ったらすごく気に入ってくれたみたいで。「自分でそういうこと言うんですね!」って感じで。

吉田 ちなみに当時ディスられたとき傷付きはしたんですか?

市井 全然(笑)。「は? 私めっちゃ働いてますけど?」みたいな(笑)。でも私はともかく、EAST ENDはかわいそうだった。きちんと歴史を刻んで活動してきたグループなのに、私と組むことでいろいろ言われて。

吉田 ヒップホップシーンも今は昔ほどややこしい感じじゃなくなってるじゃないですか。ピースフルな人もバイオレントな人たちも意外と仲よくなって。

市井 バイオレントな人たち(笑)。今のラッパーの人たちって顔にタトゥーがありますよね。

吉田 今は本当に悪い人たちがいますから(笑)。

市井 本当、私「オールナイトニッポン」ですごい文句言っていたかも。「何か言ってくるんだったら、これくらい仕事してから言ってほしいわ」って(笑)。

音楽ナタリー でも、今日お話を聞いて、市井さんが当時の音楽活動に前のめりだったことがよくわかりました。作品のアートワークのこととかも覚えてらっしゃったりとか、すごく意外で。

市井 ジャケ写やアー写の撮影でも私服を着たり、アートワークも含めて作品に積極的にかかわりたいっていう気持ちはありました。EAST END×YURIのシングル「ね」のジャケットで着てるスウェットって本当はスヌーピーがプリントされてるお気に入りの古着だったんですよ。だけどジャケットになったらプリントを消されてたの。

吉田 ああ、権利の関係で。

市井 無地の地味なスウェットになっちゃった(笑)。「最初に言ってよ!」ってディレクターとめっちゃ喧嘩になった。私いまだに超ヤだ。すごいかわいいビンテージのトレーナーだったのに(笑)。

EAST END×YURI「ね」(吉田豪私物)

EAST END×YURI「ね」(吉田豪私物)

吉田豪と市井由理

吉田豪と市井由理

市井由理(イチイユリ)

1990年に東京パフォーマンスドールのメンバーとしてデビュー。同年にソロ活動をスタートし、93年1月に1stソロアルバム「YURI from Tokyo Performance Doll 」をリリースする。94年には、ヒップホップグループEAST ENDとの競演をきっかけに、EAST END×YURIを結成、同年8月に発表した1stシングル「DA.YO.NE」は日本語ラップ曲として初のミリオンセラーを記録。95年には「第46回NHK紅白歌合戦」に出演を果たした。96年にはアイドルポップの名作として知られる2ndソロアルバム「JOYHOLIC」をリリース。翌年にミニアルバム「furniture」を発表するも、英国ロンドンに留学し、長らく歌手活動を休止する。2017年にはMAGiC BOYZの1stアルバム「第一次成長期~Baby to Boy~」の収録曲「パーリーしようよ」に参加し、ひさしぶりに歌声を披露。2024年4月3日には、小泉今日子が作詞、朝本浩文が作曲と編曲を手がけた1996年発表のシングル「恋がしたかった」がアナログ化された。

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