ユッコ・ミラー「Bloomin'」特集|メジャー10周年に咲き誇るやりたいこと全部入りのアルバム完成

9月にメジャーデビュー10周年を迎えるユッコ・ミラーが、7thアルバム「Bloomin'」をリリースした。

2016年9月にメジャーデビューして以降、その演奏が国内外で高い評価を得ているユッコ・ミラー。一方で「アウト×デラックス」や「激レアさんを連れてきた。」などテレビバラエティにも出演し、ピンク髪のインパクトとざっくばらんなキャラクターで注目されてきた。

これまでの道のりを振り返ってみても“今何をしたいか”という自分の気持ちに忠実で、常に前を見て駆け抜けてきたという彼女は、10周年でもまったく気負わない。「その時々のやりたいことを楽しむ」。そんなユッコ・ミラーがやりたいことを全部詰め込んだアルバムが完成したというので、音楽ナタリーでは彼女に話を聞いた。

取材・文 / もりひでゆき撮影 / はぎひさこ

サックスは魔法の武器

──髪を短くされたんですね。

ずっと長かったんですけど、切っちゃいました! ここまで短くしたのはたぶん小学生のとき以来です。朝起きた瞬間に「短くしたい!」と思って、すぐ美容師さんに連絡して切りに行ったんです。思いついたらすぐにやらないと気が済まないタイプなので(笑)。シャンプーはめっちゃラクだし、すごく新鮮です。

──アルバムのジャケット写真は髪が長い状態ですけど……。

そうなんですよ。アルバムのリリース前に短くしちゃって怒られるかなと思ったんですけど、なんとか大丈夫でした(笑)。

ユッコ・ミラー

ユッコ・ミラー

──そんなユッコさんは今年の9月でメジャーデビュー10周年を迎えられます。少し早いですけど、10年の歩みを振り返ってどんなことを感じますか?

ずっと夢のような時間を過ごしてきた感覚がありますね。それで気付いたら10年経ってた、みたいな。ずっと今だけを見ながら走り続けてこれました。

──何かにつまずいて立ち止まってしまいそうになる瞬間もなかったですか?

つまずくことはあったのかもしれないけど、そういうときはそのあとすぐ奇跡みたいなことが起こるんですよ。だからつまずいたことに対して「どうでもいいや」ってなっちゃう。そもそも私は思い悩んでくよくよ過ごすことが嫌なんです。常に頭の中にある「次はあれがしたい」「次はこれ」という思いを形にしていき、いろんな奇跡が起き続けた10年だったと思います。

──メジャーで10年一緒に走ってきたサックスという相棒に対しての気持ちはどうです?

何も変わってないです。私にとってのサックスは相棒というよりは武器なんですよ。高校1年生のときに出会って以降、ずっとその感覚。もともと私にはなんの特技もなかったし、何も持っていなかったんです。それを変えてくれたのがサックス。その魔法の武器を使うことで私は輝けるようになりました。

──その武器の扱い方にも変化はないですか?

扱い方もそんなに変わってないと思います。ただ、10年経って唯一、サックスを持つ自分の気持ちに現れた変化は、背伸びをしなくなったことです。今までは背伸びしてでもカッコいいことをしなきゃいけないっていう思いが強かったんですよ。今は、私は私でいいんだと思えるようになった。そういう状態で10周年を迎えられることがうれしいです。

ユッコ・ミラー

──そういう変化が訪れたことには何かきっかけがあったんですかね?

気付いたら、というのが一番大きいんですけど、1つ大きなきっかけを与えてくれた出来事を挙げるなら、去年と一昨年にH ZETTRIOさんとコラボをさせていただいたことだと思います。私は高校生の頃からPE'Zさんのことが大好きだったので、そのメンバーがされているH ZETTRIOさんとご一緒できたのは本当に夢が叶った瞬間でした。そのときに「私でもこんな大きな夢を叶えることができるんだ」と思ったら、自然と「私は私のままでいいんだな」という気持ちになったんです。もちろん、それまでも本当に信じられないような方々と共演させてもらってきた中で同じような感覚になることはありましたけど、H ZETTRIOさんとのコラボがその気持ちをより明確にしてくれました。

──ということは、今回リリースされる約2年ぶりのオリジナルアルバム「Bloomin'」には、そんな今のユッコさんのモードが大きく反映されているんでしょうか?

めっちゃ反映してると思います! 今流行ってるおしゃれな曲を作らなきゃいけないとか、ちょっと小難しいことをやらなきゃいけないとか、ジャズっぽいことをしなきゃいけないとか、今回のアルバムではそういったことは一切考えませんでした。ただ純粋に今の私が好きな曲たちだけを詰め込むことができた。さらに言うと、私が作曲を勉強し始めた高校2年生のときに初めて作った「My Prelude」という曲まで入れてますから。作った当時はまったく自信がなかったし、「これでいいのかな?」という気持ちが強かったけど、「それでいいんです!」と今の私が言ってあげているような(笑)。

──今までは世に出そうとは思えなかった?

そうですね。初めて作った曲だけあって構成もシンプルだし、未熟な気がしてしまって。でも今回は「入れよう!」と素直に思えました。そう考えると、この10年で自分の気持ちがけっこう大きく変化したのかもしれないですね。

やりたいこと全部入り

──アルバムの制作に向けて動き出したのはいつ頃だったんですか?

レコーディングが2025年11月末にあったので、10月の半ばぐらいから作曲を始めました。「My Prelude」と、以前のアルバムにも収録した「Hair Style」はもうあったので、8曲をガッと集中して作りました。私はわりと毎回、短期間で一気に作るタイプなんです。

──そういうスタイルがご自身に合っているわけですか。

私、すぐに曲が作れちゃうんです。今もこの場で「何か作って」と言われれば作れちゃいますし。制作期間はツアーも重なってわりと忙しかったけど、ちょうどソプラノサックスを購入したタイミングでもあったので、それを使った曲をいっぱい作りたいなと思っていました。

──「Snow Song」「SHIOSAI」「AKUJYO」「Anemone」「My Prelude」の5曲でソプラノサックスを演奏されていますね。このタイミングでソプラノサックスを購入したのはどうしてですか?

もともと好きだったし、持ってはいたから「いつか吹きたいな」と思う一方で、自分の武器はアルトサックスだと思っていたんです。でも昨年11月に行った中西保志さんとのコラボライブでソプラノサックスを使う機会があって、どうせなら新しいのを買っちゃおうと。そうしたら自分の曲でも使いたくなっちゃった(笑)。今回、自分の曲で使ってみたことで、そのよさに改めて気付きましたね。アルトとは全然印象が違うので、演奏するのもすごく楽しいです。

──そういう部分も含め、このアルバムにはユッコさんが今やりたいことが満載なんですね。

そうなんです。今やりたいことの全部入りみたいな。メンマもチャーシューも卵も海苔も入ってる、全部入りラーメンみたいなイメージのアルバムですね(笑)。

ユッコ・ミラー

──間違いなくおいしいやつ(笑)。聴かせていただいた感想としては、ユッコさんが持っている力強さと同時に、全体としてちょっと穏やかなムードがあるなと感じました。ご自身ではどうです?

あー、確かにそうかもしれないですね。最近は穏やかな生活を送ってるので、それが出たのかもしれない(笑)。全体的な心地よさみたいなものは私自身も感じますね。

──以前お話を聞いたとき、「作曲するときは日常生活が色濃く反映される」とおっしゃっていましたね(参照:ユッコ・ミラー×小林香織インタビュー|サックス界を牽引する女性プレイヤー2人が初対談)。

そうです。だから攻撃的な曲が多いときは、日常生活でもいろいろあったということで。曲を聴けば丸わかりです(笑)。

矢野顕子の歌真似でコツをつかむ

──今作は「Hair Style」と「Anemone」の2曲でボーカルも披露されています。ユッコさんのボーカルはすごく心地よくて、いい雰囲気ですね。

ありがとうございます。2曲とも最初から歌うつもりで作ったわけではなかったんですよ。制作をしていると、「この曲はソプラノサックスのほうが合うな」とか「この曲はアルトが合うな」とか、そういうイメージが浮かぶんですけど、この2曲では「これは歌ったほうがいいんじゃないかな」と思って。声のほうが曲に合ってるという判断ですね。

──なるほど。「Hair Style」は2ndアルバム「SAXONIC」に収録されていた曲ですよね。

そうです。けっこう気に入っていた曲なので、改めて歌ったバージョンも作ってみたいなと思って歌詞を付けました。もう1曲の「Anemone」は去年の10月ぐらいに作ったんですけど、こういうちょっと気の抜けたような、さらっとした曲で歌いたいなと思ったんですよ。

──ご自身の曲に言葉を乗せる作業は難しくないですか?

わりとすぐ書けちゃうんです。「Hair Style」では、10年以上続けている自分のピンク髪のことについて書きました。自分の髪の毛がいろんな出来事を記録している、いろんな思い出をまとっているみたいなイメージです。「Anemone」は、さっきアルバムの印象を「穏やか」と言っていただきましたけど、まさに「何にもない穏やかな日常って最高だよね」みたいなことを歌詞に書いていて。奇跡が起こって「よっしゃ!」みたいな日常も大好きではあるんですけど(笑)、穏やかな日常の中でコーヒーをゆっくり飲みながら、「あー、おいしいな」くらいの幸せもいいよねっていう。曲のイメージから歌詞のテーマや言葉が出てくる感じですね。

ユッコ・ミラー

──ボーカルに関してはどうですか?

昔、ボイトレに通ったことがあるんですけど、そのときに「声帯が眠ってるね」と言われたんですよ(笑)。歌うときはもちろん、普段しゃべってるときも眠っているらしくて。だから声帯を震わせて声を出す正式なやり方を練習していたときもあったんですけど、いざ歌うとウィスパーっぽくなってしまうというか。楽器でたとえるとサックスではなく、フルートみたいな声になっちゃうんです。だから歌うときはすごく難しく感じていて。

──今回も苦労されたんですか?

最初のボーカルレコーディングのときは、やっぱり息みたいな声になってしまって。それが納得いかなかったので、翌日もレコーディングすることにしました。2回目のレコーディングの当日、スタジオに向かう車の中でいろんなアーティストの曲を聴きながら、歌真似をしていたんです。矢野顕子さんの「ラーメンたべたい」とか。そうしたらちょっとコツをつかめた実感があって。「なるほど、こういうふうに声を出すと、こんな歌になるんだな」ということがなんとなくわかった。そして改めてレコーディングしたら、めっちゃ声の雰囲気が変わっていて。エンジニアさんにも「めっちゃよくなったじゃん! どうしたの?」と驚かれました。素敵な歌を歌われているアーティストの方々のおかげで魔法がかかったんだと思います(笑)。だから今回は歌うのもすごく楽しかったです。