鳥取で漁師の家に生まれ、漁港で働きながら音楽活動をするシンガーソングライターjo0ji。テレビ朝日系の音楽番組「EIGHT-JAM」にて2024年、2025年の2年連続で「プロが選ぶ年間マイベスト10」に選出され各方面から注目されている彼が、人気テレビアニメ「呪術廻戦」第3期「死滅回游 前編」のエンディングテーマを担当した。
数ある「呪術廻戦」テーマ曲の中でも、アーティストとアニメ製作陣が過去一番コミュニケーションを取りながら作ったという「よあけのうた」。フルサイズ完成まで1年を要したというこの楽曲はどのように作られたのか? jo0jiと御所園翔太監督に制作過程を振り返ってもらった。
取材・文 / 金子厚武
覚悟に近い感情へ向かっていくエンディングになれば
──jo0jiさんはもともと「呪術廻戦」がお好きだったそうですが、どんな部分に魅力を感じていましたか?
jo0ji アニメが始まる前から原作マンガを追いかけていて、高校生の虎杖悠仁が、同級生の釘崎野薔薇、伏黒恵たちと成長しながら世の中に存在する呪いというものと戦うストーリーに、すごく勇気をもらっていました。「週刊少年ジャンプ」の王道感もありつつ、虎杖の残酷なまでの思いきりのよさみたいなものが、今までのジャンプにはなかった感じがして。それがすごく爽快で気持ちいいんですよね。まさか自分がその作品のエンディングテーマをやれるとは思っていなかったので、お話をいただいたときは本当にうれしかったです。MAPPA(アニメーションスタジオ)にも2回行きました。
御所園翔太 jo0jiさんはテーマ曲を制作するにあたり、とても密にコミュニケーションを取ってくれたんです。ありがとうございました。
──楽曲を作るにあたって、どんなやりとりがあったのでしょうか?
御所園 「渋谷事変で宿儺(※虎杖が自らに取り込んだ呪物)が引き起こした大量虐殺について、悠仁が考える」というテーマをお渡ししました。もともとのリファレンスとして「ガンバの大冒険」のエンディング(「冒険者たちのバラード」)をイメージしていて。すごく沈んだところから始まりつつ、最後は爽快なところに展開していくんだけど、全体的には暗いままで終わってほしい。そんな話を最初にしたと思います。楽曲の中で悠仁が立ち直ることはなく、しかし、ある種の開き直り──「いつか自分の役目を全うする。その時が来たなら、もうどうなってもいい」そうした覚悟に近い感情へ向かっていくエンディングになればと考えていて、この方向性であれば、冒頭は暗く始まりつつも、途中からはjo0jiさん特有の“気持ちよさ”をしっかりと立ち上げることができると感じていました。
jo0ji 最初から御所園さんの中に曲のイメージがしっかりとあったので、まずはそれを聞かせてもらいました。そのテーマを「自分なりに形にしたらこうです」という楽曲を3パターンくらい送ったんですけど、そのときに言われたのが「まだ虎杖が救われてます」という言葉で。
──テレビアニメ版「死滅回游 前編」は、最初に虎杖が血の付いた手を洗ってるシーンから始まるのがすごく印象的でした。やはり今の虎杖が置かれている境遇や心情に寄り添ってほしいというのが、監督としての思いだったわけですね。
御所園 そうですね。今放送しているのは「死滅回游」の前編ですが、「死滅回游」全体を通して、何をストーリーの軸にしたらいいのか決めるのがすごく難しくて。一番わかりやすいのは「死滅回游」というゲーム自体なんですけど、キャラクターが入れ替わり立ち替わり出てくるので、何かもっとわかりやすい軸があったほうがいいのかなと。それで毎回のエンディングで「主人公の悠仁はこういうことを思っている」という映像を見せることができたら、シリーズ全体としても見やすくなるんじゃないかと思ったんです。
──そのイメージを受けて、jo0jiさんはまず最初に3パターン作ったと。
jo0ji 最初に作った3パターンは暗い感じがあんまりなくて、どちらかというと爽快なイメージだったんです。その中に今のサビくらいの、夜が明けたイメージを1分半で作ったものがあったんですけど、「これをもっと夜から始めてください」と言ってもらって、それで今の形になりました。あとは最初に見せてもらったビジュアルがステンドグラスっぽい感じだったので、そこから連想して教会の雰囲気を意識しながら編曲していきました。
「何者にも成る必要は無い」そうやって嘯くのはいつだって何者かに成った者だ
──歌詞を書くにあたっては、虎杖の心情をどのように考えましたか?
jo0ji 僕はもちろん人を殺したことがないので(笑)、虎杖の心情を想像するのは難しかったですけど、「虎杖のキャラクターソングにはしてほしくない」とも御所園さんから言われていて。なおかつ、自分でもこれから歌っていく曲なので、ある程度自分と重なる部分がないとダメだと思いながら作ってたんですけど……「死滅回游」に出てくる「『何者にも成る必要は無い』そうやって嘯くのはいつだって何者かに成った者だ」というセリフを思い出して。今まで自分が書いてきた曲の中には、「何者にもならなくていい」みたいなことを力いっぱい言ってる曲がけっこうあるんですよ。でもそれって、人によっては「お前はいいよな」と見られてしまうのかなと思ったんです。自分は26歳で、今も鳥取の田舎で、幼馴染や同級生と一緒に過ごしながら音楽をやってるんですけど、最近は活動がちょっとずついい方向に行っていて。それこそ「呪術廻戦」のテーマ曲なんて担当してしまった日には、周りがちょっと焦っちゃうというか、実際にそれで変に空回ってしまってる友達もいて。
御所園 すでにいるんだ(笑)。
jo0ji そうなんですよ。手放しに喜んでくれるやつももちろんいる一方で、卑屈な感じになってるやつもいて。自分の存在のせいで、変にそうにさせちゃってるのかもしれないし、自分の存在がこいつらの健やかな人生をちょっとねじ曲げて未来を壊してしまっているのかもしれない、と思ったんです。実際に音楽や芸術は人の人生を変えちゃうかもしれない。音楽をやっている身として「そういう危うさにちゃんと責任を持ってやってきたのか?」と自問自答してみると、そこまで考えられてなかったかもしれないなと。自分が今までやってきてしまった取り返しのつかないことと、虎杖のやってしまった取り返しのつかないこと……もちろん全然違うことだけど、そこをちょっとずつ重ねながら曲を書いていきました。
御所園 「ちゃんと悠仁の気持ちになってほしい」みたいな話はしたんですけど、とはいえ、悠仁の気持ちを理解するなんてことは不可能で。自分が引き金で大量の人を殺してしまったことを反芻して、反省している状況なので、理解するのは100%無理なんだけど、そこはもう役者になって、完全になりきってやってくださいと最初のほうでお話して。jo0jiさんはおそらくすごく考えてくれて、何回目かの打ち合わせのときに「すごく沈んだ時期がありました」みたいなことを言ってたので、すごいな、役者だな、と思ったことがありました。
jo0ji いやいや、全然全然。
御所園 ちなみに、さっき鳥取での話がありましたけど、jo0jiさんに今回エンディングテーマをお願いした理由でもあるんです。渋谷事変を経て、悠仁は多くのものを失いました。しかし、日本で生まれ、日本で育ったという事実だけは残っています。宿儺の攻撃によってコンクリートや建物が剥ぎ取られ、大地そのものが露出したことから、人工物を取り払った「日本の土地」そのものを表現できる方がふさわしいと考えました。それは日本という土地に生まれ育った感覚を、身体的・感情的に表現できる音楽である必要がある、という意味でもあります。そういうアーティストを探しているときに出会ったのがjo0jiさんで。漁港で働かれていることは発注したあとで知ったんですけど、jo0jiさんの楽曲には、もともとそのような日本的な土地感覚や情緒が強く宿っており、「死滅回游」のエンディングのテーマに非常にフィットしていると感じ、それでお願いしました。
──jo0jiさんにとって、鳥取を拠点とすることは創作において重要なことですか?
jo0ji そうですね。基本的に人工物が好きじゃないというか、都会が苦手なんです。海や山が近くにある場所じゃないと曲もうまいこと書けない。本当に地元というか、自然の中じゃないと生活のテンポが合わないんですよね。
──そんなjo0jiさんだからこそ、都市が壊されたあとの剥き出しの大地を舞台にした「死滅回游」にはぴったりだったと。
御所園 そういうことですね。
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感情の爆発



