TenTwenty「Abyss Red」インタビュー|自問自答を経てさらなる深淵へ、表現の幅を広げた新作を語る

TenTwentyが約1年ぶりとなる新作EP「Abyss Red」を2月11日にリリースした。

2025年に前作EP「Border=Border」のリリースと同時にバンド名の表記を“XIIX”から“TenTwenty”に変更したことは、ただ表記を変える以上の意味があった。それまでの音楽スタイルから一歩踏み出した「Border=Border」は「J-POPとしてよりよい曲を」「どこにもない斬新な音を」という2つのテーマの統合に挑んだ野心作だった。

あれから1年、最新EP「Abyss Red」にはさらに進化したバンドの姿がある。2月からのリリースツアーに加え、4月には初のビルボードライブツアーも決まった。デビュー7年目を迎えたバンドは何を考え、どこを目指すのか。斎藤宏介(Vo, G)、須藤優(B)にじっくりと語ってもらった。

取材・文 / 宮本英夫撮影 / 山川哲矢

気持ちが外向きに、去年から明確に変わった

──前作「Border=Border」から明らかに新しいモードが始まっていると思うので、まずはそこから話を始めさせてください。「Border=Border」までにフルアルバム3枚をリリースして、そこから次の目標に向かうときにどんなことを考えていましたか?

斎藤宏介(Vo, G) 僕らは名前だけが先行している状態で、下積みもなく、ゼロから1stアルバムを作り出すというところも含めて、変わったデビューの仕方だったと思うんです。なので、TenTwentyのやり方をアルバム3枚ぐらいかけて自分たちで見つけつつ、その過程もみんなに楽しんでもらおうというのは、当初から考えていたことでした。

──そういうプランがあったんですね。

斎藤 あとは、シンプルに“曲を作る”ということ自体に2人がしっくりくるまでに数は必要だろうな、と思っていたんですよね。そういう意味ではアルバム3枚分、どの曲もすごくいい形に妥協なく仕上げられたことが、第1章のゴールだったと思います。そこまでは「TenTwentyとはこういうバンドです」という自己紹介も兼ねてましたけど、「Border=Border」からは「もっといろんな人に聴いてもらえる曲を作ろうぜ」という、ある意味ラフな、かつ強い目標があって。これまで慎重になっていたがゆえにやらなかったところにまで手を伸ばして、それを自分たち自身もめちゃめちゃ楽しむ方向に舵を切れたかな?とは思いますね。

須藤優(B) アルバム3枚でやっと、しっかりとTenTwentyというものができたのかな、と思います。あの3枚は自分の中でちょっと内省的というか、内向きな要素が多いような気はしていたんですけど、バンド名の表記を変えて心機一転、「Border=Border」でそれまでの“XIIX”をぶち壊すようなものができて、気持ちが外向きになった。自分としては去年から明確に変わった感じはしています。

──ライブについてはどうですか?

斎藤 もっと数をやりたいですけどね。各々がTenTwenty以外での活動もしている中でも1年に1、2回は必ずツアーを回れているのは、我ながら偉いなと思います(笑)。

──リスナーながらも偉いなと思います(笑)。これだけ多忙な2人が、よくスケジュールを合わせられるなと。

斎藤 「音楽は好きだけどTenTwentyのことは知らない」というたくさんの人たちを納得させたい欲はずっとあって。そういうところに極力顔を出して、まだ見ぬ人たちにご挨拶できたらというのは、ずっと思っているんですけどね。

──フェスとかイベントにももっと出たいということですか。

斎藤 極論、駅前の路上とかでもいい(笑)。やっぱり僕は演奏するのが好きだし、歌うのが好きで、そのために曲を作っている、と思うので。ライブをやることは僕の中の大きなモチベーションで、とはいえライブができれば曲はなんでもいいわけではなく。隅々までしっかり作りつつ、時間さえあればライブをしたいと常に思っていますね。

斎藤宏介(Vo, G)

斎藤宏介(Vo, G)

須藤 僕は、ライブはもちろん楽しいんですけど、やる前はちょっと億劫になるというか……「ショーとしてどう組み立てていこうか」とか「どうやったら感動が生まれるか」とか、そういうことをけっこう考えるタイプなので。リハーサル期間中はちょっと億劫ではあるけど、本番が始まるとめっちゃ楽しいですね。1本やると「もっとこうできるな」と見えてくるものがあって、その繰り返しが自分の中のルーティンになっています。

──最後は「楽しい」で一致するけれど、2人の捉え方がちょっと違うところが面白いです。

須藤 音源制作は、まだ見ぬ自分の腹の底を探るようなものだと思っていて。あとは、僕の場合はいろんな現場に出向いて、いろんな音楽を聴いて、演奏して、いろんなお客さんの顔を見せてもらえることが多いので、これをTenTwentyに落とし込んだらどうなるだろう?ということも常に考えています。制作に関してはモチベーション高く「こういう曲を宏介が歌ったらどうなるか?」とか、想像していますね。

──バンド内における曲作りのエンジンですね。須藤さんは。

斎藤 才能があるのはもちろんだけど、めちゃめちゃポジティブな飽き性でもあって。ずっと新しいことを探しているんですよ。

須藤 そうだね。

斎藤 人よりも生きるスピードが速いんだと思うんですけど、そこにすごく助けられている部分がありますね。常に刺激を受ける先を探しているのがスッティーであり、TenTwentyなので。今のところ6年ぐらいやっていますけど、一度も緩むことなくここまで来れているなと思います。

本当に自分の底の底から出てくるものを大事に

──そして今回のEP「Abyss Red」。どんな手応えですか。

須藤 自信作です。

──知っています(笑)。前作を踏まえて、どんなことをやろうと思っていましたか?

須藤 僕としては、表記を変えて最初のEP「Border=Border」は外向きでバランスがいい5曲だったので、それをブラッシュアップするというか、もう一歩自分の皮を剥いたものを作りたいなと思っていましたね。

斎藤 前作もそうですけど、5曲で十分バリエーションは作れたし、それができるのはTenTwentyの長所だなとも思っていて。とはいえ5曲しかないから、レコーディングまでしたけど入れなかった曲もあるんですよ。聴く分にはいいんだけど強さが足りない、みたいな感じがあって。音も演奏も歌も言葉も、全部が強いものしかEPには入る余地がないということが、作ってみての発見でもありました。

──EPはアルバムのメカニズムとは違うんですね。

斎藤 違いますね。でも、それを入れる余地がないほどガチガチなもの、という意味では、EPという形が今のTenTwentyの「いい曲をいっぱい作りたい」「TenTwentyにしかできないライブをやりたい」という気持ちとマッチしていて、僕らっぽいなと思ったりはします。

──ではここから1曲ずつ掘らせてください。まずは1曲目のタイトル曲「Abyss Red」について。

須藤 前作の1曲目「Border=Border」のテンポ感、衝動的な感じがとても心地よかったので、あれを超えるものを作ろうと考えてとにかくテンポを速くしました。こういう速いブレイクビーツってみんな好きじゃないですか。わかりやすいというか。

──ロック好きにもアピールできますよね。パンク的な疾走感が。

須藤 やっぱり、お互いパンク出身なので……って違うか(笑)。

斎藤 いや、俺はBRAHMANのライブでダイブしてたから。

須藤 俺もHi-STANDARDが神だったから。そういう部分で、速さというのは聴いてもらううえでの大きな要因ですよね。速さとカッコいいギターと、みたいな曲です。ドラムはよっち(河村吉宏)に叩いてもらっているんですけど、けっこう音を変えて録ってます。デモの段階では「サビだけ生ドラムにしようかな」と思いつつ、一応叩いてもらって。よっちは素晴らしいドラマーなので「こんな音色あるよ」とか、いろんなパターンを提案してくれて、それらを組み合わせて作りました。

TenTwenty

TenTwenty

──斎藤さん、「Abyss Red」の歌詞は何を起点に書いたんですか?

斎藤 歌詞は……去年の11月に家入レオさんと一緒に「ベストアーティスト2025」(日本テレビ系)に出たんです。その本番前に書き上げました(笑)。

──マジですか。すごい。

斎藤 とにかくスピード感が題材だな、というのはオケを聴いて思ったんですね。曲のスピード感と生きていくうえでのスピード感とが重なって、がむしゃらに走りながらもたまに冷静に「なんで今走ってるんだっけ?」と考えつつ、次の足が出ている、みたいな。そういうイメージをオケから感じ取ったので。自問自答しながら、ポジティブな歌になればいいなと思って書いていきました。

──「Abyss Red」って、もともとある言葉でしたっけ。

斎藤 造語ですが、仮タイトルに「Abyss」が入っていたんですよ。1曲目をEPのタイトルにするつもりだったので、この曲を表しながらも5曲全部をひっくるめたタイトルはないかな?と考えたときに「アビスってなんかいいな」と。“深淵”みたいな意味ですけど、このEPは自問自答する曲がすごく多いなと思い返して。誰しもがそうだと思うんですけど「なんで生きてるんだっけ?」とか「なんで今こんなにがんばってるんだっけ?」とか疑問に思いながら、なんとか理由を付けながらやっているんだろうなと考えたときに、それが今のモードに合ったいい題材だなと。深い自問自答の末に、本当に自分の底の底から出てくるものをすごく大事にして曲を作ったので、そういう意味で“アビス”という言葉がいいなと思ったんです。Red(赤)は、激しく求める赤、スリリングな赤、恋に近い赤とか、いろんな感情の赤がありますが、この5曲は「比較的“赤”いな」と感じたので、それをくっつけて「Abyss Red」にしました。